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【エター】新興VRMMO記【ビクトリア】  作者: 松田勝平
第六部 真実の【ビクトリア】編
79/117

第2話 新たな出会い



「───どうだい?」


 その時、私はこの力に驚嘆した。


 βにより発生した戦闘経験を持ったNPCの勇者が、【魔神王】を倒して、その魂を回収する。


 そんなシナリオを、いともたやすく破壊できるのだから。


「…こんなに上手く、それも簡単にクエストを複製してしまうとは…。」


「あとは、【勇者】のスキルを持つものを作って、私が【星】によりそのスキルの可能性を強化すれば…。」


「シナリオの都合上、【勇者】のポジションにいるプレイヤーに、【魔神王の魂】は確定ドロップする…。」


 その様子を見て、元協力者は淡々と話し出す。


 今では懐かしいだけの思い出だがね。



「…この通り、【隠者】の力なら、本来なら出来ないはずのイベントを引っ張ってこれる。」


「少し、クエスト名と報酬の偽装は必要だけどね。」



「…助かる。私の権能は、そちらの方向は不向きだからな。」


「…で、私は何をすれば良い?ザハーミ。」



「───裏のストーリーの、確立を。」



 私は結局、確立は果たせなかった。


「もう既に、女神がいない時点でそれは叶っているのではないかね?」



 裏のストーリーを、消し去る事にした。


「いや、実際には、維持でも良い。」


「僕が第三段階目のランクアップに成功した時までで、構わない。」


「だけど、その時までは、この日本サーバーだけは、裏でいておいてくれ。」


「裏が一つでも残れば、僕の勝ちだ。」



 あの時、サラに紹介された1人の少年が、文字通り、すべてを変えたのだ。



「───頼んだよ、ザスター。」














 1,宿舎前


「どこにいこうかなー!でも、アフラさんも警戒しないとな…。」


 アフラを警戒しない訳には行かない。


 その理由を話すと長くなる。


 【組織】のリーダーは、アフラだ。何故なら、【組織】へと潜伏して活動していた俺の上司そうな【アルカナ】持ちのレイザドさんが、敬っていた人だからである。


 【組織】は、きっと日本サーバーのストーリーの進行を止めたかったのだろう。いや、裏のストーリーを実験したかったに違いない。


 ならば、ストーリーが、表に変わった今、一番面白くない筈なのだ。


 何とかして戻そうとするに違いない。



 …そして、此処からが肝心なのだが、彼の能力は、【占い師】。

 俺との戦いでは、自己強化に使っていたが、あれは恐らく因果律的な物の操作を、ゲームシステムに干渉して行なっている。


 まぁ、【占い師】とは名ばかりで、実際は付与術師の様なものなのだろう。


 ゲームシステムに干渉できる能力ならば、それはあらゆる不可能を可能に出来る。


 …例えば、全てのタレント(才覚)を手中に戻す、とか。


 女神の力はそれそのまま権能として扱われる。


 権能が集まれば───痛ぁッ!?


