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【エター】新興VRMMO記【ビクトリア】  作者: 松田勝平
第五部 トーナメント編
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第3話 次元を、一つ越えて。


 1.戦闘ブース内


「そうか、なら。」


 ───ッ…!?


 片手剣を横にし、斧を防いで蹴りを───!



「ナイト狩りは楽なんでな。」


 伸ばした足が、手で掬い取られて…ッ!


「今日の俺の、肥やしになってくれよ。」



 斧が、俺の目の前に来るが、片手剣で防いでもまだ"返し"で両断されてしまうかもしれない。


 だが、やるしかない!



「ハァッ!」


 掛け声をかけて自身を鼓舞し、一度目の斬撃を片手剣で受け止め、弾く。此処で地に足が着いたので、ステップを踏んで───。



 ───頭突きを、放った。


「───な。」


 奴の頭は後方。片手に持つ斧は弾いた。


 これなら、勝てる───!


「まさか。」


 頭を戻さず、無視覚での、蹴り。

 体を押し退けるような緩いその蹴りは…。



 ───数百メートル程行きそうな勢いで、俺を吹き飛ばした…!



「デタラメだ…!」


 吹き飛ばされる中でなんとか手を地面に刺し、そこから1回転程回ることによって衝撃を無効化し、俺はナギトに接近する。



(…多分。俺は今、ナギトを読み切れている。)


(なら、何故俺はナギトより明らかに弱いはずのタイトの剣を見切れなかったんだ…?)





「お前が、何故戦えているのか…。」


「…それはなぁ。」


 ラマンダは、蚊帳の外から呟いた。


「お前が、ナギトにステータスの半分も使ってもらってないからだよ。」




 すっかりと態勢を戻したナギトは、遂に、アーサーが自身と打ち合えるかもしれない、という事に、嗤った。


「…揉むに、揉まれて、まだ足りない。」



「そうだと、見た。」





「───技量には、力量が問われる。」



「ならば、お前は半端者だ。」


 ナギトはそう言ってから、その斧を、いとも軽い様にアーサーの剣に振り下ろす。



(見える。)



 その軌跡は。



(…いや、はや───。)



 流星の如く、アーサーの剣に、それも何発も打ち付けられ───。



(大剣を出して、ガード───!)


 右手に持つ片手剣を吹き飛ばした…!



「終わらねぇよ。」



 ナギトは、嗤う。


 奴の剣は、もう無い。




「そして。」



 取り出そうとする左手も、"間に合わない"。


 意識の解像度が、とても足りないから。


 色素がまだ、彼の景色には残っているから。



「此処で、終わりにしよう。」



 ───【神速】が、今、振り下ろされた。





 視界が、ゆっくりになる。

 あまりの緊迫感、数々と受けた死への恐怖をも上回る、"終わり"の気配。


 歯をガチガチ鳴らす余裕も、泣き言を放つ思考回路も、今は動作しない。


 立ち向かう勇気とは言えないが、いわば生存本能とやらが仕事をしたのだろうか。


(【アルカナ】を、使うか?)


 不意に、そんな考えが頭をよぎる。


(【審判】なら確実だ。)

(【女帝】だってこの状況を打開出来る)

(【魔術師】を使えば奴を黒焦げにせしめるだろう。)

(【塔】を盾にするのも良いかもしれない。)


 自分の、スタンスとしては、それは。


(───だが、それは。)


(うるさい、勝ちは勝ちだ。)


 付け焼き刃で勝って、次は対策されるかも分からないのに。


(それで、満足なのか?)


(満足だ、勝てば良いのだ。)



……──お前の力でも無いくせに、それに誇るのが、俺、という訳か。


「───ッ。」



 …一瞬の迷いを振り切って、俺は、笑みを浮かべる。

 ……どちらにせよ。




 使うか迷った時点で、それが答えだ。



 ───ならば、どうする。


 どうすれば、アビリティジェムでも無く、【アルカナ】でも無く、【第二段階(セカンド)】も無く…。


 この一撃を、避けられるのか…!




(───決まっている。)


 アーサーの身体が、蒼く、光る。


(この身体に、更に密度を。)


 操作は、タイトとの一戦のあの時、あそこで既に慣れた。


 ならば、やる事は至極単純。



『レベルアップは、粒子製造器官の効率上昇…。ステータスの増加は、常に展開できる粒子の数が増えるからだ。』




 身体の粒子の、"一粒一粒"を、圧縮して、濃縮して、強化する…!


 密度を。そして、上限を超える───!


『要は、君の体の粒子が多くなれば多くなる程に、アーサー君、君は───。』



(そうすれば、俺は───。)










『「強くなれる!」』






《アーサー さん が スキルアビリティ…。》



《【思考高速化(ストップウォッチ)】を 習得 しました。》


 【思考高速化(ストップウォッチ)】…

 『思考の高速化を補助する。及び、脳の負担を補助により軽くする。《Level third》以上の難度の粒子の操作、又はそれと同等の難度の何かしらの操作に成功した者が習得できる。』



 ───理解、出来た。




 このスキルは、スキルであってスキルじゃない。"発音する必要性"がないんだ。


 視界が、クリアに、脱色されていく。


 ナギトの斧が、目に迫るのが、見える。


 …身体は万全。脳の処理も、これなら追いつく。


 余計な手間もなく、ただ、ただ、目の前の"

死"を回避する、それだけのために、全力を尽くす───!



