第8話 チキンレース
1.【第三段階】『月面の黄昏』内部
---瞬間、世界は一瞬のみ、"紫光"に包まれ…。
剣先がアーサーの喉元を切り裂くことによって、それは、止まった。
《パーソナルクエスト 【魔神王】アーサーの復活 が 達成されました!》
《報酬 ワールドアイテム【魔神王の魂】》
「…やっと、か。」
剣を抜き、血飛沫が大量にばら撒かれる。
【月】の体にも血が付着し、マトモなら少し気分でも悪くなりそうだが、【月】の表情はまったく変化しない。
…そして、数秒後、アーサーの体から、血が止まった。
「【第三段階】解除。」
血に濡れた月面は、焼け野原の遺跡へと戻った。
…見ると、視界の端にメッセージがある。
2.遺跡
彼は、遺跡に佇む。
《レベル4185→4184》
レベルが、減っている…?
【月】は一つの異常を見つける。
《レベル4185→4184》
"【屍魂吸収】は、どの"グレード"の【魔神王】も持つ、基礎技能なのだよ。"
そして、突然にその言葉を思い出した。
《レベル4185→4184》
…つまり。
アーサーが、俺のレベルを吸い取ったってことか?
発言は、疑問へ。
「アビリティジェム…!」
そして、疑問は---
---待て、まさか、本当に…。
---"確信"へと変わる。
「解放!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【違法的上昇:経験】
※このアビリティジェムの効果。
自身のレベルを五分間1000上昇させる。このスキルは1日に一回しか使用できない。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
《スキルランクアップ!》
《【悪魔殺し】→【悪殺し】》
【悪殺し】………
相手のカルマ値×〇.一の追加ダメージを自身がダメージを与えた時に加算する。(【悪魔殺し】の効果も得る。)
《レベル0→1000》
背を向ける、その"敵"へと、照準を定めて…。
「【魔法剣:煌撃】…。」
"アーサー"は、今、走り出した!
「『終焉の稲妻』…ッ!」
そして、【月】は振り返らずともその殺意に応える。
…声!…疑いは、確信に変わった。
お前は今、確実に蘇った…と、言うことがな…。
そして、同時に、"俺の背後にいる"、と言うこともまた確定している…。
(…ならば、剣での"壁"を作るだけだ。)
判断にかけられる時間は少なくとも、歴戦の猛者である【月】は簡潔に思考をまとめる。
そこから瞬時に【月】の持つその『終焉の稲妻』はひとりでに刀身が伸び、それは分裂して、切っ先による擬似的な槍衾を作った。
いばらの棘の如く歪なるその剣列は、外観に違わないほどの殺傷性を内に秘めている。
そして、その鉾なる盾が、瞬時に編まれたことにアーサーは驚きを隠せなかった。
少なくとも、四歩も踏み込まないうちにそれが展開されるとは、流石に想定外であったのである。
汗と共に血が地面に落ちた。アーサーはここで、回り込むのは後手に回るに等しいと感じる。これ以上相手にアドバンテージを与えてはならない。
相手は、確実に格上。ミラとの戦闘を見た結果。最優先で警戒するべきは、先ほどにも見せられた【月】の余りにも多い、技の引出しの多さだ…!
鉤爪、【第二段階】、そして…。
【第三段階】…!
「アビリティジェム…!」
アーサーは、いつでも彼が【第三段階】を発動できると踏んで、戦闘を行う。
「解放ッ!」
【縮地】ッ!
一瞬でその剣藪を超えて、上空にて、斬りかかる体制を作る。
「『全属性魔法弾』ッ!」
牽制として放つ…。奴の『終焉の稲妻』の変化を複雑なものにはさせない。
…『終焉の稲妻』。
"好きなタイミング"で、好きな"刀身"を作り出す事が出来る。
多分だが、形状を作り変える時には、"思考"が必要な筈だ…。それが、長く続けば長いほど、難解な形状に作り変えられる…。
思考する間もなければ、形状は直線的となる筈。ならば、俺の噛みつく隙も有るだろう…。
だが、アーサーの読みは外れ、【月】は後退する。
それは、『終焉の稲妻』では一手足らない、と言う彼自身の判断に従ったものだ…。
【月】。彼の持ち味は、"サポート"で最大限に発揮される。
彼は様々な【第二段階】を使い回せるが、"一種類"のみしか継続して使う事はできない。【月】に於いても、それは同様だ。
「【模倣】…。」
だからこそ、"適切"を選ばなければならない。
(…【第三段階】は切った。自前の【第二段階】も切った。)
果たして、手札にあるのか…?
「【第二段階】---。」
(残ってるカードは、【月】での【女帝】、【審判】、【魔術師】と…。)
アーサーは、こう思考している間にも、近づいて来ている───。
(【第二段階】の、『終焉の稲妻』、『黎明さる天地の蒼穹』、『暗黒騎士の甲冑』と…。)
………そして、幾秒かの悩みの後に、彼は決めた。
「『圧壊の魔盾』ッ!」
それは、絶対専守にして、絶対攻勢。
光子が、彼の手の上に集まる…!
