放課後逃走劇
「暇な奴ちょっと来い!荷物運び手伝え!」
終学活終了直後。いきなり、教室前方のドアから隣クラスの厳つい教師が顔を出した。
「だってさー、男子ー」
あだ名がギャルの女子が、そう言って教師の脇をすり抜けようとする。
「おし、1人目確保」
教師がギャルのリュックを捕まえた。
「えっヤダ」
「軽いもんだから誰でもいい。あと5、6人来い」
「ちょっと放してよー」
うーん、めんどくさいことになった。勉強してるふりでもするか、どうするか。
「誰も来ないんならこっちから指名するぞ。お前とお前とそこの窓際一番前と……」
「放してよゴリラ!」
「誰がゴリラだコラ!」
俺は速攻で荷物をまとめた。そのまま教室後方のドアからこっそり脱出する。
「おい、お前は部活ないだろ!ちょっと手伝え」
けっ、目敏い奴め。
「俺暇じゃないです」
「部活も委員会も入ってないだろうが」
「部活は帰宅部です」
俺は無表情のまま返す。俺に教師の注意が向かったのをいいことに、皆パラパラ帰り始めた。コノヤロウ。
「帰宅部は部活じゃない」
「帰宅するのに忙しいんで、それじゃ」
「おいコラ!」
逃げるが勝ちってなぁ、再び。俺は昇降口までダッシュした。
「廊下は走るなぁ!」
「やです」
聞こえてるわけないけど、取り敢えず返事はしておく。因みに、帰宅するのに忙しいのは嘘じゃない。だって今日は校門、というか家路にアイツがいる。絶対碌じゃないことが起きる。……って俺のカンが言ってる。
外に出ると校門に人だかりが出来ているのが見えた。うわ、めんど。
「よし追い付いた!」
「うお」
未確認生物より前に、昼飯お邪魔マンに追いかけられていた。まじで誰だっけコイツ。
「なあ、アレ」
「お前が昼に言ってた子か!随分人気みたいじゃないか、どんな子なんだ!?」
人気……人気……?アレが、人気……?いや人が集まってるから人気……。
「……会ってみりゃわかる」
逝ってこい、そして俺が無事家に入って玄関の鍵を閉めるまで追い回されろ。
「よし、行こう!」
そう言って、昼飯お邪魔マンが俺の腕をがっちり掴んだ。
「は?」
「あ・の・こ・に・突撃ー!」
えっうわちょっキモ、じゃなくて馬鹿野郎!折角安全に帰るチャンスだったのに!
「マイちゃーーーーーーーーーーーん!」
いや誰だよマイちゃん!
「放せ馬鹿!」
人だかりが一斉にこっちを向く。……不審物を見る目で。そりゃそうだ、飯邪魔マンが奇声あげながら走ってくるんだから。そしてその視線の対象に、付属物として俺も入ってるんだろう。チクショウ、とんだとばっちりだ。
突然人だかりがさっと割れた。あ、嫌な予感。
「まああいいいい」
人だかりの奥から人影が飛び出す。
「ちゃああああ」
猛スピードで接近。
「ぁぁぁぁぁぁ」
人影は飯邪魔を華麗にスルー。
「ぁぁぁ……アレ?」
俺は飯邪魔を引き戻して、目の前まで来た人影に投げつけた。
「ぎゃん!」
人影は飯邪魔の下敷きに。これで時間はある程度稼げる。
「何すんだよ!」
飯邪魔が俺の足を掴んだ。
「えー、あー……」
「ってあっ、マイちゃん大丈夫!?」
……ものの、すぐに突進者に気が逸れる。っていうか退いてやれ、ぶつかった時点で気づけ。ま、投げたの俺なんだけど。
「飯邪魔は大義のための犠牲となったのでした、まる。……じゃっ!」
俺は飯邪魔の手を蹴っ飛ばして駆け出す。
「いった、ちょおぉっとまててめぇ大義ってどこがぁ!」
うーん、俺の日常の平和のための?
「あと飯邪魔ってなに!」
お前の名前(仮)。
通学路のちょうど中間地点。そこそこ広めの公園で、俺はちょっと休憩している。朝走って3時限目が体育で帰りも走って。冗談じゃない、死ぬ。
「はぁっ、はぁっ、っげほごほ、うえぇ……」
本当なら多分立ち止まってる場合じゃない。今も飯邪魔達が追ってきてるはずだ。
「見ぃつけたぞこのやろおおおう!」
おぉう飯邪魔襲来。噂をすればなんとやら。道路の反対側で信号待ちしながら叫んでやがる。未確認生物もおとなしく信号待ち。どうやら交通ルールは知ってるらしい。
「そこでじっとしてろよ!」
拒否。……さて、どうしよう。公園の遊具の影にでも隠れるか、はたまた公衆トイレに隠れるか。前者は多分無理だな。後者は……。
「おらああああああ!」
「うわ」
公衆トイレでは遊ぶなってばあちゃん言ってたし、後者もなし。……実はちょっとトイレにいきたかったりもする。学校で済ませときゃよかった。
「あっ逃げんな!」
飯邪魔と未確認生物が追ってくる。妙に連携取れてるのがうざい。
「未確認生物はともかくなんでお前が追ってくるんだ」
「マイちゃんは未確認生物じゃない!」
会話不成立。よし、もう1回飯邪魔投げよう。俺はわざと後方にいる飯邪魔との距離を縮める。未確認生物が前方から迫ってくる。
「よっしゃつかま」
「そぉい!」
「に゛ゃっ!?」
飯邪魔が伸ばしてきた手を、掴んで、ゲームキャラがハンマー振り回すような要領でポイ。飯邪魔は見事、未確認生物に命中。ナイス俺。そのままくるりと踵をかえす。
「あぁばよおてあらいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
そう、公衆トイレで俺は思い出した。飯邪魔の名字はおて
「御手洗じゃボケエエエエエェェェェェェェェェェ!」
ああ、うん、そう、御手洗。