第四話 決起
1.ナイトケ王国-首都-バセラヌ
…俺は、あの謎生物と話した事が気にかかっていた。あれは、依頼達成へと繋がるかもしれない…。
…依頼にて調査を続けて、今日で一週間。依頼主への連絡はつかなくなった。
そして、彼からの依頼はただ、一つ…。
「…つくづく、あの腹黒野郎は何を考えているのか。幾らなんでも詳しすぎる…。」
『地下内部にあるアスガルドの調査及び他の機密の捜査。』
今は、その依頼の内容が、遂行可能かすら、彼は探れてはいないが。
「…表には、見たところ何もなかった…。」
「…地下、潜るしか無いか。」
2.ナイトケ王国-首都-バセラヌ-郊外
そうして辿り着いた郊外にて、俺は地下への入り口を探すのだろうか───。
───そんな事、非効率的だ。
「…装填、光魔力混合率、20%。」
(…先ずは、敵がいない奥まで行って、潜伏する。)
「…目標、"地面"。」
(そこから、調査はゆっくりやっていけば良い…。)
この一撃は、かつて渓谷を作った。
さらに、今の俺の"この形態"は、魔力を撃つのに適している…。
(…いや、まぁ、もっと地味にやっても、良かったんだけどなぁ。)
3.ナイトケ王国-機密特区-地下-司令部-
「魔力探知科より入電!首都郊外にて多大な魔力反応!」
「規模は!」
「…我らが保有する"母体"と同等!」
その報告を聞いて、司令部は一斉に動き出す…。
「魔法防衛部へ、内外魔力隔壁三重生成!」
さまざまな職員がホログラムにより転送されてきた情報を分担する…。
「物理障壁部、物理シールド、起動します!」
「軍部、竜騎兵一、二課を外部へと派遣しますとの事!」
「司令部より、住民プレイヤーに警告アナウンスを行います!」
「司令部部長、"オウリ"より、首脳部へ伝達しろ!」
「…ダメです!首脳に繋がりませんッ!」
「しかし、司令代理として"キュビ"がこの件の指揮を取るとの事!」
「軍部より、グレン前選定首都運営人が"母体"の防衛要請を了承しました!」
「情報部より、対バゼリ戦線が崩壊!」
「バゼリもまた壊滅しましたが、此方へ増援へは不可能との事!」
「一三州の代表の内、ユシュエン、コンラ、リロ、ガイスト、ロシュの五名に繋がりません!」
「…あぁ、まったく、今期の選定首都運営人はあなただと言うのに…!何をしている…!!」
「さらに、NPCだってこの街には居る…!守る気はあるのか!」
「…司令部部長…!」
「…ここまでやったんだ、祈るしか───。」
───その時、だった。
「良い、混乱。」
「刈入れ時だ───。」
「───え?」
女の持つバスタードソードが、司令部の青年へと突き刺さった。
「───総員!限界戦闘態勢!【付与】×【瞬間強化:敏捷】───。」
【付与】…
『あらゆるものを一〇〇%の範囲で足したり引いたり出来る。足したもの、引いたものの対象は視覚的に現れる。このスキルは効果時間が二分しかなく、再使用には一〇分必要。』
【瞬間強化】…。
『自身の強化したい能力値を宣言し、それが一.五〇倍される。』
『効果時間は三秒。』
「───【<韋駄天の加護>】。」
「【高速詠唱】、【大魔術】───。」
【大魔術】…。
『魔術の効果を指向性を持って強化できる。消費魔力を一.五倍する。』
「【聖域】。」
【聖域】…。
『半径八メートルの自動回復エリアを視界内の任意のポイントに設置する。』
「司令、もうこの距離だとッ!」
(やべぇボス戦と同じノリで回復エリア展開しちまった…。)
質量と属性を伴った銃弾が曲者へと迫る…!
