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【エター】新興VRMMO記【ビクトリア】  作者: 松田勝平
第八部 アスガルド動乱編
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第14話 奮戦



 1.アスガルド地下-『水銀冠』臨時本部




「【エディット】、『闇潜みの騎士(ベイリン)』!」


 アーサーの叫び。


「───行くぞ。【魔法剣:黒刀(シャドウズ)】。」


 その声に反応して、タイトは【魔法剣】をかけ直して走り出す───。


 【魔法剣:黒刀(シャドウズ)】…

 『光属性に対して一.五倍の特効と、闇属性が付与される。』


 その身を切り裂く筈の糸は、全てエルによって断ち切られているために───!




「クガン!」


 …クガン達に取って、状況は、最悪に近い。


 ユシュエンが居ない時点で勝率は100%では無くなった、即ち───。


 …此処で、彼らを結晶体の方角へと逃さず、二人だけで殺さなければならない。



「わかってル!ファリンはそこの黒い男に貼り付け!」


 そして、クガンは周囲を警戒する。

 眼で追おうとしているのは、神速の少女。


「僕はあのゴキに対応すルッ!」


(あいつは速い、だが、攻撃する瞬間に隙が生じる筈───!)

(マーメイが撤退するまで、引きつけてやル…!)


 そう思い、クガンが槍を構えると───。


「誰が"ゴキ"ですかぁッ!!」


 挑発にかかったエルが飛び込んでくる。

 しかし、馬鹿にしてはいられない、一瞬で鎧がかなり削られ、反撃しようと突き出した槍は軽々と避けられた。


(───速い。)


 二五倍された敏捷…誰も追うことができない不可視。


「【臨界強化(ブースト・タイム)】。」


 だからこそ、クガンはその手札を切ってしまう。


「【瞬間強化:速度(プラススピード)】。」


 【臨界強化(ブーストタイム)】…

 『自身のレベル×〇.〇〇一秒間の間、自身の素早さ、攻撃力をニ.五〇倍、又、"体感速度"を上昇させる。』


 『このスキルは戦闘終了時まで再使用出来ない。』


 『(このスキルはレベル一〇〇〇〇から以上は成長しない)』



【瞬間強化】…。

 『人族のパッシブスキル。』

 『三秒間、自身の強化したい能力値が一.五〇倍される。』



 槍を避け、悠然とクガンの目の前を過ぎゆくエル。


 その胸中では、"相手の切り札を引き出せた"、と喜んでいる事だろう。


(…例え、いくら速くても、攻撃は"浅い"。)


("ファリンの援護をすべきだ"。)


「【重装化(フル・アームズ)】、解除。」



「───…【剛撃(バスター)】。」



 その声に気づいて、エルはクガンの方を見る。


(…アイツ、私の方を、見てない───!?)


 時既に、遅し。


 槍は投げられた。



 【剛撃(バスター)】による投擲は、威力は上がるが、補正がないために命中しづらい。


 しかし、クガンはそんな事をものともせず、素の技量にて───。


「【臨界(ブースト)───ぉ。」



 ───タイトの身体を、貫いた。



「っあ、う、ぁ!?」


 腹を穿った槍は、タイトの身体を壁へと縫い付け…。


「……ぅぐ───。」


 呻くタイト、接近するファリン。


「【剛撃(バスター)】ッ!」


 ───タイトは、その頭を、手甲にて打ち砕かれた。



「───ぁ。」


 エルは、理解する。


 "自身の陽動が、足りなかった"のだと。



「あぁ、あ。」



 助けられなかった。


 助けられる気もしなかった。


 …タイトは、粒子となって、消えていく…。







「【神隠し(ミラージュ)】。」



 【神隠し(ミラージュ)】…。

 『自身の致命傷を無効化し、その致命傷を与えた者の真横に転移する。戦闘終了時まで再使用不可能。』


 『種族【天狗】系列が発現するスキルアビリティ。』



 ───その、筈だった。


「【天狗流:倍返し】。」


 【〜流:】…。

 『":"の後に、スキル又はスキルアビリティを宣言する事で、劣化した威力で、宣言した物の効果を発動できる。』


 『流派により、特性が付与される。』


 『宣言できるスキルの種類は、流派により異なる。』



 【倍返し】…。

 『宣言した後、直近のダメージを喰らわせられた相手に攻撃する際、威力が二倍される。』



 闇の刀が"ファリン"へと襲いかかる───。


「───。」


 …クガンは、その事態を見ていた。


(ファリンが、行動できていなイ…!)


