第1話 【終わりの始まり】
やっと更新出来ました。前の話と同じく、これも生存報告として行わせていただきます。
ただ、書溜めがやっと出来ましたので、出来るだけ投稿はしていきたいと思っています。
それでもよければ、【ビクトリア】をお楽しみください!
1.光の柱 内部
吹き抜ける風が、俺の頬に触れて、そして衣服の中を通り抜ける。
「タレント?」
俺の問いに、一切の迷いなく、声は答えた。
《イエス。タレント。》
《それは、製品版による追加サービスとなっています。》
へぇ、製品版から、か…。
…おい、そんなの可笑しいぞ、それなら俺たちがこのゲームに初めてログインした時に、付いているはずだ。
《肯定します。プレイヤー。》
《本来ならばサービス開始初日から3時間後には提供する予定でした。》
《ですが、貴方の他のプレイヤーが、【女神】を封じ込めた為、再起動するまでの間、配布する事は叶いませんでした。》
《プレイヤー、納得いただけましたか?》
…よし、それは、わかった。
「なら、タレントを決定するって、どうやるんだ?」
…それに対して、声は淡々と告げる。
《プレイヤー。貴方が意思を示す事が、それに繋がります。》
そんな、許可を求める声に───。
「なら、決定する。俺のタレントとは何だ?」
───俺は、間髪なく意思を示す。
それはもう、待ちきれない坊やのように、スキップを連打するゲーマーの様に。
新しい要素を、早く見たい思いで一杯なのだ。
《プレイヤー。それは、貴方が知りうる事です。》
《では、【ビクトリア】を、お楽しみください。》
2.コロシアム内部
飛び散った脳漿は、粒子へと消えていく。
主人を失った糸や斧は、それと同じく消えていった。
───そして、その中心には、黒き影。
陽に照らされ、徐々に空間に溶け出しているそれは、だが、今に至るまで、隙という隙を見せる事はない。
その全ては、自らが主人の為に。
「…よう。」
カツ、カツ、と。
石の地面を歩く音が聞こえる。
一定に、そして小刻みに。
「暇、してたか?」
───影は、仕掛ける。
その掌底を、先程まで吹き飛んでいた雑魚へと向ける。
自身の一撃を、今更お前ごときが何とか出来ると、思うな───!
「………───才能。」
拳が迫るところに、アーサーの手の中から、光が放たれる。
だからなんだと攻撃を与えようとするところに───。
「───【武装化】、【模範騎士】。」
《【模範騎士】のタレント、ローホルト。》
その光は、影へと届きうる。
《此処に。》
「………!」
"同族"の気配に、影は後ずさった。
「【始聖剣】…!」
───彼の手に、珠玉の一品と言う他無い鋭さを持つ剣が現れる…。
刀身の色は白亜。その尺は二.三〇メートル程。
計り知れない力を感じさせる、長剣であった。
しかし、影はそれを確認すると、その拳を、アーサーへと撃ち込む…。
そんな取り回しなくそうな剣ならば、俊敏極まる拳にて通り過ぎて首を取れば良い事、躊躇う理由などない…!
「【魔法剣:煌撃】…!」
しかしアーサーは、その剣を、振り抜かれた影への拳へと突き刺す。
バックステップにより距離を取って、飛び退きながらも剣を拳にねじ込んだのであった。
…この剣は、【武装化】により作られた、タレントを武器へと変えた代物である。
そして、その剣は、今まで刺し通せもしなかった皮膚を易々と突き通し、その拳から腕へ、腕から肩へと、忙しなく暴れまわる。
…そうして、剣は影を切り払った。
「───ッ!」
…影は、逃げる。片腕を失ったら、分が悪い。それに、この身は一人のものではない。
だが、アーサーだって黙ってはいない。そのまま逃してなるものかと、地面を蹴って逃げる影を追う、だが───。
「………居ない?」
影は、コロシアムの外壁近くの影へ寄ると、そこから一瞬で姿を消した。
まるで、そこに初めから、居なかった様に。
《ログカットモードに移行。プレイヤーとの会話部分を分離。》
《…敵性タレントの、この場からの逃走を確認。》
影が去ったばっかりに、俺はふと、光の柱の方へと振り向く。
《指令を、実行。》
すると、光の柱から、さまざまなタレントと思わしき光が、どんどんと分離していく。
俺は、それを身近に見ていた。
そして、綺麗な光だと、そう思った。
3.宿舎
…結局、あの柱は無くなった。
分離し続けた結果だろうか、とにかく、目に見えるものでは無くなったのである。
