第5話 ブレイクスルーの心得
1.青陣営本部(旧)
『助けて下さぁぁぁぁいっっ!!!!』
…そんな声を聞いたので、更に急いで駆けつけてきたのだが。
今の空模様は雨。この剣呑な空気にひどくマッチしている。
「…貴方が、【月】か?」
俺は目の前にいる、『青い両刃槍』を持った赤髪琥珀眼の男を睨みつける。
「その通りだ。俺が【月】。改革派の【アルカナ】さ。」
---ズォォンッ!!
そのまま槍が投擲された!
「…ッ!?『圧壊の魔盾』!」
盾から出た"青い波"は両刃槍の勢いを壊す。…が。
「『黎明さる天地の蒼穹』!」
何ッ!?止まらない…!回避行動を---!
グィィィンッ…!---ズァアッ!!
槍の刃が俺の頬を裂くにとどまって、奴の手元に戻る…。
…どうやら、『自由に操作できる』性質があるようだ。勢いが止まったように見えた所からいきなり加速してきたのだから。
「…話をしよう。君は暗殺者…ザスターの子飼いであるはずだ。」
---ダァンッ!ガキィンッ!
俺は止まらず接近して片手剣で切りつけるが、奴は両刃槍の柄で防ぐ。
…奴の両刃槍の弱点はクロスレンジに持ち込まれたらどうにも出来ない事。つまり、接近している今が好機!
---カキィンッ!ガンッ!ガリリリリ…ッ!
…なんだコイツ…、槍を回しながらクロスレンジにも対応してきてやがる…ッ!
このままでは攻めている俺がジリ貧、まさかプレイヤースキルだけでここまでの差が生み出されるだなんて…!?
「【世界】と俺達は一度協力して【女神】を倒し、『積み』を回避した。」
話しながらも戦闘は続いている。俺は超重量と長刀身の剣を引き抜いて上段から振り抜く…!
「…『黎明さる天地の蒼穹』!」
---ブォォォンッ!!
奴はステータス的に打ち合いが不利と見るとバックステップで回避しながら槍を投擲。
「…そんな、自由に動くだけの武器なんかに負けなんかしないッ!」
『圧壊の魔盾』ッ!
---カァンッ!
『圧壊の魔盾』に当たって、軽い音を立てて吹き飛ぶ両刃槍を尻目に俺は距離を取った奴に接近する。
「【全属性魔法弾】連射!」
---ドバババババッ!!
その【魔法弾】の前に、【月】は一考する素振りを見せた。
…そして、【第二段階】を解除する。
「そろそろ、潮時か。」
「【月】ストック:【女帝】。」
---"黒く"、染まる。
その能力の真価は"力の支配"。
その姿は、"溶ける"。
残像すら見せず、その姿は消え失せた…ッ!?
---ブシュゥッ!
「…はぁっ…!…はぁっ…!」
俺は痛みに驚いて飛び退いた。背中には破壊された鎧の破片と出血、刺されたのか!?
…姿を現し、血に濡れた鉤爪を振りながら、彼は話を続ける。【全属性魔法弾】の連射は彼にかすり傷程のダメージをも与えられていない…!
「β版さ。【女神】は俺達に加護を与えて経験値を一部奪い取って自身を強化していた。」
…!また、消えた。
振り向いたりして、攻撃がいつ来るか待ち構える、だが…。
---ポツ、ポツ。
…!
なんだ…、この…、"水滴音"は…!?
その方へと振り返ると、"血が床に、いきなり発生"していた。
それも、一定間隔に現れている…。まさか!?
「…!ネタが割れたぞ!お前は"光の力"を操作していたッ!そこだぁっ!!」
---ガギィィィンッ!
…姿が現れる。やはり自身へと向けられる光を反射させないようにして、擬似的な透明化を…!
「…バレてしまったか、【女帝】に後で謝らなければ。」
---ギリィィィン…ッ。
コイツ…!俺の筋力から打ち出される一撃をこうも軽々と受け流してくれる…!