「───キャッ!?」


 …どうやら、考え事に夢中で、俺と同じくらいの背丈の金髪の女の子にぶつかってしまったらしい…。


 急に、尻餅をついてしまった。


「…す、すいません…。」


 まず初手謝り。これ基本。

 そして、その後立ち上がって、逃げようとしたが、急に手を掴まれた。


 …振り向いた所、剣を俺に突きつけている。



「…あの、すみません。通してもらえませんかね。」


「駄目です。あと、とりあえず、足を退けてもらえませんか?」


 …足の下には、小さな獣っぽい物が…。


 えーと。これはスゴイマズイ。どこらへんかというと…。



「…あ、はい、すみません。」


 俺が足をその獣から退けると、すごく大事そうにそれを抱えたからだ。


「…大丈夫?あ、貴方は待っていてください。」


 彼女は、腕の中に収まるその獣が怪我してないかを入念に見ていた…。


「…は、はい…。」


 これは、ますます大変な事になったなと、ただ、思うのみである。



「…傷、一つない。本当にVRって事ですね。」


 …俺は、黙ったままだ。


「………。」


「…私は、初心者です。」


「……へ?」


「もし、良かったらですけど、街を案内してくれませんか?」


 …俺に、悩む暇は無かった。


「それで良いなら、喜んでやりましょう!」


「…じゃあ、よろしくお願いします。」



 2.街道 西


「私、実は今日始めたばかりなんです。」


「【ビクトリア】を、ですか?」


「学校の友達に誘われて。」


「へぇ、そうなんですか。」


「…はい。ですが、流石に初日くらいは、一人で回ってみたくて…。」


 …少し、彼女は俯く。

 …よし、ここで会ったのも、一つの縁だ。


「…よろしければ、フレンド登録をお願いできますか?」


 …俺は、フレンド登録を言い出した。

 エルさんはいきなりガバッと顔を上げてこちらを見つめる。


 …変な、顔をしていた。


「僕も、自分で言うのはなんですけど、そこそこは出来る方だと思ってますので、お力になれれば、と。」


 …そして彼女は俺のその言葉の後に、自身をたしなめる様に下を向き、ちょっと考えながらも、一つの言葉を引きずり出した。


「…ぁ、じ、じゃあ、あのよろしくお願いできますか?」


 彼女は、フレンド登録の仕方を知らない様だった。


「はい、このコンソールを右に…。はい、完了です。」


「…あ、ありがとうございます。でも。」


「…?」


 すっかり先程までどもっていたのを直して、彼女は言葉を紡いだ。


「考えながら歩く癖は、やめた方が良いと思います。」



「…常々、申し訳ありませんでした…。」


 その直ぐ後だ。


 あの様な事が、始まったのは。



「お命、頂戴いたす。」


 ───敵、襲…!?


