第14話 バーサス
《検証中…。【屍魂吸収】を発動しますか?》
〈"荒れた白い大地"に、無機質な音声のみが響き渡る。〉
《YES/NO》
そこで、力なく。
王権所持者は【否】と答えた。
1.『月面の黄昏』
「…【月】ォォォッ!!!」
【アーサー:不滅の魔神王】
レベル、1。
2.『不可視の宮殿』内部
「侮ったな、【星】ッ!!」
見るも止まらぬ大質量の連続攻撃が彼に迫るが、ザスターは何も慌てる事なく淡々とその言葉を紡ぐ。
「【王命】…。」
それは、束縛の意思。
唯一万象を従わせることができる、王権の証。
それらは、【女帝】の体、武器、全てに纏わりつき、溶けた。
「実行せよ。《停止》。」
そして、彼女の身体は、いとも呆気なく、あっさりと、停止したのである。
剣を振り被った体勢のまま、彼女は思考する。
(【王命】は、支配の能力、だったのか。)
───ならば、尚更の事、手は一つしか打てないでは無いか。
「【女帝】ッ!!」
「…ッ。無駄だ。『君の能力は、停止させて…』ッ!?」
「…あぁ、確かにな。【女帝】は、停止している。」
「だがな。我々の【アルカナ】の能力は、世界に対しての能力だ。」
「世界に与え、世界は凹む。」
「…ならば、"常に"【アルカナ】を世界に適用してきたので、あらば。」
「───逆に、世界の側が、勘違いして、発動する。」
───剣が、動き始めた。
【王命】をも無視して。
(【アルカナ所持者】の要請が、世界を動かしたのか…!)
「…やはり、いや、さっきのは博打だったが…結局は、お前の能力は、指示を身体に無視させるだけだ。」
「世界を支配し得る能力では、決して無い…!」
(スキルキャスト、【家具設置】。)
「【振り子斧】ッ!!」
一つ目の斬撃は、突然、空中に現れた斧に弾かれる。
…だが、二刀が、ここに幸いしたのだろう。
二つ目の斬撃は、確かにザスターの左腕を切り飛ばした…!
…だが、振り子のように前後するその、大質量の斧は、【女帝】の右半身を腕ごと切り飛ばしたのである。
「…くく、は。」
「…その力、もっと、他の事も出来るのだろう、な。」
「…私は、初めから終わりまで、遊ばれていたのだな。」
…敗者にかける言葉は、何もない。
彼は、粒子へと変わる【女帝】を静かに見送った。そして、その後。
「…【攻性防壁】。」
───間髪入れずに、この広い空間のあらゆる場所を魔力針が貫いた…!
「……ふむ。そうか、邪魔者はいないか。」
この部屋は何処までも不変を維持する、まるで、その言葉を肯定するかのように。
「アーサーくんは、もう囚われているようだし、地上の様子から見ると、【魔術師】は【第三段階】の中か死亡で居ないはずだ。」
「ならば、ここを遠目から撃ち抜くような芸当が出来る者を気にする必要はない、か。」
「…とにかく身体の欠損は、直しておかねば。」
そこまで言って、ついに彼は術式に取り掛かる。…【魔術師】が【女帝】への援護の為に打ち出した【審判】の所在を忘れて。
「【星】、【王命】。」
…そして、先程偶然にも、【星】の背後に【審判】は登場したのである。
「私の血よ、肉よ、骨よ───。」
小声にて、呟く。
「【焉撃槍】×【暗黒撃】。」
全てを見ていた彼女は、
それを見ていた上で、聞いていた上で、彼が、慢心しているかどうかを確認していたのだ。
…その言葉をコードとして、世界は彼女に力を与える。
───さぁ、ここで、チェックメイト。
「───【<深淵に馳せよ、我が怨槍>】…!」
その、龍を模した一撃は。
───すっかり警戒を怠った男に冷然と突き刺さって、"それ"をバラバラに散らした。
3.『月面の黄昏』
地に伏せた男が立ち上がるのと同時に、この空間の支配者は現れる。
(…欠損が治っている。つまりは【魔神王の魂】によるもの、ならばその手足はあの時の俺の様に不完全の筈だ。)
「…アーサー。お前を今度こそ、討取らせて貰うぞ。」
「…!」
