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【エター】新興VRMMO記【ビクトリア】  作者: 松田勝平
第七部 西方戦線編
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西方戦線編 プロローグ




「───【第二段階(セカンド)】。」



 影。


 "紫"黒の中で光る、金色の瞳。


 「【衝撃波(スパーク)】。」


 斬撃が、立ちはだかるゴーレムを切り裂く。


 月も見えないこの夜に、この男は、何をしようというのか───。






 1.酒場



 ───雑談が、あちこちから聞こえる。


 VR飲食は基本的に推奨されていないのだが…。(味の感覚のみ得るため)


 そんなルール、守っている奴は一人もいない。


 皆が、無法者。


 だから此処は、良くも悪くも騒がしい。


 今は、"あの"話題で持ちきりだ。


「まさか、【ビクトリア】が懸賞システムを起こすとはな…。」


「それぞれのサーバーの上位1000名には50万程配布!?馬鹿げている!俺も欲しい!」


「それにサーバー毎だった大会も世界のトップランカーを集めて開催…上位100名のランカーが、か…。」


「こりゃ新規大量参入も固いな!オンゲにしては珍しくガチャとかの課金無しでも出来るゲームだったが…。」


「プレイヤーを増やして世界試合での広告料と毎月の定額料金狙いか。」


「なんとしてもランキングポイントを集めなければ…!」


 そんな酒場の中に、今日も一人の冒険者が入る。



「───〜〜………〜〜〜。」


 声はよく聞こえないが、入稿事項が書かれた紙が消えてゆく。


 ビギナーである事は、間違いない。




「───なぁ、そこのアンタ。」



 だから"俺"は、青田買いする。



「ギルド、《剣の騎士》に入らないか?」


 そこの優男の名はクフリン。


 今絶賛、人員募集中だ。





 2.《剣の騎士》-ギルドハウス-



 散らかった部屋、武器や薬品が地面に転がっている。


 クフリンはそれらを無視し、中央にあるソファと机を指した。


「そこに座ってくれ。」


 …そして、クフリンの背後についてきていた青年は、指示に従う。


 話す際に、クフリンの目をずっと見ているあたり、真面目な気質なのだろう。


 彼は座ってから質問した。


「…ここは、何をやられてるんですか?」


 少なくとも青年にとっては、ここでギルドを即決しようという気にはなっていなかったが、中身を知るのは必要であると感じたのだろう。


 クフリンは戸惑いなく答える。


「ギルドメンバーの育成と領地戦への協力。」


「…そう銘打っているが、基本的には君には自由にやってくれて構わない。」


「俺たちはエンジョイ勢だからな、君が我々を必要にするなら手伝うが、逆は無いと思ってくれ。」




 ───意外に、しっかりした説明だな。


 VRでの格好からして、気質の悪いチンピラだと思っていたが…。


 それは早計という奴だろう。



「…で、どうする。」


「ここまで誘ってきたのは俺だが、当然君には自己決定権がある。」


「どちらにするにせよ、話を聞いてくれた君には、まず、ポーションを支払おう。」


 クフリンがポーションを手渡す。

 欠損回復ポーションと回復ポーションが合わさった効果のそれを十五本。


 それが、決め手だった。


 普段は賄賂を受け取らない様にしているこの青年は、現実では無いため、それらを受け取ってしまう。


 正直言うと、彼はVRの中まで真面目になれるほど一貫してはいなかった。


 すると、彼の中には、とある考えが生まれたのだ。


 ───ここで、入らなかったとする。


 ───お前は、恩を仇で返すのか?



「………。」


「このギルドに、入らせていただきませんか?」



 その言葉を待っていたとばかりにクフリンはニヤリと笑う。


「よっしゃ、歓迎するぜ。」


「えぇと、確か…。」


 ここで、まだ名前を知らないと言うことに気づいた。


「デロンギと言います。」


 彼は、デロンギはそれを察して名乗る事にする。


「おう、よろしくな、デロンギ!」




 3.バゼリ王国穀倉地域


「ここで、お前は死ぬまで戦ってもらう。」


「デスペナを一度経験してもらって、死に慣れるのと同時に、厄介なそれを今の内に無くしてしまう為だ。」


 そう言われて、ついでに酒場で依頼を受けてからクフリンについて来た。


「おおぅ…。」


 圧倒、された。


 …目の前には、どこまでも広がっていく黄金の草原。


 軽く肩の辺りまで草が深いとこまで行ってみると、開けたところに出る。


(クフリンさんに、訓練をすると言われてついてきたが───。)


「…ここが、ゴブリンの住処…。」


 デロンギがそう言うと、クフリンは説明する。

「あぁ。」


「此処、バゼリの生態系としては珍しくない。」


「草が貪欲に地中の栄養を吸い、そしてここまでの高さになっている。」


「だから"あいつら"は、雑食だ。」


 …あいつら?

