第8話 終わりを受け継ぐもの
1.元街道
紳士然とした男は、少し眉を顰める。
そして、エルへと告げた。
「…わかった。君は今、私が言う事を必ずサラ君に伝えるんだ。いいね?」
「彼は、アフラの持つ力の源───。」
「───つまりは、重複した、四段階のランクアップを取り除く気でいる。」
ザスターさんは、私にそう言った。
「どうやって、ですか。」
まず、私はこの話を疑う事にした。何せ、目の前のこの男が敵が味方かどうかも分からない。
「教えるわけにはいかない。」
そして、ここで胡散臭さも増した。
「私は、力になれますか?」
だけど、私はこの話に乗る事にしようと思った。
協力させてもらえるかも定かではないけど、私は、困っているであろうアーサーさんの力になりたい。
彼は、親切な少年だった。私は、その彼に縁がある。
それだけで、関わる理由としては、充分だ。
そう、思っていた、
「無理だ。」
「彼は、彼自身の力にて、アフラを終わらせる。」
…。
「…そう、ですか。」
「………。」
…ザスターは、私が項垂れるのを見るが、表情を変える事はない。
「…あと、これは餞別だ。少し、そこに立っていてくれ。」
そして、どんどん会話が進む。私が入る余地がないまま。
「【王命】。」
この能力の本質は、従わせる事。
つまりは、『操作』に最も造詣が深い。
「大気中にある粒子を、君の性質へ改造して…と。」
よって、粒子による肉付けが可能となる。
それは、女神の受肉方法に原理こそ違うがほど近い。
「───回復せよ。」
すると、彼の手の中で生成されていた何やら光る粒子が、火傷を負った私の肌を覆って傷を回復する。
「君の粒子と改造した粒子が定着するまでは、激しく動いてはいけない。」
…私は、アーサーさんの助けにはなれない事に、ショックを覚えていたが…。
「あ、ありがとうございます…。」
しどろもどろになってやっと、この言葉を言う事に成功した。
「…ありがとう、か。」
「私は、君にアーサー君を暗に見捨てろと言ったのにかね?」
なんの気まぐれか、彼はそう言った。
「……。」
「…いえ、あなたのは唯の忠告ですよ。」
「───どちらにせよ、私には、資格がなかった。」
アークデーモン討伐の時だって、そうだった。
このゲームは、マキナさんだったり、カインさんだったり。
特別な力を持ってなければ、戦う事もできない。
2.『極点』内
修繕していた腹が、とうとう粒子ごとずり落ちる。
大気の粒子を試しに取り込んで修繕した箇所の、結合が甘い為だ。
しかし、アーサーは、獰猛に笑った。
「…は、は。」
…実際のところ、【第三段階】は無制限に粒子を手に入れる手段ではない。
自身の粒子の大半を使用して、大気中の粒子を制御する技術なのだ。
だから、【第三段階】の展開を支えている粒子を使用して、戦闘を行えたものだが。
…本来、展開し、維持するコストは高過ぎる。
鍛えられた粒子器官があるアーサーでなければ、自動的に身体が崩壊するほどだ。
…EP。
エネルギー、ポイント。
粒子と、呼ばれるもの。
もしそれがシステムより支給されず、自身の生成する粒子のみで発現、管理を行なっていたのだとしたら。
本来、人間の自己再生程度の機能再現のために搭載された粒子生成機関を、無理に働かせてそれを行なっていたのだとしたら。
アーサーは、もう既に全てを維持する事も困難なはずだ。
濃縮された粒子により上昇したステータスも、ビットも、【第二段階】すら。
「アフラ。俺は、あんたを───。」
だが、この男は、まだ。
「───あんたの、全てを、奪いに来た。」
まだ、限界を越えるつもりでいる。
「───【剛撃】ッ!!」
アフラは、動揺した。
動揺して、拳を向ける相手を間違えた。
アフラは拳を振るい、腹に刺さるアーサーの剣を砕いた。
砕いて、逃げようとしたのだ。
アーサーは限界だと、意識の中では理解していたというのに。
夜空の星空は、蒼穹の空に塗り替えられていく。
果てのない砂漠は、一陣の砂煙を立てて、風の中に消えた。
【第二段階】も、ステータスも、【第三段階】も、夢幻の様に。
───今、ここに、残っているのは、辿り着いた肉体だけ。
「ッは、ぜや"ぁ"あ"ッ!!!」
眼球を、右手にてくり抜く。
そしてその穴へと、指を押し込む。
「───データ、アクセス。」
粒子が、アフラへと入る。
アーサーのその全てが、アフラへと取り込まれる。
「「───まだだ。」」
アフラのデータを、そのランクアップを全て喰らう。
力は、衰える。だが、まだ、できる事はある。
「まだ、負けてない。」
「 【隠者】、『e666』ッ!!」
『【第三段階】に囲まれている状態では、俺の粒子の"損失"は、【第三段階】が肩代わりしてくれる。』
アーサーは、確かにそう言っていた。
ならば、【第三段階】が無い、今はどうだ?
