変わらぬ愛(壁)を
「あなたは大丈夫、私はずっとあなたの味方よ」
神とやらに欲しい物はないかと言われ、俺が迷わず頼んだのはそれだった。
愛する人、その人は前世と変わりのない姿でそこに居た。
それだけで俺は満足だった──。
どうやら俺は死んだらしい。悪い死に方ではなかった、とその男は言った。
だが俺にとってそんな事はどうでもいい、それより大切な人を残して来た事が許せなかったのだ。
ずっと一緒に居ると約束した、寂しい思いはさせないと心に誓った。
それをたかだか死程度のものに邪魔されるとは思ってもいなかったのだ。
泣き叫ぶ俺を不憫に思ったのだろう、神とやらは俺にその人を与え、更に別の世界で生きるという選択肢をも与えてくれた。
再びその人と一緒に居られるのならば──。
俺に少しの迷いもなかった。
だが俺が行きついた世界はそれほど甘くはなかった。
「焦らなくていい、ゆっくり行きましょう。それであなたの価値が変わる事なんてないから」
そこは剣と魔法の世界──、とはいえそれ程ファンタジーな物ではない。
次から次へと恐ろしい魔物が現れ、俺はいつも満身創痍だった。だが動けなくなった俺にその人はいつも優しい言葉を掛けてくれる。
俺は幸せだった。例え体がボロボロになっても心が折れる事はなかった。他の冒険者が俺たちを見て露骨に眉をひそめるけれど、そんなのはどうでも良かった。
「あなたの価値は私が一番知っている。そう、あなたよりね」
そう言って笑うその人に、俺は軽い口付けをして眠りにつく。
大丈夫、俺たちはどんな壁があっても乗り越えて行ける。
こんな世界へ送った神とやらを最初は呪ったものだ、だが最近は感謝すらしている。
愛は辛い時ほど試される、この世界は俺たちに適している。言うならば天国だ。
「あなたが居れば大丈夫、私たちは何も失ってはいない。さぁ、始めましょう」
前世でもそうだった、俺にとってその人はずっと心の支えだったのだ。
画面の向こう側に居て触れる事は出来なかったが、彼女はずっと俺の味方だった
そう、どんな壁(液晶・次元の違い)があっても乗り越えていける。俺たちはずっとそうして来た。
微笑む彼女の画面を唇でタップして静かに抱きしめる。
何も恐れる事はない。
誰も俺たちを引き離す事は出来ない。
例えそれが死であろうが神であろうが──。