第八話 一夜の終幕
1.ナイトケ王国-地下機密通路-◼️◼️◼️◼️◼️直通-
かなり歩いて、扉を見つける。
石でできた通路に似つかわしくない機械的な扉だ。
当然だが、開かない為自身の持つ超重量と長刀身が売りの特大剣で破壊する。
…そこは暗く、道を照らす明かりはない。
「【魔法剣:煌撃】。」
そのため、光属性の【魔法弾】を撃ち出すついでに剣に光を灯すと…。
「───ォ、ア、ォ、ォ…。」
無機質な、そしてどことなくSF的な白い隔壁で出来た広い一本道。
奇妙なことに、ここの終点には扉は無い。
…代わりに、そこで蠢いていたのは、六メートル近くある巨大なる骸骨。
いや、"骨の集合体"と呼ぶのが適しているか。
それらは一つとして五体満足なモノで無く、一つとして"人骨"でないものは無い。
特筆すべきは、そのコアのようなモノ。
薄く緑色に光るそれは、常に溶解液を放出している。
ここは、察するならば、"処分場"。
生きたまま処分するための死の回廊。
なんのカラクリか、骨だけとなっても死ぬ事は許されず、その骨が生み出す魔力にて動き続ける。
(…こいつら、元がプレイヤーだ。インナーを身につけている。)
「───【衝撃波】。」
光属性の衝撃波が飛ぶ。
照らす光と音を彼らは感知し、そして───。
「ァ、アア、アア…!」
その多くが、何も出来ずに消滅した。
光属性はアンデッドに対し特攻を持つ、抵抗できる道理は無い。
「ア、アぁあ───…。」
蠢く骸骨は、戦う気力すら残っていない。
「【衝撃波】。」
それに構わずもう一度衝撃波を放った。
「…ァ───。」
すると、骸骨は残らず灰と化した。
なんとも、呆気ない幕切れ、しかし───。
コアは、まだ胎動している。
肉片がこびりつく巨大なクリスタル。
それを、破壊しなければ、終わりでは無い───。
「【剛撃】。」
男は、剣を振りかぶる。
…そして、カシャリ、と小さな音を立ててそれは破壊された。
───その結晶は、転移の起点であった。
巨大なるモノを、此処にて利用する為の拘束具。
かつて、"進展しすぎた"メインストーリーよりナイトケの先人達が唯一、持ち帰れたモノ。
そこに今、その結晶は彼を案内する…。
「なん、だ───?」
彼の視界は、光に包まれた───。
2.『◼️◼️◼️◼️』-◼️◼️-
「───っ!?」
やっと眩い光は無くなり、彼は暗い所へと出る。
「転移…か?」
そして、目を開く。
「…なん、だ、これ…。」
視界に、"ソレ"を入れてしまった事を彼は後悔した。
【魔法剣】の光に照らされるそれは、まるで"内臓"。
察されるのは、ここはナニカの胎内。
「…随分と、悪、趣味だな…。」
気を抜こうと杖代わりに突き刺した剣は腸壁のような地面を切り裂いた。
「───!?」
即座に酸が噴水かのように噴き出る。
とっさに飛び退くが、その際の揺れによって跳ねた酸はアーサーを追尾する…。
それを剣にて切り払うが、剣にはその小さな飛沫だけでも大きなダメージとなった…。
「…これでは、この片手剣も長く無い…。」
「───そして、この酸、あと数十分もすれば此処を包み込むかも知れない…。」
多分だが、外の骸骨は酸の特殊効果にて"生きたまま"の状態にされていたのだろう。
今も、噴出する酸の海に流されて這い出てくる。
外のコアに群がっていた彼らは、この骸骨が何故か転移してしまった結果だろう。
「それどころでは無い。このままじゃ俺もこいつらの仲間入りだ…!」
アーサーは考える。そして、火力の一点突破しかないと断じた…。
「───見つけたぞ。」
───しかし、"向こう"も彼を見つけた。
異形なる爪での急襲、普通の者ならば、受ける事は不可能。
背後から、心臓へと迅速に───。
「【殿の心得】、【瞬間防御】!」
アーサーも防ぐ事は叶わなかった。しかし、言葉を紡ぐだけの余裕はあった。
物理防御を上昇させ、なんとかその一撃を軽減する…。
(致命傷…ではない…!?)
