第4話 覚悟
街は崩れ、その中に、人は居ない。
身体中に紅をしたらせた、一人を除いて…。
…血溜まりの中に、少女が、倒れこんでいた。
その少女は、私だ。
「君は、誰だい?」
不意に、そんな声をかけられる。
「……エル、と、言います。」
「…えーと、この状況を教えてくれない?」
そこにちょこんと座っているのは、どこか困り気味な、同じくらいの背丈の少女。
───そこから、私達の関係は始まった。
1.路地裏
『…君は、僕の対抗戦力を集めてきてほしい。』
『これは、君にとってもメリットはある筈。それに、ボーナスもあげるよ。』
『君が集まったといったら、僕は君から逃げない。』
『…ある程度、集まったと思ったら、教えてよ。その日が、決戦の日だ。』
『終末の日になったら、問答無用で、殺しに行くけど。』
『…待てよ。』
《既にない四肢から血をしたらせながら、俺はそんな事を言った。》
『…なんだい?』
『なんで、【ビクトリア】を進ませない。』
『動機が、必要かい?』
《少し、苛立った様子だった。》
《だが、理由が無い筈は無い。何故なら、コイツはβ組だった。》
『貴方には、"裏"に残してきたものがあるんじゃないのか?』
《"裏"のメインストーリー。》
《あまりにもそれぞれの話に、関連性が無く、物語も無い。欠陥品。》
《そんな"裏"に、コイツは、何を残してきたと言うんだ───。》
「…さぁ、戦闘と行こう。」
目の前には、アフラ。
背後には、黒鎧。
「言っとくけど、手加減なんてしない。」
「一撃で、殺してあげるよ。」
アフラは、笑顔でそう言った。その様子はゆったりとしていて、とてもこちらの戦闘力などは気にしていない。
───それは、良い話だ。
「成る程、なら。」
「喜んで───。」
粒子を、活性化させる。
ここが勝負所。
【ワールドボス】、その効果は、【第二段階】中に全能力値が三倍とする事が出来る。
…勝負は、相手が油断しているうちに、速攻で決めるしかない。
「───【第二段階】。」
アフラは、その宣言に首を傾げて、そして───。
「『概念抽出』───『圧壊の魔盾』ッ!」
───そうしてる間に、距離を詰められた。
「───手加減しないと、言っただろう。」
一撃目の拳。盾が、揺れる。腕が、衝撃で外に飛ばされる。
二撃目にて、その綻びは圧倒的になり、盾は、既に腕ごと、後ろへと回される。
「【君を】、【ゲームから】、【消去する】。」
───そんな所に、鋭い一撃が、腹へと打ち込まれる。
「僕の力は、圧倒的だ。」
内臓は揺れに揺れ、腹筋は凹む。全身は今にも粒子ごと消え去ろうとしている。
…立ってすら、居られないだろう。
───普段だったら。
「それは…どうかな…!」
俺の身体を消去する為には、あくまでも粒子を破壊し尽くさなければならない…!
だが、俺の身体は未だに消える事は無い。逆に、粒子は消える毎にそれを上回る勢いで生産されている…!
それは、何故か。
【|第二段階《セカンド】】
『使用者の心象にあった存在に変化する。《この時、全ステータスが三倍され、レベルが五〇〇〇上昇する。》自身の体力が三分の一になった時に強制的に解除され、その後に二四時間経たなければ再使用できない。』
《》内の効果は【ワールドボス】限定効果である。
レベルの上昇は、、粒子が増すことに直結する。
レベルの上昇により、粒子の生成器官が強化されるためだ。
そして、俺は他のプレイヤーには出来ない粒子の生成を、意識するのみで行うことが出来る。
ならば───。
「俺には、お前の【占い師】は───。」
「───通用しないッ!」
強化されたこの器官を動かす限り、この身体が、朽ちる事は、無い。
「───ッ!?」
…速くて、鋭い蹴りを、イメージして、この足にて吹き飛ばす。
そしてアフラが、吹き飛ぶ。
───それは、異常だった。
彼は、普通に避けるか防御するなりするだろう。だが、"出来なかった"。
今まで、俺とアフラで、反応することも、抵抗することもできないステータス差だったのが、見事に逆転する。
アフラに落ち目があったわけでは無い。
…ただ、反応できない程の速さを、この身体が出しただけ。
「【武装化】。」
その手には、白銀の剣。
「アビリティジェム…!」
───ドゴォンッ!
