第11話 託し、繋げる。
「…王様、この先、戦闘音が…。」
「大丈夫だデロンギ。この先には"騎士団長"がいる。」
「位が高いほど、私の"支配"には抗えない…ピンチになったら、協力して貰おう。」
「…委細、承知しました。」
1.アスガルド-地下庭園
「「【稲妻投げ】。」」
ウェーカンに二本ずつ槍を投げるクガン、ファリン。
そして、突如現れた新たなる侵入者の対処に向かおうとする、だが、其処には、既に水銀と銀糸が張り巡らされていた…。
それを一瞥すると、ウェーカンの方に向き合うファリン達。
((ユシュエンならば、あの程度の者達、時間無く残滅するだろウ))
そう判断したからだ───しかし、その行動は、正解であるが───。
───愚かな、間違いでもあった。
赤と緑の魔力を吹き出す二人の戦士と互角に戦うウェーカン。
一瞬の内に天変地異が何度も起こって、そしてそれは止まる事を知らない。
戦闘の余波にて、壁が豆腐のように破壊されているのを遠くから見物し、アーサーは不適にも笑みを作る。
「では、此処を焼き払います。」
アーサーにとってこの状況は好機。
自分を殺しまくった化け物と、なんかヤバそうな白銀の龍が勝手に争っている。
ここには時間と隙がある、ならば、横から破壊出来る。
盤面すら破壊できる火力は、【魔神王】ならではの特性だ。
「【第四段階】。」
「【属性付与:炎】。」
方針を決め…剣を構えると、突然足が"抜き取られた"。
(───?)
視線を向けると、其処にあったのは、"水銀"。
(【戦車】の人…ユシュエン。)
(だが、これで"俺達"の機動力を削いだつもりか…?)
「【高速化】。」
水銀に対して、アーサー自身としては、何の対策も取っていない。
何故なら、対策とは、"彼女"なのだから。
「アーサーさん、抱えますよ。」
「頼んだっ!」
エルにお姫様抱っこの形で抱えられ、アーサーは水銀を避ける。
これで、アーサーは粒子の増幅に集中出来る…。
(…あと四つある残機は、減らせない。)
(残機を消費して、【第四段階】に粒子を注ぎ込んでも、敵を倒しきれないかもしれないからだ。)
(それに、いつ殺されるかも分からないのに、あと四つしかない残機を減らすというリスクのあることは出来ない…。)
(…補充しようにも、【屍魂吸収】によるレベルの吸収も、出来ない。)
(安全に発射するために、出来るだけ、影に徹さなければならないからだ。)
片手剣の先に集まるグズグスに溶けた炎の"粒子"に、【魔神王の魂】にて増産した粒子を濃縮、合成して行く…。
(タイトには、陽動を頼んである。)
(出来るだけ、水銀の主の気を引いてくれれば良いのだが…。)
「W o o o o o o n ッ!!」
竜の咆哮と共に、ウェーカンの大きな爪が、コンラをバラバラに切り裂く。
「───【自己再生】…!」
だが、頭部からまた全身が再生する。
(炉心の限界稼働時間終了まで、あと二秒を切った、ですが…。)
コンラの頬からは、汗が滲み出す。
(未だ、あの竜に大きな傷を負わせられていない…!)
(その事に追い討ちをかけるように、竜の【自己再生】は傷を回復していく…。)
(…これは、大技を、放つしか無いようだ…。)
「───そろそろ、終わりにしましょうか…!」
「【剛撃】×【衝撃波】…!」
巨人の炉心は脈動する。
軍刀は、過重な魔力を纏い、翠緑に光った。
「───了解。」
グレンは即様状況を察する。
彼もまた、その身体に宿った『クロノス』を稼働させ、『クロノス』の機能の一つ…『肉体を改造する』力を発動した。
魔力を体に沿って放出すると共に、魔力は、肉に変わる。
それは、遺伝子の侮辱に他ならない、最悪の外法。
「『紅蓮機神』、適合。」
タコのように生えた八本の腕。
百足のように発達した足。
それらは全て、『紅蓮機神』の恩恵を受け、赤い装甲に覆われている…。
その八本の筋肉質な腕は、ウェーカンの巨体を押さえつける…!
竜の尻尾はグレンの腹に刺さって、肉体を真っ二つに引き裂き、もがく竜の剛力は容易く四本の腕をたちまちに引きちぎったが…。
魔力が続く限り、新たな"部品"を製造し続けるグレンは、決してウェーカンを離しはしない…!
「今です、コンラ君…!」
グレンは、暗にウェーカンごと自分に打てと言っている。
───だが、しかし…。
グレンは、ウェーカンを正面から見ていないがため、コンラが見ている景色が、分からなかった。
その為、コンラが"打てない"かも知れない可能性を、見逃してしまったのである。
「G u g y a a a a a a a a …!」
目の前に佇むは、今にもその口内から"ブレス"を放とうとする、白銀なる竜。
白き煙にも見えるその膨大な魔力の濃縮体は、過密を起こして白き光を度々放出している。
"ドラゴン、ブレス"。
最大級の規模、威力を持ち合わせた───ドラゴンにとっての、最終兵器。
その時、魔力は、一段と大きく胎動して、竜の口内から口外に、徐々に広がりを見せる…。
一段と煌く光は、コンラにこう、恐怖を与える。
"自分の身体が、引き裂かれる"。
幻想である、この世界で、"死んでしまう"、と。
【ビクトリア】のリアリティは、コンラに直にその"死の恐怖"を与えるのだ…!
