第10話 決戦準備
1.戦線地下 塹壕
…粒子が固まり、人間の形を成す。
それを見つめるのは【魔術師】達、反逆のアルカナ達だ。
「…粒子の色に、赤が混じってないということは…。」
その指で彼は眼鏡をかちゃりと上げる。
「…フン。私のせいじゃないぞ、まぁ責任の一端は有るのは確かだが、な。」
そう言って彼女は首をすくめる。
「責任のなすり付け合いとか程度がすごい低いですね!?」
暗黒騎士の一言に彼…レイザドは知らん振りをして、
「…ま、まぁ、今回は、運が悪かった、という事です、ね。」
…こう、落とし所を作った。
いつもオチを作るのはレイザドの仕事だ。
「…はぁ、そこらが落とし所か。」
「作戦に不備は無いと思ってますし、実際即興であの汚修道女を私とタイマンさせて、魔神王と分断できたのは良い展開だと思います。」
暗黒騎士は軽い口調で敵への毒を吐きながら淡々と展開の説明をした。
どうやら勝利にはこだわっていないらしい。
「…皆、【魔神王】の奪取に失敗した。」
そこに現れた【月】は、今回の作戦の失敗を告げるが、三人ともまるで意を介さず、口々に自身の意思を示す。
「知っていますよ。」
「言わずとも分かる。」
「で、首尾はどうなんですか?」
…最後の、『首尾』に答えるべく、【月】はほんの少し思案するが、結局事実は事実のため、諦める事とした次第だ。
「…【第三段階】を見られた。」
…立ち上る、暗黒のオーラ。
「「「ギルティ。」」」
それは見事なるコンビネーション。
なんと、声色やタイミング、更には『ィ』の伸ばしまでも全て揃えているのだから恐れ入る。
(終わった。謝るしかねぇ…!)
「…ごめん…ね?」
彼らは圧倒的に気持ち悪い、男による上目遣いによる謝罪を見てしまったが、そんな事より責任追求を行う事にした。
「幻滅しました。反対勢力辞めます。」
「子犬ぶるんじゃ無いッ!」
「オワタ。これは詰みましたね。」
…それぞれが、それぞれの落胆を見せる。だが所々おふざけムード。
「…俺が悪いのは分かってるけど、とりあえずふざけるのもいい加減にしろ。」
「ふざけた戦果持ってきた貴方が何を言うんですか…。はぁ、全く…。」
「初見殺しをうちのリーダーが敵に見せてきた挙句、任務にも失敗した件について。申し開きはあるか?」
「…まぁ、それはそれで、もう終わった事ですから受け入れましょう!」
2.『不可視の宮殿』内部
…運が、無い。
私は玉座の上で思案する、むしろいつまでも此処で思案したいが、何しろ時間がない。
「…ザスター、僕は彼らを迎え撃ちます。」
…私のワイルドカードを、今は宥めなければならないのだから。
「アーサー君。待ってくれたまえ。」
「私に良い考えがある。」
3.戦線地下 塹壕
騒ぎ立てるレイザドと【女帝】…ラギを机に押し付けながら、彼は話し始めた。
「…よし、落ち着いたな。では本題に入ろう。」
「奴らは、今にでもここに、『戦線』に攻めてくるだろう。」
「…いや、攻めてくるとは語弊がある。奴らは、他のプレイヤーが大勢集まっているこの戦場に、近づいて来るはずなんだ。」
【月】はここで一つ彼らに警笛を鳴らした。
「…その理由は如何に?」
「【魔神王】になる為にも、そのままなるだけでは不十分。必ず何処かで【屍魂吸収】を発動させなければならない。」
…机に押し付けられながら【女帝】は一つ質問した。
「何故だ。答えろ。」
「…【魔神王】は【屍魂吸収】を経ないとステータスが変動しないんだ。」
「上昇する事はなく、また、下降する事もない。」
「…だが、【屍魂吸収】だけは違う。周囲から経験値を吸い取って、自身のレベルを唯一上げれるんだ。」
唯一、【月】以外で椅子に座れている【審判】がここで、疑問を覚えた。
「…じゃあ、吸い取れ無かった時は…。」
「いや、その時はステータスがそのまま再現される。ただ、魂自体のリソースは決められているから、そのリソース以上だと脆くなるがな。」
「身体が、ですか…。」
【月】は傾く。
…だが、レイザドには気になることが一つ。
「…今の貴方のレベルは、何ですか?」
「…1だ。」
【月】、レベル1。
元々からのステータスの変化、無し。
---これは、おかしい。
いつのまにか【月】の手から脱出したレイザドは眉を顰める。
「おかしいですよ。明らかに…。」
レイザドの表情がさらに硬くなった。
対して、まだ机に押し付けられている【女帝】の表情は軽い。
「どうした、レイザド。このステータスは文面通り受け止めても良いのでは無いか?」
(…これは、まさか、いや、考えられるのは---!)