「───【地中走方】。」
しかし、一瞬、潜られた。
体が沈み込むことにより、減速せずに銃弾を回避する。
そのまま、強化され、かなりの速さを持ちながら薙刀を刺してきた二人の男をその特大剣を振り回す事により切り裂く。
「駄目ですコイツゴリラッ!?」
「司令逃げろッ!」
彼ら二人の断末魔も虚しく、女は接近する。
その後無詠唱でスキルを解除、
「【剛撃】。」
(尋常じゃない、振り抜く速度が───。)
そのバスタードソードを横に振り回す、抵抗することすら出来ずに、一つ瞬きをする間にて、三人の首が一度に飛んだ。
司令部部長…"オウリ"は肌に付いた血をゆっくりと見る。
「まさか、非戦闘員ではあるが教育を受けている我々を、時間を与えずに…!」
「【付与術師】が相手にいる自体で、長期戦は不利なのでな。」
それを実現する膂力は、正に桁違いだ。
…あと、残るは司令部部長のみ。
「色々とぬかった!殺せぇ!」
「……───【剛撃】。」
振り下ろした態勢から、片手で斜めに切り上げ一閃。
彼女と男の間には机という障害物がある、だというのに───。
───この女は、一度に机ごと男の頭を両断した。
スキルが無ければ破壊するのも容易くは無いオブジェクトごと、【剛撃】のみで。
規格外の一閃。
…そして、剣の血を払う頃には、彼女以外誰一人動かなくなっていた。
「強行軍しようって時にこの動争とはね…。」
「なにかしたか?トリト。」
【魔法通信機】に耳を傾けるセキ、しかし、返ってきた答えは、『偶然だ』というモノだった。
『…色々と、分かりませんが…恐らく、彼は地下へ入る事を目的にしています。』
「…何故だ?」
『貴女の所に魔力を撃っていない。』
『追記しておくと、僕のレーダーはもう彼の魔力と思われる反応を感知して無い。』
『これはもう地下にいるでしょう。』
「…そうか、ご苦労。」
「そのアンノウンを、もう一度確認次第すぐ伝えろ、トリト。」
『ラジャー。』
…彼女はそれ以降前へと進む。
常に、警戒は崩さず、地下へと───。
「いタ。」
「…来たなら、しっかり動いてもらわないト、困ル。」
「全くダ。主人も面倒ナ…。」
そんな彼女を見張る者達。
彼らは、敵か、味方か。
4.バゼリ王国-西方戦線-
「…協力者?成る程、うまくやったな。」
蒼衣の男は謎生物との通話を続ける。
だが、その様子には驚愕が隠しきれない所が露呈していた。
なにしろ、少し前に撒いた種が芽吹くどころか、開花したのだ。
「"ジン"、良くやった。"魔物宿し"は劣化しても、斥候たる経験は衰えることはなかったようだ。」
「…それで、今は何処に?…救出された?そうか、クフリンか、成る程。」
「軍の目…?ああ、そちらはこっちで抑えている。少なくとも、明日までは向くことはあるまい。」
「…なんだ、何を話させている?お前は。」
「───っ。」
「まさか───。」
5.ナイトケ王国-首都-バセラヌ
「…成る程、虫を模したらこれか。」
「お陰で、緊急であると、理解できたぞ…。」
彼女の名は、タキ。
軍人であり、バゼリへと紛れ込み、情報を拾う。
そんな彼女が、ましてや人体実験が横行しているこのナイトケで───。
───"魔物宿し"で、ないはずが無い。
…その能力は、スパイ活動を強化する、模倣を司る。
「…本当なのよね。タキ。」
その声にタキは振り向く。
「───主人、聞いていたか。」
そこにいたのは主人───キュビ。
「…バゼリは、やけにでもなったのかも。」
「だって、あっちの総プレイヤー人数から言っても、全面突撃したってナイトケを打ち負かせるはずが無い…。」
そして、いたって落ち着いた様子で続けた。
「いや、まさか、あの戦線を抜ける気でいるのかしら…?」
「それだけなら…でも、いや、そうか。」
「…はーっ、私って、ホント…。」
考えてみれば、そういう事。
「….タキ、今すぐにでも内乱へと対処しましょう。」
軍にばかり向いていた目は、遂に寄生虫を捉えた。
「我々は今、窮地です。」
「やっと分かったか…。」
「…はい、そうですよ。はい。」
「どーせ私なんて学が無い能無しですよ…。」
「…主人、そこまでは言うつもりはない。」
6.ナイトケ王国-地下拘置場-
一人の囚人は、己の負けを悟る。
体から出した使い魔が、"破壊"された。
彼を此処へと連れてきた者、タキによって。
(まずい。)
(これでは、伝令の仕事が出来ん…!)
