第6話 "親友"の、為に。
───……俺は、白い、部屋の中に居た。
…あれ、俺は負けた、筈だ。
【世界】の、前回での残り時間が、切れて…。
「…ラマンダ、君。」
《アーサーは、この白い部屋の中に居た。》
《ラマンダは、目を見開いた。》
…アーサー?なんで、こんな所に…。
「君の事情は、聞いた。」
《アーサーは、そう言って顔を俯かせる。》
…はは、そうだよ。
お前とは、始めのその始めから、立場を無視した付き合いだった。
「うん。」
《柔和な表情で、アーサーは応えた。》
お前が俺に教えた、【世界】無しでの戦い方は、無駄になった。
…そして、お前と俺の付き合いは、無駄になる。
「───なんで?」
《アーサーは、不思議そうに首をかしげる。》
…俺が、負けた以上。
俺の力は、俺の【ビクトリア】での戦いは、トロフィーは、失われる。
俺の、仲間との思い出も、失われるんだ。
《俺は、元盟主と呼ばれていた。》
…だから、俺きっと、此処に、戻って来れない。
《それが嘘偽りないと言うのなら、それはβ時代、常に最前線と向き合い、数々の仲間と、数々の発見を共有していた筈だ。》
…仲間の為にかけたβを、俺は…。
《彼にとって、この世界は。》
《いや、彼のデータは、そのまま、彼の異世界での、思い出の証だったのだろう。》
「…そうか。」
《アーサーは、いきなりラマンダを服から取り出した"蒼い"鎖で、繋ぎ止めた。》
……アーサー。
「ラマンダ君。」
俺は、お前を、信じる。
だから───。
「助けて、くれ…。」
1.コロシアム内部
「───聞き届けたぞ。」
「【第四段階】。」
「───【属性付与:炎】。」
───倒れ伏したラマンダの身体を、炎が包む。
まるで、不死鳥の復活のように。
「───ッ!なんだ、それ…!」
一つの、事例を、見た。
「【世界】…ッ!いや、お前は…!!」
体に粒子を紛れさせ、その体を、乗っ取った男がいたと言う。
その、男の名は───。
「───アーサーッ!!」
「───ッ!!」
硬質的な衝撃音がなって、粒子によって作られた炎剣と、手刀がぶつかり合う…!
「…だけど、剣があったところで…!」
『【私は】【離れない】。』
その効果により、アフラは切断されない…。
その結果、片方は素手だと言うのに、剣戟と思わしき攻防が、彼らの間で繰り広げられる…!
放たれる拳を剣で受け止めて、棍棒としての用法で、痛打を与えようとするが、対するアフラも、そんな事は分かっている。
振り下ろすたびに剣の腹を叩かれ、軌道をそらされる。だが、それはつまり片手を剣への対処においているという事。
ならば、と蹴りを放つが、当然それも見越して、手によって受け止められたので…。
頭突きを、思い切り放った。
「後は、貴方を倒せばッ!アフラさんッ!!」
頭を打った衝撃。想定していなかった行動。
それに、アフラの意識は一瞬、かき乱される。
そこを隙とみたアーサーは、炎の剣を思い切りアフラの右腕へと打ち付ける…!
「……ッ!やはり、火傷か…!」
アーサーの持つ剣は、粒子を炎へと感染させる…。
剣は離れない体に打撃を与えるのみではない。その体を、炎へと作り変えながら、崩れない体を焦がすのだ…!
「貴方さえ…ッ!!」
「奪おうとする貴方さえ、居なくなれば、今の【世界】なら、文字通り、世界を変えれる!!」
「───ッ!?」
…アフラは、目を疑った。
なんと、アーサーの持つ剣は、いつのまにか戦鎚へと変化していたのだから…!
そこから、放たれた一閃は、アフラの体へと焔を撒き散らして、灯す!
もくもくと噴き上がる黒煙が、火の戦鎚を、包み込む…!
「…【剛撃】ッ!」
───破壊鎚。
炎は、アフラを包み込んで…。
そして、"砕ける"。
「【紫電掌】…ッ!!」
彼は砕いた。黒煙の炎鎚を…。
「───ッ!?」
…そして、アーサーは、一瞬、驚く。
…だが、歴戦の戦士たるアフラが、その隙を見逃す訳でもなく…!
その打撃は、思い切りアーサーの身体を吹き飛ばした!
「が、は…!ッハァ…!」
アフラの目に、反抗の炎が宿る。
「…───知った、事か…!!」
さらに、地面を一つ蹴ってアーサーへと追いついて、その拳を何度も何度も振るい続ける…!
だが、アーサーも負けてはいない、なんとか剣で捌きつつ、蹴りを入れるタイミングを見計らう…!
「ぽっと出の癖に、僕は、βから居たんだ…!」
大振りの、一撃。
「…ここッ!!」
全力の、膝蹴り。
それはアフラの膝へとあたり、それを突き飛ばす、だが…!
「ラマンダは…ッ!」
アフラは、意に介さずに、せっかく離した距離を、大きく地面を蹴って埋めようとする…!
