第9話 覚醒
1.遺跡
---達するべき、目的は二つ。
一つ目、【魔神王の魂】の入手
二つ目、それを、"女神"に捧げる事…!
…最悪、【魔神王の魂】一個だけでも覚醒させる事は出来る。だが、求めるべきは二つ…。
(だが…。)
彼は、アーサーは、剣を俺に構えながら魔力を剣先に集中させている…。
(…出し渋っている間に、彼は俺を殺すだろう。)
ならば、やる事は一つだけだ。
"【魔神王】の、奪取。"
俺は、その、"魂"と呼ばれる結晶を---。
---粉々に、噛み砕いた…。
そして、その姿は、極光の中へ---。
《…Warning…! Warning…!》
〈彼の身体は、再構成される。〉
『クエスト発生』
〈変化が表に出ぬ【不滅】とは違い、その目は、"赧'く。〉
パーソナルクエスト
『【不滅の魔神王】アーサーの剥奪』
〈その皮膚は、所々、溶岩が冷え固まったかのような、そんな岩盤で隆起している。〉
⦅シグムンド さん が 【魔神王】へと ジョブチェンジしました!⦆
〈迸る、"狂気"。〉
⦅称号獲得!
【ワールドボス】【狂奔の魔神王】⦆
〈彼の覇王は、悠々とその野心への一歩を踏み出した…!〉
…煤煙より、声。
「……お前は、何も分かっちゃいない。」
「お前自身が、人形である事すら。」
彼は、無手だ。
《【第二段階】 失敗。》
【狂奔の魔神王】:『シグムンド』
《魂 が 欠損 しています。》
【月】
《【屍魂吸収】 は 発動 出来ません。》
レベル、1。
ステータスの変化は、無い…。
大気が、地が、景色が、紅く、全てに狂気が伝播するかのように、染まっている。
「…それが、おまえの、【魔神王】か…!」
俺は、奴を睨みつける。
「…否定は、しない。事実だからな。」
彼は魔力を剣状に集める、….それらは、金属へと変貌を遂げた。
「俺の【魔神王】、【狂奔の魔神王】は、戦闘に最も特化している…。」
彼は、そう言って、アーサーから視線を外す。
「…こんな、風にな。」
すると、目の前にいきなり直剣が現れた。
「ッ…!?」
咄嗟に飛びのこうとするが、あたりを見れば、全方位に剣、剣、剣。
それらの殺人兵器は、音を立てるでもなく、アーサーの周りに独りでに現れていた…!
「消えろ。」
彼は、パチン、と指を鳴らす---マズイ…ッ!?
「アビリティジェム!」
「解放ッ!」
…この体は、【縮地】特有の、一瞬の浮遊感と共に囲いの外へと飛び出した…!
(あれは、【魔神王】、なのか…!?)
アーサーが戦った【魔神王】は未だ、"無垢"のみ。
よって彼が【月】の力を測りきれぬのはまた当然、今、これからする話はそんな事ではない。
…【月】の"剣"の正体である。
「…何処に逃げても無駄だ。」
「狂うがいい。」
「…【狂奔の魔神王】…ッ!」
それは、今度は壁となって現れる。
「な…っ!?」
そして、遂にアーサーはその、"狂気"に触れた。触れてしまった。
「…な。なんだ…。」
アーサーは酷く安心する。まさか、実態だと思っていたものが、"幽体"であったのだから。
「とんだ、見掛け倒しじゃないか…!」
そして、彼は歯をぎりり、と噛み締める。
『どうして、こんな攻撃に引っかかってしまったのだろう。次は、捨て身でも---、と。」
(…ッ!?なんだ、今の、は---!?)
まるで、思考が書き加えられたような…っ!?
『…いや、確かに、今攻め込まなければ、俺に好機は訪れないだろう…。」
…攻め込む、しか無いみたいだ。なら、攻め込む、のが良いの、だろう…。
「…【超衝撃】ッ!」
アーサーは、ゆっくりと立ち上がって、その言葉を発しながら長刀身と超重量が売りの剣を引き抜いて【月】へと斬りかかった…!