大きな音を立てて、三軒程家を貫き、そして、アフラは、深く地面へとめり込んだ…!
「…ちょっと、さ。」
「何も、こんなので、勝った気になんて───。」
アフラは、不機嫌そうだった。彼は一瞬にて、姿勢を整え、"迎撃"に徹する。
「解放ッ!!」
その時、一瞬で、距離を詰める。
奴の正面に、俺は居た。
アフラは、待ってましたと目を飛び出さんばかりに見開き、そして、戦闘は再開する。
「───シィッ!!」
まずは、シールドバッシュにて、彼へプレッシャーをかける。そこに拳が放たれ、そしてそれは絶妙な角度から迫ってきて、俺はその拳が盾をカチ上げる事を察する。
「『圧壊の魔盾』ッ!!」
───だから、その拳ごと、身体を止める。
揺らめく波は、アフラをそこに繫ぎ止める。
…『圧壊の魔盾』。そこから生み出される波は、全てのエネルギーを止められる。
…だが、【占い師】の能力は、未来の確定に由来する。
そして、【占い師】はゲームシステムに干渉し、『圧壊の魔盾』はプレイヤーのアバターに干渉する。
「【僕は】【止められない】。」
ならば、この能力は、ゲームシステムが起こす、因果の確定を止める事はできない。
停止させて尚も、外部から力が加わり、その拳を止める事はできない。
───要するに、盾は、カチ上げられた。
…加速した意識の中で考える。今にも防御手段を失った俺に神速に比類する二撃目が迫っている中で。
…盾が無い、ならば、此方も更にスピードを上げるしか無い。要は、相手に反応させないスピードで、相手を殺す必殺を放てば良いだけの事。
「───。」
さらに、意識を、加速させる。
さらに鈍重となった世界、相手の、先程にて神速と評したモノが、児戯にも劣る低速へと変わる。
身体は、硬直したように、動かない。盾をかち上げられた際に持ち手に引っ張られた左手を、戻す事すらも出来やしない。
三倍されたステータスですらも、この意識に追いつけない。
…どうしてだろう。意識が、冷え切る。
何故か、全てに諦めがつくような、そんな言い訳が、俺を支配した。
…。
『諦めても、良い。』
『…お前は、よくやったよ。何故なら───。』
『意識だけなら、アフラに追いつけたんだから、さ。』
だが、やるしかない。
『もう良いだろ、お前じゃ、勝てない。』
『それに、戦う理由もお前には無いじゃないか。』
『お前が、このゲームに何か感心したこととかあるか?』
『こんなゲーム、やめちまった方が───。』
「───だ、ま、れぇぇぇぇ!!!」
体内の粒子を、増産、圧縮、右腕へと、集中させ、その一撃のみに、傾倒する。
剣が、持ち上がり、振り下ろす。
その際の突風で、自身の体までもが吹き飛ばされそうだった。
…一撃、加速した意識の中でも、"見えない"程の速さの一撃を放つが───。
次の瞬間には、奴は、右にずれていた。
───人外地味た先読みによる、【占い師】の因果固定の座標移動。
つまりは、躱された、だが、止まらない。
ここで止まったら、本当に、俺はこのゲームを、諦めてしまう───。
「───つなぎ止めろ。」
身体から粒子の糸を放って、拘束した。
鎧袖一触、その言葉を体現しようと、右手にある剣を、両手で握りしめる。
俺はそこに、この意識の中では鈍重な剣を更に渾身の力を入れて振り上げようと───。
───その中で、アフラは、笑っていた。
「【臨界強化】。」
その宣言は、使用者が誰であっても、神速の域へと誘う。
俺にとっては、彼も鈍重、だが、ここで対応出来るのは、一人のみ。
剣は、一振しかないのだから。
「【波撃】。」
───俺はステータス頼りに振り返って、背後から襲ってくる巨大な斧に、剣を合わせた。
一撃、剣が仰け反る。
二撃、持ち手が、ぐらつく。
三、四撃、剣が、跳ね飛ばされる。
五撃目、粒子にて作った盾にて受け流す…!