「お、アーサー。」
すると、ラマンダ君が話しかけてきた。
「…ラマンダ君。君、その鎧と槍は?」
帰ってきたアーサーを出迎えたのは、【世界】の格好をしたラマンダ。
まるで、憑き物が晴れた様にガシャガシャと鎧を動かすその様は、すごい筋力であると言う他ない。
「タレントだよ。やっと、時間制限が無くなったんだ。」
ラマンダはそう言って肩を回す。
今まで使用していた自分だけの能力、それの最大の欠点が無くなった事に自慢げだ。
…やっべ、【世界】の能力消費してたわ。
今思い返せば、ラマンダ君の肉体ごと女神の器になってて、その結果【世界】の元となったスキルは全部【世界】ごと持ってかれてた事に気付いた。
いやさ、俺がラマンダ君の体の中に入った時に、【世界】からスキル"のみ"を取り出そうと思ってたんだけど、結局、それは無理な話で…。
俺は滝のような汗を流す。
…そうして、少し考えていると、突然思い出したかのようにラマンダ君は急にしおらしくなった。
「あ、あのさ。」
「…えーと。」
そうやってどもってばかりなので、俺はちょいと聞き出そうと試みる。
「どうしたんだラマンダ君。」
「…アーサー。」
するとラマンダは、声を張り上げようとして、でも小さくこう言った。
「───ごめん。」
「俺は、お前を今回のトーナメントに巻き込んだ。」
…俺は、黙っている。
「元々は、【スキル秘伝書】を手に入れたかっただけだった。【世界】の、燃料を手に入れる為にな。」
「アフラは、そんな俺に向けて、トーナメントの前に戦線布告をしてきたんだ、だけど…。」
「実際、半信半疑だったんだ。【世界】の能力を使う為に、【スキル秘伝書】は必要不可欠。」
「俺に選択肢など、無かった。」
「そして、出来るだけ多くの【スキル秘伝書】を取る為に、タッグへと、お前を巻き込んで、登録してしまった。」
「…そして、このザマだ。」
彼は、俯いた。
「ラマンダ君。」
「現実なら、それは最低なのかもしれない。」
その言葉に、彼は少し身を震わせた。
「だけどさ。」
「ゲームなんだから、責任なんて、取る必要も、取る事も出来ないんだ。」
「自分が謝りたいから、謝ったとしても。」
「それで責任は取れない。」
…ゲームは、自己責任。
ならば、全てのプレイヤーの行動は、【ロール】という三文字に片付けられてしまう。
だけど、俺は、ラマンダ君の謝罪は、本当だと思った。
俺が、そう思いたい。
俺は最後らへん【世界】のスキルの件考えてなかったけどな…!
「ラマンダ君。」
「だけど、俺は、君を、許したい、」
すると、ラマンダ君は、やっと頭をあげた。
「…それで、良いのか?」
「良いんだよ。」
「…アーサー。」
「でもさ、選択肢は無かったの所は流石にお前【世界】に執着しすぎだと思ったけどさ、そこらへんどうよ。」
「…すまん。でも、そう言うお前も人許すのに大概めんどくさく無いか?」
「それも、あんな長々と…。」
「………。」
「………。」
4.俺の部屋
こうやって、俺の、とはつけてはいるが、その実、この部屋は誰のものでもない。
そう考えると、この世界にのめり込め無くて、泣きそうになる。
「…タレント。」
「出てこい。【模範騎士】。」
すると、光が俺の体から飛び出して、その光は騎士の甲冑を模し、俺へと傅く。
《【模範騎士】のタレント。》
《ローホルト。》
《此処に。》
「お前の情報を開示しろ。」
《イエス、マイロード。》
【模範騎士】…
『【魔力強化】【魔力強度増強】【筋力増強】【怪力】【韋駄天】【始聖剣】の複合スキル。戦闘時にのみ使用できる。戦闘後に効果が切れる。』
【魔力強度増強】…。
『魔力の密度を高める。』
【始聖剣】…。
『その剣は、全ての攻撃を増幅する事が出来る。このスキルは一度使ったら三十分間使うことは出来ない。』
「…成る程。つまりは、【模範騎士】は実質三十分間のインターバルを置かないと、完全には再使用できないって事か。」
《…。》
「ローホルト。タレントは【武装化】以外に何が出来る?」
ローホルトは、俺に傅いたまま、答える。
《今のような、【騎士形態】を取る事と、【重装化】です。》
「…だいたい、わかった。」
多分、【武装化】しか使わなそうだからな。
「…あの影は、なんだ。」
そんな所で俺は、あの影の正体について、聞いてみた。
