第7話 最終決戦
【アーサーのスキル一覧】
【五大属性適正】【魔法剣】【挑発】【片手剣】【剣術】【片手半剣】【盾術】【魔力変質】
【頑丈増強】【切断補正】【破壊耐性付与】【反発強化:地面】【全ステータス強化】【怪力】【筋力増強】【魔力増強】【敏捷増強】【視力増強】【魔力強度増強】【閲覧許可:C】
【闇魔術】【光魔法強化】
【破却】【連撃】【超衝撃】【思考高速化】
《【悪魔殺し】》
【勇者】【異形狩りの妄執】【魔神王殺し】
【ワールドボス】【不滅の魔神王】
【第二段階】【第三段階】
【第零段階】
(才覚は除外。)
1.荒地 元路地裏
…目の前にいる男は、一通り、俺への賞賛をして、そして───。
「本当に、君には感謝している。」
「だから。」
「───ここで、消えろ。」
踏み込む音と共に、凄まじいスピードで俺の懐へと入ってくる。
だが、俺には『圧壊の魔盾』がある。
懐に入られても、その拳を防ぐ事は、容易い───。
「【隠者】。」
「ENo.185、『影の中の暗殺者』。そして、No.47、『悪魔複製』。」
「───二重にて権利を行使、強制、執行。」
───ずぶ、と、肉が避ける音がする。
腰に、小さなナイフが、突き刺さっていた。
「イベントは、避けられないよ。」
「避けたら、進行が不可能になる。」
ナイフに目を向けているうちに、その様な言葉が耳に入る。
「───…【隠者】。」
「ENo.185。」
攻撃が、理解、出来ない。
どこから来ているかも、分からない。
だが、避ける事も出来ないと、解る。
そこに、傷が、ひとりでに、"出来た"のだから。
つまりは、イベントの結果のみが、俺の身体に影響を及ぼしている、のか。
そこへ至る、過程も無く。
…このままでは、まずい。
粒子を生成出来るとはいえ、今まで続いている【占い師】による粒子破壊効果に加えて流血まで重なったら、流石に耐えきれない…!
その証拠に、流れ出る血は紫となって、そして灰となっている。
「『影の中の暗殺者』。」
「執行。」
ナイフが刺さる位置は、全くの一緒。
元々その位置にあったナイフを体内へと無理やりに押し込んで、そこへと収まる。
腸の中を切り裂かれたかのような不快感の後、先に刺さっていたナイフは、俺の腹より身にまとう鎧を切り裂いて外へと飛び出た…!
「が、ぁ。ぅぐ。」
カランカラン、血に濡れたナイフが地面へと転がる。
腹から、腸が続いて飛び出した。
思わず、膝をついて、剣で身体を支える。
「…君には、伝えないつもりだった。」
「この能力の、真相を。」
「…がふ。ぁ、…何が、言いたい…ッ!」
「本気を出した、そう言うことさ。」
彼は、嗤った。
「君が、僕を永久的に無力化出来る技術を、持たない限り───。」
「───文字通り、此処での勝利は、意味が無いものだ。」
「それはつまり、ここで全力を出しても、意味が無い。」
「…ッ。」
彼は、苦悶に呻く俺を差し置いて、悠々と語った。
「だが、君は、全ての手を使ってきた。」
「【第二段階】というチャージに時間がかかるスキルに、奥の手と思われそうなあの"ビット"まで使って。」
彼は、【魂装】に対し深く知ってはいない。今でも、コロシアムで戦った時に見せたアーサーの技術を理解できないでいる。
「ならば、君は、僕を倒せるんじゃ無いか?」
「真の意味で、僕を"打倒"できるんじゃ無いか?」
だが、アーサーの一連の行動が、過剰すぎる攻勢が、異常であるとは、察知していた。
「…そうだろ?」
彼の推理は、俺の図星をついていた。
彼は、これが真実なら、逃げるだけで良い。
俺はきっと、今この場以外で、彼に追いつくことなど、出来ない。
「だからどうする?」
…だからこそ、俺は今、彼がこうやって長々と高説を垂れてくれたことに、感謝していた。
「お前は、ここから逃げることなど出来ない。」
彼の助力もあってこそ、"これ"の準備は、完成したのだから。
…世界が、歪む。
俺と、アフラを囲うように───。
《EP値 が 消費されました。》
「───【第三段階】。」
「───『極点』。」
《…error。試行。error。》