 デロンギはその言葉を疑った。

 だが、すぐ忠告だと判断する。


「よし、デロンギ、まずはなんとかやってみろ。」

「ゴブリン退治は、意外に曲者だがな。」


「…しかし、他のプレイヤーとの遭遇も視野に入れておいてくれ。」


 最後の言葉は、一際小さく、遠く。


「後は…すまない。死ぬまで頑張れ。」


 そう言ってクフリンは草の中へと消えた。

 デロンギは、どこから襲ってくるかも分からない魔物へと、一層気を強めた。


「……。」


 がさ、がさ。


「…どこだ…?」


 鳥の歌声も織り混ぜながら、折り重なる多数の"自然"の共鳴は、デロンギへとかく語る。


 ───ここは、異世界だ。


「どこに、いる。」





 「───ここだよ。」



「───なっ。」


 咄嗟に振り向く、だがもう遅い。


 新人狩りも、当然VRMMOなら存在する。


 (そうだ、きっと、それだ…───ぅ。)


 ズドン、とした大きな衝撃。


「ぐぁぁっ!?」



 〈───始まりは、驚き。〉



 目線を襲撃者へと向ける前に、"矢"は太腿を貫く。


「がっ、は。」


(なんだ、これ…!?)


 当然の衝撃に、体は前へと持っていかれた。

 仮初の肉体のバウンドが、感覚で内臓機関をかき乱す。


(…だめ、だ。身体が───。でも、何か…!)


「っ…!誰だぁっ!!」


 せめて、問答の時間を、と。なけなしの肺に残った空気で、なんとか叫び声を上げる。


 しかし、それは良い判断とは言え無い───。


「気にしてる暇がある、成る程。」


 大きな声に反応したゴブリン達は、デロンギへと襲いかかる。



「君は、正しく新人だ。」



 ───顔も見えない襲撃者。


 ───襲いかかる目前の脅威。


(まずは、生き残る。)


 その二つを前にして、今にも崩れ落ちそうなデロンギの思考は、"縋る"事へと行き着く。


「【重装化(フル・アームズ)】ッ!」


(これなら、きっと───。)


 それは、最適解。

 デロンギのレベルでは、才覚(タレント)にて作成できる形態はいずれも、流通品とは少し劣るが───。



 〈次に覚えたのは、希望。〉



 ───それでも、白銀の全身鎧は、彼に仕切り直しの時間を与えてくれる。



「少しは出来るようだな、珍しい。」


「【剛撃(バスター)】。」



 しかし。


 しかし、嘲笑う様に、狡猾な襲撃者は、矢を放つ。


「───がっ。」


 立ち上がろうとした矢先だ。


(……は?)


 ───胸を鎧ごと貫かれる。


「…お、ご……!」


「ぁ、は、ひゅ…。ッはぁ…っ!」


 動悸は、荒く。


 血溜まりは、染み込んでいく。


 ゴブリンは、それを見ると、ニィ、と口元を歪めて───。


 その"餌"へと、襲い掛かった。


(え、おい、まさか、冗談、だろ…?)


(───死、ぬ?)


「…は?」


 命の、危険。


 彼は、それを、久しぶりに感じた。


 〈───駆られたのは、憎しみ。〉


「なんでだよ、なんで、なんで、俺だけ……ッ!」


 死んでも良い、そう思っていたのに。


「なんでっ、"ゲームの中で"くらい…!!」


 彼は、【デロンギ】の身体に、感情移入してしまった。


 VRに"自分"を入れた者は、例外なく、生存本能を滾らせ、渇望し───。


 そして、その意識は、とぷん、と、闇へと染まった。




「……───殺してやる。」


 その意識の変化に呼応するかの様に鎧は黒く濁る。


「───殺してやるッ!!!」


 襲いかかるゴブリンの足を捻り転ばし、首を折る。


 さらに、前転して、矢から逃れる様に行動を繰り返す。


「ぁぁああぁあああぁあぁッ!!!」


 それを繰り返しながら、合間に、ゴブリンを殺していく。


「はは、面白くなってきた。」


「【剛撃(バスター)】。」


 魔弾、発射。


 だが、それは自らの位置を晒す事。


 デロンギは、それを、ようやく、観察し、そして───。


「鬱陶しいッ!!!」


 近くにいたゴブリンの首を折る。


「お前らも…ッ!」


 そして、それを右手で盾として活用、矢から逃れる。


「───俺を、殺すなッ!!」


 空いた左手で足を掴もうとするゴブリンの首を捻る。


 それを繰り返しながら、思考する。


(あいつを殺すにはレベルが足らない。)


《レベルアップ!》


《デロンギ さん の レベルが 二十三 上がりました。》


(そのための、レベルは、そこの奴らから絞りとった。)


「───なら、あとは殺すだけだ。」


「行くぞ。」



 デロンギは、大きく踏み込む、


 大跳躍とまではいかないが、それは矢の撃たれた方向へ一瞬に詰め寄るには充分だった。


 そして、草を嗅ぎ分け、呼吸を聴く。


 今のデロンギは頭に血が上っている。そのため、"意識化された感覚"はそれを見逃さなかった。


 急転。

 進路変更。


「………───死ねぇっ!!!」



 デロンギは腰の剣を抜き放つ事はなく、襲撃者へと襲い掛かった…!