《【騎士形態】のタレントであると推測されます。》
《ログより、私以外の武装が、彼に傷をつけられなかった事がその証明です。》
「…【武装化】でないと、タレントへは、対抗できないと?」
《その通りです。マイロード。》
《対抗手段は、現状、それのみとなっています。》
「…そう、か。」
…鍛冶屋は、どうなってしまうのだろう。
これではとてもではないが、市販の武器は売れない。
【武装化】は壊れないし、今のところは、デメリットなど無いからだ。
【第二段階】であっても、壊れなくて便利なのは同じだが、【第二段階】には時間制限があった。
…これでは。
《…恐れながら、申し上げます。》
《【武装化】は、タレントの力によって発現されます。》
「───……。」
《よって、ですが。》
《【武装化】は、タレントのぶつかり合いにて、折れます。》
《…その事を踏まえた上で、ロードの思うように、お使い下さい。》
…決心が、ついた。
この力を、満足に使うための。
「───ありがとう。」
「ならば、行くか。」
《何処へ、でしょうか。》
「…いや、適当。」
5.街道
「話通りの腕前と鎧。成る程、最強と呼ばれるのも無理はない。」
「…私に立ち向かう。どのような理由でか?」
「───決まっている。」
黄金の鎧武者と、【黒天狗】が空中戦を繰り広げる。
「最強を、頂く為だ…!」
槍は旋風を巻き起こして翼を翻弄するが、それをうまく制御して【黒天狗】は接近しようと試みる。
「…効かないぞ。私には、そのような剣など。」
「加速が足りないって、言いたいんだろ?」
一瞬で、目の前に【黒天狗】は移動した。
「───ッ!?」
「お前に、教えてやるよ。」
───咄嗟に、魔法壁を作る【世界】。鎧によるスキルだろうか、無言でもかなりの硬度の魔法壁を作り出されている。だが───。
「【黒天狗】種族アビリティ。」
「【魔滅真空】…!!」
その一言と共に、壁は、初めからなかったかのように解けた。
「───っ獲った…!!」
「【武装化】、【剣鬼】…!」
彼の掌に収まる五尺ほどの黒刀が、一瞬にて、青色の八尺程の刀へと変わる…!
「───消えろ。」
その言葉と共に、一気阿世に刀を振り切る。
「…効かない、な。」
だが、一太刀では傷一つつかない。
「───ならば、何百と重ねるのみ。」
刀が、速度を持ったまま何度も何度も鎧を切りつける。
これは、特に意味がないだろう、そう【世界】は断じた。
実際、この鎧が割れる気配はない。様子を見てみたが…。
「反撃をしても、良いだろうな…!」
「───ッ!?」
嫌な気配が、背筋を襲った。
その時だ。彼は"嵐"を、呼び起こす…!
「はぁッ!!」
槍が振り抜かれると共に放たれた多重の斬撃。
それが、"嵐"である。
───その嵐は、地上にある家を、4軒ほど粉々に破壊するほどの威力を見せた…!
その暴風が残した災禍を、見下げながら【黒天狗】は呟く。
「…成る程、少し、特殊らしい。」
無敵と言って遜色ない鎧。
最強の文字に相応しい槍。
「だが、ならば、それでも。」
「何百、何千、那由多の彼方まで…!」
【黒天狗】は、風が放たれてなお翼を翻して接近し続けようとしたが、突然魔力を前方へと放出し、後方へと下がる。
「…ッ!?」
それは、暴風が際限なく追尾してくる故に。
「…ッ。」
(せめて、アイツが"同調"してくれたら…!)
一刀にて、その風を斬りはらう。
【世界】は、その一刀からタイトの意思を、感じとる。
───最期まで、戦うと。
「───その刀、脆くは、無かったようだな。」
「…ならば、一撃を下そう。」
槍を、深く持って構える。
体を捻るような体制をとって、相手を眼のみで見つめる。
そのような、隙、と断じれる態勢を取れるのは、この鎧と、暴風の追尾性が、彼にとってどちらも"最高"の領域にあるから。
「───【世界】…!」
七二のスキル、その性質を半分も発揮はできていなかった。
「第七十二号封印、解号。」
その力、他のタレントには無い、『展開中に、取り込んでいる全てのスキルを扱える』という力。
「───『暴風世界』ッ!!」
それはついに、破滅を翻す"光嵐"として現れた…!!
嵐から、一つ、二つと洪水の様に大元から分離した小嵐がタイトを襲う…。
「…ッ!」
それは、無数の斬撃。この嵐を受け止めようとする者は、無限に近い剣戟を乗り越えなくてはならない…!