 いつのまにか、背後から声。


「【剛撃(バスター)】。」


 そして、短剣による、奇襲───。



「───ぬるい。」


 背後からの攻撃など。振り向かなくとも───。


 粒子の剣の生成にて、いとも容易く反撃できる。


「…ッ!?が、あっ!?」


「【衝撃波(スパーク)】。」


 背後にてやられる一人の男をそのままにして、二撃目が二人目の刺客より放たれる。


「アビリティジェム、解放(リンク)。」


 【縮地】にて、衝撃波の範囲から脱出を図る。流石に、エルさんを守ったままでは攻めに出ることは出来ない。


「無駄よ無駄。」


 …【縮地】は、視界の届く範囲までしか飛ぶ事は出来ない。


 街道の屋根にも、刺客。


「お主らは此処で朽ち果てる定めじゃ。」


「【衝撃波(スパーク)】ッ!」


 三人目の女が短刀を振り抜くと共に、俺はやっと腰の剣を引き抜いて、それを迎撃する。


「【魔法剣:煌撃(アルスター)】、【衝撃波(スパーク)】。」


 すると、あまりの出力差に、女の衝撃波は一秒とせず弾け飛び、俺の衝撃波はそのまま彼女の体を喰らった。


 粒子にて、身体能力を高めているのだから、筋力値による差が相手よりかなり付いているためである。だからこそのこの高威力。


 俺は今、ナギト(手加減状態)と打ち合えるほどのステータスを、この身に宿しているのだ。


「………───。」


 腕の中のエルさんを見る。


 彼女は、唖然としていた。


 …刺客の女をミンチよりもひどい状態にしてしまったのだから、仕方ない話であるが。



「エルさん。」


「…っは、はい。」


 どこかどもりがちだ、だが、仕方がない。VR初心者と言うことは、ゲームもビクトリアが初めてなのだろう。


 実体のある"人間"を躊躇いなくスプラッタに出来る人間は、恐怖でしかない。


「逃げてくれ。初心者にはキツい。」



「…えと、あ、はい。」



「…訳なら、まぁ、推測だけど、後で落ち合ったら話そう。」


「とにかく今は、逃げてくれ。」


 …その次の瞬間、金属同士がぶつかり合う独特の音が、この場を威圧した。


「…速く!」


「…っはい…!」


 遠ざかる足音と重なって、剣が先程飛び掛かって来た一人目の首を落とす。


「【衝撃波(スパーク)】。」


 次いで、機を伺っていた二人目の男の身を、衝撃波が包んだ。


「…来いよ、刺客ども。」


 その声に続いて、三人の男女が目の前に、十四人の刺客の気配を背後へ感じる。


「「「「【衝撃波(スパーク)】ッ!!」」」」


 同時発生の十七連撃が、俺に迫る。

 だが、俺はあらかじめ頭上に発生させていたビットへと視線をそらす。


「───置換(トレース)。」


 一瞬にて、十七人全員を俯瞰できる上空へと移動する。


 …置換(トレース)は、自身の身体を構成する粒子を、既に移動したい座標へと放出してある粒子をガイドとして、一度に移動させる技術。


 粒子は、粒子同士の中に発生するエネルギー、魔力にて推進出来て、ほぼ【縮地】に相当する加速を得ることが出来るのだ。


「此処でまとめて、殺してやる。」


「【衝撃波(スパーク)】!」


 そして放たれた一つ目の斬撃は、いとも易々と固まっていた三人の刺客をミンチへと変える。


 …その頃、大きな光の暴風が、《el》が去った方向に、現れていた…。



 3.街道 el視点


「はぁ、はぁ…!…ここなら、大丈夫…!」


《…隠れろッ!あるじ!》


 小さい身体が、少女を街道の角へと突き飛ばした…!


「…えっ?」


 その瞬間、光の奔流が、彼女を襲う。

 それは追尾を強調した一撃からの派生。タイトを追い詰めるための追撃。


 それは今、街道へと入ってこのゲームを楽しんでみようとしたニュービーにも、なんの細別なく降りかかる。


 …タレント(才覚)の献身か、なんとかその身は一命を取り留めたのではあるが。


 物陰に隠れながら、様子を伺う。


 少女の顔は、真っ青になった。そこの外では、さらに沢山の光の奔流が飛び交い、街を壊す。


 その様な一撃は、容易く自身の身体を破壊できるだろうと、想像できてしまった。


 …彼女の前に立つのは、圧倒的な力。


 彼女は、なんの志も無く、なんの心構えもなく…。


 …場当たり的に、その、【ビクトリア】最高峰の戦いへと対峙してしまったのである。


「…いや、なんでこんなところで?居住区とかでの制限とか無いの…?」


 あまりの事態に、現実逃避する。その発言から言えば、既にアーサーが戦闘を行なっていると言うのに。


《…あるじ、あーるーじー。》


 腕の中で、彼女のタレント(才覚)、クルードはちょっぴりも始めた時の元気がない彼女を慰めようと声をかける。


「…えと、ちょっとキャパオーバーかな。」



 …非現実的だった。

 ファンタジーという響きに憧れて、そして飛び込んでみたこの世界。


 現実では行けない、中世のような街を見渡して、共に回ってみて。


 そして、最後に、嫌な気分を街を見回る事で清算しようとして行った街道にて、この大動乱。


 …アーサーは、自身を探しているのか、いや、そんな事は無いかもしれない。


 落ち合うと、約束は、したのだが。


 此処はゲームで、約束なんて、確かでは無いのに。


 そんな思いが、思考を鈍らす。



「…どうして、こんな事に…。」


《…すまん。》


「…いや、謝らなくていいよ…。」


「…はぁ。」


 頭の中で、言い訳に、言い訳を重ねる。

 それはこの事態が、どうにもならないからだ。

 解決など、出来はしない。


 自分だけでは、とても。


 ゲームだからこそ、簡単に諦められる。


「…あー、もう!」


 だけど、そんな諦め程度では。


「なら!」


 冒険心高い若者には。


「いっそ、楽しんでみるしかない!」


 到底、通じようも無い!


 "折角なら、楽しもう"


 その思いが、エルを奮い立たせた…!


 …だからこそ、決断を、そう下したのであった。





〈───状況は、絶望的だ。〉



〈何も知る事は出来ず、生き残る事もとても出来そうに無い…!〉





《…そうか。なら、がんばろう。》


《どうするあるじ、外はあの光っぽい何かが襲ってくるぞ。》


 そして、当然現実的な案はあるかと聞かれるが…。


「【重装化(フル・アームズ)】すれば大丈夫!」


 …そう、一気阿世に言い放った。


 タレント(才覚)は普通に砕ける物なのだが…。


《…あるじ、じぶんが死ぬんだけど。》


「大丈夫。引く時は引くから!」


《そ、そういう問題ではない。あの光は今のレベルのじぶんとあるじでは───。》


「りょーかいっ!【重装化(フル・アームズ)】ッ!!」


《あ、あるじ、まじでやばい───!》





〈…だが、そんな絶望的な状況でも。〉



〈けして、放り投げ無いのは、彼女の強みであった。〉



 …その身を、クルードが光となって包む。


 …そして、その先には、全身に鎧を着た、両手に剣を持った少女が佇んでいた。



「よし!」


 一度に物陰から出る。

 そして、目の前に光の奔流。

 まずは屈んで回避して、そしてそのまま屈ませた足を解き放つ事で、跳躍。


「はぁあっ!!」



 …それによって、彼女は───。


(目指すは、あの光の源流…!)



