第6話 その者達、執念深く
1.『不可視の宮殿』内部
入り口から入るとザスターがいた。
「…【月】には逃げられました。」
「…そうか、逃げられた、か。」
…ザスターは落胆して肩を竦めた。
「すみません。ですが奴の能力は分かりました。」
「いや、それは私も分かっている。それよりもだ。次の任務に就いてくれ。」
俺は次の任務、というワードに既に憂鬱だ。
「はぁ…、どこでしょうか。」
「"遺跡"だ。君には前任に変わってイベントアイテムを守護する役割を与える。一人ではキツイだろうから一人協力者を送ろう。」
…遺跡へと急ぐ。
2.遺跡
ここは遺跡の入り口、俺と協力者が守る手筈の地である。
「アーサーさんっ!頑張りましょう!」
…俺の横にいる協力者の少女の名は、ミラ、らしい。
(どうしてミラがここにいるんだよ…!?)
あいつは流れの傭兵だったのでは無かったか?俺は混乱する。
「…ミラさん、久しぶりですね。でも猫被りはもういいのでは?」
…一瞬、思案した。
「あら、いらないの?貴方は明るい子の方が好きだと聞いたのだけれど。」
俺は訝しむ。
「その情報、誰からですか?」
「ザスター。」
「…あんちくしょうめ…!」
…俺達がそんな会話をしていると、フードを被った四人組が現れた。
「…!そこの方、止まってください。」
「…何でしょうか、我々はこの遺跡に用があっただけですが。」
「そうですよー。私達はただの旅人です!」
「…なぁ、やはり私には性に合わ---「いいから、黙ってるだけで良いから…!」
…怪しい。ここに来る時点でNPCの筈が無いし、先ずここは誰も通してはいけないのだ。
「えーと、ここは通れま--「【魔砲】!」
---ドォムッ!
(な、何撃っちゃってくれてんのこの女ァ!?)
「…一応事情は説明しますが、我々はここを通すわけにはいきません。つまり…。」
チャッ、と、彼女は鎌を煙の中の彼らへと向ける。
「来た奴らは全殺しです。ドゥーユーアンダスタン?」
(コイツもかなりの危険思想だ…!)
…しょうがない、要は、戦わないと行けないって事か、通ろうとする奴には。
「…分かりました。」
…好戦的すぎるところに目を瞑れば、コイツは割ともっともな事を言ったわけで、従わないメリットは無い。
対する【月】チームも黙ってはいない。予め決めておいた連携でアーサー達へと襲いかかった。
「…フフ、まさかいきなり撃ってくるとは思いませんでしたよ。」
「そんな事言ってる場合ですか!?行きますよレイザド!」
…煙の中から二人、敵影!
「『圧壊の魔盾』ッ!」
---先ずはその、動きを止める…!
青い波が放出され、煙の中の彼らの動きを、"壊す"。
「【模倣】、【第二段階】…。」
「『暗黒騎士の甲冑』。」
---ガァン…!
甲冑と波がぶつかり、…動きを、壊す。
「…『解除』!」
【月】が逃れた事に、アーサーは気づいてはいない。
…俺の目の前には動きを止めたレイザドと【審判】。
「サポートします。【祝福】!」
緑色の光が、アーサーを包み込んだ。
【祝福】…
『使用された者のステータスを三〇パーセント上昇させる。職業スキル【司祭】派生。』
【高位司祭】…
『全ての魔法による回復率を八〇パーセント上げ、付与できるステータスを五〇パーセント上昇させる。』
…八〇パーセントの強化が俺に降りかかった事を確認し、奴らへと斬りかかる。
「【衝撃波】…【剛撃】!」
---ズォンッズンッ!
剣の軌跡は、そのまま奴らへと脅威となって襲い掛かる。
…その筈、だった。
「【模倣】、【第二段階】!」
「『圧壊の魔盾』!」
---ガギィィィンッ!!
…その大盾は、【月】達を守った。
この場面に突然現れた【月】に彼は困惑、だが、対するレイザドらは黙っているわけではない。
「なっ---!?」
「…全く、焦りましたよ【月】。【多重化】、【魔砲】。」
多数の砲門が、アーサーを狙うようにレイザドの周囲に展開された。
【多重化】…
『次に出す魔法の数を任意の数だけ増やす。消費魔力は増やす度に二倍される。』
…優に、二六門を超えるビームが俺を狙う。だが、焦ることはない。
---ボォンッ!
…このように盾にぶつかる、だが、このまま狙われ続けていたのでは攻めに出る事が…!
そこでフリーになっていた【審判】がミラへと仕掛けた。当然ミラがカバーに入る。
「【第二段階】、『暗黒騎士の甲冑』ッ!」
「【焉撃槍】ッ!」
「…ッ!させません。【剛撃】ッ!」
…!耐え続けている俺を横から狙おうとした【審判】をミラが抑える。
---ガァァンッ!