だと言うのに、一つの嵐を凌ぐのみで、タイトの剣は精一杯であるのだ。
「…仕方がない。」
「【騎士形態】、俺を救え…!」
全力でその嵐から後退しながら、タレントを呼び出す。
《しょうがないなぁ…って!》
タイトの目の前に、剣を持った着流しの少女が現れる。
そして、共に自らを取り込むであろう光混じりの暴風雨を見上げた…。
今にもその嵐に呑み込まれそうだ。とてもではないが、スケールが違う。
新幹線のような速さで富士山が飛び込んで来るようなものだ。
《無理でしょ。》
「そこをなんとか。」
《…いや、実際さ、刃が通らない時点で、もうダメでしょ。》
《それにさ、何故か、【衝撃波】とかの攻撃スキルを───ッ!?》
一瞬で、魔力を放出し光の群体から抜け出す。
翼は…使えない。
あまりにも、翼を広げるには攻撃が細かすぎる…!
「───危な、かった。」
《───て、まだッ、ヤバイし…!》
攻撃は、本格的になる。
最高速で後退しているというのに、暴風雨から抜け出した光の奔流が、彼を追う…。
そして、タイトを捕ろうと、それは拡大を続ける。
《しょーじき、無理でしょ。》
《私の力は、あくまでも身体能力を上げるだけなんだから。》
光を潜り抜けながら、彼らは言葉を交わす。馴れ合いのようにも見えるようなやり取りが、その間で交わされた。
「…バカ、言うな。」
《私はバカじゃ無いし。》
「甘えてんじゃねぇよ。」
「ここで負けたら、一生勝てねー。」
そして、彼は彼らを集めた"影"を思い出した。
「アフラには悪いが…。」
「これも、いい機会だ。きっとこいつは表の攻略を始める。」
「なら、この機会以外に、奴に勝てる場など、用意出来る筈がない。」
《…バトルジャンキー?》
「その通りだ。」
いくつもの乱流を躱し、大きな暴風を抜けようと試みるが、それもここらで限界だ…。
───勝負に、出よう。
《【剣鬼】、その力は一刀にて、全てを切り開く事。》
「つまりは、全てを投げうつ事で、最大の一撃を放つ事ができる…。」
「斬り合いの末を望む俺には、勿体無い力だと思ったが…。」
「───頼らざるを、得ない。」
《…なら、許可出してあげる。》
《使いなよ。【剣鬼】。》
すると、アナウンスが、彼の中に流れた。
《……スキルアビリティが、アンロックされました。》
彼の従者は、最後に一つ。
《使うと言うなら、コレを必殺のスキルにしてね。》
《───私なら、こんな状況は易々と乗り越えられるんだから。》
「…はっ、言ってろ。【武装化】、そして───。」
「───【剣鬼】ッ!」
【剣鬼】。
その能力は、剣を鋭くする。
その事に、ただただ傾倒する。
「…辿り着く剣。」
【臨戦強化】。
それにより、羽の筋力が強化され、一瞬の羽ばたきで光嵐へとたどり着く。
「…突き抜け───。」
そのまま、手を振る事で嵐を吹き飛ばす。
魔力を、それと共に放って、衝撃をさらに拡大させながら。
「…ッうぉぉぉ…!!!」
嵐は、手を切り刻みながら、必死に抵抗する…!
「───ぉぉおぉぉおおッ!!!」
…魔力を伴っていても、本来なら、この光嵐を吹き飛ばす事は容易ではない。
【臨戦強化】による、筋力の強化を受けていても、それは同様だ。
「ッ打ち、払え───!」
───だが、嵐は、ここに払われた。
全部とはいかないか、詰め寄るには、充分な範囲を払ったのだ。
…実際に、この嵐を吹き飛ばす事が出来たのは、ひとえに、今まで、必死に時間を稼いでいたからである。
その稼いだ時間が、嵐を消耗させる事に成功していたのだ。
「───ッ!?」
打ち払って、薄い、されどまだ深い光嵐の先に佇む鎧を纏う男は、驚愕する。
なにせ、いくら彼の突進力が高いと言っても、この嵐を打ち払う術はないと思っていたからだ。
…それ故の油断は、彼にとって命取りであった。
「───切り殺すッ!」
嵐は、タイトが逃げていた間も拡大を続けている。そのため、残った距離は目視2キロメートル以上。
…だが、【臨戦強化】であれば。
「───ッアァ!!」
一瞬で、その様な距離も、残った光嵐も、飛び越えられる───!
「【世界】ッ!!」
二度目の、閃光。
だが、それを2キロメートル以上離れたタイトに放ったのは───。
───タイトが、既に自身の懐に来た後であった。
伸び切る腕。
【世界】は、今ここに至って、自身の敗北を察する。
「これで、終わりだ───ッ!」
…【防御無視】を行なった彼の青色の刀が、鎧をすり抜ける様にして、【世界】の身体を、切り取った!!




