第9話 七転抜刀
1.ダンジョン内部
ええーっ!?アイツがナギトォ!?
「ン、久しぶりだな、クソナイト。お前の経験値と金はなかなか俺の役にたつ。今日も俺の肥やしになってくれ。」
………!あの話し方、間違いない!
「お前、ナギトか!」
「だからそう言ってんだろ。」
まさかナギトが女だとは…!【幻術】スキルでも使われたくらいに意外だ。
思い出すと奴との戦闘は常に斧に気をとられていたせいで、そこまで顔とか見てなかった気がするし!
「おい、ラマンダ君。どうするんだ。」
我が友人はチャッ、と武器を構えた。
「………戦おう、アーサー。俺は逃げたくない!」
そうか…。
まぁ友人に付き合うのもやぶさかではない。
「ここで倒れてもらうぞ。ナギト!」
「一槍報わせてもらう!」
「---そうか。まぁ、御託はここまでだ。ここで死ね。」
---俺たちはナギトの狂人的なパワーの源を調べた。
初めの宿舎前。そこで俺は【瞬間防御】を発動していたにもかかわらず、叩き切られてしまった。
初動から攻撃力があんなに高いのは【蛮族】のスキルの性質から見てありえない。
蛮族は連撃で効果を高めるからだ。
二次職が特殊なクエストで上がれる【三次職】には【鏖殺王】という職があるらしい事を昔、俺はザスターの研究資料を盗み見て知っていた。
そのスキルは『攻撃が命中した時、相手の防御力を七割下降させた時の防御力を参考にしたダメージを与える。そして同時に自身は自身のレベル×二のダメージを受ける。』というものであった。
チートスキルどころではない。なまじデメリットがあるから良いものの、自身のレベル×二のダメージはレベル五四〇〇代からは三割のHPが削られる事になる。(【体力増強】無しで。)
ピーキーすぎる、が、そんなものを扱えているのは自身のプレイヤースキルへの自信の表れなのかもしれない。
………………戦闘に戻る。
俺らのスキルじゃ、この狭いダンジョン通路内では援護すら出来ない。その為時々スイッチして、それぞれを補う算段だ。
---ガァンッ!…ガッ、ガチガチガチガチ…ッ!
ラマンダ君が前線で頑張っている。
………。所々攻撃を受けているようだ。
俺なら一発で死ぬ自信があるのに、耐えている。
もしやラマンダ君もランクアップしたのか?
それだったらまだ一次職の俺の立場が無くなるのだが。
という情けない思考をしていると、遂に槍と斧の攻防が終了した。
---ズォォォオアッ!!
決め手はナギトが隠し持っていた短斧に警戒しすぎたラマンダ君が今まで持っていた斧に両断されてしまった事だ。
………!
「…抜けない。」
「ナギトさん………。破壊不能オブジェクトってありますよね…。あれ、防御力が付与されて無いんですよ…!」
なんと、ラマンダ君の肉体半ばで斧が止まっているでは無いか!?
「当たり前だろ。防御力付与したら【破壊】無くても破壊不能オブジェクトが壊されちまうだろうが。」
【破壊】…。
『破壊不能オブジェクトを破壊可能にし、通常オブジェクトへの破壊効率を五倍する。』
「………【幻魔盾】は破壊されない。あくまで相手の攻撃を軽減するスキルだ。破壊不能オブジェクトの性質を持つ、ね。」
「---俺は、そこに目をつけたんです。」
「その、腹の紋章………もしかして、【付与術】か。それに【概念抽出】を使ったな。」
ラマンダ君の砕けた鎧から現れた素肌には、紋章が夥しく刻まれている…。
【付与術】…。
『属性・魔法などを対象に付与できるようになる。』
【概念抽出】…。
『スキル、スキルアビリティの概念を抽出する。【付与術】等からの派生。』
「当たり…!あのスキル習得クエストは長かったなぁ………!」
ラマンダ君の肉体から【魔力風】が滲み出ている。体に魔力をかなり貯めている証拠だ。
………自爆する気か。
俺は少し距離を取る事にした。爆発に巻き込まれたら何もかもオジャンだ。
「悪いが、自爆に付き合う趣味はない。」
「---消えろ。」
---ダァンッッ!!
………その斧が破壊不能オブジェクトの性質を取り込んだラマンダ君を引き裂いた。
破壊不能オブジェクトは、【破壊】無くしては壊せない。
「えっ、あっ、ぐッ。」
つまりは、【破壊】があれば、易々と砕ける。
「………お前に初めから【破壊】を使わなかったのは狭い通路内の戦闘に慣れておく為だった。」
「どこもかしこも【破壊】で地形を変えられるわけじゃねぇ。運営だっていつか追加するだろ。」
「………それを踏まえて言うなら、お前は良い経験値になった。」
両 断 !!
---ギィィィィンッ!!
………血飛沫が舞う。
…ラマンダ君の自爆は不発に終わった。
「………次はお前だ。クソナイト。」
2.ダンジョン深部
---狭い通路内に色とりどりの【魔法弾】と、それを掻い潜る"疾風"の姿があった。
(まさか、闇と光の相乗効果も入れた完璧な【六大属性魔法弾】連射が相手にさほどダメージを与えられていないとは…!)
