第4話 『幻想ハシゴのビフロスト』
1.ビフロスト村-村長の家
俺は二階の窓から石畳の道路とたくさんの煉瓦造りの家を眺めながら思考を回した。
この村で起こっているのは失踪事件だ。
そして行方不明者は帰って来ていない。
…この時点でこの村は何か隠そうとしている、と確信した。
それに確信が持てたのはこの村は外部からの干渉を避けていたことと、その割には俺を事件に関わらせていることからだ。
なにを思って方針を変えたのかは俺の知らないところだが、事件の全容についてはある程度推測できる。
俺が夜にやったことを思い出してほしい。
1.甲高い悲鳴が聞こえ、
2.村長やその娘は俺が起こす声にも反応せず扉を開けなかった。
3.村長の家にいた俺でも分かる悲鳴なのに、村の住民は誰も出てきてなかった。
4.急行して魔物を倒すと衣服が出てきて、
5.襲われていた子供らしき影は俺の前から去った。
3からは村はこの事件を〈当たり前〉、と思っていて止めなかったか、止められる状況ではなかったということが考えられる。
4からは魔物の正体が人間である、ということが想像できる。
一番謎なのが5である。俺に倒された魔物と敵対関係にあったのか、自身も俺に倒されてしまう、と考えていたのかもしれない。
そうこうしていると、村長から夕食の誘いが来た。
2.ビフロスト村-夜
俺はみんなが外に出ていないことを確認し、外に出る。
「…アビリティジェム」
「…解放。」
【サイレント】の効果だ。
俺は黒い布を被り、この街を回ることにした。
3.ビフロスト村-広場
…この街は夜に月の光があまり見えない。
何故だと思ったが、それは街の周囲を囲うように大量の"黒い魔物"が戦い続けているからだ。
その様は地獄そのもの。
化け物が空で戦い続け、戦う気力のないものは真っ先に空から落とされる。
特徴的なのは、戦い続けている彼等が作り上げている半球の頂点に、黒い魔物に隠された月に取って代わるような"赤い月"がたたずんでいることだ。
そうやって、それの放つ赤い光を浴びていると、衣服や櫛、財布などが降ってきた。
黒い魔物は倒される時に衣服を落とし、闇に溶けるように消える。
俺が昨日戦った化け物と同じようだ。
…その衣服を着ていた人は死んだのだろう。
………村長の娘が言っていた失踪事件とやらの原因はこのことだったのか…。
俺はなにをしていいかも分からず、周りを見渡す。
この静寂の中、声が聞こえた。
「助けて…」
俺は声のする方は走る。
昨日見逃してやった子供の魔物だ。
そいつは俺を見かけると、すばしこく去っていった。
………何だったのか。
今、俺はなにをすれば良いのか。
さっきの魔物のことは忘れて考える。
あの空の魔物を全滅させることか?
そこまで考えて気がついた。
村長は俺になにかを隠していた。
"それはこの異変のことなのか?"
たしかに、空で戦っている黒い魔物はこのビフロスト村の住民であると推測できるのだが、俺が一人で空を埋め尽くすほどの魔物を皆殺しにするのは時間がかかるだけで簡単だ。
ビフロスト村の住民は皆殺しにされても構わないのか?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
………実はこのような殺伐とした考えに至ったのは訳がある。
俺が昨日、魔物を倒したことを報告すると、村長が
「………その魔物は見つけたら殺してやってください。」と、
言ったからだ。
………その魔物から出てきた衣服と同じものを着ていた住民は、死んでいたというのに。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
………俺は、村長の家に戻る。
なにか重大な見落としがあるような気がしてならない。
4ビフロスト村-村長の家
そもそもこの村は"浮いている"
行方不明になった者の家族は名乗りを上げないし、少なくとも話題に上がったこともない。
ここは死生観がはっきりとしていないのだ。
少なくとも、オババが行方不明になった男の話をするよりかはアンナのいびりをするようなほどに。
………親子関係も気薄だ。親に敬語を使ったり、自分の子供に対してどもったり。
この村が他人との交流を嫌うのなら、自身の畑で自給自足しているはずだ。
それならば親子が話し合う機会も多く、鍛治士の家で見たような光景はほとんどありえないだろう。
そして商人もいないのに技術力が高すぎる。
レンガの家といい、石造りの地面といい、とてもじゃないが他の所から技術者を雇っていなければ作ることは出来ないだろう。
説明がくどいと思うが、俺の今やろうとしていることは、やってしまえば一つの村を滅ぼしてしまうことだ。
万全を期さなければいけない。
「あのー………。」
そして、この家も外から見た外観と比べて中が広いと思った。
「た、旅人さーん?……」
それに俺の部屋も都合よく用意してあった。
村長は初め…。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「………ウチにはあなたのようなよそ者を受け入れる用意はありません。」
「…申し訳ないのですがお引き取りください。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
と、言っていた。
村長は俺がこの村に来ることは流石にわかっていなかったはずだ。"だがこの部屋はあった"。
………誰も確かなことをしていないし、知らない。もはや彼等はフィーリングで生きていると言っても同じだろう。
もしや、この村の住民すらこのビフロスト村の舞台装置なのでは…。
「あの!」
えっなに。
俺は窓の方を見る。
…………窓にへばりついている"それ"は。
今現在、空を飛び回っている黒い物と同じ容姿をしていた。