 ───この光の、元へと。光嵐を振りかざす槍の持ち主の元へと…。



「───邪魔だ。」



 …辿り着いて、しまった。



「───え。」


 その目は、空中に浮かぶ、


「消え失せろ。」


 深い青色をした剣閃を、捉えてしまった。



(ダメだ、殺され───ッ!?)


 あの剣士は、翼を持っていて、私はもう飛べない。


 それに、もう刀を、振って───!




(…本当に、ツイてない。)


(でも、折角なんだから、足掻こう。)


 剣を持って、防ごうとする。


 そして、それは驚くべき事に、"タイトの剣速に届く"。


 刀の軌道上に、剣が届いた。



「───ほぅ。」



 …だが、カァン、と甲高い音を立てて、防ごうと使った、【重装化(フル・アームズ)】による剣が砕ける。


「だが、未だ、未熟。」


 今はこの剣以外に、自身を守れる事が出来るものは、無いと言うのに。


(…剣が、折れた。)


 だが、動揺はしない。


「だからって、諦める事ない…。」


 まだ、鎧がある。なら、防げる…!


「私は、まだ、戦えるから───!」


 …それを聞いて、【黒天狗】は笑った。


「どこの差し金かは知らないが───。」



「覚悟が決まっている奴は、悪くはない。」



 そして、両手を首へとガードへと使おうとした、その時だった。


「【異形狩りの妄執(ベルセルクル)】。」




「【(シャイン)───。」


 地上から放たれた光は、


      「───(ピラー)】ッ!」


 易々と【黒天狗】の翼を焼ききり、彼のバランスを崩した…!


 すんでのところで、刀は止められる。


 その結果、当然ながら少女は無事に落ちる。

 何故そこでタイトが少女を切らなかったかと言えば、それは光の追撃を警戒していた為。


「この光は、まさか…ッ!?」


 咄嗟に、撃たれた方向…後方へと身体を回す。バランスが崩れたとはいえ、魔力でいくらでも方向転換ぐらいなら可能だ。


 …振り向いた景色の、街の中、その中心から、一人の男がタイトへと迫ってくる。








(エルさんは…居ないな。あれはタイトか、そして、この光の嵐はラマンダか。)