それでもナギトが近づいて俺を切って止めなければヤバイと思わせるほどの連射速度と威力を保っているのだが。
もう奴と俺との差は僅か一〇メートル。
------仕掛けるしかない!
---スラァンッ!
俺は長刀身と超重量が売りの剣を抜く。
「………行くぞ。【殿の心得】、【魔法剣:煌撃】!」
---キィィィン…ッ!
…俺の獲物は二.五メートル程の長さを持つ。
鞘は異次元なので持ち運べるようになっているが、その長さは対人戦では無類の強さだ。
「---………【魔力放出】!」
---バシュゥッ…!
体から魔力を放出し、ジェットの如く相手に刺突!
「速いな。」
ナギトは【魔法弾】を躱して空中だ。
いける!
「だがまだ足んねぇよ。俺を仕留めるにはな。」
---トッ。
…………!剣先を踏まれて躱された!?
「頭上がガラ空きだ。」
---ブォォンッ!
兜割の要領で斧が振りおろされる。
---咄嗟に頭から魔力を放出し低姿勢になり回避する。
無理やり推進力を後付けした事に体が悲鳴を上げる。
…そして、低姿勢のままだが、【魔力放出】により培った勢いは消えてくれない。
---ガァァンッ!………パラ…パラ…。
…俺は勢いよく頭から壁にぶつかり、砂埃が舞う。
(………!今だ!【スモーク】!)
今は時間が必要。
二種類の煙により、俺の探知は難しくなる筈だ。
俺は次の作戦を考える。あいつにはとてもじゃないが策なしでは勝てない。
………次はこれで行こう。
「………聖剣裁定」
「光属性魔力混合比率三〇%」
「………照準。」
アイツは逃げたりはしない。必ずやってくるだろう。
------俺は、そこを狙い撃つ!!
「発射---」 「遅い。」
---カァンッ!
---天井から襲いかかる"白銀"
俺は咄嗟に剣をかち合わせた。---
---ギチ、ギチギチギチッ…!
………短い剣を携帯していて良かった。
危うく、殺されるところだった。
(アイツのスキルは『攻撃を、マトモに食らった時』に発動する。剣か何かで直撃を防げば一撃必殺は耐えられる…!)
(それにアイツはわざわざ「壁を壊さないために【破壊】スキルは使わない」、と言った!剣を壊すには耐久値を大幅に削る必要がある、耐久値の減りに【破壊】スキルは必須だ!)
---だから
俺にはまだ勝機がある!!
「………………そろそろ本気を出す。」
「前も思ったが、お前は中々見込みがある方だ。」
---【臨界強化】
その言葉が脳裏をよぎる。
………………それは、マズい!!
「【魔力放出】!!」
まずは…ナギトを吹き飛ばす!!!
---ブォォォォオッ…!
「ん………。【魔力風】か?まさかクソナイト。お前も自爆狙いとかないよな。」
奴…………壁に斧を突き立ててッ…!?
だが………これは好機!
俺は全力で壁に縫い付けられているナギトへ飛ぶ。
その胸に剣を突き立てれば勝ち筋は、ある!
---ダンッ!ダンダンッ!
「うおおおおおおお………オォォーッアァァァァーーッ!!!!!」
叫びながらの 全 力 突 進 !!!
---ナギトがニィ、と笑った。
「【臨界強化】!」
---風に抵抗するのに精一杯な様子は演技。
その正体は好機を待つ虎である!---
風圧をすいすいと抜けて、ナギトは俺に近づく。
………だが。
「アビリティジェム…」
「解放!」
---パァンッ!
当然っ、【縮地】!!
-----一瞬にしてナギトの背後へ出る。
(あとは、振り下ろすだけだ…!!)
〈迫るナギト、それを利用し、舞うアーサー〉
〈全力を尽くしたアーサーの意識は最早蜻蛉の領域にまで達していた。〉
〈………ただ一つ、致命的な情報欠陥が無ければ、勝っていただろう〉
「【臨界強化】には二面性がある。」
「…それは、文字通り"時間"を"増強"する!」
【臨界強化】…
『自身の素早さ、攻撃力をニ.五〇倍上昇させる。
自身のレベル×〇.〇〇一秒それを持続させる。その間"自身の体感速度を上昇"させる。このスキルは戦闘終了時まで再使用出来ない。
(このスキルはレベル一〇〇〇〇から以上は成長しない)』
---スッ…。
---バサァァアッッッッ!!!!
………俺の体が右半身にかけて両断された。
「………………な、んで俺は…!たしかに、あの時、縮地を------」
見えて…いたのか…!?俺の、"軌跡"---!?
「時間を圧縮して、通常見えぬ物も、俺らは見えるのさ。」
………………俺の体がドサリと落ちる。
どうやら刃先が引き抜かれたようだ。
「………お前は強くなった。だが、足りない。---俺が【第三段階】を使う必要性を感じない。」
---覚えてろよ………!ナギト!
…だが、歯をくいしばる事も、今は出来ない…ッ!
何故、何故、何故。見えるのに、防げないんだ。
あの、斧は。
「じゃあな」
---靴の音が、離れていく。
…俺は、また、"敗北"した。




