第六話 向かう先は、真実
1.バゼリ王国-西方戦線-
モトナリ率いる突撃軍は、敵軍の虚を突いて突撃し、この緊急事態を数々のナイトケのプレイヤーへと拡散させた…。
天下無双の戦士がナイトケの掃いて捨てるほどいる下層ランカーを蹂躙し、中層ランカーを狩り、上層ランカーを出さざるを得ない状況を作り出す。
首都の危機があまり拡散しないのは、地下であるからこそ話題にされないのもあるが、陽動により、皆が興味を持たなかった事にあるだろう。
だからこそ、偶然極まる少数先鋭でも、ナイトケの内乱を持続させられたのである。
2.ナイトケ王国-最下層-
…目の前に居るこの赤鎧の者は、俺をどこで知覚したのだろうか。
「あの穴は、随分な破壊力だなと感心する…。」
ただ、穴を落ちて、落ちて、落ちて…。
「しかし貴公、待たれよ。」
その先は、最下層。
「私は、幹部としてナイトケの敵を見逃す訳にはいかない。」
そして、通路を一時間ほど進むと、その者は背後から声をかけてきたのだ。
「…そうか。」
目を後ろに向け、あたりざわりの無い回答を返す。
…後ろから刺されても面倒だ。
「───なら、殺すのみ。」
「【屍魂吸収】…。」
戦う決心と共に、紫色のウェーブが、この地下道を包みこんだ…!
「【殿の心得】、【魔法剣:煌撃】。」
魔法剣を付与しながら、ゆっくりと振り返ると───。
「受けて立とう───【剛撃】。」
赤鎧は手に持つ薙刀を目の前にて振りかぶっていた。
…こうして、全ての動作に適応させられるのが【剛撃】の強みだ。
「【剛撃】…ッ!」
振り向き様の一撃でそれに合わせる。
しかし、筋力が足りない。
後方へ魔力放出をしようとも考えたが、先程の一撃を放ったこの体では持つかどうか怪しい。
押し負ける、叩き斬られる───。
「【超衝撃】。」
【超衝撃】…
『相手を最大1キロメートル先まで吹っ飛ばす。ダメージ量はノックバックの距離に比例せず、最低三メートルはノックバックさせないといけない。』
しかし、すんでのところで相手を吹き飛ばす。
「───ほう。」
だが、此処は狭い地下道。
赤鎧は天井を蹴り、俺へと接近する───。
「この紫色のウェーブといい、貴公は面妖だが───。」
「二度目は、防ぎ切れるか───?」
二撃目。
「【剛撃】ッ!!」
全体重を乗せての、両手突き。
「【超衝撃】ッ!!」
俺はそれをカチあげようと剣を振るい、薙刀の刀身へと当てる───。
「見切った。」
しかし、赤鎧は獲物を手放した。
主人を失った薙刀は天井へと刺さる。
一直線に俺へ向けて突進する赤鎧。
「───【剛撃】!」
奴は、驚くべき事に武器を捨て、その鉄の籠手で俺を殴ろうとしているのだ。
この窮地を脱しようと、ただひたすらに、思考を、重ねる。
俺は両手で剣を振り上げた状態を戻せない…【超衝撃】は【剛撃】とは違い、硬直が短く存在する為、剣で受ける事はできない。
防ごうにも、超質量の一撃は、【重装化】を使おうと、かなりの衝撃を俺に与える…。
体勢を崩した俺に【武装化】にて一撃を与えるのは、難しい事では無いため、防御は現実的では無い。
「アビリティジェム───。」
「───解放ッ!」
【縮地】の効果にて、俺の身体は赤鎧の背後に移動する…!
俺はそのまま赤鎧の背中に向けて、剣を振りかぶる───。
「───逃げられていた方が、厄介だった。」
裏拳。
「【剛撃】。」
───気づ、かれて───!?
