第11話 前座
1.戦線 地上
「まずは、その外套を引っぺがすッ!」
「『収束』『炎』『竜巻』『五重』」
ここは戦場、手を出されないように、人払いの意味も込めた、広範囲の一撃。
「【焼却---!」
此処では、撒き散らすのだ。
「---世界蛇】ッ!」
…その蛇は、王座を喰らう。
一見何もない空へと放った一撃は、城を覆う城壁を浮き彫りにした…!
「…見えましたよ。不自然な防御壁ッ!」
だが、その自信に満ちた言葉とは裏腹に、彼らは隠れて此方を疑う者への警戒を強める。
…始まりの日に、集まった彼らは、当然β版から散々見ていたザスターの居城の真実を知っている。
"魔力障壁迄は隠匿出来ない"、という事実を。
…その事に、あの用意周到な彼が、目を外すことはないだろう。
…この予想は、事実だ。それも確定。
「【忍刀:麻痺】。」
実際に、彼らは仕掛けて来たのだから…!
「【第二段階】---!」
---ガチン!!
レイザドを守るかのように立ち塞がる【審判】から吹き出す不完全な青い閃光がその一太刀を防ぎ、弾き、吹き飛ばす。
…だがそれは予定調和。彼女は空中を回るようにして姿勢制御を行い、猫のように着地する。
「---【瞬間強化:速度】
弾丸となり飛び、この身を一つのクナイとする。
…そして、その身を睨む忠義の徒がここに一人。
「---『暗黒騎士の甲冑』ッ!」
---ガギィィィンッ!!
鉄同士が擦れ合う戦場特有の音。
暗殺者に対抗するのは暗黒騎士。
「行ってください!」
その言葉に、【女帝】は応えた。
「【女帝】ッ!」
【女帝】、【月】。
重力が、"彼ら二人"のみ反転する。
「【模倣】【第二段階】…!」
そして、【月】から放たれた青い光が、【女帝】に引かれていない方の手に集まる---。
「『終焉の稲妻』ッ!」
---………ゥドゴォッ!!
---青い"破壊"は、アンカーのように『|不可視の宮殿』へと突き刺さった…!
それを確認していたミラは、一瞬たじろぐが、戦力の価値としては【魔術師】の方が上の事を思い出す。
(…見逃す、しか無い。)
【月】は脅威だが、【星】に勝てる道理は無いだろう、と。
まず、"餌"である城がやられるのが、駄目なのだ、と。
…そう、断じたのだった。
2,『不可視の宮殿』内部
トッ、トッ…二人分の着地音。
そんな彼らの目の前に佇むは、紳士然とした男。
「ようこそ、私の宮殿へ。」
だが、その言葉を遮る様に月は威圧交じりに言う。
「…アーサーを出せ。」
「駄目だね。」
瞬時に行なわれた返答には迷いの一切が無い。
…その語気が、今まで未知数だった【星】の本気を、彼らに悟らせた。
「…【月】、行け。」
【女帝】は、双大剣を構える。
それに対して【星】は何処までも自然体。
「【攻性防壁】…!」
ノーモーション。ノールック。
それにより起動を悟られまいとするが、彼ら歴戦の強者には文字通り微塵も効果が無い。
「【模倣】【縮地】ッ!」
「【女帝】!」
その証拠に、彼らを囲うように広がる魔力の檻を、【月】はいとも容易く抜け出した。
…戦闘が、始まる。
ザスターが此処で重視したのは防御。
簡単な話、彼ら程の技量を持つ者二人を一度に相手は出来ないと断じた為だ。
「ぜやああぁぁあッ!!」
重力を支配する事は、即ち重量をも支配すると言う事。
3度にかけて振るわれたその重い一閃は、まるで紙切れのようにザスターの張った結界を大きな音を立てて引き裂いた。
---走る、走る…!
それは敵からの逃走では無い。首領を追い詰めるための疾走。
だが、走りながら彼は一つ言葉を残した。
「…っ、頼むぞッ!」
…と。
それは元気付けか、念押しのつもりか。
だが、声は何処と無く焦りを孕んでいた。
それは【月】は、些かの不安を抱いていたからだ。
戦況を正しく見ていれば、これは完全なる窮地…!
(アーサーが、いつ【魔神王の魂】を使うか分からない…!)
【屍魂吸収】。
それが、発動してしまったら奪還など出来ずに敗北となる。
つまり、敵の匙加減で勝利と敗北が決まるのだ、馬鹿げている。
…そこから、戦力的には此処で最も処理すべきはザスターである。それは彼が落ちればこの宮殿は崩れるからだ。
彼のワールドアイテムがこれである事は【アルカナ】全員が既知であるため、分かっているし。把握している情報である。
(今はその把握した情報が煩わしい…!)
最善手が、最良と言える場合は少ない。
何故なら、今回の勝利条件は【魔神王の魂】の奪還であるからだ。
…彼は、今ここでザスターを処理できない事を苦々しく思いながら、【月】は奥の方へと進む…。
「…良いのか、ザスター。」
【女帝】は手に持つ超重量の双大剣を軽々と構える。それは、【女帝】のポテンシャルが成せる事。
「良かったに決まっているとも。それに…。」
無感動に、ザスターは告げた。
「この状況は、アーサー君自身の望みだ。」
…彼は言外に告げる。お前らは、盤上で踊らされているのだ、と。
「…そうか。」
「だが、私達も、この意思をここで終わらせる訳には行かない。」
…【女帝】は、始動なく、背、上、下から放たれる【攻性防壁】を易々と斬り払い、なんの躊躇いも無く進撃する。
そうして睨み合った彼らの視線は交差して、宮殿全体にその緊迫感は伝染する。
今ここに、【アルカナ】同士の戦いが始まったのである。
3.『不可視の宮殿』最上層
…階段を上り、廊下を渡り…。
もうそろそろ二十分は体感で立っている頃。
幾重にも重なる階層を超えたにも関わらずその顔には疲弊の文字はない。
(…最上層。)
…ただ、彼は彼自身の標的を抹殺するのみである。
…そこの、扉を開け、
【月】は、高い、高い所にある玉座を睨みつける。
「…此処にいたか。」
「【模倣】【第二段階】…!」
青き光が、彼の掌に固まった。
「【終焉の稲妻】ッ!!」
---瞬間、暴風。
突きと重なって、螺旋を描く青い閃光は、玉座に座る勇士を貫かんと直進する、が。
「…【第二段階】。」
「『圧壊の魔盾』。」
…閃光は盾により阻まれる。
「…弱い。」
彼は、王となり得たのだ。
「これが、【アルカナ】の強さか?」
その響きには、侮蔑などは無く、ただただ人を統べるに相応しき、威圧があった。
《アーサー:人族(レベル453)》
「…余り強い言葉を使うなよ。新人。」
【月】の目に映るは玉座に座る男、が。
「虫ケラの抵抗ほど、目を瞑りたくなる物もあるまい?」
…彼の目に、【月】が映っているかは、定かでは無い。
---こうして、真に戦いが始まったのである。




