邂逅
何の変哲も無い日々。
いつも通り起きて飯食って着替えてカバン持って靴引っ掻けて。
俺は玄関を出た。
「ってきまー……」
ガツン。玄関ドアに何かぶつかったような手応えが。
「……あ゛?」
辺りを見回すが、障害物になりそうなものは何もない。さっきのは何もなかったことにして鍵を閉めた。
……さて、今日もクソダリぃ学校にれっつごー……お?
「……」
さっきまで誰もいなかったはずの玄関先に人が。ドアにぶつかったのはコイツか。……いや、人かコレ?
裸足。……靴はどうした?暑いから捨ててきたか?残念今は11月だ。
無地の半袖白Tにピンクの短パン。……まあ、暑いんならいいんじゃないか?今は11月だが。半袖短パン小僧ならまだかなりいるし、まあおかしくはない。
ヨダレを垂らす無表情。……うわぁ関わりたくない。お帰りください。
そして1番の問題が。
頭!その頭!肩までの長さの緑の髪と思われる部分の上部から、カタツムリみたいに眼が生えている。あと口らしきものもある。アレか?でーんでんむーしむしかーたつーむーりー……ってか?
見つめ合うこと10数秒。動いた。……あちらさんの眼が。
「………!?」
ビビりまくって後ずさる俺。仕方ないだろ、目の前のアレは未確認生物だって俺のカンが言ってる!っていうか学校行かせて!クソダリぃっつってごめんなさい!
未確認生物はお構いなしにペタペタと寄ってくる。ああ、無害だと思わせといて油断したところをパクっとするとかそういうやつか。か、カバン武器に応戦するしかない。俺ピンチ。平凡な日常瞬時に不穏。
「……」
未確認生物が前方1メートルで止まった。ささささあ、ここ来い!かかかか返り討ちだ!
「……」
ガクブルする俺を余所に、未確認生物は俺を見つめた。
「……」
「あああ、あの、どどどちら様で……」
無地Tに文字が現れた。見事な達筆で。
『 人 参 』
「……………は?」
……お、おう…………。そうか、人参か…………。
「……」
……いや人参がどうしたん……。
「……」
ダメだコイツ人参主張しただけでスゲー満足げだ……。ゲームでいうならアレだ、クエストイベントか!?って期待させといて実は何もないただの会話イベントなやつだ……。いやクエストイベントか、コイツ避けて学校行くっていう……。
「あの、どいてくれません……?」
「……」
あーーーーー。言葉通じないやつか。めんどくせぇ。
「ちょっと失礼」
そう言って俺は脇をすり抜けようとした。
「……」
「ちょっ……」
コイツ……こっちがわざわざ横にずれてやったのに、同じ方向に動きやがった。仕方ない、なら今度は左に……。
「……」
なんでだよ。通せんぼってか。やってやろうじゃないか、絶対すり抜けてやる。
「ほっ」
「……」
「っの……」
「……」
「クソっ」
「……」
「チッ」
カバディカバディカバディカバディ……って違ぇ!俺は!学校に!行きたい!の!
「ぜぇ、ぜぇ、っちょ、どいて……?」
「……」
未確認生物が俺をすっと見据えた。やば、これ何か来るんじゃ……。ほら、正体現して噛みついてくるとか……。
「……」
『 高 麗 人 参 』
「おう……………」
ま た か よ 。