鎧という質量の塊を伴って、それは剣と激突し───。
───驚くべき事に、それを弾いた。
「なっ───!?」
俺は、驚愕する。
「【剛撃】。」
だが、もう一つの拳は止まらない。
一撃、顔面を破壊するそのエネルギーは地下道の壁へとぶつかって崩落させる。
「ヘぶっ───。」
「【神速】、【剛撃】。」
【神速】…。
『次の一撃を放つまでの間、自身を俊敏値を動体視力、思考、共に五倍にする。重複不可。』
放たれた一撃は、光を超えた。
「【神速】、【剛撃】。」
『クールタイムは、三時間。』
「【神速】、【剛撃】。」
『最大連続使用回数は───。』
「【神速】、【剛撃】…!」
『"十五回"。』
一つの瞬きの間に、幾重にも放たれる重厚なる八連打。
それは瞬く間に曲者の全身を破壊して、殺し尽くす───。
「…良き、夜であった。」
そして、"終わった"後───。
…そこには、四肢の残骸すら残ってなどいなかった。
奇妙な、静寂がこの地下道を包む───。
紫色の視界が、同時に消えた…。
「………。」
そして、赤鎧は死体を一瞥し、また、地下道の見張りを───。
「【不滅の───。」
(───この、声。)
…赤鎧は声の方向を向く。獲物を構え、警戒する…!
「───魔神王】。」
───異様、だった。
それは、生命の冒涜。
散りばめられた肉片がひとりでに動き出し、一点へと集中する───。
《レベル2→1》
「まさ、か、この肉塊───。」
「───復活、していると、でも…!?」
肉片を、一つ一つ、青き光が繋いで、引っ張って───。
「…これが、俺の【魔神王】の戦い方。」
声。
視界に入るのは、金髪の男。
「敵対者がいる限り、永遠に、復活する。」
それは、完全なる"怪物"。
「───ワールド、ボス…!!」
赤鎧は、この男を、そうだと、思った。
「───ああ、その通りだ。」
その言葉の後に、槍が投げつけようとする。
「相手にとって、不足なし───。」
今、【魔神王】の目の前に居る者は、臆した訳ではない。
かと言って、現実を見ていないのでもない───。
「───【神速】×【剛撃】。」
確固たる、勝利への展望が、その脳裏に、確かに浮かんでいる。
だからこそ、此処で立ち向かうのだ。
「【<雷霆の如く、───。」
「【思考高速化】。」
【思考高速化】…
『思考の高速化を補助する。及び、脳の負担を補助により軽くする。《Level third》以上の難度の粒子の操作、又はそれと同等の難度の何かしらの操作に成功した者が習得できる。』
「───瞬く>】。」
───彼…"アーサー"の意識は、その"速さ"へと追いつく。
「【屍魂吸収】。」
赤鎧の一撃が放たれ、そして放たれるまでの間に───。
【屍魂吸収】……
『自身のレベルを一にする事で、半径一キロメートル×低下したレベル分の円内に入っている者からレベルを吸い取り続ける。
(レベル一以下の場合は継続する。)
職業、【魔神王】は経験値でレベルが上昇せず、外部からステータスを変化させることは出来ない。『魔神王の魂】と同時に使用することで吸収効率が二十倍される。
この効果の発動中は問答無用で肉体は【第二段階】の状態を起動し、任意的解除か、【第二段階】解除により初めて本スキルの効果が解かれる。(この時、"【第二段階】が使用できない場合、当然【第二段階】は発動されない。")』
「【魔法剣:煌撃】。」
【魔法剣:煌撃】……。
『光属性が武器に付与される。
闇属性へ一.六〇倍、悪魔系へ一.二五倍与えるダメージが上昇する。この効果は重複する。』
「【殿の心得】。」
【殿の心得】…『周囲に味方プレイヤーが存在しない時、自身の防御力を一.五○倍する。』
「【模範騎士】。」
【模範騎士】…
『【魔力強化】【魔力強度増強】【筋力増強】【怪力】【韋駄天】【始聖剣】の複合スキル。戦闘時にのみ使用できる。戦闘後に効果が切れる。』
