番外編 日常の一部
1.ザスターのギルド ギルド長室
「…アーサー君、君に技術を教えようじゃないか。」
…目の前の紳士然とした男はザスターという。最近は魔物を狩っていてもレベルがあんまり上がらなくなってきたので相談に来たらこれだ。
「レベルが上がらない、ということはステータスが高いからだ。スキルへ経験値のリソースがいっているため、レベルアップが出来ない。」
俺がザスターから貰った【スキル秘伝書】は、【頑丈増強】【切断補正】【破壊耐性付与】【反発強化:地面】。
現在の12個のスキルだけでもこんなにレベルが上がらなくなるものかと実際疑っている。
「まぁ、だから君にステータスが関係ない技術を教えようと思ったわけなのだよ。」
「…さてと、君はまず【魂装】を知覚しなければならない。」
「君は、【魔法弾】を撃ったことがあるかね。あったら手の平からしか出ないことに不満を覚えている筈だ。」
…息をもつかせぬマシンガントーク。俺は聞き取るだけで精一杯だ。
「【魂装】はそれを解決してくれる。まぁ、見ていたまえ。」
「…【魔砲】。」
---ドゥゥンッ…!
奴の手の平からレーザーが出た。すっごく速いビームだ。
それは壁に着弾。爆発する。
ギルド長室の壁が壊されるのを呆然として見つめる俺を、得意げに奴は見ていた。
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【魔砲】…
命中したら自身の魔力値×レベル×〇.〇一のダメージを与える魔法攻撃を最大1キロ以内の相手に与える。(このスキルはレベル二〇〇以上は成長することはないが、魔力値は無制限に計算式に適応される。)
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壁を躊躇無く奴が破壊した事に俺は固まる。が、そんなのは御構い無しに彼は話を続けた。
「この【魔砲】は、射程が伸びれば伸びるほど必要魔力量が増える。」
…いや、壁を壊した事については?
…なんか、屋外にまで貫通してますけど。
「…まぁ、そんなことは【魂装】とは関係はないのだがね、この【魔砲】は【魂装】を意識すると…。」
ん?今度は何だ---?
「---全身から生やすことが出来る。」
ドドドドドドドッ!!!
…ザスターの全身からレーザーが出た。
「アバーッ!?」
無残に焼かれた俺は死んだ。
…薄れゆく意識の中で、ガラガラと崩れ落ちるギルドの音が聞こえた。
2.訓練室
…その後、ギルド長室でいきなり【魔砲】をブッパしたザスターは怒られたらしい。ちょっと不機嫌だ。
「…ふん、私の崇高な考えが理解できないかね。まぁいい。」
こっ酷く叱られて随分とご立腹だ。こんな時は別の話題を振るに限る。
「…ザスターさん、【魂装】って結局どう意識すれば良いんですか?」
その質問の後、彼は今までブツブツ言っていたのをやめて、風が起きるほどの速さで俺に向き直った。
「…あぁ!答えようじゃないか。」
ザスターは中々に調子が良い奴である。
「体の周りの【魂装】をちょっと魔力で動かすのだよ。それで分かるはずさ。」
…っと、今までの思考を無視して、ザスターの言う事を実践しようとする。
…目を閉じて、体を覆う【魂装】を意識…っ!?
…【魔法剣】を持っているからか、案外簡単に出来た。体を纏う魔力の塊、そこを通して魔力を打ち出すのか…!
今なら、あの技が出来るかもしれないっ!
「『五大属性魔法弾』連射!」
ドバババババッ!!---バゴォォンッ!!
俺の渾身の一撃は、充分な飛距離を保ちながら壁に接近、『相乗効果』を生み出し壁を破壊した…!
---ぱち、ぱち、ぱち。
「…その様子だと、【魂装】を知覚できたようだね。それは重畳。」
…あっ、ザスターさん。
…よく考えたら、許可なくぶっ放したわけでこれってセーフなのかよくわからない。
「だが、壁を無断で破壊したのは頂けない。これからは馬車馬の如く働いてもらおうじゃないか…!」
怒ってるーっ!?
