エピローグ 完全燃焼には程遠く、囚人は拳を磨く。
1.コロシアム内部
「ふむ、予定は早まったが、まあいいだろう。」
空間に、階段が現れる。透明な空中から、一人の男が歩いてきた。
紛れもなく、ザスター、その人である。
彼は、いつも通りの笑顔を貼り付けながらも、本当に喜ばしいような声色でそう言った。
「…ザスター。」
俺は、ザスターを見上げる。そうか、確かに、この時終わったのだ、と。
女神復活への準備が、一つを除いて、全て、完了したという事。
「ザチャリオ君。」
彼は、ふと虚空に呼びかける。
「此処には、我々側の派閥しかいない。観念する事だね。」
…すると、物陰より、黒髪の男が現れた。
「駄目かい?」
男は尋ねた。
自分は此処で、全てを奪って母国へと戻る腹づもりであると、言外に含めながら。
「駄目だ。終わってからの副産物に期待する事だね。」
待ったをかけるのは、当然。
だが、初めから、海外の者達へは、契約した通り。
ザスターの粒子を、ザチャリオへと忍び込ませる事で、ある程度の服従を可能としている。
「…副産物、か。」
だからこそ、このように引き下がったのだ。
「アーサー、君だったか?」
そして、彼が次に興味を示したのは、器。
どことなく、ザスターとの問答には無かったフレンドリーさがその態度には滲み出ていた。
一応、峠は越えたという事かと、アーサーは少し安堵しながら話をしようと試みる。
「僕が、アーサーですが。」
「ザスターから話は聞いたよ。僕は、どうにも、この契約が信用できなくてね。」
「君の存在を知った時は、思わず椅子からずり落ちてしまった。」
「…僕は、君に、託しても良いのかい?」
その問答の目的は、至極単純。
お前は、果たして信用できるのか、その確認。
その疑念に対して、俺は…。
「託して、下さい。」
託して、くれ、と懇願した。
「はは、その言葉が、聞きたかった。」
「なら、今、此処でやってくれるかな?【戦車】だけを、取り出す事。」
その答えは、行動に示す事だった。
「…少し、チクっとしますよ。」
鈍く、肉を手が搔きわける。そのまま、粒子を俺の手から放出し、【魂】を見つけ出す…。
「…が、ッは…!ザスターッ!これ、大丈夫な奴!?」
「ザタワ君に対しても同じ手法でなったから、大丈夫だ。」
「本当…?いや、それならえぐすぎるよ、流石に…。」
そして、俺の粒子へと情報を、取り出す…。
そのあと、勢いよく手を引き抜いた。
「っわっぷ!?…はぁ、ちょっと、血がだらだら出るんだけど。」
回復魔法はない為、火魔法を使って彼は止血した。
「まぁ、ともかく、これで全ての加護が、アーサー君へと集った。」
ザスターは、一人そういう。
だが、此処から、どうすれば───ッ!?
「俺の、俺の中の粒子が…っ!?」
急に、光り出した…!
「…ッ!?アーサー君!スキルだけ外側に取り出せッ!!」
「じゃないと、"依り代"にされるぞ…ッ!」
「えっ。」
「アーサー君…ッ!」
いや、流石にそんな細かい技術を直ぐにやるなんて無理無理。
俺の体から、光の柱が天空へと伸びる。そして…。
暗雲は裂かれ、地表は眩く輝く…。
───女神が、此処に降誕した。
ってあれ、なんか。
《光の柱から、輝きが、地面へと落ちる。》
俺、意識がある。
だが、目は見えないし、というか体の感覚が無い…っ!?
