昼飯妨害
「おっはよー」
「うるせぇもう昼だ」
自席で弁当広げようとしたら、背後から奇襲された。叩かれた背中が地味に痛い。犯人は……誰だっけコイツ。半年以上同じクラスにいるのにド忘れした。悲しいほどにショボい俺の記憶力よ。
「本校の合唱部は朝昼晩真夜中異世界宇宙の果て、何時でも何処でも挨拶は『おはよう』だからいーの」
なんだそのよく分からん決まりは。特に後半。本校の合唱部は遠征でそんなところまで行くのか。行ってらっしゃいが逝ってらっしゃいになりそうだ。
「またぼっち弁?」
「またじゃなくて毎日」
「うっは悲っしー」
「るせぇ」
顔文字に例えるならプギャーのあれだな、うん。うぜぇ。
「仕方ないからこのオレが向かいで一緒に弁当を食べてやろう!」
「いらね」
「酷い!」
誰だったか忘れたソイツは、俺の目の前の席に陣取ると、椅子を180度回転させた。別に前向いて食ってくれて構わないんだけど。
「はいちょっと詰めてー」
「あっ、おい」
コイツ人の物押し退けて弁当スペース確保しやがった。
「でさ、なんか面白い話ない?」
「ない」
「ダウト」
「ホント」
俺は卵焼きを頬張った。流石ばあちゃん製、塩の量が尋常じゃない。辛い。塩がジャリジャリいってる。
「じゃあオレから。この前さぁ、」
奴が声のトーンを落とした。話の内容を予測した俺は、カバンに左手を突っ込んだ。目的の物を取り出すまでに約1秒。
「兄貴が新しいエロほ」
俺は 耳栓を 装備した !
「──……───────!」
奴が耳栓に気付いて何か言ってるけどキコエナーイ。飯くらい静かに食わせろ。
「──!」
無音でバタバタしてるのを見ると、なんか滑稽だな。
「……」
あまりに視界が五月蝿いから、仕方なく耳栓を外す。
「酷いじゃないか!折角話題をつくったのに!」
「はいはい悪かった」
昼飯中の、しかも人が……特に女子がいるところでする話題じゃない。酷いのはお前だ。……というのがあくまで個人の感想。
「じゃあ次お前の番!」
「……は?」
なんで俺も喋んなきゃなんないんだ。
「オレだけに喋らせるとかズルいぞ!」
一体全体何がズルいのか。よくわかんない奴だ。
「あー……」
うわ、すっげぇ興味津々な顔してやがる。引くわぁ。
仕方ない、朝のあの奇妙な未確認生物の話でもしとこう。
「朝、家の前に変な奴がいた」
「変な奴?」
「人参って言われた」
「人参?その人ウサギ?」
人なのかウサギなのか、質問が矛盾してるが突っ込まないぞ。
「退いてくんないから気が逸れた隙に走って学校来た」
「で?」
「ソイツが追っかけてきた」
「……で?」
「学校に着いた」
「……うん」
なんか微妙な顔してんな。
「……もっと面白い話、ない?」
「これが面白い話だ」
「えぇ……」
まあ、事実を適当に羅列しただけだし。小学生の日記といい勝負だろう。
「……まあいいや、その変な奴、いまどこにいんの?」
「移動してなければ校門」
「よっしゃ帰りに会ってこ」
止めとけ、碌なことになんないから。……なんて言うほど俺は親切じゃない。静かな昼飯タイム邪魔したかわりに、町中未確認生物に追い回されろ。……いや、そもそもかなり時間が経っている。流石に移動してるんじゃないか。
「じゃあ、オレ席に戻るね」
……それともう1つ。
「なあ、お前、名前なんだっけ」
「酷い!」