《原因 を 捜索中…。》
《……アーサー さん は 【エディット】 を 習得しました!》
想像は、要らない。
ここに写すは、たった一人の男の、心の有り様。
《今回の施行以降 システム補正はカットされます。》
世界が、書き換えられていく───。
「───。」
アフラは、変わっていく空の有り様をただ傍観する。
「…これが、僕を逃がさない手段か。」
【第三段階】………
『状態異常【昏倒】となり、三〇秒以内に条件を満たすと習得可能。発動条件は⬛️⬛️値が一〇〇〇を超えている時、⬛️⬛️値六〇〇を代償に発動する。自身の心象風景を基にした結界を作り、その内部に使用者が指定したプレイヤーを引き込む。追い出す時には使用者と連れ込まれたプレイヤー両方の同意が必要になる。(このスキルを使用中、全てのアクティブスキルの"同時使用"が可能。その時、それぞれの補正は加算されてダメージ計算に使用される。)』
砂漠、その両極の"果て"に広がるものは、蒼穹と常闇。
「なら、君が、僕を此処で倒せるか。」
踏みつける瓦礫は、極少の砂粒へと変わった。
アフラの目の前には、ただ、溶けそうな闇が広がる。
アーサーの目の前には逆に、昇りゆく日輪の輝きが映った。
「───その身にて、証明して見せろ。」
砂が、踏み込みと共に、後方へと飛んだ。
それは、加速のサイン。
「───俺は、お前に打ち勝つ。」
迫ってきたアフラに、剣にて穿つ事により迎撃する。
だが、当然避けられる事は目に見えていた。尋常では無い足の指の力にて、滑りやすい砂の中にて急停止する事に成功する。
ならば、と、踏み込んでシールドバッシュをかける。
だが、拳によって、弾かれる。
相手の拳は、最硬であり、最強。これでは盾など意味をなさない。
瞬時に盾を投げ捨てて、剣を両手で構える。
「【剛撃】ッ!」
アフラは叫んだ。それと同じくして、アーサーも同じ名を叫ぼうとするが、先程、【<撃滅衝波>】に使ったことを思い出した。
「…はぁッ!」
だが、体に満ちる粒子は魔力を生成してくれている。
ならば、アフラと同じ程度に魔力によって力の段階を上げることは、容易だ。
剛拳と豪剣の応酬。
アフラはただひたすら【剛撃】と共に拳を奮う。
アーサーは負けじと、剣にて一撃をかち上げ、叩き落とすなどして応戦する。
それが、六合ほど続いた後。
「くっ、あぁ───。」
砂が、一合ごとに撒き散らされる中。
剣が、上へと弾かれ、アーサーは必死に構えようとするも、遅く。
「…遅いっ!【剛撃】ッ!!」
ついにアフラはアーサーのみぞおちに拳を叩き込む事に成功する。
今に振られたアーサーの剣は、アフラの体には、届かない。拳は確実にアーサーの身体を吹き飛ばすからだ。
そして、アーサーは吹き飛ぶ。
アフラはこのチャンスを、逃すわけには行かないと考える。
ここで、徹底的に、叩きのめす…。
そして、勢いのままに、飛び出した。
だが、そこでやっとアフラは不自然に気付いた。
打ち込んだ拳に、血がついていない。
先ほどの【隠者】によって、ナイフは腹から飛び出た筈。
ならば、同じ腹を殴ったのであれば、血の一つでもついていて不思議では無い。
だが、何も無いのだ。文字通り。
「自己、再生…?」
飛び出しながら、考える。
馬鹿な、ありえない筈だ。
彼の肉体は、自身の【占い師】によるデリートを受けている筈。
ならば尚更、それに彼は、スキルを宣言していない。
…【隠者】、アフラは思考の袋小路に辿り着く。
情報が足りない、という事実に行き着かない袋小路に囚われていく。
それは彼が、【粒子】という存在に対して全くの見解を持たなかった事によるものであった。
ゲームの裏を目指しながらも、最も"正道"を歩いていた…ゲームシステムを利用していたのは、彼であったから。
なんらかの、スキルによるもの、というあたりを付けて、アーサーを追撃する。
情報が一つ判明したとは言え、スキルにはチャージタイムがある筈。
一度に叩き込めば、負ける事はないと考えるのは、自然な事だった。
「───ビット。」
だが、此処は、何処だ?