なんか、その意識も、分解されそう…。
って、そういう事か。急いで粒子で身体を象って復活する。
《それはアーサーの形を成して、蘇った。》
「ラマンダ君の、身体がなったわけか。あの光の柱は。」
「ってうわぁ!?君なんで生きてんの!?」
空から落ちてくる俺を見て、ザチャリオさんは驚いた。
「アーサー君だから。」
その疑問を、謎理論で論破しようとする、が、ザチャリオはイマイチ疑問な顔をした。
「っていうか、なんか、対話イベントとか無いんですか?」
急いで起き上がったけど、光の柱しか出てないんですが。
「あー。実はね。女神っていうのはシステムだから。」
「【魔神王の魂】で受肉させて始めてそういう事が出来るのだよ。」
「つまり、この光の柱を立てるだけで…。」
ザスターが、それに答えた。
あたかも、嬉しそうに。
「君の役割は、此処で終わり…。と、言うわけだ。」
晴れやかな笑顔で、彼は俺への解雇通知を差し出してきたのだ。
「え、呆気なさすぎ…。」
「別に、呆気なくても良いんじゃないかな。」
「だって、今はトーナメントだろう?」
「そうそう、此処でゴネるのも嫌だから合わせるけどさ。やっと因縁が終わったんだ。」
「イベントくらい、楽しんでも良いんじゃ無いの?」
「んじゃ、僕はマーメイの元へと帰るから。精々、面白い試合を期待するよ。」
ザチャリオは、去る。
だが、彼はもう【戦車】では無い。
【アルカナ】は、此処で終わった。そう言うものなのだ、と。
張り裂けた大地。焦げた観客を守る外壁。
この凄惨なコロシアムの姿が、今、目の前の円柱を作ったのだと。
…どうにも、間が悪い。だが、何か言っておかなくてはな、と言う衝動が、俺を突き動かす。
「俺は、いや、俺が。」
…これもまた、一つの物語の、終わりだからだ。
「俺が、この景色を作ったんだ。」
…その光景の中心で、俺はそんな事を呟いた。
…ああ、だけど、さっぱり、締まらない。伏線がそのままのような、そんなしこりが心の中に残ってる。
でも、今はそれで良いのだろう。
あの戦いの日々の中で、俺は。
…俺は、あの日々を、確かに、楽しめていたのだから。
「あれ、でもこの光の柱、一本しかないね。」
2.地下闘技場
「…戦う。」
一太刀のみで肩から先を切り落とし。
「…戦う。」
二太刀にて、四肢を切断し。
「戦う…!」
三太刀にして、首を断つ。
黒翼を生やしながら戦うその様はまさに【黒天狗】。
剣を極めるため、血に塗れし者。
…その、彼の前に、光が。
乱入する観客を全員斬り殺した彼の目の前に、現れたのだ。
「…なんだ。これは。」
この地下闘技場は、コロシアムの真下にある。
ならば、その中心に佇んでいた彼は…。
───その光に、魅せられるのも、また当然。
3.宿舎
「…【世界】。」
そう言っても、何も出ない。
盗み取られたのだろうか?何故、俺の力が無くなっているのか。アーサーはそんな事するはず無いし。
もう、俺には四つのスキルしかないと言うのに…。
「…はぁ、だけど、まぁ。」
「あいつがあんな事を手伝ってくれた手前、俺も、此処でやめる気は───。」
「って、なんだ…!?」
「この、光は…!」
『おまたせしました、マスター。』
『【世界】のタレント、グランド。長き時を経て、あなた様の前に参陣出来なかった非礼を、お詫びします。』
4.コロシアム観客席
「ふむ…。」
夜の剣の担い手は、小さく納得した。
「彼は、有能な人材だ。」
「…引き抜き採用、まぁ、あの二人からの報告では関係は良好らしい。」
「…なら、いけるか…?」
「…表へと、戻ったからな。少しくらい、俺もこのゲームを楽しむとするか。」
そんな、彼の前にも、光が現れる。
「……?これは、製品版の追加要素、か?」
『おまたせしました、マスター。』
「───ッ!?こ、これれれは…!!」
「あっ、理想すぎる。ちょっとやばい。」
『【特殊戦術:現代兵士】のタレント、ジラ。長期休暇を経て、参陣いたしました。』
『ご指示を、司令官。』
5.バゼリ王国 日本サーバー
今日から、晴れて、このVRMMOは始まる。
隠され続けた真実は、ついに解き放たれ…。
そして、その【加護】は、形を変え、人を支える。
真の【ビクトリア攻略】は、此処から始まるのだ!
6.───。
裏のストーリー。それは、余りにも、分散的で、繋がりがなくて、主観性にかける。
それはそれが他ならぬ、【幕間】を抜いているからに、他ならない。
…結局、手に入れたのはスピードだけ。ミドガルズ遺跡から始まるアスガルドまでの攻略。
それにかかる時間は、12時間程もない。
「こんなの、短すぎる。」
暗い部屋の中、椅子に座る者が一人。
「…だから、"改変"する。」
「僕の"部屋"ならそれが可能だ。」
彼が、始めてその権利を持つようになった。
裏を望む流れは、表から始まった。
裏とは何か。表とは何か。
「…壊れた物語なら、ランク4があれば、流れを手繰り寄せられる。」
「エンディングを、持ってくるんだ。」
「それなら、僕の望みが…。」
思い出すのは、β。
「あの、女神の打倒が、望める…。」
βに、囚われる男。