「───なるほど。」


 そして、掴みかかった先にいたのは、"中性的"な顔をした少年。


 だが、デロンギは今や、"此処がゲーム内"である事と、"過剰な程の怒り"によって倫理観が破壊されている。


 だから───。


「【剛撃(バスター)】。」


 槍にて、その腹を突かれても───。


「がぼっ、がっ!」


 衝撃に、体が後ろへと引きずられようとも───。


「……ぁあぁあああ……ッ!!」


 "死ぬ覚悟"すら密に決まってすらない青年は…、


「───死ねェ……ッ!!!」


 その執念のみにて、襲撃者の首へと、手を掛けた。




「合格。」



 槍を、上へと振り抜く、すると───。


 刀身などないと言うのに、その槍はデロンギの身体を二つに割った。


「───……ぁ。」


 裂かれた先の腕から力が抜ける感覚、同時に、気力が、無くなる。


「じゃあね、後で、会おう。」


 槍は、引き抜かれた。


 もう、疲れて何も考えられない。


 所詮激情に駆られた獣、勝利するには能わず。


(………───……。)


(……?)


「なみ、だ。」


〈最後に流したのは───。〉



 〈理不尽を呪う、悲しみ。〉



 その言葉を最後に、デロンギの身体は、粒子へと変わった。




 4.《剣の騎士》-ギルドハウス-


 それから、1分程度経った後。


「すまんなデロンギ。これも訓練だ。」


「……死んだんですけど。」


「やっぱ初めはショックが大きいよね。」


「…それを殺した貴方が言うかぁっ!」


「おっとっと。…ごめん、悪かった。」


「どちらにせよ、デスペナを一度受けておくのは必要な事だった。」


「強引ですよ!全く…。」


「はは、すまんな…デロンギ。」




 ゴブリン退治達成の報告を復活してから行った後、ギルドハウスへと戻ったデロンギ達。


 デロンギにつきそう"二人"の先輩はどことなく感心した風だった。


「……。」


 デロンギはむすーっとした様子でギルドハウスの中の椅子に座る。


 見つめるのは先程の、"プレイヤーキラー"。



「いやー随分出来るな!彼は!凄い新人が入ってきたものだ!」


 名前は、グランデ。


 このギルドの、ギルドマスター。


「…今では、あの時に話しておけば良かったと思っているぞ…。」


「改めて、私の名はグランデ。…デロンギ君!これからよろしく!」




「……。よろしく、お願いします。」


 デロンギは、挨拶を返した自分自身に驚愕した。


 先程までの躍起になっていた自分はどこに行ったのだろうと思考を重ねる。


 蘇った経験。


 つまりは、それが自分にここがゲームである事を自覚させたのかもしれない。



「…デロンギ、デロンギ。」


 クフリンが話しかけてくる。


「はい。」


 思考を中止して、彼へと向き合う。


「お前のデスペナ…"呪い"。」


「それが解けるまでは俺がサポートする。」


 クフリンから願っても無い提案が飛び出した。


「…良いんですか?」


 クフリンは伸びをしながら答えた。


「実は今回にも任務があったんだが…ある"傭兵"を雇えてな、俺は暇になる。」


「先程の罪滅ぼしも兼ねて、先輩として教えさせて貰おう。」


 デロンギは、それを聞くと表情は余り変わらなかったが、心持ちが変わったのだろう。


「では、よろしくお願いします。」


 いくらか、声質が柔らかくなった。


「…はは、じゃ、私はここらで失礼する。」


「例の彼を待たせているのでな。」


 ───…この時、彼らは知らなかった。


 〈大望抱く初心者、デロンギ。〉


 このギルド、そのものが───。


 〈ネジが外れた科学者、クフリン。〉


 ここから、遠い、遙か"地下"の陰謀を、止める事になるとは。










 5.バゼリ王国-西方戦線-対策本部



 蒼銀の鎧を着こなす男。


 相対するは、青衣の男。


 βからの繋がりが、彼をここへ至らせた。


「…傭兵。」


 深く被った帽子の隙間から鋭い眼光が彼を貫いた。


「…。」


「君には、"失望"した。」


「その技量は、肩書きからすれば、確かな物だと思っていたのだがな。」


「諜報が、"一回限り"とは、な。」


「…これより、もう、君に回す任務はない。」


「任期中はフリーで動け。」




「…はっ。了解、いたしました…。」



 ───力を失う。


 それが、此処までも───。


 彼の、価値を落とすとは。

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