第三話 共謀
1.バゼリ王国-西方戦線-
「本部長!」
「本部長!指揮をっ!」
戦場へと舞い戻った彼を迎えるのはいっそ煩わしい信頼の喚き声。
彼の功績が、彼を縛り付ける。
…だが、今回は、あくまで陽動。
長ったらしい作戦の説明が無いことが、救いだ。
「我々は、突撃する。そして、前線を前進させるのだ。」
「…えっ?」「馬鹿な…!」「出来ない訳では無いが…!」「無謀だ。」
「これは、不可能では無い。」
「戦力の三割程度にて戦線に沿うように配置し、突撃準備せよ!」
「…はっ!」
「了解いたしました!」「すぐ伝えます!」「者共ーっであえであえーっ!」「移動せよ!」「突撃準備ー!」
修羅の王は着々と準備を重ねる。
それは、もとより愚策。しかし、それが本命では無い。
その陽動は、彼自身が打って出てもやり遂げるべき任務なのだ。
2.ナイトケ王国-対バゼリ戦線-
…ガタリ、がたり。
馬車が軋む。VRならではの古風な移動の感触に、彼は眉を潜める。
この人物こそ、ロシュ。
「…そろそろ、着く頃か。」
人心に比較的詳しいガイストに下地作りを任せ、自身は【テレポート】を使わず、わざと遅れて到着した。
「俺は人を蔑ろにしてしまうからな。…良くやってくれれば、御の字と言ったところか。」
「…此処で戦果を上げれば、我々の陣営はまた強固となる。我々についてくる者も増える…ふふ。」
そして窓の外を見ると、平原が広がる。
少し乾いた環境だ。足場が良いのは素晴らしい。
「…っとと。ついたか。」
少し先に見えるのは塹壕。そして…キャンプが、あるはずなのだが。
…。
「おい。誰か居ないのか?」
そして、見当たらない人影。
そこで、異変に気付いた。
「まさか、出払って…?そんな馬鹿な。しかし、死体すら見つからん…。」
「いったい、何がどうなって───。」
そのときだった。
「【剛撃】。」
後頭部に、鈍痛。
「ぐはぁっ!?」
薄暗い曇天の中、その蛮行は速やかに行われ───。
そして、彼の意識は、闇へと落ちた。
「…悪いな、元、同志。」
「ガイスト共々、地下で眠っててもらおう。」
その短い黒髪の下にある痩せこけた顔は、いつになく生き生きとしていた。
3.ナイトケ王国-首都-バセラヌ
あたりは暗く、しかし光り続ける高層ビルに囲まれた地上。
「…それにしても、きな臭い国だ。」
雑踏の中、一人の男は呟いた。
先程、倉庫を襲撃したが、特にめぼしいものは無い。
…かろうじて出来たのは、相手の戦力の推定といったところか。しかし、それでは意味が無い。
…やはり、"彼"に、連絡を───。
「ぷなーぷ。」
その時だった。
「───ひょええええ!!?」
いきなり現れた、怪生物。
ハエと竜が合体したかのような、珍獣。
「…なーんだ、珍獣かー…。」
「……。」
「…ぷなーぷ。」
何処に発声器官があるのだろうか、その奇妙な鳴き声は俺を翻弄する。
「いや、なんか違う気がするな…。」
「良くぞ気付いてくれた。」
俺が首を傾げると、その謎生物はいきなりダンディズムに喋り始めた。
「…いや、お前誰だよ。」
「私は、レジスタンスの味方だ。ぷなーぷと言う。」
あまりに現実感が無いけどこれが現実だ。
パチモンのハエに話しかけられる俺…現実逃避したい。
「…僕に、何を言いに来たんですか?」
…こいつを信用する訳じゃ無い。こんな信用ならない奴には期待はしていない。
だが、こう言う相手は一度話させないと離れてはくれないのだ。
「…地下へ来てくれ。そこは、国のシークレットが詰まっている。」
「私がこの目で見たのだから、間違いはない。」
「…入り口は、自分で探すと良い。」
「では、私は失礼しよう…。」
4.天空-空蓋孔-内部
…此処は、凡ゆる高度を超え、その先にある、"海"。
推定、渦潮のような地点。
そこに、一人の客人が現れた。
「…やぁ。」
「ご無沙汰してるようだね、ザスター。」
招かれざる客人たる彼を、ここの主人は快く迎えた。
「あぁ、ザチャリオ…いや、ユシュエンか。」
「此度は、どうしたのかな?」
少しの白すぎる砂浜に、それを覆う深い青の湖。
空は霧に包まれ、何も見えるものは無い。
…それらの中には、この"宙圏"における強大なる生物が潜んでいるとユシュエンは察する。
「…要件は、一つさ。」
「ほう、聞こうじゃないか。」
…冷や汗が流れる。
国の性悪ほどよりも、コイツの方がよっぽど恐ろしい…。
どこまでも、知っている癖に…。
「単刀直入に言う。」
「今のナイトケ王国に、手を出すな。」
「…私としては、君に釘を刺されたとなると、ナイトケに手を出す気は無くなってしまったな。」
即答。
「………!ザスター、その含みのある言い方は、どう言うことだ?」
まるで馬鹿にするかのような返答だ。
当然、ユシュエンは、何か隠したいことでもあるのか、と追及しようとする。
しかし、ザスターはそれを手で制した。
「…まぁ、聞いてもらいたい…。これは困った。」
「私は、既に別口で、ナイトケの調査を依頼してしまった。流石にそれの取り消しは出来ない…。」
彼はそのような事を余裕綽々と語る。
目の前にて放たれている威圧を、まるで子供の癇癪かのように無視しながら。
「───ザス、ター。」
「…しかし、だ。」
「ここまでハッキリ干渉しないと言った以上は、私もその協力者へこれからは干渉しない。」
「全てを依頼した彼の判断に任せる。」
「これで、どうかね?」
「───そんなので…!」
…ザスターの、その言葉は、いとも軽々しくユシュエンに告げられた。
それに反抗しようとして咄嗟に出した一言は、ユシュエン自身の理性によって止められる。
(…重い。)
(彼の言葉が、突き刺さってくる様だ。)
いつのまにか、それで良いと納得してしまう…。
これ以上口を挟みたく無いと、思ってしまう。(敵対はしたくない…。)
そう考えている自分が、腹立たしい…。
「…いや、わかった。納得しよう。」
「感謝する。」
…ユシュエンは、折れた。自分から、自分をそうだと断じた。
彼の、"真の影"の盟主を前にして…。
…しかし、だ。
ユシュエンは、この空間の主人へと背を向け、退出する途中に、呟いた。
「……まだ、僕の動く時では無い───。」
自己暗示じみた、独り言。
「───その方が、"手間が省ける"。」