「ラマンダから、奪うしか無いんだ…!」
彼の目には、少しだけ迷いが生じた、様な。
…そんな気がした。
「なんで、貴方はそんなやり方を選んだんですか…ッ!!」
だからこそ、俺は、思った。
「…【衝撃波】ッ!!」
そんな貴方なら、ラマンダ君の意思を尊重する方法くらい、10でも20でも探せただろうに、と。
「───〜〜ッ!?」
その衝撃波は、飛び込んでくるアフラを吹き飛ばすには至らなかったが、そこで足を止めさせる事に、成功した。
───必殺の、間合いだ。
「消えろ…!俺と、ラマンダ君の前から…!」
───粒子は、更に赤く、紅く燃える。
是こそ、あんたを滅却する焔…!!
そしてそれらは、ラマンダに取り込まれた"アーサーの器官のみから供給される"精一杯の数を、搔き集める事により…!!
「此処に因縁を、焼却する…ッ!」
───それは小さくながら、赤光を放ち、光輝く…!
「止めろ、アーサー…!」
嫌だね、止めないし、あんたはきっと生き残るだろう。そんな事を考えながら、操作を続行する。
…景色が、見えない。周りが光量に溶けて、紅く、目が血でも染まったかの様に、染まる。
───地は溶け、
「【此処に白夜は在り、───!」
───空は染まり、
「僕を、止めるな…!」
───全てのものは、光へと。
「───日輪は顕われる】ーーーーッ!!!!」
そして、灰となる。
「…はぁ、仕方、ないね。」
赤熱は、全ての者へとその威容を見せつけ…。
世界に、色が戻った。
そして、アフラの焦げ跡は、自身の目の前には無い。
「…………。」
その沈黙は、誰のものだったか。
「……───【紫電掌】。」
勿論、両者の物。
「…やっぱり…!」
剣を逆手に、その掌打を受け止める…。
だが、狙われていたのは、手首。掴まれる前に引く。すると拳が迫ってくるので、咄嗟に前へと跳躍し、相手との距離を取って、態勢を整える事を優先する。
「【テレポート】。僕は、【占い師】だぜ?」
あの一撃を避けられた事への種明かしをしながら、実際に彼はアーサーの目の前には現れた。
そのまま、背後への【テレポート】は行わず、蹴りと拳を使って近接戦闘へ移行する。
…どうやら、すぐに背後へ来ない以上は、クールタイムがあるものと思っていいだろう。
「追い詰められる時間を予測して、予めエスケープを置いておくなんて、訳ない。」
そんな誰にでも嘘と分かる事を言いながらも、彼は自分の手を緩める事はしない。
アーサーも負けじと、手に剣を合わせて防御するが、蹴りは流石に無効化できない。
蹴りに蹴りで対抗すると、重心が崩れる。ならば、その時追い詰められるのは自分だから。
だが、姿が、消える。股の間を物が通り抜ける。
どうやら、股抜きをされた様だ。
対処しようと、振り返るが…。
「…君は、見せてくれただろ?」
───一瞬で、振り返った後の死角へと、移動していた。
「なら、今度は僕の番だ。」
───どうやら、俺が振り返る時の首の動きとは逆方向に移動したらしい。
そんな事を思いついても、次の一撃は回避できっこないだろう。
背後から、拳が迫る。
「君は、どれくらい、楽しませてくれるの?」
そうは言っているが、顔には、笑顔が貼りついているだけ。
彼の殺気がこの身を包み込む。だが。
「…貴方には、僕は、負けない。」
背後からの一撃を躱せず、だが、モロに衝撃で吹き飛ぶ事はしない。
魔力壁を、展開する。
つま先に作って、踏ん張る為にだ。
「貴方は、もう、時間切れだ。」
そして、ギリギリ吹き飛ばずにいられたので、この手で、アフラの体に触れる…。
「…何を───ッ!?」
何をするか。それは、至極単純な事。
「燃やし尽くす…!」
───掌は、紅く発光する…!!
「…お前ッ!ぁ離せッ!!」
炎と化した粒子を流しこもうとする所で、アフラは、強引に撤退する…!
だが、俺はそれを許しはしない。
俺のつま先で、奴のつま先に草結びのように結んだ魔力の糸を、引っ張る。
───ブチィッ!!
しかし…奴は、態勢を崩しもせずに走り去った。
この手で止めようにも、ここまで密度の薄くなった体では、正直、接近戦にて骨を砕くくらいでしか勝機はない。
「グゥ…ッ!」
くそ…!身体を構成する粒子を、あの時に放ったばっかりに…!
「ならッ!!」
そうこうしているうちに、彼も俺の掌に対抗する為の策を考案したらしく、その言葉には、覇気が宿る。
そのまま殴ってくるので、なんとか剣で対処すると、それは拳かと思いきや、ナイフ。
彼は、ナイフを指の間に差し込んで、即席のナックルダスターとしたのだ…!
「これなら…防げないだろ…!」
「───ッ!!」
無数の、拳撃が、俺へと打ち込まれる。
…駄目だ。攻撃する隙が見つからない。近距離なら、俺も好む所であるが…!