身体を強張らせる。
しかし、もう使い魔は出ない。
彼の身体は、"魔"を受け入れ過ぎた為に、魔の浸食無ければ、自分ひとつの肉体で完結できなくなった…。
死に戻りしても、肉体はかつて巣食った"魔"を復元はできない為に。
そのため、"魔"を吐き出し表へ出す事は、彼の身体の器官を削って吐き出している事と同義。
彼の身体は、誇張抜きにこれで限界なのだ。
(…すまない、ナイトリッチ…そして、モトナリさん…!)
そう、彼が諦めかけた時…。
彼の耳は───。
「…助けに、来たぞ。」
───石の地面が、砕ける音を聞いた。
7.ナイトケ王国-地下機密通路-◼️◼️◼️◼️◼️直通-
そこは、太陽すら届かぬ暗闇。
「…ここは、何処だ…?」
"魔"が纏わり付く人骨の通り道。
「…!その声は、ロシュっ!」
「が、ガイスト!…脱出は出来そうか?」
その中で、目を覚ました二人…。
暗闇の中、お互いの声のみを頼りにする。
「…無理そうだと思うよ。わた…僕は先に起きたから、探索してみようと思ったんだけど…。」
「そうか、ガイストは【呪い師】だったか。」
「うん、だから【炎魔術】すら使えないんだ。」
「【ファイアーボール】。」
ロシュが灯りをつける。
「しかし、火は灯したのは良いものの、此処は…。」
───まるで、食道の中?
ロシュが見ると、ガイストは不安そうにしていた。
「あうう…。しかし、誰が僕達をここへ?」
「…俺はコンラの声を聞いた。」
「そっか、じゃあコンラだとして、コンラは戦線でやらなきゃならない事があるのか。」
それを聞いて、ロシュは少し考える。
「ユシュエンが、何か関係してそうだ。」
しかし、結論には至らない。
「そうかも…。二人は良く一緒にいるから…。」
証拠が無く、暴く機会も無い。
その中で、ただ、二人は脱出を目指す。
…しかし、そんな爪の甘い事はない。
「───。」
───彼らは、程なく"骨の群体"に飲み込まれたのだから。
…骨による、捕食、消化。
内壁が傷つくことにより発生する酸が、群体の中の彼らが生きようと暴れ回ることにより噴き出す。
「あっ…ぁ、が、ぅ、あっ!」
「うおおおっ…!!───ぐ、ぅ。」
抵抗するのも、虚しく。
「ま、とも、に…傷、ひとつ、すら…。」
無常にも残ったのは、骨のみ。
8.◼️◼️◼️◼️◼️◼️【◼️◼️◼️◼️◼️】
…空中の庭園。
宇宙に浮かぶ、蒼き浮島。
「───万象を、再現すべき時は来た。」
その中でも、四つの都市が囲えてしまえそうな広さを持つ島の、天高く聳える宮殿にて。
「我々の存在意義を問おう。」
「我々の目的を問おう。」
「我々は、このゲームの何になるというのか!」
彼の盟主は、高らかに、宮殿の前にて跪く兵へと語った。
「自由に縛られたこの世界で、我々は、何を求めるというのか!」
彼が求めていたモノは、理想。
彼は、自身が尽力を尽くすに足るモノを、初めからずっと探し求めていた。
「───我々の目的は、この世界に覇を唱える事。」
「我々が、"国"同士の競合へと、参加する事だ…!」
───豪雷の如く歓声がここに鳴り響いた。
皆、際限なき闘争を夢見てここにいる。
まだ見ぬ強敵を求めてここにいる。
…背後に佇む織部色の髪をした少女…マーメイは、何も語らず。
ただ、主君の決める理想へと、共に歩むのみ。
「───華を、咲かすぞ。」
彼の目は、この浮島なぞ比では無い大きさを持つ、大空を支配する"空中大陸"へと向けられた───。
〈王の心にあるのは野望。〉
〈それは、支配への渇望。〉
〈革新への挑戦。〉
〈その身を焦がす程の"決意"は、何を為すのか。〉