…それで、やっと、斧は地面へと突き刺さった。
そして同時に、粒子の盾は、一撃を受けた後に、崩壊した。
ゲームシステムが俺を粒子ごと破壊しようとする動きにより、俺の外へ出た粒子は、急速的に破壊されるようだ。
今頃、アフラも拘束が解かれていることだろうと、思考する。
…剣を粒子の糸で引っ張り、右手へと。盾は、今視線をそらす事ができないので、放置する。
…だが、斧は振り上げられる。俺の意識は、かなり高速化しているのに、奴は俺並みの速さで動いてくる。
…たしか、【臨界強化】には、攻撃力と敏捷の倍加があったな、と、思い出した。
三倍の筋力に抗えるのは、今のところ、コイツの斧だけだと、俺は思った。
「【波撃】、【終局の二撃目】。」
───十連撃。
大した事だ、何故なら、それが振るわれれば、俺は剣で防御する事すらも叶わず、無残に切り裂かれるからだ。
───ならば、先手を取って、相手を、吹き飛ばすだけの事。
易々と、こなしてみせる。出なければ、この先、勝つ事など、計画に抗う事など、出来ない。
「【異形狩りの妄執】。」
この、黒鎧の魔物から、下してみせる。
───さらに速く、疾く、そして、捷く。
「【瞬間強化:速度】。」
…その名を、告げる───!
「【殿の心得】、【魔法剣:煌撃】。」
…俺は、【武装化】を投げ捨て、腰の剣を引き抜いた。
「俺は、此処でお前らを倒す気だ。」
俺を、アフラと黒鎧が挟撃している状況。アフラは、速さとしては俺に圧倒的に劣る為、動けない。黒鎧は、俺に少し劣る程度で、行動できるくらいはある速さ。
重要なのは、此処で、相手を逃さない事。
「───お前らは、どうなんだよ。」
俺は、その発言で、この意思を更に固める。
絶対に、コイツらを此処で抹殺する、と。
「【剛撃】×───。」
その詠唱に、背後より割り込む、黒い影。
ウォーンとは比べにならないほどの"速さ"、そして、挟撃。
自身の動きが、アーサーに追いつくようなプログラミングをかけて、その結果ゲームシステムがその身体を限界の更に先まで酷使する。
「【紫電掌】───ッ!?」
消える。
男は、消える。
アブラの体は、それでも追いつこうと必死に足掻く、だが、"視界を移動させる事すら"、ままならない。
当然だ、限界を超えたのが、先程の、【紫電掌】だったのだから。
その結果、紫電掌を構えたまま、彼はそこに、彫刻のように動かない。
「【衝撃波】。」
アーサーの速さは、知覚を超える。
知覚を超えれば、反応が追いつかない。
アーサーは、彼ら二人を、横から見ている。
───そして、反応が追いつかなければ…。
「───【<撃滅衝波>】。」
巨大な閃光を伴った衝撃波が───。
「───◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️。」
眼前に広がる建物を"全て"破壊し尽くして───。
───そして、破壊は、その数刻後に、終局を迎える。
2.荒地 元路地裏
「い、つつ───。」
一人の男が、瓦礫から這い出る。実際には、彼の影たる従者から。
「───置換。」
そこでアーサー自身の意識データを分割した、極大のビット群が集まって、アーサーへと変貌した。
そして、一息つく間もなく───。
「『圧壊の魔盾』ッ!!」
その身体を、強制力が縛った。
だが【占い師】のため、一瞬にて、その効果は消え去る。
「消えろ、敗者は───!」
『圧壊の魔盾』の効果を、ソナーの代わりに使っていたのだ。
そのため迅速に突っ込んでくる男に、アフラは対応すら出来なかった。
目で追う事すら、出来ない。加速した意識下での超加速を実現したアーサーの一撃。
「◼️◼️◼️◼️◼️◼️───ッ!!」
それを受け止めるのは、影。
「…【僕は】。」
アフラは、その影を一瞬の迷い無く信用して、身体能力の増強へと、力を注ぐ。
…だが、長くは持たないだろう。
「【武装化】ッ!死ねぇッ!!」
剣を手に取り出し、滅多斬りを披露するアーサー。
三倍のステータスは、それ即ち、"本気のナギトにすら接近できる"程度の身体能力。
その言葉が真実である事は、黒い影が一瞬にしてバラバラに破壊された事により、証明された。