刺さった爪は、なんとか心臓までは届くことはなかった。
刺客は驚愕するが、すぐさま酸へと潜る。
アーサーはこれを機に反撃へと転じようと背後へと振り返るが…。
「───。」
そこにあったのは、酸のみ。
どうやら、敵は酸より現れて、酸に消えたようだと考察する。
(駄目だな、これ。)
アーサーは諦めた。
勝てるわけがない、此処もじきに酸に飲まれる。
自身の持つ最大火力にて此処を破壊しようとしてもそれには隙が伴う───。
肝心の、"此処"の捜査を任された自分がさっきのアイツに刺されて死んでは意味が無い。
(…逃げ道なら、ある。)
(かなりの大博打になるが…。)
あぁ、そうだ…ザスターは全てを見抜いていた。
多分だが、"此処"周辺に、言っていた協力者を配置している。
(…思い返せば、多分あいつは、『クロノス』がナイトケにあるって噂が流れた時点で、"転移"だと勘付いていたのだろう。)
だから、此処───。
───『空中城塞都市【アスガルド】』
それとの繋がりに、気付けたのだろうから…。
アーサーは、数分と保たずに酸の中で骨となった。
3.ナイトケ王国-機密特区-
破壊された天井。
"多数"の一条にて、貫かれた城塞。
機密特区は、僅か一騎の騎兵により、破壊された。
「「「───【剛撃】っ!」」」
「きっ、ついなぁ…っ!?」
しかし、その尋常離れした騎兵も、苦戦を強いられる。
圧倒的に数が多い、無限に降り注ぐ弓。
【突進】にて穿とうとも、これ程の数の前では…。
「───ぐ、あ。」
そうこうしながらも『幻獣』にて敵を薙ぎ払ううちに、鉄の矢尻が騎兵を射抜いた。
一度射抜かれた衝撃で転倒し、そのまま、囲まれる。
一人の勇士が、ここに捕まった。
「…こいつだけか。」
突然の事態に陣頭指揮を取っていたキュビは言う。
「はっ!レイアの保有する"機甲竜頭"による追跡もそこの者によって妨害され、発進も現在故障により不可能であります。」
「竜騎士部隊六十名も全員死亡し、復活するまで後十分程だと言う事です!」
「…そうか、ご苦労。」
4.ジオマ帝国-壊し屋の隠れ家-
「…セキが、戻ってこない…。」
白銀の鎧を脱ぎ、その白い髪を露出したトリトはそう言った。
「…推測するに、機密からして改造されたのか。」
彼はそのスキル、【共感覚】で視覚聴覚を共有し、【囁き】によって情報をセキへと与えてきた。
そのような事を把握するのには、時間もかからないだろう。
「なんとかして、助け出さなければ。」
「僕が巻き込んでしまったセキさんを助け出さなければ…!」
「…あぁくそ、言い出しっぺなんかになるんじゃなかった、ホント、舐めていた。ナイトケを。」
彼の手元にあるのは、ジオマの冒険者の資料。
「どーせナイトケにもちょっかい出すんだろジオマは…前はバゼリにも手を出してたしな…。」
「ジオマの【魔神王】を投入したって、誰も文句なんざ言わないさ…。」
…ドン!と大きな音を立てて扉は開けられる。
「…噂をすれば…か。」
「私の事呼びましたか!?先輩!」
飛び込んできたのは、いかにも法師だとばかりに厚い黒い服に身を包んだ女性。
「…あぁ、呼んだよ。後輩。」
「…えっ。ホントに…?」
「本当だ。セキ先輩が拐われた。」
「だから協力を頼もうと、思っていた。」
「二人だけで行ってきて、私ハブだったのにそう言う時だけ都合良いんですね…。」
