第1話 【黒天狗】
1.トーナメント受付 (コロシアム)
遠目から、城壁の影となっている受付を見つめる。
…と、着いたな。これはまた、かなりスカスカな…。
「そりゃあな、コロシアムCランクから上しか登録できないらしいし。」
「…って!?お前俺がコロシアムCランクだってこと分かってたのかよ!俺一言も言ってないぞっ。」
「…ああ。あれだよ。『スタン』。」
「…ラマンダ君さ、そうか、確かにあん時は変装も何もしてなかったから気づかれるか。」
と、ようやっと受付が目の前に、というところで別の参加者(一人)が割り込んできた。
「受付は此処であっているか?」
そう言って自然に登録を行おうとするので、俺は少しカチンとしたのである。
「貴方、僕らの前に割り込みしておいて随分と丁寧な口調じゃないですか。」
と、一言言ってやったのである。
「…。なんだと…?」(なんて馬鹿みたいな煽りだ。)
「あ、やる気ですか?さっきの事と言い、随分とせっかちな人ですね。貴方には一人でやるゲームの方が合っているようですね。」
「…おい、アーサー…。」(やるにしては下手すぎるぞ。)
「…別に良いじゃないか、大会にどれくらいの奴が居るのか、気にならなかったわけじゃないだろう。」
「…だからって…て、おい…!」(お前声大きいからコソコソ話でも聞こえてるぞ…!)
俺はその黒髪の男に向き直る。
「やるなら登録した後にでもしましょう。貴方に格の違い、とやらを見せてあげます。」
「…上等だ。ここは強さがモノを言う。吠え面をかく準備を整えとくんだな…。」
少し戸惑いながらもこの男は啖呵を切った。
余程煽りが効いたみたいだ。相手は見事に気圧されてるな…。
2.街道
俺はソロとデュオ、それでトーナメントに登録してきた。
…移動したここは、すかー、と、街道が空いていて、まるでイベントが起きるようには思えない。
その理由は、所々でPvPし合う修羅勢の影響だ。出店なんて出したその場で壊される。
「見たところソロのようで。なら、そちらの流儀に合わせましょう…。」
すると、黒髪の男は、"黒曜の翼"を展開して、飛び上がり、大きな刀を構えた。
「…望むところだ。俺の名は、タイト。」
「───参る。」
空中からの【魔砲】のような、魔力砲撃が続く。それは俺の逃げ場を塞ぐツールである事はすぐに分かった。
「…【魔法剣:黒刀】、【突進】…ッ!!」
【魔法剣:黒刀】…
『光属性に対して一.五倍の特効と、闇属性が付与される。』
彼は、俺に向けて、切り結ぶ気でいたのだから。
まるで爆撃機のような急降下を行なって、俺を追い詰める…!
「【殿の心得】…。」
…だが、この距離で、勝ち目があるものと?
相手との差はたかだか500メートル程度。
「【魔法剣:煌撃】。」
(此処は既に、俺の間合いだ…。)
(…バカにするのも、大概にしろよ。)
「【異形狩りの妄執】…!」
(ここで負けたら、お前は、余りに無様───!)
「【衝撃波】ッ!!」
そうして放たれた巨大な光の剣閃は…!
「…。」
「───その、程度か。」
ピッタリと、黒刀はその剣閃に合わせられ…。
いとも容易く、消滅したのだ。
(姿勢制御のし辛い空中で、俺の太刀に完全に合わせる…。)
(…コイツはかなりやる、これは、大恥をかくのは俺の方かもしれないな…!)
「【全属性魔法弾】ッ!!」
ならば、軽く、弾幕を作ろう。
「…成る程、だが。俺とてこの翼がある限り飛び続ける訳では無い。」
「威力範囲拡大…。」
「【衝撃波】!」
剣を振ることにより放たれた一撃は、アーサーの剣閃より十倍ほどの範囲となり、放たれた魔法弾を残らず食い尽くす。
アーサーは負けじと【魔法弾】を放ちながら街道を後ろへ後ろへ後退するが、タイトは地を蹴るにしても空を飛ぶにしてもアーサーを軽く追い抜かすほどのスピードを誇る。
そこから暫し、黒い【衝撃波】と白い【衝撃波】が拮抗していた…!
(相手の底は見えない。)
(翻弄するには【アルカナ】しか無い。)
(だが、それではダメだ。加護に頼っていては、いずれは無様に負けるだろう…。)
(───ならば、どうする?)