 アーサーの視点からでは、二人の遭逢は、光に包まれて、とても見えたものではなかった。


 だが、その光は、たしかに一人の少女の死を遠ざけた。


「…どちらにせよ、俺は間に合わなかった、のか。」


 屋根を蹴飛ばし、進みながら、ラマンダの死体を一瞥した。


 …エルさんは、何処にいる?いや、生き残ってはとても無いだろう。


 …。


「ならば、目的を聞き出すだけでも、だ。」


 そして、屋根を蹴って、ついに空中に出る。


「【武装化(アームズ)】…!」


 …此処に、戦いが始まる。


 地面へと帰還した少女の所在を、彼はまだ知らない。




 タイトは、焼き切れた羽の分を魔力にて補う。


「…アーサー。貴様、何故此処にいる。」


 タイトは尋ねる。暗に、自身と戦う必要はないと語った。


「ここで雌雄を決するか?」


 それに対して、アーサーは答えた。


「…アフラの目的を、聞き出したい。」


「その為にもお前を倒す。」



「…ほう。俺が何故それの差し金だと?」



「カマをかけただけだ。やはり、先程の刺客も、今此処にいるお前も───。」


 とにかく、ラマンダを狙ったのはアフラだとわかる。目的は、達成された。


「アフラによる差し金だったんだな。」


 …両者の間に、風が奔る。


 さっさと戦え、と。


「お前の目的は、これで果たされたのか。そうか。」


 タイトはひどく淡々と言い放った。


 そして、緊張感が場を支配した。


「…ならば、ここまで。」


「さぁ、行くぞ。」


 その声が、開戦の鐘となる。


 …何の変哲も無い、覇気もない。そのような声から放たれた一撃は、酷く鋭くアーサーの剣へと打ち付けられる。


 軌道上に剣を入れられて防がれた事に、少しタイトは驚嘆するが、その後、一つ笑ってギアを上げる。


 つまりは、四方八方からの連撃を、仕掛けようと言うのだ。この空中にて。


 黒翼は、アーサーの周りを動き回る…。


「…【衝撃波(スパーク)】───ッ!?」


 そこで、飛び回るタイトの軌道を変える為にと、剣を振り切る事により、【衝撃波(スパーク)】を放とうとするが、"出ない"。


「おかしい、何故、出ない。」


 繰り返す、【衝撃波(スパーク)】が出ないのだ。スキルを発動しても…!


「ローホルト!」


タレント(才覚)に攻撃系スキルを適用する事は出来ません。》


 こうして、話し合っているが、アーサーは今現在右腕を振り切った後。


 そして、今はそれを戻す最中である。



《謝罪いたします。》



「そうか…ッ!?」


 そのような、至極分かりやすい隙を、その男が見逃すはずがなかった。


(まずい、やられる───ッ!?)



 その時だ。

 ガキン、と剣戟音が鳴った。アーサーは今、剣を振り切っているのに、何故か。


 その答えは単純明快。左手で、今まで使っていた【武装化(アームズ)】に依らない片手剣を取り出し、青色の刀を防いだ為。


 タイトは、魔力によってアーサーにのしかかれる位置まで移動して、そして魔力と翼による推進力を使ってアーサーを地上へと落とそうとする。


 対するアーサーは、魔力を放出して、鍔迫り合いに何とか対応した。


 そして防いだ時間の中で、右手を戻し、両手の剣にて、タイトと押し合う。



 …だが、羽で推進力を、そしてさらに魔力からも得られるタイトとは違い、こちらはブースターが1種類しかない。




「───落ちろ。」


 ならば、押し負けるのは、もはや必然。


 アーサーの身体は、数刻と持たずに地面へと押し付けられた…!



「───アーサー、さん…!?」




 ───その時、聞こえた、俺を呼ぶ声。


 空中での、視界の隅に、居た。




「…が、ぐ、ぅあッ!」


 思い切り叩きつけられた身体からは空気が抜け、肺は少し、仕事を忘れる。


 地面をガリガリと削り、住宅を吹っ飛ばしながら、それは続けられた。


 そのような不快感の中、彼は地面へとたどり着いたのをいい事に、タイトを魔力による推進力で弾き飛ばす…!


