第七話 虚構の襲撃、真実の潜入。
1.ナイトケ王国-機密特区-軍部-会議室
ナイトケの建物は基本的に六階建のビルだが…此処は違う。
首都を包む半球状の障壁の中央にあり、最も機密特区内の土地を占有し、それの最も高いところに配置される"軍部'。
そこにて、今、緊急会議が行われた───。
「司令部代行として、司令を協議します。」
「敵は内にあり、集団で囲みましょう!」
高らかにキュビは言う。
普段はポンコツだが、溢れるカリスマ性がそれを隠している。
「……異議はないな。」
そして、それに代案を出す者もまた、いない。冷め切っている。
そんな冷えた虚構であるこの世界では、自信を持つ者が誰よりも優先されるのだ。
「賛成。戦争は数では?」
「賛成。我が州が脅かされぬ限り。」
「取り敢えず賛成…。」
上から、リト、ヘカク、レイア。
いずれの人物も、一三州会議に出席した"最強"。
彼らの決定は、例え意見が一人に依っていても。力を重視する此処では最も尊ばれるのだ。
「では、そのように。軍部に残存兵力の出撃命令!」
2.ナイトケ王国-地下聖堂-
背後からの声は、声を弾ませて言った。
"レジスタンスの、完全処理"
「お前、まさか、此処は収容所も兼ねた実験場という事か…?」
普通、このゲームで完全に脅威を消し去る事など不可能だ。
プレイヤーは何度でも復活し、何度でも抗争は繰り返される。
その中で、それでも、と叫び続けるのならば、方法は───。
「相手の、アカウント削除を、狙って…!?」
このゲームから、追い出す。
「…ご名答。」
本体と本タイトルさえあれば、アカウントを作るのは容易い、しかし…。
「今まで育成してきたアバターを、"異形に改造し、死なさせずに監禁する"事で手離させていたと…。」
しかし、時間は、愛着は、戻ってくる事はない。
なんと、非人道的で、効果的な対処法だろうと、セキは驚愕した。
「───やられた方は、溜まったものではない。」
…驚愕から生まれた声に、すぐさま背後から、返答が響いた。
「貴女も、その中に入るだろう…。」
「…いや、私の職務だ。入ってもらおう。」
セキは、戦いの気配を感じ、ようやく後ろを振り返る。
そこにいるのは、誇りの為に戦う者。
かの"異形"が対峙するは、ただ、生き方としての破壊を目的とした、一人の異端者。
「我が名はグレン。」
彼の身体は、一言で言えば、醜悪に尽きる。
「此処、地下機密区、第一番地の管理者。」
先程の機神形態の"頭部たる"コア。
それを中心とし、人間の機能を、生えている触手を使い再現している。
「───我が、職務にかける、誇り。」
「その為に、私はこの命を、此処に捧げよう───!」
赤くグロテスクなる、腕を模した絡み合った触手は、セキへと叩きつけられようとしている…!
「───ならば、一閃にて答えよう。」
セキは、逃げない。
ここで、立ち向かう。
それは勝算あっての事ではなく、磨耗した体では、逃げ回る事は不可能と判断した為だ。
よって、彼女が目指すは短期決戦のみ。
「───。」
【透撃】は、使えない。
しかし、経験がある。
「【地中走方】。」
上から鞭のように叩きつけられる触手を、地に潜る事により避ける。
(手札は、あと一枚───。)
このゲームにおける対人戦時の近接職の武器は、三つある。
一つ目に、硬直が無い【剛撃】によるインファイト。
二つ目に、【魔法弾】や【衝撃波】による中距離攻撃。
そして、三つ目は───。
「【瞬間強化:速度】。」
超速機動による、バックスタブ。
一度に地表へと出る、それを読んでいたかのように触手は、今のセキの位置を含む全方位に向けて放たれていた…!
「【抜刀術】、スキルアビリティ…。」
「───【抜刀術:切り払い】。」
【抜刀術】…。
『抜刀の後の0.6秒間、武器を振る速度が一.五倍される。』
【抜刀術:】…。
『【抜刀術】からの派生スキルアビリティは、":"後に書かれた特定の動作をする際に俊敏が更に二倍される。』
しかしセキはバスタードソードを抜刀、その際の一瞬にて触手を切り払う。
「───【抜刀術】、成る程。」
「しかし、リーチはこちらが上ですな…!」
「【毒生成】、【毒沼】ッ!」
【毒生成】…。
『特有の器官を持つ者が発現するスキル。』
【毒沼】…。
『毒をレベル×〇.〇〇二リットル程即座に生成する。一日に生成できる量の上限は六〇リットル。【毒生成】派生スキルアビリティ。』
セキは、触手の間を縫ってグレンを見つける、だが、その触手の合成体は毒を吹き出した。
「───これでは近づけないとでも?」
セキは、怯まない。
何故なら、もう既に内部の探索をする余力はこの体に残っていないからだ。
完全なる捨て身、されど…。
此処で、グレンを仕留め、"次"への糧にしようとしている。
「───【抜刀術:切り払い】。」
【抜刀術】により、一度に加速されたスピードで噴出する毒を避け、グレンの目の前へと移動する。
「かかった───。」
しかし、グレンにとってはこれで良い。
グレンは、そのコアを、セキの持つ特大剣により破壊された…!
