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不注意でタグに「悲恋」がありましたが、削除しました。まちがえてタップしてしまってまして……確認不足です。以後気を付けます!

 交易所の事務員さんに横流しされて、ギルドにきました。

 オレのように、パートナーに困ったひとはいないかなぁ、との思いで受付に突撃。


「これまでに冒険者、もしくは採掘者の経験はございますか?」

「いえ……いつもは夜勤の倉庫でバイトしてました」

「では、無いと?」

Exactlyそのとおりでございます


 ギルドの事務員さん(おじさん)は、疲労で刻まれた眉間の(しわ)を揉み、苛立ちを(あら)わに睨み付けてきた。


「あのね、お兄さん。ただでさえ魔石の採掘量が落ちてるんだ。いまはさ、お兄さんみたいなビギナーを抱える余裕も、あんたみたいな芋っぽいやつをパートナーにしたい物好きもいないワケ。観光気分なら家に帰りな」


 と、門前払い同然の宣告を受けた。

 以上、と話を()めて、事務員さんは厳しい眼差しで書類整理に戻ってしまう。


「……でも、オレ、冒険者になりたいんです」

「はあ? 鍛えてもいないのに? 自殺志願者はいらないって言ってるんですよ。魔物と戦ったことない世代は困ったもんだね」

「…………」

「ギルドにいる方々はね、かつて冒険者や採掘者だった人達だ。それぞれに収入はあったんだ。でも、採掘が不安定な昨今、安定した供給が出来ない者は淘汰(とうた)されていった」


 溜息と一緒に零れ出る言葉。

 ぐさ、ぐさ。

 本気で、自分の胸に言葉の刃が刺さる音が聞こえてきた。


「そうしてパートナーが町を離れて、新たなパートナーを探しているのが、ここに来るほとんどの客層だ。新しい冒険者、あるいは採掘者との金銭関係のトラブル、スタイルの不一致……人の数だけ問題が出てくるんだ」

「へ~~~……」

「まったく、お兄さん、自分でそれぐらい考えられないの? 第一、なんだいその腕は。ふざけてるのか?」


 我々の世代では~と、おじさんの苦労話にシフト。

 瀕死の心で相槌を打ってたから、話の半分以上が頭から抜け落ちていった。


「は、はは。でっすよね! すいません!」

「分かってるなら、どうして夢なんか見るかねぇ」

「見栄張りたいんです、男の子なんで。おじさんもそうでしたよね?」

「決めつけるな。わたしは君のような、社会に貢献せずのうのうと暮らしてない。分かったら親御さんとこにでも戻るんだな」


 ……いねーっての、クソ。

 社会不適合者なめんな。


「じゃ、オレはこれで」


 ねちねちとオレを刺す声から逃れる。

 笑顔を貼り付けたまま退散。あぶねー、死ぬ。現実の重みで殺される。


 好意的に解釈すれば『若者を危険から遠ざけようと熱心に説教した』だけど、本音は違う。『おじさん』は、鬱憤や愚痴の捌け口を常に求めている生物なのだ。

 夢より現実を語りがち(偏見)。


 ふうー、と大きく溜息を吐き出し、椅子に腰掛けた。


(現実は小説より奇なり、けれど厳しさはそのまんまハードモード……現実ってままならねですよー!)


 どうせ備わるなら、ドリルよりも魔法がよかった。

 こう「いまのはメラではない」って敵を圧倒したい。

 異世界転生って、チートが主流じゃありませんでしたっけ、神様……?


 魔法でバッタバタと敵をなぎ倒しす、英雄譚。

 小説って、そういうのがセオリーなはずだ。これじゃ、死んだのも浮かばれない。


「……もっと気軽に人生過ごしたいなぁ」


 普遍的。統計的。

 特定のひとに嫌われず、摩擦の少ない人間関係だけで暮らす。

 そんな、当たり前な人生で満足なのに。


 どこで間違えたのやら。

 無意識に伸びた手が、腹に触れていた。


(欲望がダダ漏れだ)


 落ち着こう。厳しくトゲを刺されたり包丁刺されたり、魔物に襲われたりドリルが右手に装着されてたりで心が荒んでいる。貧民街時代のテンションに戻ってしまっている。


 視線が、次の引っかかりを求めてギルドを右往左往。


 交易所と打って変わって、ギルド内の空気は殺伐としている。

 建物の構造や内装は似ているのだが、たむろする人々は、どうにも穏やかじゃない。


 活気が無く、冷え切った海底のような空気。


 沈没した船や、人の流したゴミを思う。海底の神秘と共存する、退去された文明。不要となった成れの果て。


(なんて、ろくでもないイメージしてるな)


