第4話 佇むは【月】
1.『不可視の宮殿』内部
「それはともかく、君に依頼したいことは【月】の打倒だ。」
…人員は?
「勿論アーサー君一人だ。君の持つ【不滅の魔神王】と、【第二段階】による相乗効果により、君の耐久力は《攻略組》クラスの攻撃を復活無しの状態で36発は耐えられる。」
…【不滅の魔神王】はレベルを一つ下げて復活し、殺された相手からの攻撃によるダメージを二分の一する効果を持つ。〇.五÷殺された回数だ。
今のストックは759。そして【第二段階】を入れると5759。
…正直、【女帝】との戦いでも手加減していたぐらいだ。あまり練習する機会も無かったし、ちょうどいいと思ったので手加減したが。
「…君も、私が手引きしたのだが、それもあって名実ともに【ワールドボス】の称号を手に入れた訳だ。」
そんな事を晴れやかに言った後、ザスターは少し考え込んだ。
「…まだまだ、戦力は必要になるだろう。君一人ではインしていない時が大変だ。」
「…アガサ君と私は別行動する。 では、また会おう。アーサー君。」
…俺はミラの事が気になっていた。
「あの、ザスター。ミラ、と言う人をご存知ないですか?」
名前で聞くのは偽名も騙る事が出来る【ビクトリア】では望み薄だが、これに賭けるしか無い。
「…ミラか。君の監視役を務めさせた彼女かね。」
…多分、それだ。
「はい、そうです。」
「彼女は、準攻略組からの傭兵だった。…私も、詳細を知る訳では無い。君の監視役を勤めてくれたのは、気まぐれかも知れないな。」
「彼女は二段階の【ランクアップ】の【僧侶】、つまりは【高位司祭】です。それ程の実力を有しているのなら引く手数多でしょう。」
「…つまり…?」
「今、貴方が心配する事ではない、という事です。アーサー殿。」
突然にアガサさんが現れた。
天井裏から、まるで猫の様に、音もなく着地する。
「どうか、お互いの任務に集中しましょう。」
「…【月】は、青陣営の本部にいる筈だ。他の所を監視させても彼らしき影は無いのでね。」
2.青陣営本部
…喧騒に湧く青陣営。すっかり戦勝ムードだ。
その"快進撃"は、相手が強い者をこの砦への攻略に回したということに他ならないのに。
…まぁ、中堅、初心者の彼らでは、防衛というものでも荷が重すぎたのかも知れないが。
「…解放。」
---バババババッ!!
---ドゴォォォォン…!
「うわあああああああああぁ!!!」
「【周囲断絶】!」
「【瞬間防御】!」
「助けてくれぇぇぇっ!!??」
…咄嗟に対応できた者もいれば、できなかった者もいるのはまた、当然。
「…ゲホ、ゲホ。どうなってんだ!建物が崩壊したぞ!」
マキナは咳き込みながらぼやく。
それに隣にいた【司祭】が答えた。
「近くに反応1、敵襲です!【治癒】!」
【治癒】…
『周囲五メートル内にいる人物を選択した人のみ回復させる。精神力×三が回復力となる。(精神力は三〇〇以上からはこのスキルへと適応されず、身体的欠損を治す事は出来ない。)』
「良くやったアリス!【一騎打ちの誉れ】、【衝撃反撃】!」
【衝撃反撃】…
『相手の速度五十キロずつに比例して相手に与えるダメージ量とノックバック距離が上昇する。【受け流し】派生』
【受け流し】…
『宣言してから『オフ』と言うまで、自身に攻撃が迫った時の動体視力を三倍程度上昇させる。』
「あっ!見えました!一時の方向です!」
…黒いフードの男が迫ってくる。
「【受け流し】!」
---ブォォォンッ…!
この一撃は彼に出せる手軽であり最強のコンボである。…普通なら対応できない。普通なら、だが。
「【模倣】、【縮地】。」
いつのまにか背後へ---
---ギィィィンッ…!
鉤爪と斧が拮抗する…!
「【模倣】だと…!」
(なんとか反応できたが、【縮地】を使い放題ってチートじゃねぇか!?)
【模倣】
『一度見たスキルを再現する。効果は半分となる。(このスキルの発動中に、他のスキル、もしくはスキルアビリティは使用できない。)』
離れ、爪を捨てて更にマキナの背後へと回り込む。
「【模倣】、【第二段階】!」
…青い光は一つの光を、『再現』する。
【模倣】事態が再現するスキルの為、『概念抽出』は必要ない。
「『終焉の稲妻』!」
---ドルゥゥゥゥンッ!!!