だが、その残骸の先にアフラの姿は無い。
…【占い師】は次の瞬間に自分がどのようにあるかを決めることが出来る。
もちろんそれは、視覚による正確な座標指定が必要だが…。
つまり、アフラは、地平線の彼方、自身の見える範囲へと座標移動を行えたのだ。
だが、その差は、アーサーの今持つ速さから言えば、途轍もなく短い。
「【すごく】───。」
今、アフラが行おうとする強化は、自身の想像からの相対的な強化である。
とどのつまりは、"自身の想像の行く範囲内"に限った強化。
それは、先程のアーサーが一瞬にしてジタンをバラバラにした剣速を、"想像すらつかない"異次元の領域を、再現して超える事など、叶わない。
だが、しかし───。
此処では、そんな泣き言は意味を成さない。命乞いにすら、なりはしない。
「───次の犠牲者は、お前だ。」
突進しながら、ビットを展開する。
すぐ消えるが、相手の逃げ場を潰す事は可能だ。
「ビット、展開。」
「【第四段階】。」
「【属性付与:炎】。」
その光の粒子は、焔へと身を変えて、めちゃくちゃな熱量が場を支配する。
「囲んで、燃やせ───!」
アーサーが、飛びかかり、背後も完全にビットにて潰した。
ならば、この状況は、誰が救うか。
「決まってますよ。」
「───いつの時代も、それはジョーカー。」
───テレポート。
その言葉が、脳内に浮かび、そして消える。
目の前にいる一人の、ボロボロな身なりをした男。【魔術師】。
「だが、関係ない。」
剣にて、一瞬に臓腑を切り裂く。
【魔壁】すらかけられていなかった肉体は、易々と引き裂かれた。
だが、その一瞬は、アフラに微かな希望を与える者だった。
「【強くなる】ッ!!」
…その一言が、アフラを、立つべき土俵へと、立たす事が出来る。
…だが。
「…ひゅー…っ、ひゅー…っ!」
だが、ビットは際限なくその身体を燃やした。
周囲が燃やされれば、酸素は消える。確保しようとするも、足される火炎は無尽蔵の為、囲まれる。
…今のアフラは、火達磨だ。一刻も持たない。
そんな事も知らない男は、切り裂かれ、今に消える。
…男は、今際の際に、呟く。
よく見ると、至る所から血が出ていて、良くここまで持ったと思うほどにその体は損傷していた。
「…良い仕事、しましたね。」
「…でしょ?スロット、さん。」
…ギリリと、その言葉にアーサーは歯をくいしばる。
「…ほんとに、良い、仕事ですね、レイザドさん。」
間髪入れずに、"周囲の瓦礫をのこそぎ吹き飛ばすほどの風圧"がアーサーの身体を撫でる。
「───ハァッ!!」
…炎は、消えたのだ。
アフラの手により、吹き飛ばされた…是。
アーサーは、先程まで、溶岩に囲まれているような高熱の中にいた筈の男を、睨みつける。
「スゥゥゥ…ハァ…。」
深呼吸の音が、音の乾いた世界には、酷く浮いてるように思えた。
…その彼は、俺に、背中を向けている。
「…僕は、自身の想像できる限界の強化を、アーサー、君と出会う前は常に行ってきた。」
「そして、それを、行えていた。」
盾は左手に、剣は右手に。
大丈夫だ、まだ、戦える。
「だが、今はどうだろう。サーバーから能力値を引き出すのが制限されている。」
「【全属性魔法弾】、連射…ッ!!」
牽制のため、だが、それでも、この視界を埋め尽くすほどの大量の【魔法弾】をこの身体中から打ち出す。
「制限されていると、思ってしまう。」
その言葉の後に、粒子を固めたレーザーを打ち出した。
「…僕としては、ダメ元だった。でも、出来た。」
「僕の想像を、簡単に超えられた。」
…彼は、拳圧のみで、【魔法弾】を吹き飛ばす。
次いで打ち出されたレーザーの様に固まって飛来する粒子も、悉く全てを破壊した
「感謝するよ、君は、結果的に僕を更に引き上げてくれたんだ。」
風は、びょうびょうと、その力の生誕を祝う。
…振り向いたその顔は、笑顔であった。
「…。」
…対峙する騎士は、表情を変えない。
何をしてこようと、ここで"奪う"しか無いのであるから。
…例え、その方法が、自身を消滅させるとしても。
…此処から先は、終末へと繋がる。
そして、一人の男を取り逃がした少女と、その仲間は、やっと、この荒地へと到着したのであった。




