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【エター】新興VRMMO記【ビクトリア】  作者: 松田勝平
第七部 西方戦線編
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第三話 共謀



 1.バゼリ王国-西方戦線-


「本部長!」


「本部長!指揮をっ!」


 戦場へと舞い戻った彼を迎えるのはいっそ煩わしい信頼の喚き声。


 彼の功績が、彼を縛り付ける。


 …だが、今回は、あくまで陽動。


 長ったらしい作戦の説明が無いことが、救いだ。


「我々は、突撃する。そして、前線を前進させるのだ。」


「…えっ?」「馬鹿な…!」「出来ない訳では無いが…!」「無謀だ。」


「これは、不可能では無い。」


「戦力の三割程度にて戦線に沿うように配置し、突撃準備せよ!」



「…はっ!」


「了解いたしました!」「すぐ伝えます!」「者共ーっであえであえーっ!」「移動せよ!」「突撃準備ー!」


 修羅の王は着々と準備を重ねる。


 それは、もとより愚策。しかし、それが本命では無い。


 その陽動は、彼自身が打って出てもやり遂げるべき任務なのだ。



 2.ナイトケ王国-対バゼリ戦線-



 …ガタリ、がたり。


 馬車が軋む。VRならではの古風な移動の感触に、彼は眉を潜める。


 この人物こそ、ロシュ。


「…そろそろ、着く頃か。」


 人心に比較的詳しいガイストに下地作りを任せ、自身は【テレポート】を使わず、わざと遅れて到着した。


「俺は人を蔑ろにしてしまうからな。…良くやってくれれば、御の字と言ったところか。」


「…此処で戦果を上げれば、我々の陣営はまた強固となる。我々についてくる者も増える…ふふ。」


 そして窓の外を見ると、平原が広がる。


 少し乾いた環境だ。足場が良いのは素晴らしい。



「…っとと。ついたか。」


 少し先に見えるのは塹壕。そして…キャンプが、あるはずなのだが。


 …。


「おい。誰か居ないのか?」


 そして、見当たらない人影。


 そこで、異変に気付いた。


「まさか、出払って…?そんな馬鹿な。しかし、死体すら見つからん…。」


「いったい、何がどうなって───。」



 そのときだった。


「【剛撃(バスター)】。」


 後頭部に、鈍痛。


「ぐはぁっ!?」


 薄暗い曇天の中、その蛮行は速やかに行われ───。


 そして、彼の意識は、闇へと落ちた。


「…悪いな、元、同志。」


「ガイスト共々、地下で眠っててもらおう。」


 その短い黒髪の下にある痩せこけた顔は、いつになく生き生きとしていた。



 3.ナイトケ王国-首都-バセラヌ



 あたりは暗く、しかし光り続ける高層ビルに囲まれた地上。


「…それにしても、きな臭い国だ。」


 雑踏の中、一人の男は呟いた。


 先程、倉庫を襲撃したが、特にめぼしいものは無い。


 …かろうじて出来たのは、相手の戦力の推定といったところか。しかし、それでは意味が無い。


 …やはり、"彼"に、連絡を───。


「ぷなーぷ。」


 その時だった。


「───ひょええええ!!?」


 いきなり現れた、怪生物。

 ハエと竜が合体したかのような、珍獣。


「…なーんだ、珍獣かー…。」


「……。」



「…ぷなーぷ。」


 何処に発声器官があるのだろうか、その奇妙な鳴き声は俺を翻弄する。


「いや、なんか違う気がするな…。」



「良くぞ気付いてくれた。」


 俺が首を傾げると、その謎生物はいきなりダンディズムに喋り始めた。


「…いや、お前誰だよ。」



「私は、レジスタンスの味方だ。ぷなーぷと言う。」


 あまりに現実感が無いけどこれが現実だ。


 パチモンのハエに話しかけられる俺…現実逃避したい。


「…僕に、何を言いに来たんですか?」


 …こいつを信用する訳じゃ無い。こんな信用ならない奴には期待はしていない。


 だが、こう言う相手は一度話させないと離れてはくれないのだ。


「…地下へ来てくれ。そこは、国のシークレットが詰まっている。」


「私がこの目で見たのだから、間違いはない。」


「…入り口は、自分で探すと良い。」


「では、私は失礼しよう…。」



 4.天空-空蓋孔-内部



 …此処は、凡ゆる高度を超え、その先にある、"海"。


 推定、渦潮のような地点。


 そこに、一人の客人が現れた。


「…やぁ。」


「ご無沙汰してるようだね、ザスター。」


 招かれざる客人たる彼を、ここの主人は快く迎えた。


「あぁ、ザチャリオ…いや、ユシュエンか。」


「此度は、どうしたのかな?」


 少しの白すぎる砂浜に、それを覆う深い青の湖。


 空は霧に包まれ、何も見えるものは無い。


 …それらの中には、この"宙圏"における強大なる生物が潜んでいるとユシュエンは察する。


「…要件は、一つさ。」



「ほう、聞こうじゃないか。」


 …冷や汗が流れる。

 国の性悪ほどよりも、コイツの方がよっぽど恐ろしい…。


 どこまでも、知っている癖に…。


「単刀直入に言う。」


「今のナイトケ王国に、手を出すな。」




「…私としては、君に釘を刺されたとなると、ナイトケに手を出す気は無くなってしまったな。」


 即答。


「………!ザスター、その含みのある言い方は、どう言うことだ?」


 まるで馬鹿にするかのような返答だ。

 当然、ユシュエンは、何か隠したいことでもあるのか、と追及しようとする。


 しかし、ザスターはそれを手で制した。


「…まぁ、聞いてもらいたい…。これは困った。」


「私は、既に別口で、ナイトケの調査を依頼してしまった。流石にそれの取り消しは出来ない…。」


 彼はそのような事を余裕綽々と語る。

 目の前にて放たれている威圧を、まるで子供の癇癪かのように無視しながら。


「───ザス、ター。」



「…しかし、だ。」


「ここまでハッキリ干渉しないと言った以上は、私もその協力者へこれからは干渉しない。」


「全てを依頼した彼の判断に任せる。」


「これで、どうかね?」



「───そんなので…!」


 …ザスターの、その言葉は、いとも軽々しくユシュエンに告げられた。


 それに反抗しようとして咄嗟に出した一言は、ユシュエン自身の理性によって止められる。


(…重い。)


(彼の言葉が、突き刺さってくる様だ。)


 いつのまにか、それで良いと納得してしまう…。


 これ以上口を挟みたく無いと、思ってしまう。(敵対はしたくない…。)


 そう考えている自分が、腹立たしい…。


「…いや、わかった。納得しよう。」



「感謝する。」


 …ユシュエンは、折れた。自分から、自分をそうだと断じた。


 彼の、"真の影"の盟主を前にして…。


 …しかし、だ。


 ユシュエンは、この空間の主人へと背を向け、退出する途中に、呟いた。




「……まだ、僕の動く時では無い───。」


 自己暗示じみた、独り言。


「───その方が、"手間が省ける"。」

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