---いや、でもアンタも似たようなもんだけどなぁ。
…そんな思考は無視して、俺は蛇に睨まれたカエルの如くその場で頭を下げるばかりだった…。
3.バザー
その後、俺はバザーで得物を探していた。
…最近、直剣だけでは威力が足りないと感じていたのだ。剣、大剣を巡って探す。
---鍛冶屋の群れが俺を襲った。
「これ買わないですか!?」「今なら500…!」「ね、ね、良いでしょ!?」「盾もあげるから!」
ひええ。こわいよう。
必死なそのセールスを断り、俺はとにかく重い剣を探しに行く…?
不意に、肩を叩かれる。
「は、話だけでも、よろしいでしょうか…!」
…まぁ、良いだろう。闇雲に探すよりは事情を話して紹介してもらった方が良いのかもしれない。
「…わかりました、何処でしょうか。」
「あ…っ、ありがとうございますっ!」
俺はその女の子に連れられて行った。
4.ギルド〈乱数調整〉
…バザーから出て、街の中を少し歩いたらあるでかい建物。これが彼女の工房らしい。
「実際は私のではなく、ギルド共用のものなんです。まぁ、それよりもオーダーはどんな剣ですか?」
「…あれ、なんで僕の得物が分かったんですか?」
「腰にかけてあったので。」
「…そうですか、なら、"大きくて重い両手剣"と"重心が先端に集まっている片手剣"を下さい。」
「お題は一八〇〇〇Gです。それで取り回しは大丈夫ですか?」
「これでも【片手半剣】スキルは取っていますから。」
「…わかりました。では…【短縮制作: 鍛冶】!」
…ぽん。
そんな間抜けな音を立てて俺のオーダーした剣は完成した。
さて、取り回しは、と。振り回して試すが、やはり先端に当てれば相手に大ダメージを与えられるのは戦術的に良い。高すぎる威力がブラフにもなる。
でも、この黒っぽい色は『魔鉱石』では?
彼女は淡々と聞いてきた。
「どうでしょう。片手剣は先端部に半月状の刃を取り付けたのですが。」
「…それよりも、これ『魔鉱石』ですよね、なんで僕が魔法剣を使うと分かったんですか?」
その鉱石は魔力を通しやすく、【魔法剣】に適している分、少し脆い。
普通ならその強度の低さを危険視して、相手が【魔法剣】使いでないのなら、よっぽどの事使いたがらないはずだ。
「…残念ながら、鍛冶屋は人に合った製法をそうペラペラと喋るものではありません。」
「ヤスカッタカラダシ…。」
…ジブリールは何か、ボソッと呟いた。
「…そうですか。それは置いといて、この出来は素晴らしいと思います。名前を教えてもらっても?」
「…ジブリールです。これからもご贔屓に、お客様。」
何気ない会話をしながら俺は出口へと案内してもらう。この工房は鍛冶成功確率アップのための設備が多すぎてとても迷うからだ。
「…それにしても、なんでバザーで出店はしないのですか?」
「非効率です。バザーは。」
「バザーは玉石混交。それでは石に玉が埋もれてしまう…。」
「私には、そんなバザーが良い商品を生むとは思えない。」
「…そうですか。残念ですね。」
「…?バザーに来なくとも、私は【短縮制作:鍛治】を持っているほどの鍛冶職人だと自負しています、貴方は初めての客なので配達サービスくらいはしますよ?」
「…いや、距離の問題ではなく、あなたがバザーに行かないことに、ですよ。」
「へ…?え、えっと。バザーは非効率---」
「あなたはバザーで大きくなっている鍛冶ギルドを知っているはずだ。」
「…僕にはあなたの近況を含めた話は出来ませんが、あなたはバザーが非効率だと言ってバザーから遠ざかる理由にしていませんか?」
ジブリールは何も言わない。
「もし、バザーに出店するのなら呼んでください。あなたの腕なら何処でも大成するでしょうから。」
「…これ、お題の一八〇〇〇Gです。」
…俺はジブリールに見送られながらギルドを去った。
いつか、連絡があったら良いなぁ、…あっ!?
た、大剣の方の取り回しの確認忘れてた…。ど、どうしよ、もしも取り回しが合わなかったら…。
…今日は、心配事が増える一日であった。