そう言われるとアーサーは体を持ち上げ、しばらくして【月】へと向き直る。
「…ッ何故、俺の、邪魔をした…!」
「…決まってるだろう。」
「───ストーリーを、進めるためだ。」
そう彼は、堂々と言い切った。まるで、それが最善であるという様に。
「…ふざけるな。ふざけるな。」
怒りが、ふつふつと湧き上がっている様な形相が【月】へと向けられた。
「認められるわけ、ないだろう。」
そして彼は剣を抜き、構える。もはや我らに言葉は不要だとして。
「"たかだかそんな理由"で、お前は俺の、俺たちの…!」
その様は、八つ当たりか、それとも、玉砕か。
「ク、あ、あああああッ!!」
「───【魔法剣:混聖】!」
そして、【衝撃波】に似た剣閃の塊が、放たれたのである。
それを自棄と受け取った【月】は同じく鉤爪を構え、その一撃を易々と受け流した。
「───【模倣】、【第二段階】…!」
「『終焉の稲妻』ッ…!」
そして彼は、三度飛べば追い越せる程の間合いの中、その間合いでは最も必殺となる一差しを構えた。
…アーサーによって生まれたこの勝負の結末は、この時点からはっきりと分かっている。
"アーサー"にすらも。
…激情に駆られた様子のアーサーにより、両者ともにクロスレンジまで接近した格闘戦が始まる、が、アーサーのその思考は何処までも勝利を追い求めていた。
手に持つ片手剣を振り、その衝撃波に『終焉の稲妻』を任せて、蹴りを入れようとするが、その意図を読んだかのように【月】は一歩後ろに下がり、『終焉の稲妻』を発動、それは『壊撃の魔盾』によって防がれる。アーサーはここで効果を発動しようと試みるが、その目論見を外す様に【月】は『暗黒騎士の甲冑』を身に纏い、接敵。
そして、そのまま、剣戟のみが続く。
───キィンッ!
蹴りも織り交ぜられる、二刀、それと一刀と盾の勝負。
鉤爪の手数を盾で弾き、剣で切りつければ鉤爪により防がれる。
そこから何度も何度も、上段、下段全て織り交ぜてお互い隙を伺う。声も無き連戟、既に彼らはともに"必殺"がバレている。ならば、十全とした隙がなければ当てる事すら容易い事ではない。
だからこその無言、無考、無心。
…そこからさらに八合。やっとのこと相手の剣戟の速さ、巧みさに慣れたアーサーは甲冑ごと【月】を蹴り飛ばし、片手剣を鞘へ戻し、持ち前の超重力と長刀身が売りの剣へと手を伸ばす…!
「アビリティジェム…!」
「解放ッ!」
「…!【模倣】。」
「【縮地】ッ!」
───そうして、お互いがお互いの背後に出る。
彼らはお互いに【縮地】を持っていることが露呈しているのも、この拮抗を作る要因となった。
「…アーサー、俺はこのまま千日手でも構わないが?」
そんな頓着状態をを肯定するかのような【月】の声を無視して、アーサーは思考にふける。
(…奴との対戦後、ザスターと共に開発した【魔法剣:混聖】の能力は、任意発動型の威力劣化版【衝撃波】…。)
「【模倣】【第二段階】『暗黒騎士の甲冑』。」
再び、甲冑を纏う。
【魔法剣:混聖】…
『①発動した武器の攻撃力を〇.八五倍する。②さらに任意で【衝撃波】と①の効果を発動する。この効果は、既に一度詠唱していれば無詠唱で行える。』
(アイツが『終焉の稲妻』を使っているうちは、奴に防御不可の一撃を与える事が可能だ。)
(今は、不可能…。)
「行くぞ、アーサー。」
地を蹴る音と共に、速度のせいか影しか見えない彼の鉤爪による剣閃を盾で受け流し、大ぶりな動きで大剣を振り回す。
相手が生身ならこれが必殺となるのだが、【第二段階】は物理に強く魔法に相性が悪い、奴が全身をも覆う甲冑を身につけた今ではダメージを与える事すら難しいだろう。
…だが、剣速によって吹き飛ばす事には成功した。
ダメージを与える為には、この盾の能力を利用して甲冑を引っぺがす必要があるのだ。
(…読み違えるな。ここで勝てば、俺達の計画は成功し…。)
(───俺が、女神を討てる。)