その鎌は、器用なことに射線のみを俺からずらして物理攻撃と衝撃波から、俺を守った。
「【焉撃槍】は衝撃波攻撃を兼ねている…。軌道をずらせば、物理、衝撃波、両方とも当たりませんね?」
「…!【暗黒撃】ッ!」
---ドォムッ!
俺の元へと迫る暗黒の【魔法弾】、だが、『圧壊の魔盾』の力を使えば…!
「『圧壊の魔盾』!全方位だッ!」
全てを止める、青い波が放たれる、だが…!
「『圧壊の魔盾』ッ!」
向こうから来た青い波に、"相殺"されてしまった…!?
「…おいおい、俺の事を忘れてるのか?」
彼は笑みを浮かべて、アーサーと向き直った。
【月】…!
…そういえば、【魔術師】、【審判】は前にいる。
【女帝】は、何処へ---!?
「…命中!」
そう、棒立ちになっていたところに【暗黒撃】がぶつかり、アーサーは大きく吹き飛ばされた。
---グッ!?しまっ、た。
【暗黒撃】への対処が、間に合わなかった…!
これにはミラも怒りを抑えきれない。声を荒げて、彼に喝を入れる。
「ふざけてるんですか、アーサー!【治癒】ッ!」
…体の傷が治る。だが、休んではいられない。俺の予想通りなら…!
「…【女帝】ッ!【魔砲】を切らすなよッ!レイザド!」
「…ッ。分かっています…!」
【女帝】…! 今まで隠れていたとなると、何か狙いが---
それを考えさせないように、【審判】と【月】は同時に攻撃を行う。
「【暗黒撃】ッ!」「『圧壊の魔盾』ッ!」
駄目だ、『圧壊の魔盾』は相殺される…。ならば、他の防御手段を…!
「…ッ!?『圧壊の魔盾』!【瞬間防御】ッ!」
【瞬間防御】発動中は動くことは出来ない…っ!十二倍の高い防御力を誇ったとしても、状況は改善することは無いのだ…。
予想通り、【暗黒撃】は彼に命中する。このままでは、"【月】達はアーサーに勝つことが出来ない"。
そう、"復活"。それが彼を倒す時の最後の問題だ。
---彼の大魔術師は、唄うように。
「【魔術師】ッ!」
魔法陣が連結し、見覚えがある赤が更に燃える。
「さらに【連結方陣】×【多重化】ッ!」
---『収束化』『威力範囲限定』『持続』
「…詠唱破棄!行きますよ…!」
その赤は、"緋"と成りて、敵を焼き滅ぼさん…!
「【焼却:魔槍】ッ!」
赤い光が、収束する---!
〈…"それ"は、巨大な槍。〉
〈青き槍を紅く染め、焔を宿し、〉
〈---真なる黄昏を、呼び込む槍。〉
太陽の如く、その光は俺の視界を真っ赤に燃やす…!
「行くぞ、『収束』『限定』ッ!」
…そして、その破壊の槍は彼女の手に収まる。
「…力の支配。ここまで応用が効くとはな。」
---これが、秘策。
…まずい。コントロールが出来る奴に最強の武器を与えてしまった…!
…レイザドの魔法の威力から言って、それをさらに濃縮した【魔槍】が弱い、ということは、少なくとも無いだろう。
だが、戦況は止まらず。【審判】は役割を全うし続ける。
「…【焉撃槍】ッ!」
「させません。【波撃】!」
【波撃】
『一度の攻撃を五つの多段攻撃にする代わりに威力が半減する。スキルアビリティ。』
---ズガガガガッ!
その音を遠くに、俺は【月】、【女帝】、【魔術師】に向かい合った。
「…どうやら、頼れる仲間は【審判】に夢中の様だな。」
「…僕は【不滅】です。負ける道理は無い。」
【月】は盾を構えながら言った。
「それでも、お前は完全に抑え込まれたわけだ。」
「…私達の貴方への攻略法。それがこの【魔槍】。」
視線は、【女帝】が持つ赤き槍へと向けられる。
「…どうです。降伏をお勧めしますよ。今なら【魔神王】は取り上げさせてもらいますが、適切な対応を行いましょう。」
---悩む様子なんて、ない。
「…答えは、ノーだ。」
そして、その答えは彼らも分かっていただろう。瞬時に攻撃を行う。
「分かりきってました。【女帝】!」
「フン。…【塔】での雪辱を晴らす!」
…あの槍が俺に向かってくる。生半可な剣での防御は溶かされ、『圧壊の魔盾』では防げない…。
相性だ。俺はやっとこの【第二段階】の弱点が分かった。
【第二段階】が防げるのはあくまでも運動エネルギーに限定される。つまり…。
(温度の変化に、【第二段階】はついていけない…!)
…【不滅の魔神王】。
ジョーカーを切るべきか…?
死ぬ事による即復活、それにはデメリットも当然多い。
「アビリティジェム。」
「解放!」
---パァンッ!