決まっている。【第三段階】の中だ。
まだ、アーサーは前戦った【月】の様に、"自分の【粒子】一つ一つにスキルを発動させる"事はできてはないが…。
それでも、【第三段階】を作り出すために大気へと散布しているのは、紛れもなくアーサーの粒子だ。
ならば、ビット程度は、空を覆う自身から生成された粒子が尽きない限り、それこそ何処からでも出すことが可能。
「此処は、俺の世界だ。」
「───【第四段階】、【属性付与:炎】。」
無数に、空から赤球が現れる。
まるでそれは、この暗闇の中の星が、実体化している様だった。
それはアフラの周りを、鳥籠の様に包み込む。
「───っ。」
踏み出した足は、引っ込めることができない。
アフラは、この空間においては───。
「全球一点射撃。」
「───【此処に白夜は在り、日輪は顕われる】。」
───無力で、あると?
…彼は、嗤う。
一度、踏み出した足は、止める"必要"がない。
何故なら、この身は、最強であるのだから。
「【剛撃】ッ!!」
───掛け声とともに、走りながら放たれた一撃は、前方にあるビット群を吹き飛ばす。
「───それだけなら、足りないな。」
「アフラさん。」
だが、無尽蔵に生み出されるビット群は、その至極の一撃を嘲笑う様だった。
この状態では、吹き飛ばす為に足を止めるのは危険。すぐさま再生するビット群に対しては───。
「───。」
既に伸びきった腕では、対応できない。
更に、今は後ろから網の目の様に発射される火柱に今は対応しなければならない。
咄嗟に大きく跳躍する事によって、それらを躱す。
遥か上空にて、俯瞰した。
地面が、大きく、円柱状に焼け焦げる。
その範囲は、視界の全てに至るまで。
ビットの半端ない熱が、それを避けた今でもこの肌にジリジリと照りつける。
その中で、無限に逃げ続けるのは、精神が持たない。
だが、逃げ続ける以外に、道はないのだ。
…一射目のビットの襲撃を乗り越えたら、次は二射目が待っている。
「二射目、打て。」
淡々と、二射目が打たれる。
それは、網目状に全方向から自身を捉えようとする。
空中で動けない事はないが、"逃げ場がない"。
"だから、座標を移動する。"
最早、無詠唱で発動可能───。
「逃げるのは、癪だが───。」
そして、座標を移動した先にあったものは…。
「っぐぁ…っ!?」
…それは、"無数"の剣山であった。
移動した座標はちょうど、剣山が足に刺さる位置。
そして、音も無く彼の脚に剣は突き刺さる。
【占い師】によるバフがかかっているアフラの肉体を、剣は容赦なく突き破った。
「移動するのは、読めていた。」
「だからこそ、粒子による剣山を作らせてもらった。」
剣山は、透明だった。
粒子の色すらも、偽装して、アーサーはアフラを罠に嵌めた。
「…ぁ、う。」
「…切断じゃ、ないからか。」
「…だから、この剣山は、僕に突き刺さっているのか…!」
【占い師】のバフは、あくまでも離れない、のみ。
この剣山は、細胞と細胞の細かな隙間を、落下のエネルギーの衝撃によって拡張し、突き刺さることができる。
現に、今もアフラの体はミチミチと嫌な音をたてて拡張されているのだ。
「───三射目、打て。」
「───っ!?」
アフラが、剣山に引っかかっている間に、空から生成されたビット群は、一斉射撃を行う。
その光景は、流星群にほど近いものであった。
だが、とんでもない熱量がこちらに飛んでくるのが、アフラにとっては、よく分かった。
此処で、終わりなのだ。
完璧に、敗北した。
逆転の目は、既に無い。
「───諦めろ。」
最早、アーサーの体は、消えてなどいない。
「【第三段階】に囲まれている状態では、俺の粒子の損失は、【第三段階】が肩代わりしてくれる。」
勝敗は、明白だ。
「───へぇ、そうなんだ。」