「…話を戻すぞ。」
三倍、酷ければ一〇倍の差を物ともせず俺に容赦なく鉤爪による拳撃を叩きつけてきた…!
「…それのせいで、全体の平均レベルが此処より10倍だったベータテスター全員でかかっても勝てる事は無く…。」
酷く現実感が無い話とは対照的に、重く、素早い鉤爪に切りつけられた箇所の痛みはどこまでも現実だ。
「転じて、レベル上げをしたら更に【女神】は強化される。」
「積まされたんだ。俺達は。」
…ッ!?また、消えた…!?
血の跡を…。いや、もう無い!乾いてしまった…!
「…アビリティジェム。」
…だが、こういう時はまた背後を狙ってくるはずだ。背後へ全神経を---
「だから、俺達は初日で不完全な【女神】を殺したのさ!」
ここッ---!
「---そんな事を僕に教えて、何になる!解放!」
---【縮地】、俺の背後にいる、奴の背後へ出る!
---ズォォォンッ!
「しかし、俺達の求めたメインストーリーは、完全体の女神の打倒の"先"にあった!」
---カァァンッ!カンキンッ!カァンッ!
防がれる、だが、俺の連撃は止まらない…!このまま奴がまともに攻撃を防いでいるのなら確実に殺せる…。
「…何が、言いたい…っ!」
---姿が、消える。
くそっ…!奴の能力のタネがわかっても血の目印が無くなればこんなものか…!
「…仲間になれよ、【魔神王】。」
「…っ!?」
しまった…っ!【女帝】から何らかの形で【魔神王】が伝わっていたのか…!
敵に、俺の情報がバレてしまった、事になる…!
「君は常人離れしたステータスを持っている…。だが、それはレベル4185の俺の攻撃をそう何度も耐え切れるほどなのか?」
「…今仲間になれば、君へのリスキル攻撃は行わない。」
…良かった。この言い分を聞く限り、俺の【不滅の魔神王】の全容まで走らないようだ。
まず俺の能力を知っていて殺すつもりならもっと人数を連れてくるはずだからな。
…正直、【第二段階】の俺に一人で挑むなんて自殺行為に他ならない。
例えて言えば、戦車に対して手榴弾一発で立ち向かうようなものだ。事実、それ程のステータスの開きがある。
…ともかく、
「…貴方をナメてるのは、僕なんですよ。」
「…要は。」
片手剣を投槍の如く投擲する準備。
「余裕面してんじゃあねぇッ!!」
---ビュンッ!
俺の筋肉は膨張し、跳ね魚の如く手に持つ片手剣を投擲した。
「…【衝撃波】!」
瞬時に超重量と長刀身が売りの剣を抜いて追撃。奴を逃す気は無い。
「…交渉は、決裂か。」
---カァンッ!ダンッ!
鉤爪によって叩き落とされた片手剣は地面に硬質的な音を立ててバウンドした。
(…なっ!?俺の一撃に反応して、叩き落としただと…!)
「…俺は、君を殺す準備は出来ている。"能力"は分かっているんだ。」
彼は【衝撃波】でさえも軽々と飛び越えた。
「それなのに、単独で君を殺せない準備なんて、するはず無いだろ?」
(……ッ!?元からッ、"単独"でやる気でいたのか!?俺を!?)
そのまま、ゆっくり歩いてくる。その怠慢な動きは俺に底知れない恐怖を与えた。
「…【月】のアルカナの能力は、あらゆるスキルをストックして、消費する事による半永続的な使用だ。」
「…まぁ、つまり、【女帝】だけじゃなくて、【魔術師】、または【審判】もマネできる。」
(【女帝】はここらで切るか…。あいつの、【審判】で一発逆転を狙うしかない…な。)
奴の前方に秤の紋章が現れる。
「【月】:【審判】!」
「何かしようとしているが、させない…!このまま、死んでもらうぞ!」
「アビリティジェム…!」
「解放!」
【縮地】の効果だ。
相手の背後に出る、そこから…!
「【連撃】、【衝撃波】…!【全属性魔法弾】連射!」
一度に五発の【衝撃波】と並行して【魂装】全体から【全属性魔法弾】を放つ。
「…!?