「【衝撃波】。」
【衝撃波】………
『魔法扱いの、物理攻撃のダメージの半分の威力の衝撃波を放つ。
振るった武器に付与された属性がその衝撃波にも付与される。』
「───【破却】。」
【破却】………。
『自身の発動中のスキルを戦闘中、使用不可にする事により、破却したスキルの特性を引き継いだ一撃を放つ。スキルを破却した数×二.〇倍攻撃力が上昇する。(このスキルは五個以上のスキルを破却出来ず、このスキルを使った一撃を使用した後は、破却したスキルと【破却】は使用できない。)』
アーサーは、六つのスキルを詠唱した───。
(【破却】。)
(それは使い勝手が良く、火力を簡単に増せるスキル…。)
(…ではない。)
赤鎧の者…リロは思考する。
(───【破却】は、【剛撃】などには見られない固有のタメモーションと硬直が存在する───。)
(要は、相手が一撃を放つまでの間に、我が槍が貴公を貫けば済むという事…。)
…その通り。
今も神速の槍は、多大なる威力を持って曲者へと向かう。
いや、"向かっていた"。
「───ぁ。」
その言葉とも言えぬ呻き声は、"既に刺し貫かれた"者が放ったのだ。
スキルの詠唱時に、既に"それは彼に刺さっていた"。
神速の名は、伊達ではなかった。
再び、彼は死ぬ。
「───【不滅の魔神王】。」
《レベル1→0。》
"しかし、復活"。
そのまま、未だ光を放つ剣を振りかぶる───。
「───それを、待っていたぞ、貴公。」
(復活したという事は、それ即ち、貴公が死亡したという事。)
(その時点で、"戦闘は終了"している───!)
【精錬極技】。
…それは『スキルアビリティやスキルを合成させ、それぞれの特徴を持って両方のダメージ量を足して二倍させた一撃を放つ』、というものだ。
使った素材のスキルやスキルアビリティは戦闘が終了するまでは使用することが出来ない。
しかし、此処に戦闘は、終了した。
「【神速】×【剛撃】。」
此処で、失念してはいけない事がある。
「【<雷霆の如く、───。」
それは、既にアーサーの一撃が"放たれている"、という点。
「───瞬く>】。」
つまり、現在進行形で、いま、リロと対面する男は、【破却】の処理を行なっている、ということ。
要は、此処に来て、現在リロが放つ一撃による、【破却】の抑止は、不可能。
「───悪足掻きをしようが、俺の勝ちだ。」
振り抜きと共に放たれた極光は、赤鎧の全身に被さる。
それは、一瞬。
一太刀が終わる頃には、閃光は遥か後方へ飛び、消滅する───。
「しかし、貴公。」
「それは、驕りだ───。」
白銀の魔力放出を潜り抜け、現れたのは赤鎧、二本目の薙刀。
それを、知覚すると共に───。
「───ぐ、ぁ。」
衝撃に揺らされた肺が、息を吹き出す。
それは、心臓を貫いた致命傷…。
…では、無かった。
「───。」
赤鎧は、一手誤った。
そして、その事を、この環境から知覚することも無かった。
狭い通路なら、中央を狙えば必ず相手に当たる。
そう思った故に、"視界が白銀に包まれた中"、中央へとその薙刀を放ったのだ。
───結果、それは、腹に。
「…先を、急がなければ。」
薙刀を引き抜く。
それにより血が溢れるが、炎の【魔法弾】にて、すぐ止血する。
そこには、なんの余韻も無い。
此処で死闘を繰り広げた証たる血も、いずれ消えて無くなるだろう…。
───彼の求める秘密は、すぐ、近くに。
3.ナイトケ王国-地下聖堂-
聖堂の真っ赤に染まったカーペットの先を急ぐ。
突き当たりまでそれに沿って歩けば、待っていたのは、大きな扉。
息も絶え絶えの体をひきづりながら扉をゆっくりと開けると、暗闇が目の前に広がる。
扉を開けた彼女の目の前に広がるのは、無数の、壁に供えられている巨大なカプセル。
「…これが、機密。」