その声は、針に刺さっている男から出たものでは無かった。
その男は、今に至るまで、砂の中にて潜伏していたのだ。
アーサーが、自身の分体を殺すまで。
「───。」
彼は、反応できない。
それに、振り返る事すら、しようとはしない。
「【紫電掌】×【衝撃波】。」
「───【<魔雷衝波>】。」
気づかない?そんな事は、ありはしない。
「───散らせ。」
ここは、『極点』は、彼の、体内にも等しい。
「───【重装化】。」
振り返らなかったのは、まさしく。
彼にとっては、その攻撃のために、振り返る必要すら無かったからだ。
【占い師】による強化が入った最強の一撃に、究極防護の鎧が対抗する。
ENo.47、『悪魔複製』
その効果は、自身が操作権を持つ、全く同じ性能の悪魔を複製する事。
操作権使用中は、元のアバターを動かす事はできない。任意にて操作権は移動できる。
悪魔が既に複製されている状態で使用した場合、既に複製した悪魔は消去され、使用者の二十メートル以内にて、再複製される。
クールタイムは、五時間。
それを知ってか知らずか、先ほどの"必殺"を防ぎきったアーサーは、アフラへと向き直る。
頭を完全に覆うように作られた、フルフェイスの兜の中にあるアーサーの表情を外から推量する事は出来ない。
「お前はもう、逃げられない。」
アフラは、その言葉に不敵に返した。
「逃げられないのは、君も同じだ。」
(それに、その鎧、ヒビが入っている)
(【才覚】は強靭だが、それ以上の攻撃にて破砕出来ると言うことか、なら…。)
才覚は【第二段階】の硬度に大きく劣るが、それでも通常攻撃に対して、易々と通さない程の防御力を持つ。
本来なら、才覚でしか破壊できないだろうとされる。
だが、今ここに、その道理は、逆に壊されたのだ。
「君の持つ武器は、流通品と何も変わりはない。」
「僕の拳でも、砕ける。」
今回、アフラに近づくのはアーサーだ。
手に【武装化】の時と似た外観の剣を上段に構えて接近する。
甲高い鉄と鉄がぶつかり合う音が、静かな砂漠に響いた。
「───ッ。」
アフラの右手にのみ握られる、ボロボロの手甲。
「───【武装化】。」
その頼りげない、メリケンサックと言ってもいいほどに欠損した手甲が、今のアフラにとって、アーサーに対抗できる武器。
防ぐだけなら、拳でもできるが、それでは勝つ事はできない。
「…捉えた。」
アーサーは剣を何度も手甲へとぶつけ合う中、ビットを未だに生産していた。
「四射目、発射。」
遥か上空より、極大な炎のレーザーが、アフラへと飛んでゆく。
その背後と上空を埋め尽くすように放たれたそれは、アフラを捉えようと前進し、収束していく…。
「───もう、読み切った。」
唐突に、アフラはかがみ、アーサーの背後へと回る。
これの絶対的弱点は、ピンポイントに相手に当てなければならないこと、そして───。
(君も、熱の余波を、受ける事だ。)
……。
…そう考える事は、寧ろ当然だ。
普通の人間は、炎にその身を変えたりは、しないのだから。
「───【第四段階】、【属性付与:炎】。」
アーサーは、突如超熱源の塊へと姿を変えた。
それによりビットより放たれ、アーサーに直撃した熱光線は、無害となる。
…しかし、アーサーにとっては無害でも、人の身のアフラはひとたまりもないだろう。
アフラは今にもここに飛んでくる膨大な熱光線を避ける為、勢い良く飛び出す。
「───。」
そして一瞬にして数キロメートルほど移動し、その道中の砂漠を悉く焦がす威力の熱光線を撒いた。
(だが、これでは、先程の時の二の舞になってしまう。)
このまま逃げ続けていては、自分の分身と、同じ末路を辿るだろう。
アーサーは粒子の剣を、地面から作り出せる。
それはつまり、移動し続けなければいずれ粒子剣に囲まれ、全身を串刺しにされるという事。