「ならば、これはまるで…!」
「---ステータスが、複製できるとでも言うような…!」
…彼らの会議は、まだ続く。
4.前線
---怒涛の勢いで赤猪は駆ける。
「Guoooooooooッ!!」
その殺戮進路を邪魔しようと竜と化した『フォイドラ』が襲いかかる。
「【剛撃】ッ!」
彼は自慢の双斧槍を竜鱗へと振り下ろすが、その"硬さ"は、尋常では無い。
---カァンッ!!
…魔物に特効を持つアーサーでさえ、"属性攻撃を重視"する必要がある程の硬度。
力任せの一撃に破られるほど柔では無い…!
「Guaaaaaaaaaッ!!」
得心したりと、竜はその野生のままに叫ぶ。
---そして、勇猛なる猪男は、ここに没した。
「ぐ…ッ!?がぁ…ッ!!」
だが、地に落ちようとする赤猪を貫く様にして、【魔砲】が迫る。
【高位精霊】、『アビジャン』だ、
「『属性付与:闇』『収束化』…!」
放たれた紫の閃光は、重なり、螺旋と化して『ドラフォイ』に直撃する、が…。
「…Guooooooッ!!!」
彼は分が悪いと見るや転身を解除。在ろうことかその後に接近してくる…。
(…何が目的だ…?竜状態では、あくまでも『属性攻撃が"比較的"ダメージを与えやすい』だけ…接近してくるのなら、解除せずとも良いはず…。)
「…我には関係ない。向かってくるのならば…。」
「---ただ、鏖殺するのみだ。」
…全方位に【魔砲】が際限なくばら撒かれる。【魂装】が比較的多種族より厚い【精霊】に属するアビジャンだからこそできる芸当、そして。
---背後から迫るアミ虫をも含め、全てを吹き飛ばした。
「…チィッ…!」
カインだ。
その手には、鏃を長くした様な槍が収まっている。
…彼らの陽動作戦は失敗した。
「…何見つかってんだよ…あのバカ。」
『ドラフォイ』は項垂れるが、生憎とそれを共有する仲間は居ない。首を振って、『アビジャン』のいる丘へと視線を向けようとする、が---。
(…誰かに、見られているような。)
竜の身体であったのならば、牽制にと炎弾を飛ばして索敵できたのだが。
…彼の目の前には、少し赤っぽいだけの土埃。いや、煙と言うべきそれが、戦場に蔓延している。
…それだけだ。
視線を完全にアビジャンへと戻し、カインと合流する。土煙のおかげか、特に気付かれずに合流が出来た。
「…行くぞ、フォイドラさん。フォロー頼む。」
そう言ってカインは、アビジャンから見えるところに移動した。
「【貯蓄】…!」
---その時、場の、空気が変わる。
『狙えよ』、と言っているように、自身の見える所へ飛び出して来たカインにアビジャンは驚きを隠せない。
(【貯蓄】…効果の程は分からん。だが、"必殺"の雰囲気が出ている…。)
「ならば、カインから先に始末する…!」
…その様を、"空から"見ている男が一人。
「…よし、今だ…。」
カインの方に視線が向いた時、アビジャンはフォイドラへの集中力を下げる筈だ。
『その時に、お前が、アビジャンを討て。』
(…自分から囮になると言ったカインに、応えないわけには行かないな。)
それは合流した時の、数刻のみのやり取りである。
---現実へと、戻ろう。
アビジャンの正面に立つカイン。彼が生み出してくれた一瞬の隙。
…その一瞬があれば、アビジャンに組みつくなど至極簡単なこと。
…余談だが、彼の腹は抉れている。始めの陽動作戦、無理な行軍が生んだ致命傷、ならば、それを抱えながら戦うのであれば、これは『特攻』である。
「【剛撃】ッ!!」
---両手を組んで、叩き潰す要領で殺しに行く。
(獲った---ッ!?)