部屋に入って直ぐに、部屋に備え付けてある魔力灯のスイッチを入れて───。
その眼は、驚愕を表す。
「これ、は───。」
目の前に広がるのは、無数の、"竜人"。
「───驚き、ましたかな?」
そして、背後より聞き覚えのある声がする。
「…生きていたか、御老人。」
振り返らずに言う。
どちらにしろ、戦う気力は残っていない…。
「お忘れのようでしたら、私の名はグレンと言います。」
老人は飄飄として語る。
彼女…セキはそれに酷く苛立ちを覚えたが、それもまた一瞬だった。
「グレン───此処は、どのような施設だ。」
まだ後ろから仕掛けないのであれば、それは会話する気が相手にあると言うこと…。
ならば、会話に持ち込んで損ではない。
…それに、自分は外様。此処でこの国の事を知らなければ、どうにも目的意識が保てそうにない。
…セキとしては、グレンと戦っただけで、此処で終わりにしても良いかと思ってしまったのであるから。
「此処は、我々の改造室。」
「"素体"を改造し、"意思なき"生きた兵器とする私の管理区域最大の特徴…。」
「主目的としては兵士の増産、レジスタンスの"完全処理"を目指しております。」
その時、だった。
地下全体に、非常なる轟音が鳴り響き───。
バゼリの侵略が、本格的に始まったのは…!
4.ナイトケ王国-首都-バセラヌ
───静寂。
風を切り、上空を進む『幻獣』。
月が、雲に隠れた。
「───本部隊続けッ!【突撃】ッ!」
降下、開始。
半球状に展開された隔壁に囲まれる敵地の首都襲撃に参加するのは、六十騎ばかりの寄せ集めな大部隊。
それらは、一糸乱れず、一度に既に展開された城壁へと突撃する───。
「───あの、このままではぶつかるのでは…。」
【人体改造】により、グリフォンとなっている若い女傭兵…アリスが呟いた。
【人体改造】…
『種族の付与と、一度見た種族へと人体を一瞬で改造出来る。』
いくら大多数の突撃と言ったって、壁に与えられるエネルギーは軽微、逆にかなりの戦力が消耗される…。
「…その件は、大丈夫だ。」
アリスの上に乗る男…マキナは答える。
「話を聞くばかり、別働隊が壁の破壊を行うらしい───。」
5.ナイトケ王国-地下道
暗い、石造りの通路の中、男は言う。
自身は、此処で命を捨てる、と。
「…じゃあな、ジン。」
しかし、これといった感傷など、両者発生せず…。
「…名前を、教えてくれ。」
此処は、命の価値など関係ない仮想現実。
「…ああ、俺の名前はクフリンだ。」
だからこそ、だろう、
「…そうか。クフリン、また会おう。」
…ジンは、音を立てずにその場から消えた。
…溢れ返るほどの絶命の記憶の中。
彼らは、一生の価値を、作り出そうとする。
「…ああ。」
そこに命がある限り、大切なモノを、探し求める。
「【植根】。」
地下道、地上、巡って隔壁の幾多の物理的、魔術的な法則を、その精密なる魔力操作にて、打ち破る…。
「───【賢者の石】。」
「崩壊しろ。」
「俺達の、勝利の為にな。」
6.ナイトケ王国-首都-バセラヌ
「…その話、本当ですかぁ?私、死にそうになったら直ぐに帰りますからね?」
「…遠慮無くなったな…お前も…。」
「まず、私なんて低レベルをこんなとこに連れてくるのが悪いんですよ…。了承したのは、私ですけどねぇ…。」
「───ミロより、前方、敵確認!」
一人の『幻獣』に乗った少女が言う。
前方に見えるは、夜の黒にまぎれる黒き竜騎兵。
数は、こちらもまた、六〇。
「───グランデより、交戦する!」
「「「「「ラジャーッ!!」」」」」
その時、"崩界"は、起こった。
木の根は伸ばされ、そして、ナイトケ首都を囲む壁を構成する素材になり変わり、自壊し、破壊する…。
"それも、土台ごと"。
互いの兵団がぶつかり合うその時に、全てが破壊された事を示す轟音が鳴り響いた───。