さらに、空中にあるビット。
自身を、"動かさない"ように配置できるのは、当然の事出来るだろう。
自身が動かない間に、串刺しにすれば良い。
だが、それを戦闘中しなかったのは、集中力が白兵に多く向いているからだ。
ならば、白兵戦の途中、地道にアーサーの鎧を破ろうとするしかない。
アーサーの才覚を、確実に砕いて、殺す。
その為に、全力を尽くす。
「方針は、決まった。」
砂に、着地。
すぐにアフラは、一気に踏み込む。
そして、上空へと踊りでた。
それは、地面が剣山によって埋め尽くされようとしている為。
そして、空中にて、空気を蹴る。
加速して、粒子の操作に集中しているアーサーの正面へと躍り出た。
「そろそろ、しつこい。」
アフラは、それを告げると共に、拳を振る。
アーサーはそのメリケンサックに迷わず、剣を振る。
お互いが、お互いの武器を壊そうとする。
また、世界に鋭く、甲高い音が響いた。
「───。」
「───。」
お互い、声を出す事もせず、呼吸の音すら響かない。
この時、先に行動したのは、"両者"だった。
アーサーは剣が手甲にて止められたとみるや、思いっきり踏み込んで、アフラに追突しようとする。
対するアフラは、アーサーの右手に持たれる剣をこちらの左手にて掴んで、右手の手甲でなんとか鎧を破壊しようと試みる。
アーサーの剣をアフラが掴むのと、アーサーの突進は同時に起こった。
アーサーの突進を、アフラは避けることが出来ない。
ならば、吹き飛ばされるのが道理だろう。
アーサーは右手を引っ張ってアフラを引き寄せて、痛烈なタックルをアフラに喰らわせた。
砂漠が深く埋没するほどの力が込められたその踏み込みから放たれるタックルは、易々とアフラの肋骨、内臓共に深刻なダメージを与える…。
だが、アフラは剣を持つ手を離さない。
むしろ、これを一種のチャンスだとみなして、メリケンサックを思い切りアーサーの甲冑へと叩きつけた。
するとまるでパイ生地のように鎧は易々と破壊される。
厚さが、まるで足らない為だ。
しかし、アーサーの腹の甲冑は割れ、防御力を持たないが、未だ、五体満足。
無茶な攻勢に出れる程の余裕は、まだアーサーにはあった。
…メリケンサックが振るわれる中、その衝撃で、アーサーの頭は、拳を振るうアフラの"両脚"が上に上がるほどにえびぞりのように下がり続ける。
だが、アーサーは、メリケンサックを振るってアーサーの体勢を崩してから逃げようとするアフラを、逆に剣を離し、左手を捕まえることによって確保する。
そこから、思考を加速させ、ゆっくりな世界の中、重大な負荷に耐えつつ、アーサーはアフラの腹へと、上へ向かってドロップキックを喰らわせた。
それも、かなりのけぞってからの、脚だけの力にしか頼れない状況下で、だ。
「───がふッ!?」
"メシリ"。
…アフラの体が、蹴られた反動で急に上昇するのを手で引っ張る事により防ぎ、そのまま左手を握って、右脚、左脚と、切れない相手の身体を蹴りにて徹底的に破壊する。
一撃を喰らわせるだけでも、余波により高度が上がっていく…。
「───ッ。」
"バギィ"!
だが、二撃目を決めた直後、アフラの右手に握るメリケンサックがアーサーの兜に隠された頭部を"砕いた"。
頭部を思いっきり揺らすパワーが、アーサーの手を緩める事に成功した。
アーサーは、瞬きする暇もなく尻餅をつき、砂漠へと墜落する。
「───ッ。」
そこから、間髪入れずに態勢を立て直して上空へ視線を向けた。
(アフラを、舐めてはいけない。)
アフラは、ドロップキックによる衝撃から、一瞬にて【第三段階】の頂点…高度限界まで吹き飛ばされ───。
「───っぁあ!」
───そして、驚くべき事に、何度も壊滅的なダメージを受けたその身体で、天井に着地した。
(そら、やってくるぞ…!)
