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【エター】新興VRMMO記【ビクトリア】  作者: 松田勝平
第八部 アスガルド動乱編
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エピローグ 再出発



 1.もう一つのバベル



 塔の中に入る。


 すると、自動で明かりがついた。



「…これ、は。」



 そこはまるで、近未来の様な機械で満ちていた。


 王は、出入り口から真っ直ぐ直進し、一番奥の扉の前に立つ。



『汝、光を望むか?』




 機械音声が、アルトリウスへと問いかける。


「大王様と共に。」



 それは、秘密の問い。



『…汝、魂の器であるか?』




「否。」




『……肉は腐り、魂は擦れる、人は苦しむ為にある物か?』





「肉は棺桶、魂と共に生き、帰る。」





『………キサマ、ヒトカ?』





「鼓動が止まった者。」





『…………ヒトである証拠は、あるか?』




「無くても、生きている。」




『ならば、魂は大王と共にあり。』






 扉は、開かれた。



 アルトリウスに連れられて、部屋の中へ入る一行。


 そこには、白い砂浜と、そこから続く深い"蒼"の湖が広がっていた。




「…なんだ、ここ。」



 そうデロンギが言うのも、無理は無い。


 その"湖"は、水平線が見えていた。


 まるで、大陸の果てから果てまで、続いている様であった。



 …天井は装甲で平坦に舗装され、まるで、人工物。



 景色に圧倒されていると、アルトリウスはさっ白い砂浜へと歩き出す。



 それに連れられるようにして、彼らも歩き出した。




「…此処は、我らが宝物庫。」


「"過ぎた歴史"の遺産。」



 アルトリウスは、ちゃぷ、と水をすくう。



「"歴史を呑み込む者"が住むとされる、黎明の窪地。」



 その水は、アルトリウスと同化した。


「私は、此処の奥へと潜らねばならない。」


「…しかし、この水は、肉体を喰らい、同化させる。」


「今は、機ではない。」


 アルトリウスは、そう言ってバベルの方へと戻っていく。


 デロンギは、慌ててついて行った。


「…デロンギ、付いてこなくても良い。」


「君は、プレイヤーなのだ。歴史喰いの副産物。」


「世界の修正力が、君達を召喚し、因果の再現をさせようとした。」


「ならば、その使命に従い、世界を再生するべきだろう───。」




「───付いていきます。」


「俺の使命は、俺が決める。」




「…勝手にしろ、デロンギ。」





 王と従者が扉の奥へと戻る中、一人、女は思考する。


「…ユシュエンの勘は、当たってた。」


「世界の中で、NPCの手による動乱が起きていなかったのは、自律性を失っていたため…。」


「アスガルドを拓くことが、キーだった…。」



 彼女は、ユシュエンの為、すべてを記録する。


 いずれ、彼とまた、訪れる為に。






 2.アスガルド地下-『水銀冠』臨時本部



 【第三段階(サード)】は解除され、うつ伏せに倒れこむアーサー。


 身体中から血が噴き出ており、もう、長く無い。


 しかし、既に放たれた斬撃は、ユシュエンを捉えていた。


 …【破却(ブレイク)】による、"切り裂いた部分を結界へと収納する能力"を持つ一撃は、ユシュエンへとぶつかり───。



 幾重による防御を切り裂いて、その身体を真っ二つに切り裂いた。



 刃に触れた部分を、即座に【第三段階(サード)】の結界内へ収納する事によって、擬似的な防御無視を体現したのだ。



 ユシュエンは、断末魔も残さず、粒子となって死亡する。



 アーサーは、呻き声を漏らしながらも、必死に粒子を生成して、何とか死なない様にしている。


 …そんな中、ある言葉が、アーサーの耳の中に入る。



《パーソナルクエスト 【魔神王】ユシュエンの復活 が 達成されました!》


《報酬 ワールドアイテム【魔神王の魂】》


 瞬間、【魔神王の魂】がアーサーの目の前へと現れる。


(───食らう、しか、ない。)


 もがきながら、その結晶体を、口内で───。



 ───噛み砕いた。





《パーソナルクエスト》


《『【秘密の魔神王(ディ・アルカナーズ)】\【策謀の魔神王(ディ・スケーディオ)】ユシュエンの剥奪』を 達成 しました。》



 アナウンス。


 それと共に、身体が、即座に再生する。


 魂が二つに増えた感覚が、アーサーを戸惑わせた。


 …しかし。


 ⦅アーサー さん が 【魔神皇】へと ジョブチェンジしました!⦆


 しかし、アーサーが感覚の違いに戸惑う時間など、無かった。


(【魔神皇】…?【魔神"王"】のランクアップか…?)


「…とにかく、周囲の確認を───。」


《スキルを習得しました!》


《【行動指針:魔神】、【分体生成】、【神の器】。》


(新しい、スキルか…。)


《【行動指針:魔神】により、貴方の行動は一部制限されます。》



(…え、行動制限のスキル…?)



 その時だった。


 魂が震え出す。


 アーサーではない、"何者か"の粒子が、生産され続ける。


「…そうか。成る程。」


 アーサーは納得した様だった。


 この生産行動は、自身を、苗床にする為なのだと。


 明らかに、粒子が何処かに送られている。


(【神の器】…詳細は…加護の影響を受けやすくなるスキル…。)


(しかし、『女神の加護』は前あった『崩界事変』の影響で消失した…。)



「───つまりは、魔神王の魂自体に、何か加護が残っているって事だろう。」



 そう言っている最中にも、アーサーの身体は粒子の生産を続ける。


 生産された粒子は身体の外へと移動しようとする。そのためにアーサーの皮膚は盛り上がり、最早、人の体を保つことすら許されない。



「…この姿では、人前には出れない、か。」


 アーサーは、いつか用意しておいた黒いローブを羽織り、顔を隠す。


「…………。」


 地に転がる、仲間の戦闘の痕跡を彼は一瞥し───。


「…予定は、変更だ。」


 "使命"は、彼の中から無くなった。



「俺は、自由に探らせてもらう。」



 一人、螺旋階段に向かって歩くアーサー。


 一度狂った指針は、戻ることはない、



 彼が人と肩を並べる事は、【魔神王】を始めに得た時から、既に無理な話だった。


 彼の目の中には、何も映ってはいない。



〈復活する【魔神王】〉




     〈箱庭の中の楽園〉




       〈真実は、蜜か、それとも、毒か〉



〈【ビクトリア】は、深く、暗く、沈む。〉



   〈放浪者は、その謎を追い、求める。〉



      〈全ては、真実を知る為に───。〉







   「───クソナイト、お前、何処へ行く。」



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