第五話 ギブ・アンド・テイク
1.魔王城『フォイドラ』跡地
「………チッ、流石に…!!」
---ガチチチチチチッ…!
「………キツイなッ!!」
---カァンッ!!
《バーサーク》の蹄を勢いよくカチ上げる。
…そろそろジリ貧になってきたので、【第二段階】の使用を考えてみることにする。
…こいつに相性が良いのは『圧壊の魔盾』の捩じ伏せる力だ。
サラから買い取った情報から習得した『概念固定』を使えば『圧壊の魔盾』を使う事が出来る…だが。
(………【第二段階】を使うには、後"16時間"必要だ…。)
(それに、イトウさんは『操作不能になるだけ』とも言っていた。ログアウトしない限り、視覚は間違いなくあるはずだ。流石に【魔神王】が俺であるとバレるのはマズイ…。)
(どちらにせよ、俺は【第零段階】で戦わなければならないのか…?)
(………いや、逃げれば---。)
---ダァンッ!
思いっきり地を蹴破りながら進む《バーサーク》は、俺の目の前にまで迫っていた…!
「………ああ、くそったれ!」
ぼやきながら避ける。…今、手元には市販の【テレポート】のアビリティジェムがある。逃げられる。
…だが、詠唱時間が必要だ。三十秒は突っ立ってなければならない…!
…ダメだ!これも現実的とは---。
〈Juaaaaaaaaaaaaaaaaaaaッッ!!〉
くっ、ダメ元だッ!!
「【衝撃波】ッ!」
…ギリギリ避けながら一撃を放つ。
---ボシュン…ッ!
そして、煙となって消えてゆく…。
奴の、HPゲージは一ミリ削れていればいい方か…。なんにせよ、多勢に無勢。人員が必要だ。…くそっ、ラマンダ君と、団長くらいしか頼めるのがいない…。彼らは、俺と違ってかなりステータスが下がっている状態。
…だがこの手しかない。俺は、もう既にログアウトしているかもしれない二人にチャットを送ろうとする、が。
【組織】の人から言われた言葉を思い出した。
『………"スロット"、いざという時は【組織】にチャットを送ってくれ、現在、応援に行けるフリーの奴が一人、居るんだ。』
---ッ!?
だん、と、ついに《バーサーク》に吹っ飛ばされた!俺は思い切り飛ばされる…!
(【組織】にチャットを送っているうちに隙を突かられたか、だが、もう後が無い…!)
---ドンッ!ダンダンッ!、と大きく《バーサーク》から離れた場所に着地、瞬間、吐血。
「…ぐ…ッ。がぁ…っ!」
………腹に良いのを貰ったか、だが、これから来るはずの助っ人が来るまでは…!
立ち上がった時に、声が聞こえた。
「…おや、一人、死に損ないがいるようですね。」
………《バーサーク》に、チマチマと【衝撃波】を当てながら背後の人物へと話す。
「助っ人…と、言うことで、良いんですね…?」
ぶん殴りたい所だが、今、俺の背後に【テレポート》してきた男は救世主の筈だ、はずなのだ、きっと、多分、メイビー。
男は今にも嗤いそうだと言いたげな様子で言った。
「…あぁ、ハイ。その通りのようです、ね。…この『レイザド』、【組織】たっての任務と聞いて駆けつけた次第です。」
「………そうですか。なら、あそこにいる《バーサーク》を一旦倒す為の協力を申し出ます。」
…ここで強気になる奴は愚の骨頂。ここはゲームの世界、誰もが別のリアルを持つ、ということはマジでやっている人も必然的に少なくなる。
---協力してくれると助かるのだが…。
「…あぁ、良いですよ。礼儀正しい方は嫌いではありませんので。」
…どうやら、功を奏したようだ…。
「…さぁて、早速ですが、あのデカブツを何とか止めてください。私魔術師タイプなので。」
魔術師…【黒魔道士】かその進化系だな…。
「…わかりました。何秒程度留めますか?」
「………?そういうことですか。いや、注意を引いてくれれば"どこに居ても射程内"ですので、時間を稼いでください。」
………これは、心強いな。
「アビリティジェム…。」
「解放!」
…一度に【縮地】を使って接近、撹乱に入る!
〈Juaaaaaaaaaaaaaaaaaッッ!!!〉
…奴の弱点は、『猪』というものによく見られるその加速力…。
小回りが利かず、停止も儘ならない。…命中すれば当たり所が悪いとほぼ即死に繋がるようなものだが。
…細かいことは置いといて、ただ、相手の側面に回り込めば良い---!
---異変は、突然に。視界全ての地面が、薄赤く"染まる"。
「【連結方陣】×【多重化】。」
………《バーサーク》の足元に濃い赤が多重に現れ、俺を追いかけていてもそれは離れる事は無い。
「…『収束』『炎』『竜巻』『五重』。」
やがて、炎がトグロを巻き、巨大な大蛇となって魔猪を飲み干す!
「【<焼却:世界蛇>】………。」
---その焔は、まるで消化するかのように魔猪を溶かし、丸焼きを作成していく…!
《Juuu…!?Juaaaaaaaaaaaaaaaaa………ッッ!?》
…圧倒的な、火力。一瞬で俺を苦しめた蹄も皮も肉も"溶ける"。
焔の竜巻が、《バーサーク》を徐々に削り取っていく。
俺は、《バーサーク》がこんなに呆気なく焼却されるのを見てしばらくの間唖然としていた…。
「………どうですか?良い悲鳴を上げますね。ま、もう魔法を試せるだけの体力も残って無い筈なんですがね。」
…はっ!?つい、惚けていたら、彼…『レイザド』が、隣にいた…。
「………これなら、時間の問題ですね。…確か、スロットさん、でしたか。」
「…はい、僕に、何でしょうか。」
「………貴方は僅か二日間で二つの魔王城を破壊し、《魔議会》をも壊滅に追い込みました。---何らかの妨害を、受けながら、ね。」
………何が言いたいんだ、コイツ。
「上は、貴方の力を認めたんです。だからこそ、この、【魔術師】の【アルカナ】を持つ私が貴方の助っ人に現れた訳ですね。」
「………え?」
【アルカナ】?俺はそんなものは知らない、何かの特殊なスキル…か?
「おや、察しが悪いご様子。…貴方も何らかの【アルカナ】持ちでしょう?でないと今の環境では雑魚にも勝てませんからねぇ。」
…なるほど。【アルカナ】は、ステータスの低下が無いのか、【魔神王】と同じように。
俺は、とりあえず分かったフリをする事にした。
「…だいたい分かりました。レイザドさん。これから宜しくお願いします。」
「えぇ、ですが、私はあまりログイン率は高く無いので、襲撃の日程などを教えて貰うと助かります。」
---『レイザド』の丸い眼鏡が光る。
「---まぁ、こちらからも宜しくお願いしますよ。」
………俺は、魔物のイトウさんと繋がっているなんて疑われると色々マズイと感じたので、《バーサーク》が元に戻る前にログアウトする事にした。