 頭を振って、雑念を追い出す。悪霊退散☆悪霊退散。

 ここに居ても、進展はなさそうだ。空気が淀んでいる。

 パートナーを求めて、前にも進めず後ろにも戻れない。かつての夢や情熱、そういった残像を追い求めて惰性で生きる人達。


 光の差さない深海で、窒息を待つだけの──

 頬を叩き、今度こそ思考を打ち切る。


 さて、と重い腰を上げた。

 手早く働き口を探そう。

 

 そのときだった。


 ギルドの扉が開き、どよめきが生まれた。

 ざわりと空気が揺れる。

 細やかな波が打ち合い、潮騒を編み出すように。

 酸素を求めて喘ぐ、そんな声。ひとつひとつの声が、海面に浮上している。


「ご機嫌よう、皆さん」


 モーゼが海を割るように。

 一閃。力ある声が喧噪を切り裂いた。


「あの子は……」


 金髪ドリルロール。

 間違いない、ダンジョンでオレを助けてくれた少女だ。


「カレア・スノーじゃねえか」

「知ってるのか、ジョウジ!」

「ああ、スノー家三女にして、三色の魔法使いだ! ダンジョンの調査に訪れたと聞いていたが……?」

「まさか単身でダンジョンに潜っていたってのか……?」


 背後に立っていたおっさんふたりが、適切な実況と解説で少女の正体を暴いた。


 カレア・スノー。


 畏怖を一身に受け、少女は超然とギルドを歩く。

 やがて彼女は受付にたどり着く。


「報告です。新たなダンジョンを確認……そして、新たな魔石を発見しました」


 万人が耳を傾ける魅力の宿った声。

 照明の下、彼女の眩い顔が光を放っているように見えた。

 光の亡い深海に差す、一条の光。


「新しい、ダンジョンですか……?」


 信じられない、と言わんばかりの事務員さんの声。


「ええ。北西に徒歩で10分ほどの地点に。詳細はこちらの地図に」


 ダンジョン──アルトとダッキも探していた。

 オレが目覚めた洞窟が、新しく発見されたダンジョンだったのだろうか。


「おそらく、先日の地殻変動で生じたひずみが、ダンジョンを形成したのだと思われます。その影響で、現在、地下に眠っていた魔石が剥き出しの状態です」

「ほ、ほんとうですか……?」

「資料を確認してください。また、現地にて冒険者と採掘者と一組が到着しています。証拠ならば、追っていくらでも出て来ますので──それこそ、掘り尽くせないほどに」


 涼しい顔のまま、少女は細い顎を持ち上げた。

 決定的だった。

 カレア・スノーの報告により、ギルド内の空気が沸き立つ。


「お、おい! パートナー募集だ! おれ、冒険者、5年やってる!」

「わたしは3年の採掘者!」

「まてよ! パートナーになるのは俺だ!」


 死人のように蒼白した表情の人々に、血の気が戻っている。

 狂乱が渦となって、周辺を取り巻く。

 その中央で、カレアは静かに佇んでいた。


「すげぇ……!」


 こんなにも、容易く人は変わるのか?

 黄金の瞳は狂騒に気を止めることもなく、踵を返している。その瞳が、オレを一瞥した気がした。気のせい、だろうか?


「ま、待ってくれ!」


 気づけば、地を蹴っていた。

 光に誘われる蛾みたいだ、と自嘲する。


「カレア。カレア・スノーさん!」


 鼓動が高鳴り、ぎりぎりと痛みを訴えている。

 焦燥が如く駆けて、その背に追いつく。


「あら、あなたは……先ほどダンジョンで」


 息を呑み、少女と対峙する。

 柄にもなく緊張していた。黄金の瞳はすべてを透かし見ているようで、オレはどうしようもない羞恥を覚えた。


「さっきは助けてくれてありがとう……」

「構いません、責務ですので」

「それで……その」


 ああ、もう! 中学生女子か、オレは!

 繋ぎの言葉が見当たらず、頭を掻きむしりたい衝動に襲われた。

 糸口。糸口だ! 何か──


「よ、よかったらさ」待て、オレは何を口にしようとしている?

「ええ、なんでしょう?」


 ヒートアップした口は止まらない。走り出したら止まらない。暴走海列車だ。


「オレと、パートナーになってくれ!」


 往来の中、不自然に声は響いた。

 頭を下げて、手を差し出した。


 言っちまった! 顔が赤くなるのを感じる。


 数秒が、無限の沈黙に思えた。

 息を呑み、少女の返答を待つ。


「ごめんなさい。私とパートナーになりたければ、あなたの価値を示してください」

 

 がらがらがら……

 自分の中で、何かが崩れる音を聞いた。

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