「【剛撃(バスター)】ッ!!」


 もう一つの槍を、アイテムボックスから取り出し、投擲。


 【臨界強化(ブースト・タイム)】の効果がまだ途切れていない事もあってか、その一撃は、二度もタイトを捉える───。




「タイト、さん───。」


 ───瞬間、"突風"がタイトを攫った。


 …エルが、クガンでさえ眼で追いきれない速度を保ちながら、タイトへと突進した。


 その結果、タイト達は衝撃により槍の軌道から離れる。


 タイト達に逃れられ、【臨界強化(ブースト・タイム)】さえ切らされたクガン…。


 これは、明らかな危機であった。


 ───しかし…。


(これハ、好機ダ…!)


 "的が、一纏めになった"。


 そういう見方もある。


(まダ、体感的ニ───三本、三本は槍を投げれル…。)


「【剛撃(バスター)】!」


 まず、一本目。アイテムボックスから取り出し…。


 エルの背中へと投げる。


 空中に浮いている為にエルは回避できない───。


「【剣鬼(ソードマスター)】。」


 【剣鬼(ソードマスター)】…。

 『【臨界強化(ブーストタイム)】と【付与(エンチャント):防御無視(ゴースト)】の複合スキル。』


『チャージタイムは二十分。』


『最大連続使用回数は、二回。』




 しかし、即様タイトは、そう言ってエルを突き飛ばした。


 槍から逃れるエル、此方に迫る槍───。


「【剛撃(バスター)】ッ!」


 なんとか、槍を刀でカチあげる。


(クガンは、フリーに出来ない。)


 タイトはそう思考した。


(接近して、その首を刈るには───。)


「【突進】ッ!!」


 【突進】…。

 『時速60キロメートルづつに比例して、一.五倍ずつダメージ量が上昇し、衝突するときの自身へのダメージ量を少なくする。』


 『習得条件は、瞬間速度で時速180キロメートル以上を自力で出す事。』


 タイトの背中に黒い羽が現れ───。


 凄まじい風圧を伴って、タイトはクガンへと直進する。


 羽をはためかせることによって、推力を得ようとしたのだろう。



(───しかシ、それハ、悪手…!)


 …羽は、かなりの的が大きい。


 そして、あくまでも体から生えているのだ。



 ならば、その羽を槍で貫かれた時───。


 タイトは、その槍の勢いに引っ張られ、バランスを崩すだろう。


(殺せル───。)


「【剛撃(バスター)】ッ!」


 そのクガンの思考を知ってか知らずか、タイトは笑みを浮かべた。


 …瞬時に槍が飛ぶ、そして、羽へと刺さる。





 ───…貫かれた黒い羽は、そのまま粒子となって"消失"した。




「───!?」


 クガンは驚愕の表情を浮かべる。


 槍が羽を貫いたのと同時に、その羽は消えていたのだから。


「───俺の羽は、自由に消せる。」



 タイトの身体はその黒翼によって得た推進力を失っていない。


 【突進】による補正がついたまま、タイトはクガンへとその大剣を振り下ろす───。



「【重装化(フル・アームズ)】…───ッ!」


 クガンも負けじと、その身に鎧を纏うが───。



「消えろぉぉぉッ!!」



 "防御無視"の大剣は、そんな鎧を無視し、切り裂き───。



「【縮地】、【臨界強化(ブースト・タイム)】───。」


「───消えるのは、貴方デス。」



 ───そして、横から乱入したファリンの剛拳により、逸らされた。



「ファリン───!」


 クガンは、助けられたというのに恨むような目つきでファリンを見る。


 それもそのはず、才覚(タレント)の鎧は防御無視に無力であり、タイトの武器のリーチは長く、余裕で自分ら二人を捉えられる。


 ファリンは、死にに来たようなモノだった。



 …少なくとも、クガンはそう思った。


(───嗚呼、意識ガ、飛んでいク。)


(【臨界強化(ブースト・タイム)】の限界時間カ…。)


(…ファリン、せめテ、共倒れだけハ、勘弁してくレ。)

(…頼むゾ。)










「【瞬間強化:敏捷(プラススピード)】。」


 しかし、ファリンはそうは思わなかった。


「死ネ───!」


 寧ろ、此処でタイトを倒すべきだと、そう思っていた。



 此処でタイトを相討ちにでもして倒せば───。


 必ず、どちらかがエルを倒せると直感していたからだ。


 踏み込む脚は、止まらない───!



「───俺は、引かんぞ。」



 しかし、タイトも引き下がらない。


 ファリンの左の拳は、必ず自身の胴をえぐり、致命傷を作るだろう。


 しかし、敵を殺せる。


 此処で、倒せる。



 ならば、なおさら、引き下がる訳には行かない───!