その青い光は、【停滞】を示す、盾を顕現させた…。
「…!?【殿の心得】、【瞬間防御】ッ!」
「『圧壊の魔盾』ッ!」
アーサーの体を青い膜が覆い、そこに突風に色をつけたような『圧壊の魔盾』の、必停の一撃が衝突した。
だが、【瞬間防御】を発動したアーサーに、物理による打撃はあまり効果がない…。
属性攻撃を与えるしかないのだ。
それも、一撃。とびきりのを…。
…決めに行くぞ。
「【月】:---。」
こいつは、とびきり分の悪い賭けだ。
「---【魔術師】。」
【高速詠唱】。それに賭けるしかない…。
アーサーの瞳は、驚愕、そして恐怖に染まった。
いくら物理防御力を固めても、属性攻撃を当てられてしまえば、おしまいだ。
…何か、属性防御に特化したものでもあれば---ッ!?
あった。アレを、使いさえすれば…!
胸中の策に考えを巡らせながら、彼は勢いよく地面を蹴って、炎に包まれる大地から退避する。
「…【焼却】!」
…火球。それも、大玉ころがしのサイズ。
さらに"侵食"は終わってない…。
アーサーはなんとか身を屈めて回避する事ができた。地を這うのを一段階上げた、地を飛び回る動きを見せる。だが、それの弱点は…。
「…ぐあっ!?」
今のように、あまりの前傾姿勢からバランスを崩して転ぶ事である。
「…【焼却】ッ!」
…果たして、【瞬間防御】を使っていないアーサーにわざわざ【魔術師】を使って攻撃することに、意味があるかはわからない。
だが、少なくとも。少なくともこの体勢、状況、そして今までの経験から、この状況は、必殺になりうるものだと【月】は思った。
何故なら、アーサーだから、熟練の戦士であろうものがこのようなミスでやられるものとは、【月】は考えなかったからだ。
「---【第零段階】…!」
彼は、"水属性"の魔力壁を展開する…。
放たれた【焼却】を、迎撃する為に…!
「…【模倣】、【第二段階】ッ!」
【月】は、これ以上の"長期戦"は意味がないと断じた。
このまま、アーサーを追い続けても…これは勘だが、時間はアーサーを助けるだろう、と考えたのだ。
さらに、『終焉の稲妻』は、この状況が一番生きる。
…思考を戻すが、アーサーが、【焼却】に直撃した、という程のチャンスはもう、二度とは回っては来ないはずだ…。
「『終焉の稲妻』!」
だからこそ、今、此処で、ケリをつけてやる…!
その宣言と共に、【終焉の稲妻】は多重にアーサーの居る爆炎の中に突き進む…!
「…アビリティジェム…!」
「解放ッ!」
アーサーの目指す地、それは【月】の背後。
たとえどのように背後を見せないようにしても、アーサーにとっては無警戒にも等しい。だが…!
(…ッ!?剣衾ッ!?)
アーサーの顎に汗が一筋垂れ、【月】は背後からしか見えないが、会心の笑みを浮かべているのだろう。
何故か、それは爆炎の所為で見えなかった彼の背後に、大量の刃が、まるで将兵かのようにズラリと、規則正しく並んでいたからなのだ。
飛んだところは、丁度その剣衾には入らなかったが、問題は対策だ。
…『終焉の稲妻』、その効果の発動には"伸び直し"が必要だ。つまり、今此処で急に刃が伸びるわけではなく、一度、前兆として刃が縮むのだ。
ならば、回りこむのみだ。
アーサーは地を蹴るのと共に、魔力を背後から放出して多大なブーストを得る。
【月】はその動きを予見していたように、剣の長さを戻し、さらに植物の根のような形状に作り直した。
『終焉の稲妻』が振られるたびに、アーサーは、その巨大な刀身と、いつ作り変えられるか警戒しなければならない。
だが、そんな状況と正反対に、アーサーは余裕で、【月】の表情は強張っていた。
【月】は【瞬間防御】と【第零段階】によって攻撃のその全てが相手に軽減されてしまい、アーサーはもうその性質までわかった『終焉の稲妻』の対処はかなり楽となっている。
…その実、アーサーには制限時間があるのだが。
「【衝撃波】×【剛撃】ッ!」
この場面であれば、最早、使い渋る事も無く。
「…ぐ…ッ!?【模倣】ッ!」
「【<撃滅衝波>】ッ!」
アーサーは何も戸惑う事なく、その破壊の一撃を放った。
…大地をも削り取るその一撃を前にして、【月】は致命的にも、一瞬、その言葉を頭に浮かばせるのが遅れた。
「『暗黒騎士の甲---!?」
当然、甲冑が間に合うより早く、その一撃は【月】の臓腑を抉り取る。
その被害は、すでにボロボロであった彼の身体を完全に壊した。
…だが、ここは逆にそれだけで済んだ、と喜ぶところだったのかもしれない。
【月】にはこれからも、死線が襲ってくるのだから。
「…聖剣裁定。」
(目指すべきは短期決戦。悠長に剣戟をしている余裕は、ない。)
「…ゲホ…ッ!が、あぁぁあ…!!」
無様に転がる【月】。だが、その視線はつぎの"必殺"に向けて向けられている。
【月】はあまりの内臓のダメージによって、声を出すのもままならない。
「光属性魔力混合比率四〇%…ッ!」
……ここで、決めるしかないのだ。
「…照準。」
【月】は、何をするでもなく、そこに座り込んで、光の奔流を、口元の血を拭い去りながら、見ている。
…その右手に、何かを握りながら。
そして、大気をまとめて吹き飛ばすほどの超巨大な一撃が放たれた…!