---その時、眼が、こちらへ向いた。
「---【魔砲】。」
---上空から降下した『竜』は…。
彼女の掌底と共に放たれた【魔砲】に、貫かれた…!
「…ッ!?あ、アビジャン….ッ!!」
彼女はこの事態を、余りにも分かりやすい囮作戦、と、彼女は認識したのだ。
「…気づいて居たぞ。あまりにも、"分かりやすい"のでな---。」
…そうして、カインの方へと向き直ろうとするのだが、その時、女王は撃鉄を聞く。
「【放出】ッ!!」
「【魔壁】ッ!---な、ぁがぁッ!!??」
…それは、槍にして、非ず。
カインと言う"弦"から放たれる、撃滅の一矢である。
それは、展開されたアビジャンの【魔壁】を易々と切り裂き、宙へと、その破壊を撒き散らす…!
---ドォォォム…ッ!!!
…片腕吹っ飛び、丘は消し飛んだ…!
クレーターは歪に、それも斜めに突き出して、その中身は大気層へと飛び、肉と岩盤のシェイクを作って爆散。
…フォイドラの奇襲が成功してもしなくても、"その場に留まる"事を選んだ時点で彼女の敗北は、決定していたのである。
…勝利、だが、戦場は、回る。
戦闘はまだ、終わってはいない。
その証拠に敵を全て消し飛ばしたのにも関わらず、カインの表情は浮かない。
(片腕、槍、共に全損。敵は分からず、俺は空を飛べない。索敵技術も無い。)
(…へへ。今日はここまでってことかい。)
だが、彼は諦めない。この平地だ。攻撃するとしても上空。悪くて背面だろう。
(…生き残れるとは思わないが、首の一つは取ってくるのが、せめて残った戦士としての誇りだ。)
上空を見上げ、片手で腰につけたナイフを抜いて警戒。
それは、彼は戦場慣れした傭兵だからこその判断から来た、最後の抵抗。
---だが、彼の予想は裏切られる。
「【血飛沫の祭宴】。」
地下より迫る杭、上から来るというカイン自身の予想を外したそれは---
「…ご、は、ぁ…!」
---カインの肉を易々と突き破り、無数の突き刺しによる、血と肉のシェイクを行った。
…今の時点では、最後に笑うものは、"処理者"。
最後に現れ、最後に姿を現すことのない者。
…彼女は、戦士達の足元を掬い続ける。
…だが、この戦場は、これらの戦士たちの戦いは、ある一人の愚者により蹂躙されるのだろう。
5.戦線 地上
奇しくも、
「魔力反応。ほぼ上空です。」
「…着いたか。」
「…では、始めましょうか。」
「愚問だな。」
「では、私達は地上に。」
6.『不可視の宮殿』内部
呟いた言葉は、同じく。
「…着いたか。」
「ザスター、彼らが現れました。どうしますか?」
ただ、思惑の違いがあるだけである。
…ミラ、アガサは先行している。あわよくば彼女達で達成出来るかもしれない。
「アーサー君、君は待機しろ。」
背中を見つめる彼の目は、疑心。
「ほんとに、良いんですか?」
…だが、それで良い。それが、良い。
「…あぁ、私が、彼らの相手を行う。」
「君は中で、迎え撃て。」
---私自身の、"計画"の為にも。