「【君を】【ゲームから】───。」
「───【消去する】ッ!!」
改めて、効果を掛け直す───ッ!
「ッが、…あぁぁぁぁぁ!!」
「う"あぁ"あぁああ"ああぁ"ッ!!!!」
アーサーは、叫んだ。
身体が、綻ぶ痛みに?
違う、彼は、自身の意識が飛んでしまわない様に、必死に耐えている。
遠くに、良く響く騎士の咆哮。
そして、意識は、ハッキリと、消える事はない。
覚悟を決めて、目を更に見開いて、自身の粒子を、深くアフラへと同化させてゆく…!
「アフラ…!」
「一緒に、地獄に行こうぜ…!」
バリバリと雷のようなエフェクトを伴って、粒子のハッキングは進んでゆく。
「【剛撃】…ッ!!」
アフラは、右手にて、アーサーの頬を殴った。
その、頭部が跡形もなく消える。
「【剛撃】ッ!【剛撃】ッ!!」
左手、右手。
【剛撃】と叫びながら、ひたすらにその拳を叩きつけ続ける。
アーサーの腹を撃った。アーサーの腰ごと消える。
アーサーの左手を撃った。吹き飛ぶ。
悉くのパーツは、アフラにとっては塵芥にすら過ぎない。
何故なら、今のアーサーは、アフラと打ち合っていた時より、ステータスが三分の一され、おまけに粒子もろくに生産できない。
風に吹かれる埃だ。
だが、そんな惨状を目にしても、アフラの動悸は一向に治まらない。
「【剛撃】、【剛撃】、【剛撃】【剛撃】【剛撃】【剛撃】ッ!!!!!」
むしろ、悪い予感ばかりが、背後へと現れる。
「───【剛撃】ッ!」
その、最後の一撃は、アーサーの身体を塵芥の様に吹き飛ばした。
鮮血は飛び散る事なく身体と運命を共にし、塵と変わる、
そして、身体の中に、既に入ったものもシステム的に駆除している。
敗北などは、見えない。
見えない、筈だった。
これは、あの時と同じ手法だ。
あの時とは、まさしく、【月】との、最終決戦。
アナウンスが、アーサーと同化中のアフラにも朧げに響いた。
《レベル1→0》
「─── 【不滅の魔神王】。」
麻痺した粒子器官は動けない。
ならば、アフラによって"身体"という粒子保管庫が破壊された場合、どう補充するか、
その答えが、これ。
「ッ!?」
アフラの中の、アーサーの粒子が"膨れ上がる"。
混ぜられる。
「ぐぁ───あぁ、あがっ!?」
まるで我が身が引き裂かれた様な苦悶の叫び声が空の中にこだまする。
アフラの体は、既に人体を保てない。
肌色は、青々とした粒子に、徐々に変換される───!
「ぁがぐ、ぐは、な、ぼ、ぅッ!?」
最早、顔すら原型を保ってはいない。
アフラの必死の抵抗も、虚しく。
アーサーの分解された灰色の粒子と、アフラの粒子が混ざり合い、文字通り、肉団子と化したのだった…。
…場面は、移り変わる。
黒翼は、羽を落とす。
「───【武装化】ッ!!」
少女は、この瞬間を、最も希望し、そして───。
最も、恐れていた。
紳士然とした男は、淡々と一人の男に話し出す。
「この力は、使う気が無かった。」
「極限を目指す者にしか、不要なモノであるから。」