奴にこの弾幕を回避出来るくらいの反射神経がある事は確認済みだ…!
『圧壊の魔盾』の効果を使って、奴の逃げる可能性を殺し尽くす!
「逃げようとしても無駄だッ!『圧壊の魔盾』!」
奴の体に対してだけ青い波を適応させる…!
「…!?」
…身体はもう動かせない。少なくとも俺の一撃が当たるまでは、な。
---ドドドドドドドッ!!
「ぐああああ!!」
彼のその姿は爆炎の中に埋もれた…。
…当たった、か。
俺は腰を下ろす、こう言うのを気疲れと言うのだろうか。
今回は本当にヤバイと---?
---ブシュウウウッ…!
……血、か。ちょうどあちらの方に、奴を倒した方で上がっている。
…俺は、立ち上がって、外に出ようとした時に気がついた。
---足が、無い…?
…ズルゥッ!と、瓦礫から滑り落ちる。
同時に、奴の所の煙が、晴れた。
「…なんで、と言いたい顔をしているな。」
---カツ、カツ。と硬質的な音。
「何故、"俺が無事"で、いるのかと言う…、そのような疑問を抱いている。」
ば、馬鹿な…っ!?
だが、最後に【審判】、と奴は言っていた…。
「…そうだろう?【魔神王】。」
【アルカナ】の称号スキルはどれも強力なもの…。
奴が"五体満足"でいられるのは、考えられ無い話じゃない…ッ!
「…何を、したん、です、か。」
…情けないが、相手が答えてくれればまだ勝ちの目はある。このままでは、嬲られ続けるだけだ。
---カツ、カツ。
「【審判】、相手から貰った傷を跳ね返す。」
奴は俺の目の前で止まった。
「お前を追い続ければお前は俺の攻撃で死ぬ。」
右手に持つ鉤爪を上げ、下ろす。
「逆に、お前が俺を殺そうとしても、俺はそれを跳ね返す…。」
…ザクリ、と、残った俺の首を奴は刈り取った。
「『魂抽出器』、これをお前の粒子に使って、【魔神王の魂】だけを取り出してやる…。」
そして、手に持つ鉤爪を、俺の心臓へと突き刺そうとする。
「お前は、ここで終わりだ…!」
「---なら、俺の勝ちだ。」
---鮮血が、舞う前に復活する!
《レベル5759→レベル5758》
---ダァンッ!
「うぉあああぁぁぁぁああッ!!」
まだ、【第二段階】は切れていない…!
「なッ!?まさか、よりにもよって、【不滅】だと…?」
【不滅の魔神王】の効果で奴はまともにダメージを与えられないはず…!
それに、【審判】だって、あんな強力な効果に副作用がない筈が無いッ!
"連続使用が出来ない"ッ!それが弱点の筈だッ!
「【全属性魔法弾】ッ!」
ゼロ距離ッ!ここでブチかますッ!!
---ドバババババッ!
「ぐっ…!ぐああああっ!?」
…奴はまともに防いでダメージを食らった。
やはり、【審判】にはやはりクールタイムが必要だったのだ…!
---ビュンッ!
…俺は止まらず、剣で撫で斬りにして一度に四肢を切り落とす。
ガードもできない奴をダルマに出来ないほど、俺は耄碌していない…!
---ズブッ…ブチィッ!!
「ぐぅおおぉぉおおっ!!??」
---ブシャァァッ!!
「がぁああああああッ!!」
---ベチャッ!ビチィッ!!
贓物が飛び出し、もげた四肢が飛び散る。
…血溜まり、いずれは粒子に変わるそれは、どこまでも生々しい。
俺は剣を上段に振り上げる。
「…はぁ、…はぁ、…良くも、ここまで、手こずらせてくれましたね…!」
「…【第三段階】…。」
…俺の下に転がっている死体未満がボソリと何か言った。
間髪入れずに奴の口に剣を叩き込む---!?
《EP値が 消費されます。》
そのアナウンスを皮切りに、俺の周囲は闇に包まれた…!