それは、【月】の読み通り。
狂気に触れた時点で、アーサーの感覚はその全てが"曖昧"なものとなっている。
後はその脳髄に、愚策を詰め込むだけのこと…!
アーサーはまんまと思考を剥奪され、【月】へと斬りかかってしまった。
カァンッ!、と硬質的な音を立てて衝撃を完全に地に逃がした【月】、会心の笑みを浮かべるが、次の瞬間、その笑みは崩される。
「…はッ!」
アーサーの一撃、それは重が速を持つ。だが、【月】の技量は常軌を逸している。今の、"何事も曖昧になっている"アーサーの攻撃など、軽くいなされてしまうだろう。
「何回やっても…ッ!?」
---だが、ここで、誤算が生じた。
(足が、痺れる…!)
その顔を苦悶に歪め、咄嗟に側転をすることによってその場を離れる。
流石にこんな状態の足で奴の攻撃を受け切れるとは思っていない。
「【魔法剣:煌撃】ッ!」
だが、ここで後先を考えない怒涛の連続攻撃、【月】は振り下ろされる剣の勢いを流し、後退することで避ける。だが、その回避行動も所々荒さが目立つ物となっていた。
そして、【月】の十八番である【模倣】も、万全の彼ならこの剣戟の中で発動できるだろうに、今はアーサーの攻撃をいなすことだけで精一杯だ。
…その理由とは、彼の身体は確かに再構成されたが、その再構成が、ハリボテのようなものだったから、ということ。
それの説明には、再構成の過程を語らなくばならない。
…本来ならアーサーの【極光】が直撃した段階で【月】の身体は須らく破壊されている。それが今ここにいるのは何故か。
【魔神王の魂】、である。
彼の肉体は【魔神王の魂】のリソースを使って、彼自身のステータスそのままで再構成された。まぁ、それも不全な物であるのだが…。
本来ならばここに【屍魂吸収】が合わさることによって、完全なる【魔神王】が誕生するのである。
…だが、今回は【屍魂吸収】が発動出来なかったのが大きい。これのために【月】は自身の体の完全な再構成のための適量のリソースを確保できずにいたのだ。
「…ぐぅ…ッ!?」
「【超衝撃】ッ!」
彼は、自身のこの策こそが、真の愚策であったことを遂に悟る。
(…策士、策に溺れる、か…!)
その剣は、遂に【月】の持つ"鉤爪"を、捉えた…!
「でぇやぁぁぁあああぁぁあぁッ!!!」
---その軌跡は、流星の様に。
…遂に【月】の、その心臓を貫いた!
「グッ…!?あ、ああ…!が、はぁ…ッ!」
---ここに、決着は決まったのである。
…ドサリ、と彼の身体が肩に被さる、そして、その身体は軽かった。もう粒子に変換さえされている。
まるで血が空中に溶けていく様だ、と。
青い粒子に、想いを馳せる。が。
「…あんた。」
アーサーは、藪から棒にそう言えば、急に"【魂装】を強く纏っている"彼の身体に、手を思い切り突っ込んだ…!
「…こんなもの、隠してどうしようとしてたんだ…?」
魂、そう、【魔神王の魂】。
【魂装】に魂が取り込まれる感覚を体験したアーサーは、『おそらく、魂は【魂装】と同化できるのだろう』、という結論を出した。
…結果は、この通りである。
「…それを、返せ…!」
彼の掌の上には、【魔神王の魂】。
「…それが、無いと、俺たち、は…ッ!!」
【魂装】を早くリスポーン地点へ避難させようと、意識して体の分解を行なっていたのが裏目に出たのだ…!
…アーサーを攻撃しようにも、声を出すのが精一杯。筋組織も保てずに、崩れ落ちて行く。
「…これは、俺の力だ。」
「誰にも渡しはしない…。」
…この身体が、完全に消えゆく前に…。
俺は、そんな"誓い"を聞いた気がした。