 そこからアイテムインベントリよりサブウェポンの大剣を取り出し、片手剣を弾き飛ばされて痺れた右手をそこに添えるのには時間はあまり要らなかった。


 そして、渾身の力を入れて、振りかぶった…!


 ───重い!


 まるで水中の中を無理矢理かぎ分けていくように、俺の中のゆっくりな体感時間と、動かす身体の反応のギャップが俺の意識を焦らせる。


 …そして、その"焦る"という余計な思考が、俺の意識を、元に戻した。


「………っ。」


 【思考高速化(ストップウォッチ)】中に思い切り力を入れた事が影響したのか、俺の剣は、今まで出した事の無いようなスピードでナギトの斧を弾き飛ばした。


 …好機。



 俺は、また意識を加速させる。加速させる、というのは一点に集中する、という事。


 非常に強固な関心と目的を持ちながら、剣を振る事だ。



 剣を、ただ振る。ナギトに向けて、線の見えないような世界で。



   「ナギトォォォォッ!!!!」



 奴はこの世界では指一本すら動かせていない。俺は、勝利を確信する。



 此処で、俺の妄念と共に消えろ…!!





 「───【臨界強化(ブースト・タイム)】。」




 「お前は、どうして到れた。」



 瞬時に奴の手の虚空から現れた斧が、何もかもゆっくりと動く世界で、通常の速さ(・・・・・)で俺の剣を叩き壊した。


 それは、異常だ。


「何故だ。早すぎる。」


 ナギトは納得できない様子で剣を振る。


 そのまま返す刀で俺の首を跳ねようとするが、剣筋が見えていれば避けられる。


 俺はギリギリ首を動かしてその斧を躱し、そこから全力を入れてなんとか普段と遜色なく動いた蹴りで、ナギトを吹き飛ばそうとする。


「お前は、俺の極致に。」



「…脳の動きは、"スキル無し"では加速しない筈だ。」


「だが、お前は、発音すらしていない。」


 だが、俺の蹴りをナギトはパシッ、と、いとも簡単にその蹴りを受け止め、斧を引き戻す時に俺の首を狙いに行く。


 俺は、そこで───。


    「アビリティジェム。」


 切り札を、切った。

       「解放(リンク)。」


 【縮地】の効果だ。


 今の意識ではナギトと同じくらいの、つまりは常人並の速度で、斧の届かない左方へと移動する。


 そこから脚に力を入れて、ナギトへと向き直った。



 ───ドンッ!と、まるで瞬間移動したのかと思える速度で距離を詰められる。



 …だが、今のポテンシャルなら、引けは取らない。


 "俺"の、使い方を見失う事はない。


 【魂装】、それが俺の武器だと、漸く分かったからだ───。


(今の俺と奴との距離は、目測五百メートル程。)


 …粒子は、この身体から常に少量、放出されている。そして、それは世界を"覆っている"。






 …自身の粒子を溜め込み、魔力を、【粒子間のエネルギー】を感じ取りやすくする【第零段階(ロゥ)】。


 逆に放出し、身体の外側で固め、魔力をも通さない絶対防御、絶対攻勢を確立する【第二段階(セカンド)】。


 それとは別に、世界に纏わりつく粒子を、自身の溜め込む粒子を使って書き換える【第三段階(サード)】。







 ───そして、俺が行う【第四段階(フォース)】は、"強化"の極致。






「【第四段階(フォース)】。」


 炎を、この身に宿す。


「【属性付与(エンチャント・):炎(ファイヤ)】。」






 火にあてられた粒子は、それを、その性質を吸収し───。



 ───炎へと、変貌する…。



 《粒子、限定解放(コンタイン・オン)

 《エネルギーロス・13%》



 「…これにて、貴様を、打倒しよう。」





 ───熱が、広がる。





 視界が赤一色に染まったと思えば、眼がそこから光を取り戻すには時間がかかった。


 斧を手に持ちながら、ええいどこだと眼をやると、赤の中に、黒があるモノを見つける。


 赤の中に、佇む、黒を帯びた赫炎。



 "それ"の、銃口代わりに構えられた大剣の先から、赤と黒の絵の具をドロドロに煮詰めたような、そんな歪な光が、まるで溶岩の様に迸り、眼を焼いて、喉を焼いた。



 そして、それは戦闘ブースの燃えないはずの地面に炎をしばらく撒き散らし、灯しながら、"本体"の炎は濃縮されていく。


 …それは、純然たる【赫】となって。



 ───赤一色(視界)が、黒く、染まった。



 赤熱がナギトを包み込む。

 背を向けることすら出来ない。

 足が溶けた。

 逃げるのは無駄だと解る。

 それはこの手に持つ斧も溶けつつあるからだ。


 身体が、溶けて。血潮が、溢れて。

 地面も、溶けて。この熱は、余りにも高すぎる。


 まるで、俺を含めた世界を構成する物(粒子)そのものが、全て炎となっているような。




 瞼を焼く、闇色の暁。





「───【此処に白夜は在り、(ヘリオース)日輪は顕われる(・ブレイカー)】ーーーッッ!!!」





 その光に包まれて、消える。


 全ての者が、物が、此処に消え去った。

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