「───。」
(頬が、引きつる。)
(光が、たしかに、"目の前にある"。)
(身体が、感覚が、たしかに、此処にある。)
"現実感"が、コンラを襲った。
(灼かれたら、確かに、死んでしまうだろう。)
(───だが。)
「───私には、誇りがある。」
…しかし、コンラは、此処で躊躇する様な男では無かった。
「───【<撃滅衝波>】ッ!」
放たれる、極大なる一閃。
光は竜…ウェーカンの、その白銀の鱗を、明るく照らす───。
「G a a a a a a a a a aッ!!??」
───そして、間髪入れずに竜が放った閃光が、空間を白に満たす。
ドラゴン・ブレスは放たれた。
…声も無く、コンラは白き破壊の渦に呑まれ───。
そして、跡形も無くその身体を破壊された。
…視界が、元に戻った頃。
簡潔にいうと、ウェーカンは、その半身を失った。
…抉り取られた左半身…そして、体を覆う竜鱗、その全てはその役目を果たしたとばかりに消え失せる。
…彼の竜鎧は、その"半分"を消失したために、その身を自己保存のための形態へと変えたのだ。
竜のアギトを模したペンダントのみが、ウェーカンの手に握られている。
天を衝く牛角の、ミノタウロス。
…半身を失えど、未だ彼の身体は修復を続ける。
されど、グレンは、ウェーカンが膝をついた、その隙を見逃さない───。
…半ば自分が殺した、コンラの意思を継ぐためにも。
「…我が最高傑作の、仇を───ッ!」
「【剛撃】ッ!」
八本腕、その片方の四本の腕が人外じみた膂力を伴って、ウェーカンを打ち砕かんと躍進する。
だが、その隙は、ウェーカンの"誘い"だった。
「───ジジイ、それは、致命的だ。」
ウェーカンは甘んじてその四本の腕を喰らうが、その瞬間、残った右手で、ムカデのような足に掴む…。
「あんたの肉体は、俺にとっては───。」
これにより、攻撃によって吹き飛ぶ事を抑制し、更に核を探す為の取っ掛かりを得たウェーカンは───。
早速、股座から頭部に至るまでのグレンの肉体を、手刀にて、引き裂く…!
「豆腐と同じくらい、簡単に引き裂けるんだから。」
…当然、グレンも抵抗しようとしたが、クロノスの力にて生み出した無数の腕を動員しても、その勢いを削ぐ事しか出来ない…。
ウェーカンにとっては、硬質的な筈のグレンの肉体でさえ、"柔らかい"ものであるのだ。
「小さかった時の方が…まだ楽しめたよ。」
「ぐ、ぅ…ぁあ、ああ、あ…が…っ!?」
余裕綽綽のウェーカンと対照的に…グレンは情けない悲鳴を上げた。
気道を直接引き裂かれている為、嫌が応にも悲鳴は出てしまう。
…そして、ウェーカンの手の中に、遂に、"それ"は現れた。
「ぐ───それ、は…!」
既に半身を二割ほど回復したウェーカンが手にしているのは、『紅蓮機神』のコア。
ワールドアイテムと同化したグレンを倒す為には、それの強度を超えた力にて、破壊しなければならない…。
「死ね。」
尋常では無い握力にて、一瞬にして、砕かれる"コア"。
「───ぁ。」
粒子と化す肉体。
力を失う感覚。
一人の老人は、ミノタウロスに蹂躙され尽くされ、その肉体を、粒子へと変えた。
だが、老人の眼は───。
「【紫電掌】×【魔纏】───。」
「【稲妻投げ】×【剛撃】───。」
目の前にある、"希望"を見つめていた。
「───【<奈落魔電>】ッ!」
「───【<飛電剛槍>】…!」
ファリンが接近し、クガンが槍を投げる。
…しかし───。
「───身の程を、知れ。」
ウェーカンは瞬時に片足を捻らせて背後へ振り向き、ファリンの放つ拳の五倍ほどの速度で、その拳を放つ。
あのグレンでさえ、なすすべなく破壊されてしまった程の力。
クガンや、ファリン達"だけ"の力では、到底、拮抗すらできないだろう…。
「───そうさせないために、僕がいる。」
「【策謀の魔神王】。」
「【テレポート】、ファリンに適用。」
ファリンは体勢をそのままにして───。
ウェーカンの背後へと、瞬間移動した。
「───ッ!?」
遂に破壊されるウェーカンの右胸。だが、ウェーカンはそんな事に気を取られない。
(【縮地】じゃない、【テレポート】…ユシュエンか…っ!)
回避方法が【縮地】ではない事を察するウェーカン。何故なら、【縮地】は、敏捷が速すぎ無い限りは、ウェーカンの目で追えるからである。
(奴を殺せば、後は【自己再生】で完封出来る…!)
…ウェーカンは片足で地面を蹴って、ユシュエンのいる所へと行こうとし、右足にて深く踏み込もうとする…。
「適用、"クガンの槍"。」
しかし、その目論見は、ユシュエンによって、断たれた。
右足を、"突然現れた槍"にて切断されたからである。
「───まさか。」
ウェーカンは、身体の六割ほどを失った。
そして、最早、右腕しか、彼に残ってはいない…!
…足を失った事で、倒れ込むウェーカン。
その致命的な隙を見逃す"彼ら"では無かった…!
「「【瞬間強化:筋力】───【稲妻投げ】っ!」」
二人により、挟撃のように放たれた投擲は、無防備となったウェーカンを刺し貫き、【自己再生】によってようやく保てているその身体を破壊するだろう…。
"当たっていれば"の、話だが。
「───【剛撃】。」
突如滑空し、現れた黒天狗。
彼は、その蹴りで、ウェーカンを壁の中深くまで押し込んだ…。
その結果、槍はお互い標的を失い、地面へと刺さる。
「…邪魔立てさせて、貰おうか。」
黒天狗は、二人の精鋭を前に、不敵に笑った。