泣く真似をしだす彼女、名はアクリナ。
「…いや、それは、君がザマル王国方面の領地戦に参加してたから…あぁ、くそ、悪かった。ごめん。」
「改めて、力を貸してくれないか…?」
彼女が、ジオマの【魔神王】。
「わかりました、ただ…。」
「───次は一緒に、三人で連れてってくださいね!」
5. 天空-空蓋孔-内部
雲の上の人智の先の世界、その中に椅子に座って寛ぐ男。
そこに、一人の従者が到来した。
「───ザスター殿。ナイトリッチより、電報が。」
「アガサ君、詳しく。」
「…ナイトリッチは、『ギルドの人員を貸し出せ、我々に敵対するつもりか?』、と。」
「…軽い揺さぶりだ、適当に流したまえ。」
「…ザスター殿、コロシアム後の密会にて立てられた───《水銀冠》を台頭させるとの盟約を結んだ彼らに、本当に対立するつもりですか?」
実は、この男、コロシアムにて光の柱を、女神を降臨させた後に、ナイトリッチ達と密会を行った。
特に協力する気はなかった彼の役目としては、『正式台頭決行時に私兵を動かさない。』事。
ビフロスト周辺にいるとされる契約を履行させる『天秤の神獣』と既に契約を結び、破る事は不可能になっている。
「表立って対立する気は無い。我々のギルドは暗部以外、あくまでも中立を貫く。」
「───そう、我々のギルドは、そうだ。」
彼の兵は動かせない。
「そこで、アーサー殿を酷使すると。」
だが、アーサーはもはや彼の兵ではない。
「あぁ、彼は、死なない事に賭けては一流だ。」
だから、動かせる。
「…前にも思っていたのですが、このプランは無茶振りにも程があるのでは。」
「それに、ナイトケ地下からクロノスへの直通が───「それは必ずある。」。」
「そうですか…。」
アーサーの仕事内容を見たアガサは少し引いた。
ザスターは地下へと潜伏して機密を取ってこい、としか言っていない…。それ以外の補助、支援は特に何もない。
つまり、ナイトケの地下へ潜伏し、『クロノス』へ辿り着くまでは全て自分でなんとかしろと言っているのだ。
「何、ミラ君も手引きして"あちら"の地下に潜伏させている。いざと言う時は彼女に頼もう。」
「…アーサー殿も、ミラ殿と一緒に始めから地下に入れとけばよかったのでは…?拙者としてはナイトケ王国まで探らせるのは…。」
「───………。」
「いや、アーサー君とミラ君には、迅速に《水銀冠》を壊滅させて貰わなければならない。」
「その為には、アーサー君の存在を知覚させてはならない。死んだふりだ。」
「彼は、クロノスの中からレベルを吸い取り、復活が出来る。」
「それが、壊滅に繋がる。」
「───了解致しました。ザスター殿。」
「それでは、任務を継続します。」
一通り聞いた忍者は、闇へと消える。
「…さぁ、アーサー君。」
「さっさとこんな任務終わらせて、戻ってきたまえ。」
「それまで私は、この宇宙にて待つとしよう。」
開拓者はアーサーの帰還を待ち望む。
彼が俯瞰するのは、"一つしかない"空中大陸。
《世界中に分布する、数あるサーバーの中で、台頭する四つのサーバー。》
全てのサーバーが共有する、英雄の大陸だ。
《ナイトケ、バゼリ、ジオマ、ザマル。》
《一度止められたナイトケへの侵略は、まだ、終わってなど無く───。》
直ぐに、全ての戦力が、此処、アスガルドに集うだろう───。
《ここに、世界は、衝突する。》




