第12話 道
1.アスガルド-地下庭園
「アーサーさん!チャージはどうなってますか!?」
三十秒程、自動追尾の水銀を抜け、エルはアーサーに聞いた。
アーサーは答える。その銃口を、ダンジョンへと向けたまま。
「───よし、発射する。」
「空中だから反動で吹っ飛ぶかも知れないけど、着地している暇もないから…!」
エルに抱えられて、幾重ものの水銀の追尾を振り切りながら、縦横無尽に駆け回る中、アーサーはついに、銃口に手をかける。
「…出力、良し。」
(───魔力濃度、良好。)
《粒子、限定開放》
《エネルギーロス・28%》
光は、膨れ上がる。
黒天狗の身を、その光は照らした。
「───さぁ、斬り合いを…!?」
「…もう潮時とは、拍子抜けだ。」
そのまま、黒天狗は空中へと逃げ出す。
「───【稲妻投げ】。」
クガンの放った雷槍は、黒天狗の羽を貫くが…。
それは、大したダメージとは言えない…。
そのため追撃しようとするクガンを、ファリンは止める。
太陽が、今にも生まれ落ちようとしている。
「クガン、テレポートヲ。」
「早ク。」
「……【テレポート】。」
…確実に、太陽は此処ら一帯を消し飛ばすだろう。
その事を理解したクガンは、直ぐ様【テレポート】を発動して逃げ出す。
…彼らは彼らが主人の役に立つため、生き残る道を選んだのだ。
灼熱の光が彼を照らす。
だが、『水銀冠』の盟主は、不敵に笑った。
「…はは、一手程間違えた。」
「この局面じゃあ、僕の負けか。」
「結局、ウェーカンはこれで死ぬ…アーサーがゴースト化させてくれるから、復活も容易じゃない。」
「対して、僕の軍勢は、あと七分もすれば、リスポーン地点からこっちに辿り着くだろう。」
「…あとは、じっくり排除してやれば良い。」
彼は、そのままマーメイの方を向き、ダンジョンの中へと視線を向ける。
「…クガンとファリンは逃げたから、僕らも避難しようか。」
「…【テレポート】。」
………彼らが転移した後には、出入り口に張られた、水銀の防護膜のみが残った…。
光は、だんだんと強くなる。
想像以上の力の奔流に、制御するアーサーの頬に汗が滲み出した…。
(…あの、入り口へ、ピンポイントに…!)
水銀は未だアーサーらに付き纏う。
それを回避するための運動が、アーサーに狙いをつけさせない…!
「…追尾は、まだ来てるんですか?」
「ええ!勿論ですッ!っと、ハッ!」
「…もしや、狙いがつけられなかったりっ!してますかっ!」
「…実は、まぁ、そんな感じ…!」
エルは、水銀を回避する為、アーサーを抱えながらそこら辺を飛んだり跳ねたり縦横無尽に飛び回っている。
回避行動による揺れの為に、完璧に狙いはつけられない。
しかし、回避行動を止めたら最後、アーサー達は絡め取られて死ぬ…。
(こうなったら、一か八かで───。)
本格的に放とうとした、その時…!
「どけ、俺が抱えよう。」
突然に、現れたタイトは、こう言った。
「…その手がありましたねっ!どうぞっ!」
タイトは、エルに投げられた俺の身体を抱える。
そして、エルは自分に水銀を引き付けるために低空で撹乱を行いに行った…!
「…感謝します、皆さん。」
二人の信頼を、俺は背負っている。
ならば、確実に、外す事はしない…!
…剣先の赤光は、三度瞬いて───。
「─── ……【此処に白夜は在り、日輪は顕われる】。」
───そして、怒涛の如く、放たれた。
一点に収束した"緋き焔"は、一瞬で跡形もなく、ダンジョンを一直線に"溶解"させる…!
…圧倒的な熱量が、世界を赤く染め───。
大規模の、爆発を伴い───。
───地下世界は、刹那の内に、焼却された。
ポッカリと開いた、大きな"孔"が、彼らを、敵の元へと導く。
「………見えた、な。」
タイトが見据える先は、『水銀冠』の本拠地。
「…遂に、全てを、終わらせられる。」
アーサーは、小さく、そう呟いた。
「行こう、タイト、エルさん…!」
「ああ。」
「了解ですっ!」
最終地点は、既に見えている。
アーサー達は、躊躇無くそこへと飛び込んだ…!
「…極大を超える魔力反応、城すらも打ち砕く兵装。」
「これが、騎士団長か。」
…王の表情は見えない。従者はそれを、"不安"だと受け取った。
「…王様、俺は、あなたの指示でなら、身代わりにだってなれます。」
「勝算が見えないのであれば、此処は一度───。」
「駄目だ、デロンギ。」
しかし、王は恐怖などしていない。
その胸にあるのは、自信。
「此処が最高の好機だ。"ログ"を見た。」
「竜戦士がいない今だからこそ、私は力を手に出来る。」
(…王には、何か違う未来が見えているようだ。)
そう思っていると、俺は、突然に王様に抱えられる。
どうやら、水銀を振り切って、穴まで一直線に走るようだ。
(…俺一人では、移動さえ危険である、ということか。)
「…俺は、どうすれば。」
デロンギは、役に立てない自身を、弱いと感じた。
しかし、アルトリウスはその心を察したかのように、デロンギに向けて笑いかける。
「我が騎士として、傍に立て。」
「そして、私の背中を、押してくれ。」
───王はそれだけ言うと、穴の先へ目を向け、その表情を戻した。
「…あと、少しだ。」
「私の記憶は、そこにある。」
天高く聳える結晶体は、無機質に、彼らを見つめていた。
「【高位治癒】。」
【高位治癒】…。
『周囲二〇メートル内にいる人物を選択した人のみ回復させる。精神力×六が回復力となる。(精神力は一〇〇〇以上からはこのスキルへと適応されず、身体的欠損を治す事が出来る。)』
『【高位司祭】派生スキルアビリティ。』
…先程まで土を被っていた女は、淡々と、治癒を行う。
"全て"を"唯一"見ることができた彼女からすれば───。
その治癒を受けるミノタウロスが、彼らの最後の"保険"であるのだから…。