「…っ…が、はぁ…っ!」
振り返ろうとしたその背中に『終焉の稲妻』が突き刺さる。
「マキナさん!?今、【治癒】を---」
血にまみれた形相でマキナは必死にアリスに訴える。
「---に、にげ、ろ。」
---ドスゥッ!!
吐き出されるのは吐息ではなく、"鮮血"。
「がっ…!あっ、はぁっ…!」
見ると、剣が"別れていた"。
「…彼女の『終焉の稲妻』は、"一撃ではない"。」
「無数に枝分かれし、伸びて、敵を削り下ろす。」
---ブシャアッ!!!
「よくもマキナさんを!」「許さない!」「死んで詫びろ!」
「【剛撃】!」「【衝撃波】!」「【魔砲】!」
---待機していて、残っていた三人の同時攻撃、たが…。
「…懲りないな、『終焉の稲妻』!」
…三人をも巻き込む一撃。
「ぐはぁっ!」「がっ…あ…。」
…前衛は、勝利への芽を残すことに尽力したようだ。腹を貫く青剣を手で抑えて後方を守る。
「カール!マシダっ!?…くそっ!【強化蘇生】!」
【強化蘇生】
『粒子化せず死亡している人間を無尽蔵に蘇生する。この時、蘇生された者のステータスは二倍され、理性を失う。職業スキル【死霊術師】派生。』
---グチャ…ッ。…カラァンッ!
「グオオォン!」「ガァァァァ!」
腹の『終焉の稲妻』を抜き、前衛の槍使いと剣使いが蘇り、【月】へと襲いかかる!
---ガァァァァンッ!
剣をまず刀身で防ぐ。
「………フンっ!」
---キィンッ!ガンッ!ギリギリ…ッ!
後から迫る槍を刀身を鍔のところから広げて盾のようにしてガードする。
その内に【死霊術師】は逃げようとしていた。
「…【テレポート---「『終焉の稲妻』。」
だが、それを逃す【月】ではない。
---ドルゥゥゥゥンッ!!
「---ひっ!?」
彼女に容赦なく『終焉の稲妻』が伸びた。
このままでは死亡してしまうだろう。だが、
「………ッ!?」
彼らは、驚くことに咄嗟に武器を捨てて術師を庇いに行っていた。
「ガ、あ、あぁ。」
「ニゲ、ろ…!ナミネ…!」
---グチャアッ!!
…【テレポート】は、成功した。彼らは死者となってでも彼女を庇うことを選択したのだ。
…静寂が、廃城を包む。
だが、もう一人の"亡者"は【月】を離さない。
「【転身:亡者】。」
【転身:亡者】…
『自身を死後、一回のみ蘇生する。種族に【亡者】が追加される。【人体改造】派生』
「【人体改造】『概念抽出』、『巨人種』。」
【人体改造】…
『種族の付与と、一度見た種族へと人体を一瞬で改造出来る。』
「…マキナさんの仇は、取らせてもらいます…。」
---バキ、メシミシ、バゴォンッ!
…天井が破壊され、パラパラと瓦礫と共に木漏れ日が降る。
「………『終焉の稲妻』。」
【月】はその瞳で語る。『そんなデカブツになってどうするのか。』と。
『終焉の稲妻』は刀身を如何様にも伸ばすことが出来る。いくら大きくとも、彼は腕一本動かさず彼女を倒すことができるのだ。
---ドルゥンッ!!
…剣が刺さる、食い破る、だが。
『助けて下さぁぁぁぁいっっ!!!!』
彼女はそれに気を止めずに大声を出した!
「…ッ!?…やら、れた…っ!」
---だが、まずはっ!
「『終焉の稲妻』!!」
---ブシュウッ!………バシャァッ…ッ!
「誰でも、良いです。…後は、頼みましたよ…!」
---ゴォォォンッ!!!
…巨人の体は粒子になりながら血だまりと共に建物を押しつぶす。
…やがて、完全に消滅した。
(…ここで今、残っている改革派の【アルカナ】は俺のみ。)
(他の改革派の【アルカナ】が復活したとしても、リスポーン地点からデスした地点まで行くのに【テレポート】は使えない。)
【月】は『終焉の稲妻』をその手から消すと、青い光を再構成する。
(要は、事は自分一人で隠密的にやらなければならない。たとえそれが…。)
---俺たちの側に《攻略組》が味方していたとしても。