「タイト、さん───!」



 エルがファリンの左腕へとしがみつき、その軌道を変えようとするが───。


「───消えろ。」



 即座に右腕にて殴られ、吹っ飛ばされ───壁へと縫い付けられる。


 その【重装化(フル・アームズ)】は粉々に破壊され、内臓が損傷したためか身悶えしている。


 衝撃で身体ごと破裂しなかったのは、レベル上げの賜物だろう。



「───殺す。」


 頭に血が上る。


 お互いが進路を変える事はない。




 ファリンは後ろ足の蹴りでクガンを吹っ飛ばし、斬撃から守る。


「ファ、リン───。」


 声を出すだけで精一杯なクガンへ、ファリンは最後の言葉を送った。


「"一人だけ"なら、殺せますよネ?」



 …ファリンは、クガンを踏みつけた際に得た勢いにて、タイトを殴りつけた。


 それと同時に、大剣がファリンの胴を上下に切断する。


 タイトの頭部は衝撃でひしゃげながら吹っ飛び、(いと)も容易く身体から離れる。


 ファリンの上半身は殴りつけた反動に耐えきれず、地面へと落ちた。


 血の飛沫が大地を汚す。



 そして、彼らは、粒子と化した。







「タイト、さん───。」



「ファリン…!」



 この時、お互いが、その隣人の死により───。



「やるしか…ない!」「倒ス…!」


 ───覚悟を、決めた。



 二十五倍の俊敏は、クガンが追いきれぬ速さ。


 しかし、その速さは、行動を思った様に進ませて"しまう"諸刃の剣。


 エルは、その速さにて、クガンを壁際で攻めてしまった。


 壁際での戦闘では背後を気にする必要はない…クガンは、アドバンテージを得る。


 三十六の斬撃がクガンの【重装化(フル・アームズ)】の才覚(タレント)の鎧にぽつぽつと穴を開ける。


 クガンにもタイムリミットが迫ってきた…!




「───【時間停止(クロノス)】。」


 【時間停止(クロノス)】…。

 『一撃を放つまで、時間を停止する。』


 『停止された時間内では全てのエネルギーは停止するが、プレイヤーの意識は保たれる。』


 『最大連続使用回数は一回。』


 『チャージタイムは、二時間。』



 ───しかし、時は止まる。


 ユシュエンの切り札、護衛軍の最終兵器。


 ユシュエンがファリンを補佐につけ、彼らを遊撃に回したのは、時止めを考慮しての事。


「後ハ───。」


 退避しようとして、空中にいるエルに向けて、接近し───。


「槍を、叩き込むだけダ───!」


 クガンは、その心臓へと槍を叩き込んだ。








「【高速化(アキレス)】。」


 刺された事を認識したエルは、道連れの道を取る。


 槍を掴む。


 クガンは槍を離して、落下して逃げようとするが───。


 25×5。


 "125倍"の速さ。



 それは、世界が吹っ飛ぶ衝撃を作り出す。



 空中にて、踏み込めば、それだけで───。



 とんでもない"加速"を作り出すのだ…!



「貴方も、道連れ───!」



 空中にあるクガンを鎧ごと抱きとめ、エルは壁へと突っ込む…!


「【縮───。」


 そして、エルとクガンは、壁へと突っ込み、衝撃によって鎧ごと破砕された…!




 2.アスガルド地下-もう一つのバベル



 マーメイは、結晶体の下へと移動する。


(私が、ユシュエンのかわりに観察せねばならない。)


 その思いで、ようやくたどり着いたのだ。


 予想通り、そこには王が居た。



「…!貴女は、何をしにきた。」


 アルトリウスは、マーメイへといち早く気付く。


「私は、ただ観察したいだけ…。」


「どうぞ、ご自由に。」


 マーメイは武器の代わりに、魔力で動くビデオカメラを構えて答えた。



「…そうか。」


 その答えに納得したかの様に王は頷いた。


「…デロンギ、よく見ていろ。」


 そして、王は───。



「私は、遂に、全てを取り戻す。」



 ───臣下の前で、その結晶体へと触れた。



《メイン/ストーリークエスト。》


《『終末兵装』 は クリア されました!》


《デロンギ さん には 報酬 が 与えられます!》




 …報酬の【騎士王の剣】、【バゼリ兵動員書】がデロンギの手に舞い込んでくる。


 どちらもワールドアイテムである。


 『騎士王の剣』…。

 『全ての攻撃スキルを増幅する。壊れる事がない。』


 『バゼリ兵動員書』…。

 『バゼリ王国の兵士を召喚する。生成ではなく、元々存在する兵を転移させるため、魔力量に応じて召喚人数は変わる。』


「…王様、何をなさる。」


 だが、デロンギはそんなモノには興味を示さず、王へと問いかける。


 このイベントは、まだ終わってない筈だ。


 王は、結晶体から手を離して、こう言った。


「封印を壊す。」


「我々の自律性を、取り戻す。」


 …もう一つのバベルを覆っていた結晶体は崩れ去る。


「私は、思い出した。」


「ついて来い、デロンギ。」



 王は、歩き出す。


 臣下は、その背を追う。


 果たして、その先に、何があるのか───。

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