「【寄生】。」
破壊されたコアより発射された"物体"は、銃弾のようにセキを貫く。
「あ───ぅ……っ…。」
(コアに見えたのは、あくまでも"障壁"…なんと…予想外な…っ。)
(しかし、これは───。)
セキは抵抗しようとその傷痕へと手を伸ばすが、不可能。
頭を失っても動く虫の如く、コアから生えた触手は彼女の身体を絡めとる…。
「…新しい、素材だ。」
最後に彼女は、意思に反してそう呟いた。
(…少々、不味いことになったみたいだな。)
その身体の主導権を、握られたのだ。
3.ナイトケ王国-地下道-
ただ、ただ、走り続ける。
目指すは首脳部。
彼ら権力者達を、一人でも連れ去ることが任務。
ひたすら、上層へと続く道を走り続ける…。
「───察…っ!?」
その道中に、目の前にいる女を"獣へと変貌した爪"にて破壊する。
「「───【剛撃】ッ!!」」
そして、それにいち早く反応した薙刀使いの男と力比べを行う。
…対峙するは三人部隊、一人が先程の言動から見て斥候、残る二人が戦闘員か…!
その事を察知したジンは、かち合わせていた方とは別の鉤爪で対峙する男の心臓を貫く。
「───ぅ、あ。」
「【投擲:槍】。」
【投擲】…。
『物を投げる際、投げられた物の命中率が上昇し、速度が一.二倍される。』
【投擲:】…。
『":"後に記述された物質を投擲する際に速度が更に一.五倍される。【投擲】派生スキルアビリティ。』
ジンが目の前の男の心臓を貫いたその時、それを囮として、もう一人の女が槍を投げる…。
「───【甲殻】、オン。」
【甲殻】…。
『特有の器官を持つ者が発現するスキル。』
瞬間、ジンの体から、甲殻が"生えた"。
身体から這い出た甲殻は、槍の威力を殺す。
その槍を弾くことに成功した…!
「───逃さん。」
そして、振り返り様の一撃。
それによって、完全に心臓を破壊する…。
…粒子が、暗い地下道に舞った。
静寂が、暗闇の中に、訪れる…。
(───これで、何回目だ…?)
かなりの人数をこのように殺してきた。
それは、此処らの、上層への道の警備の方が、地下に潜伏する反乱者の捜索よりも人員が多いという事。
他の"機密区"を回った事はない為、判断は出来ないが…。
「…いけませんねぇ…見つけるのが遅くなってしまった。」
ジンが考え事をしていると、足音がこの地下道に響いた。
コツン、コツン。硬質的な音がこの地下道を包む。
「【斥候】のジン。」
そして、彼は男の名を呼ぶ。
「…!何故、俺の名を…。」
うろたえるジン。しかし、戦闘態勢は崩さない。
「なぁに、よく知ってますよ。」
「ああ、自己紹介でもしましょうか。私の名は、"コンラ"。」
彼は悠々と、目の前にいるジンなど脅威には足らないように喋り続ける…。自身がジンの標的とは、想像もしていないだろう。
「───!」
しかし、ジンの方はというと、目の前に標的がいるというのに、動く姿勢すらない。
あろうことか、臨戦態勢さえも解いた。
「───コンラ。」
「はい、私がコンラです。」
「…私としては、"同志"たる君に伝えたい事がある。」
一方的に話し出すコンラ。
…しかし、対面するジンは狼狽えること無く、まるで相手をお互いに知っていたかのように話し出す。
「…どういうことだ、もしかすると、計画の変更か?」
「…物分かりが良いな、流石だ。」
「そう、だから、彼の新しい指令としては───。」
「今の混乱に乗じ、旗揚げせよ、と。」
「…では、俺には…。」
「地下の不穏因子の排除を、と。」
「すぐさま辿り着きそうだから、出来るだけ早い遂行を望むと、彼は言っていました。」
4.ナイトケ王国-機密特区-
───今、思惑を無視し、多重の流星が摩天楼を破壊した。