「…【武装化】!」
アーサーはこのタイミングで、【重装化】を解除する。
それは、傷ついた鎧が意味を成さないからでもあるし、何より───。
鎧を着たままでは、ここから先の空中戦へと移行はできないからだ。
「アー、サー…ッ!」
流星が、轟音を伴って砂漠の大地に堕ちた。
空中を蹴って、下降速度を上昇させて特大の破壊痕を砂漠へと残す。
…だが、その瞬間には、砂が吹き飛ばされる特有の音ではなく、キリキリとしたヒステリックな金属音が鳴っていた。
無論、アーサーとアフラ。
アーサーは当然、その落下から逃れようと移動していたのだが、アフラは空中を蹴れる。
空中を蹴って、アーサーの位置へと追尾したのだ。
そして、アーサーは、思考を加速して、剣でその神速なる一撃を、受け止めることに成功する。
だが、完全ではない。現に今、その勢いは止まろうとはしない。
「───ぁぁあッ!!」
落下速度を伴って、全力にてメリケンサックを剣へと押し込むアフラ。
「───アフ、ラぁぁッ!!」
地下へと押し込まれる砂を土台に、踏ん張って拮抗しようとするアーサー。
ここで、天秤は───。
アフラへと、傾いた。
「がぁ、ぁ、あぁぁぁッ!!!」
落下の加速、踏ん張りの効かない大地。
そして、ほぼ互角のステータス。
アフラは、ステータスにてアーサーを超えたが、それはあくまで誤差程度のもの。
結果的に、勝負の結果を決めたのは、皮肉にもアーサーが支援の為に生み出した、この【第三段階】の環境であった。
剣が、折れる。
だが、すでに脆かったアフラのメリケンサックも、ついにこの押し合いにて完全に破壊された。
だが、それに構わず、アーサーは剣が折れた事により落下してくるアフラの拳を尻餅をつくようにバックステップして避ける。
尻餅をついたところを追撃に出ようとするアフラだが、アーサーの周りにはビットが集まっていた。
そして、瞬時に地面から粒子の壁を生やしてアフラと自身を隔離する。
剣を壊したところで、ビットは健在。
また、インファイトに転じるには、どうすれば良いか。
───それは、粒子のビットや壁を破壊し、アーサーに詰め寄る。
単純故の、最適解。
まだ、アーサーとの距離は、短い。
「五射目…ッ!!」
目の前の視界を包み込む程の熱線が、放たれる。
…だが。
「【武装化】、解除…。」
「───【剛撃】ッ!!」
その風圧は、ビットを、その目の前の極大な魔力砲ごと弾き飛ばす。
ビットはあくまでも粒子の集合体。そこから生まれる大量の魔力エネルギーを発射しているに過ぎない。
ビットも拳圧によって、散らされる。
散らされた粒子はよほど意識しなければ、自身の制御下に置くことは出来ない。
よって、ビットが散らされるほど、アーサーはジリ貧だ。
だが、これは目眩しだ。
「───置換。」
粒子の流動性が極めて高い砂の中に、"自身が生成"した粒子の剣を生やしていた。
それと、自分を、置換する。
「【模範騎士】───。」
「───っせやぁぁぁぁッ!!」
何のスキルも使わない一撃。
だが、全ての攻撃的なステータスを大幅に強化し、【始聖剣】を含んだこの一撃は───。
───大量の魔力を伴うことで、全てに破壊を翻す究極の一撃となる。
ただ、それでさえ、瞬発的な威力補正としては、【剛撃】の補正にすら、劣るのではあるが───。
「な───。」
だが、それでも。
それでも、届かせた。
アフラは、破られない腹を、ついに貫かれたのだった。
「だけど、内側に入ってくれたのは、都合がいい───。」
しかし、アフラは、怯んだりなどしない。
刺された剣で身体がねじ切られる事お構いなしに、アーサーの方を無理やり向く。
「【剛撃】。」
「消え、去れ───ッ!」
そして、拳が、アーサーの肩部へと直撃する。
補正を伴った一撃は、アーサーの身体を易々と打ち抜いた…!