 建造物が多く存在する地上では、タイトは翼を使う事は叶わないからだ。


「…な、んて、力だ。」


 …アーサーは、態勢を整えて、そして、少し周囲を見渡す。


 …そこに探し人の姿は、無い。


「……エルさん、生きて、いたのか。」


「…だけどそれは、今言うことでは無いでしょうけど…!」


 そうこうしている間にも、建物の向こうから、一人の男がやってくる。


「…タレント(才覚)の戦いは、不慣れだったようだが…。」


「見違えたよ。」


 タイトは、その言葉の次に、剣を構えて、一つ続けた。


「だがお前、本気を出していないな?」


 …図星、だった。


 何故なら、今のアーサーは、【第四段階(フォース)】を使用していない。


 さらに、やろうと思えば全身から粒子の刃を生やして、タイトを串刺しにすら出来ただろう。


 それをしなかったのは、何故か。


「それは貴方が、空中に居たから。」


 半ば、嘘だ。


「粒子とやらは、魔力と共には操作できないと?」


 実用には、至っていないというだけ。


「そうだと言ったら、貴方は空中に上がりますか?」


 …それに、タイトは親切にも答えた。


「なに、お前程度なら、この地上でも生け捕りに出来る。」



「…生け捕り?」



「アフラからの意向だ。」


「アーサーへ、【組織】への勧誘をしなければならない。それが、依頼主の意向。」


「俺は、依頼を達成するために此処にいる。」


「…非常に、残念な事だが…。」




「───今回は、斬り合いを楽しむ時間は無いようだ。」




 タイトは、そんな事を言っていた。


「貴様が、俺を、玩具扱いだと?」




 ───一瞬で、頭に血がのぼるのが分かった。


 四肢が、目の前の敵を撃滅せよと訴える。

 全身が理性を弾き飛ばそうとして、ギチギチと脈動していた。




「───ならば、死ね…!」


 ───侮辱されたに、等しい。

 やっと彼についてきた、武人としての誇りを。

 負け続けだった彼に、本来なら付くはずがないそのプライドを。



 ナギトにすら一撃を与えた己を、お前如きが軽く見ていられるのか。



 …アーサーの身体から、粒子の球が、無数に現れる。



「…成る程、ビット、と言った所か。」


 その声を皮切りに、タイトの半径十メートル圏内を全てそれは包み込んだ。



「───【第四段階(フォース)】ッ!!」



「【全属性(エンチャント)付与(・ランダム)】ッ!!!」



 ───そして、乱雑に、様々な光がタイトの"黒"を包み込んだ…!


 一つ一つの光が、成人男性を軽く飲み込めるような太さを持つ包囲撃。



「…【魔滅真空】。」


 だが、落ち着いた様子で、彼は淡々と魔法を殺す技能を───。


 ───だが、そんな物は無視して、"粒子の弾丸"は空間に躍り出た…!


「効かない…!?」


 咄嗟に、バックステップする。


 そんな事を言っている間にも、一撃、二撃、三十撃。


 だんだんと、逃げる内にビットの光の内側へと追い込まれていく…!


 …だが、ビットはあくまでもその内部の粒子をそのまま使って砲を放つ。その為、持続的なレーザーを放つ事など、とても出来ない。


 あくまでも、ビットは外に出したら、その時点のエネルギーしか持てない。


 本体から供給する為にはパイプを繋がなくてはならないのだ。


「ならば、【縮地】ッ!!」


 その為、包囲網に穴が空くのは、むしろ当然であった。



 ───【縮地】

 自身を一瞬で移動させることができるスキルである。


 その真髄は、穴の空いた包囲網を抜け出す高速移動。



「【魔法剣:煌撃(アルスター)】!」



 着地点は、アーサーの真後ろ。


 …彼の、タイトの刀は───。


 四肢を切り落とそうとして、アーサーの剣に弾かれる。



「生け捕りなら、首は狙えませんよね。」


 加速した景色の中、彼の思考はその言葉と、その次の行動を引きずり出す。


 刀で首が狙えるほどの、近距離であるならば、ここで格闘戦に出るのは、当然の事。


「はァッ!!」


 上段にある刀を剣で抑え、残った左手で身体を捕まえる。


 そして、今出せる全力の蹴りを放った。



「───小細工には、頼らない。」



 剣で抑えていた刀が、ズレる。

 そして、こちらがタイトを捕まえていた手を、逆にタイトの左手で捕まえられた。



「───剣が、鈍る。」



 相手の剣が、自由になる。それは、自身の防御が無くなったのと同じ。


「【剣鬼(ソードマスター)】。」


「…やはり、斬り合いは望めない。」


 タイトは、刀を防御に使うことを、諦めた。


「自分から、防御を外すなんてッ!!」


 だが、アーサーは剣速を速くできる。


 魔力放出、その全力でタイトの首を切り裂かんとするアーサー。


 ───だが、勝敗は、明らかであった。



 タイトの刀は、神速じみた手首のスナップによって、剣へと集中をずらして、疎かになった蹴りを入れようとした右脚を、まず切り落とす。


 …そして、そこから、右手、左脚、左手へと、円を描く様にそれぞれの四肢を切り落としていった…。


 この時点で、加速した意識を持って放たれたアーサーの最速の一撃は───。


 タイトの、毛先にすら触れる事は無かったのである。



「───お前は強く、なりすぎた。」



 …その言葉の後に、まるで、タイト以外の時が止まっていたかのような空間は、動き出す。



 ───鮮血が、四肢から、噴き出た。



「ビット…ッ!!」



 瞬時に粒子のビットで四肢を縫合しようとするが…。



「タネは割れた。通用しないさ。」



 その粒子のビットは、魔力によって、吹き飛ばされ、散り散りになる…!