「アビリティジェム…!」
「解放ッ!」
…彼は、次にポーチの中の宝石と、アイテムボックス内の大剣か迷って…。
「…【極光】ッ!!」
───大剣を、引き抜いた。
そして、それは、銃口となる…!
そこからロクな調節も無しに放たれた光は、タイトの体を包み込んだ───!
…一方、光に飲み込まれたタイトはというと、必死に魔力を放出して自身をも飲み込みかねない光を減衰させる…!
「…そうか、成る程。【勇者】というわけだ。成る程、だからここまで…!」
「…出力に差がある、そういう事か…!」
アークデーモンでさえ、何も対抗できないこの必殺を、耐えられる事自体が既に偉業で異常であるのだが…!
「遊びは終わりだ、【縮地】ッ!!」
こんな威力勝負に付き合ってはられない、と白い光を飛び出す、するとアーサーの方も光を止めて、"潜伏する"。
…"潜伏"…?何処に、此処は、開けた街道なのに?
そう、そんな場所であれば潜伏など出来るはずなど無い。ならば、此処は、どうなっている…?
「これは、煙か…!?」
いつのまにか、解放していた。タイトを包んだ【極光】の白い光を、ブラフとしたのだ。
───そして、此処に不可視の一撃が、迫る。
『…アビリティジェム…!』
それは、聞こえない。聞こえるはずがない。故に不可視。
既に発動していた、遅効性の【サイレント】、それが彼の切り札。
『解放───ッ!?』
しかし、不意に、その"不可視"は、タイトが背後に視線を向けた事により、破かれた。
(何故、今、お前が、俺を発見できた…!?)
既に、【縮地】により、体はタイトの背後にいる。だが、タイトは決して視線を俺から離さない。
これは、駄目な予感が───!?
「俺には、魔術なんて意味を成さない。」
「小手先に頼ったまま、死ねよ。」
剣を振り下ろす時、ほぼ一瞬でタイトは刀を構えて、こちらへ向き直り、その黒刀は、アーサーの剣を捉えて、吹き飛ばした…!
タイトは無手となったアーサーに返す刀で肩から先の右半身を、切り落とす…!
(見えな、い…!?)
見えない。サッパリと。体で、"切られた"と分かるのも一秒くらい遅れてる。
だが、右半身がずり落ちる中で帯刀していた片手剣を左手で強引に掴むと、それをアーサーは、片手で"投げた"。
(アガサから教わった投擲術…。此処で役に立つなんてな…!)
更に身体中の魔力を捻り出して、全ての【魂装】を前に集めて、巨大な、『混ぜ魔法弾』とも言える魔法を想像する…!
『それと、全弾持ってけ…!』
『【全属性混成魔法弾】連射…!!』
それらの脅威を見て、彼は、無造作に剣を振って、先ずは片手剣を落とす。
「…【魔砲】。」
そして【魔砲】を打って威力が減衰した【魔法弾】を黒刀で、切り取る。
…それだけで、アーサーの放った最後の一撃は、処理された。
『【衝撃波】ッ!!』
「───ッ!?」
…聞こえない筈の声は、タイトには聞こえる。
だが、アーサーが素で音を消して、それも片足で歩いてくるとは、想定出来なかった。
背後から、光がタイトを包み込む。
「あの一撃ですら、目眩し…見事。」
「…だが、最後の剣が、それではな。」
不意をついてなお、タイトにとっては余りにも低速な一撃は、簡単に掻き消されたわけだが。
「………口程にも無いな。【衝撃波】。」
黒い衝撃波は、片足のアーサーの胴体を更に引き裂く事で、職務を全うする。
だが、まだ、その衝撃波をくぐりぬけたアーサーの投げた片手剣が、彼の前には残っていたのだ…!
「…そんなもの、脅威には…ッ!?」
タイトを見つめるアーサーの目は、既に、"結果"を見据えている…!
…並々ならぬ不安がタイトを襲った。
(…必殺の一撃とは、不意をついてこそ。正攻法ではどうしようもない奴が相手なら尚更だ。)
(【魂装】を、剣に纏わせて、アイツが油断したその瞬間に、"飛ばす"。)
飛来した片手剣は、黒刀によりあえなく撃ち落とされる。
だが、撃ち落とされる、その前に、片手剣より"分離"した、剣先を模す【魂装】は…。
───容易く、黒天狗の心臓を抉り取った。