…【縮地】。先ずは逃れられ…ッ!?
.
---アーサーの肉体は、【女帝】へと、一直線に飛び込んだ。
---グァンッ…!
「…お。…奴の周辺にのみ"張ったら"本当に【縮地】で引き寄せられたぞ。」
「元からそうなると言ったろう、【女帝】…彼の手札は見切っている。俺達がこうして来たのは、必殺の一撃があるからだ。」
視界が、【女帝】の能力特有の黒に染まる---
「…そして、それを"確実"に当てる手順もな。」
俺は、【魔槍】の方向に飛び込んでいた。
「…ッ!?【瞬間防御】!」
「無駄だ。…溶け落ちるが良いッ!」
---ズォォン…ッ!
焔を撒き散らしながら、俺の眼前まで"それ"は接近し…。
---ボォンッ!
俺の身体は爆発物でも入れられたかの様に、切られた後の一瞬に爆発した…!
「【不滅の魔神王】ッ!」
俺の視界は、炎熱に取り込まれた…!
アーサーの体は爆発を続けながらグズグズに溶け、死と再生を繰り返しながらもその勢いは衰えを知らない。
《レベル5758→5757》
---身体が
《レベル5757→5756》
…溶ける。
《レベル5756→5755》
遥かに、熱い…!
《レベル5755→5754→5753→5752→5…》
数十秒後、やっとミラが異変に気付いた。
「…ッ。【第二段階】、『概念抽出』『暗殺短刀』…!」
そして、苦い顔をしながらも救助を行う。
《レベル1482→1481→1480》
「…はっ!」
---ビュオォンッ…!
《レベル1480→1479》
…袖から投げられた短刀は、溶けずに、火だるまの中の男を吐き出させた。
《レベル1479》
………。
……たす、かった…?
這いつくばったまま状況を見る。
「…アーサー。感謝してください。」
---カァンッ!
彼女は、槍の刺突を、細い峰で防ぐ。
「私の前で余所見とは、随分と余裕ですね…!」
「あら、見なくても受けれます。そんな太刀筋。」
彼女らは散開し、離れてはぶつかり合うを繰り返す。
…【暗黒撃】と【波撃】の応酬。一見攻撃が激しいのは【審判】だが、ミラは多段攻撃による"かすり"を生かして【審判】に深くダメージを与えている…。
「…どうだ。【魔神王】。降伏する気になったか?」
…っ!あっちを観戦している場合じゃ、無い…!
「【縮地】は使えないぞ。…おまえの【縮地】は初動に、解放が必要だ。」
「それが分かっていれば、あくまで"瞬間移動"では無く、"超速移動"のカテゴリに入るスキルを支配できる私が、最終的な座標を操作できるということ。」
レイザドの眉間から脂汗が垂れる。
「…喋って無いで、殺すなら殺してくださいよ…!これの維持は大変なんですから…!」
「フン…。根性無しめ。だが、それならば一太刀で終わらせてやろう。」
彼らは、こっちの都合なんて御構い無しだ。
…そう言って、奴は焦げている俺の近くにわざわざ近づいて来た…。
「…一太刀で終わるのは、お前だ、マヌケ…!」
力を支配するのなら、『圧壊の魔盾』を使えばそれで済む話だ…!
「『圧壊の魔盾』ッ!」
「…ッ!?『圧壊の魔盾』ッ!」
いくら俺のと同じ物を持っていようとも、【女帝】への距離は俺の方が短い、【女帝】の動きを止め、殺害するのは俺の方が早い…!
アーサーは剣を振りかぶる。【女帝】は『圧壊の魔盾』を受け切って動けない。
---このまま、死なせていいのか?
レイザドは焦りを交えながらも冷静な声色で言った。
「…不味い。ここは【審判】に任せるしか無いですね…。解放ッ!」
【女帝】は、リスクを考慮しても、それを超えるリターンがあると思った為、少々、"制御権を手放す"のが遅れた。
「レイザド…!?…グッ…!…解放ッ!」
---パァンッ!
…元より、【女帝】による『収束化』の前、つまりはレイザドの『収束化』の状態ですら、【魔槍】はかなり大きい。
…それらの枷を一度に引きちぎり、いきなり自由にさせてしまったらどうなるか。
---それは、巨大な太陽となるだろう。
「…!?【瞬間防御】ッ!」
それは、大量に光を放出しながら、皆を包み込む---!
…そして、時が、経った。
………ここはどことも分からないが、周りは、炎熱の中。やっと、天空に佇む火元が消えた時だろうか。
《レベル2→1》
一人の、身につけているその鎧すら溶けかけている青年は、システムメッセージと共に…。
《レベル1→0》
《レベルが0になったことにより、強制的に【屍魂吸収】を行います。》
「…っ!はぁ、はぁ…!」
---駆け寄る者の足音を、聞いた気がした。