 再生できる事はタイトは知らない。だが、今はアーサーに悪足掻きもさせてはならないとタイトは思っていた。


 それ故に、最善を引くことが出来たのである。


「…ッが、ぐ…!?」


 …だが。


 …だが、その、魔力放出。タイトが魔力を操作しようと、かなり集中をズラしていた間隙。



「───アーサー、さん…!」


 その一瞬にて、物陰の少女は───。


「うるさい。」


 ───助けに出ようとしたところを、斬りつけられた。


 この時、誰もが少女の死を予想するだろう。



「───ッ…エルさん…!」


「な、んで…!?」



「【高速化(アキレス)】ッ!!」


 そして、ダメだ───!と、言うところで、彼女は、瞬間的に加速した。


 俺の、現在時点での加速した意識でも、目で追いきれないほどのスピードとなって。


 ───そして、その速さは、持続する。


 結果的に、彼女は、普段と遜色ないタイトの斬撃を、易々と躱すことが出来た。





 …彼女には、無理だ。

 俺は、確かに、そう思っていたのに。



「…二刀…ッ!?」


 そして、また、軌跡を追うのがやっとのスピードでタイトへ飛びかかり…。


 一瞬にして、五の連撃を放つ。

 …彼女の剣は、速すぎて、読めない。だが、タイトの刀は、"何回"も間合いの外側へ弾き飛ばされては防御を繰り返していた。


 未だに接近し続ける神速領域にて、タイトは撤退できない。あまりの速さから、逃れられない。


 そしてそこから、二刀にて、一刀には追いつけない領域へと、加速して、追い抜いた所を殺す。



「───が、は…ッ!?」


 そして、二六合目の"音"と共に───。


 ───ついに、一刀は追い抜かれた…!



「…ッはァ…!」


「───【剣鬼(ソードマスター)】!!」


 その瞬間、一気に加速した彼らの剣戟は、更に高い領域へと登る。


 一瞬にて、七合程の撃ち合いが行われているとわかる。

 この速さは、まさに神速同士の戦いに相応しい物だった…!


 エルの一刀が、タイトの剣をさらうと共に、二刀目が、首を狙う。


 タイトはそれを一刀目を弾き飛ばす事で迎撃し、一歩下がって刀のリーチを確保。


 エルの纏う鎧ごと切り裂こうとする。


 …それを、エルはその俊足にて、更に躱すのだ。


 そしてその様な剣戟は、タイトを中心に180度全ての角度から行われ、戦況はエルが一長を有する。


 …だが。


 ───だが、その様な美しい演舞は、無限には続かない物だ。


 今までの剣戟には無かった、速いだけの一撃、それが、エルに向けて放たれ、そして───。


 その刀は、遂に、鎧ごと、エルの横っ腹を、穿った。


 才覚(タレント)の形態変化後の硬度は、使用者のレベルに依存する。


 つまりだが───。



「っ、あ、が…ッ!」


 そのまま、彼女はぼとり、と地面へと落ちる。

 そして、粒子が、空間へと、消えてゆく。


 ───つまり、彼女は、レベルが低すぎた。


 タイトとしては、鎧が柔いことを見切ったつもりは無かったのだろう。一度、胴に当てて、反応を見る、と言ったところだった。


 だが、彼女の防御は、タイトの、"当てるだけ"の最低限の攻撃にて、砕かれる程度の防御であったのだ。


 …そして、戦闘は、あまりにも呆気なく、ここに終了した。


 カラカラと地面を滑っていく二刀の内の一刀は、根本までとはいかない程には、欠けていた。


「───連れて行く。」


 有無を言わせぬ、即断。

 相手に戦う能力は、最早残っていない。



「…ま、て。」


 それでも、残る力を振り絞って出した、負け犬の遠吠えは───。


「いいや、待たない。」


 当然、切り捨てられる。


 この後に及んで、一歩も及ばぬ自分が、少し滑稽だった。


 …そしてエルの目の前で彼ら二人は、姿を消す。


 残された彼女も、ここで消えるのだろう。



「───ふーん。」


「アーサーの様子を見に来たら。」


「思わぬ、拾い物だね。」



 計画書は、既に破綻している。


 それでも、彼女はこの世界を。


 一人の男の"ゲーム"を、運営してきたのだ。



《世界を支配するは、二人のゲームマスター。》


《一人はシナリオを書き、一人は───。》


《そのシナリオを、破壊する。》

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