…ッ!やばい…!これでは…!?
《思い出すのは、【月】の鉤爪。》
───アイツは、どう崩れた?
「アイツは、確か…。」
盾なら、奴の攻撃を易々と防げた…。
…盾を、どう作るか。
(だが、盾なんて…。そうか!)
「粒子を横に、広げれば…!」
剣の粒子を横に広げて、自身を守る盾を構成する…!
【壊撃の魔盾】には、程遠い硬度だが、一撃くらいは、耐えてくれるはずだ…!
「あの時の言葉、そのまま、お前に、返すよ…!」
そんな、期待を持って作り出した盾。
…だが、砕かれる。
炎に塗れながらも、それでも、我が拳は無くなってはいないなら、負けではない、と。
舐めた作りで受け止められる様な拳に、自身は作ったつもりは、無いと。
「…ッぐぉぉぉ…!」
一発、臓腑で食らって。
二発、顔面へと刺さって。
三発、右肩を破壊して、
最後の四発を持って、それは、俺の左足を打ち壊した…!
「…お前に、ラマンダは救えるか。」
…アーサーの身体は、瓦礫へと埋まって…。
…動かなく、なった。
「…死ね…。」
慢心は、しない。
「【衝撃波】…!」
ラマンダを救う方法は、一つしか無いのだから。
───ドゴォンッ!!
…瓦礫を破壊する音が、虚しく、響き渡る。
───ガラ…ッ!
その時に、瓦礫はずれて、そして、人影が、そこから飛び出す。
其の者は、炎の剣を構え、その一歩は、常人の四歩を超えてなお進む。
アーサーは、アフラへと、飛び込んできたのだ。
「───救えるッ!!!」
啖呵を切る。俺は、答えを出せなかったお前とは、違う、と強調しながら。
その炎剣を、肩に構えて、いつでも振り抜ける様に。
「何を無謀に…ッ!」
苛立ちを、隠せない。こんなにしぶとい訳がない。常人なら、もう腹が抉れているはずだ。
それを許さないのは、ひとえにアーサーの粒子濃縮技術が一つの天元に達しているからだろうか。
…とにかく接近させまいと、投げられるナイフ。それを躱しながら接近する…!
とにかく、近付いていくアーサー。
だが、それは、遠目から見ても、悪手。
また、接近戦をして負けるつもりか、と。
「俺が、あいつを…!」
だが、そうでは、ない。
「あいつの思い出を、繋げるッ!!」
切り札は、もうこの"体"に宿っている…!
「【第四段階】…!」
思い出すのは、あの暴風を、導く為の、"光"。
炎は、あまり意味がない。では、光属性ならば、粒子を離れやすくする性質があると、最近になって判別した。
(…これも、ザスターから教わってなくては、知り得なかっただろう。)
「【属性付与:光】ッ!」
炎は、光と変わる。
熱気は、眩い輝きへと、変換される…!
「全部…。持っていけ…ッ!!」
彼の粒子の剣は、増幅され、延長。
今までの全ては、この瞬間の為の、布石に過ぎない…!
「【破戒】×…。」
これは、運命を斬り開く、ルール破りの───。
───究極の一撃。
「───【世界】ッ!」
【世界】の、真骨頂は、"発動"する事ではない。
───黄金の暴風が、剣に纏われる。
剣は外装から眩い光を放ち、それを覆う暴風が、壺状となって、光を一点へと収束させる…!
【精錬極技】にて、"最後の切り札"、として扱う事だ。
光は、此処に輝きを放ち───。
───そして、星光の暴風が、吹き荒れた。
「【<終わりの───。」
72の星光を束ねた一撃。
その一撃は、受けられぬ事を良しとしない。【一騎打ちの誉れ】。
その一撃は、逃げられる事を良しとしない。【結界術】
「…アーサー。」
彼の力、思い出は、ここに集まって…。
そして、発動を前に、その暴風より見えし一点からの光は、さらに眩く、破壊するための力を増してゆく…。
それを前にしても、彼は、アフラは、何も変わらない。
「だけど、僕も、負けられない。」
そう言って、スタンスを、変えようとはしない。
「───擬似、ランク、アップ。」
───負けられないのだ。
【予言】の加護も、ワールドアイテムさえも突き破る一撃。
「【大予言】…ッ!!」
ならば、それを、超えるだけ。
それ、だけだ…!!
「【僕は】【絶対に】【負けない】ッ!!」
不可能だった筈の、三重の加護が、彼の拳へと纏われる。
ゲームシステムも、思い切り、打て、という事なのだろう。ならば。
さぁ、全力で、拳を振るってしまえ───!
「───始まり>】…ッ!!」
拳と、星光。
彼らの拮抗は、大きく、さりとて、短く。
それは疾く、アフラへと辿り着いて…。
「…馬鹿げ、てる。」
アフラの、思いと共に。
「でも、今回だけ。」
「…今回だけは、君に、譲ろう。」
───光は、その心臓を、穿った。




