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【エター】新興VRMMO記【ビクトリア】  作者: 松田勝平
第八部 アスガルド動乱編
109/117

第9話 背中を押す者、押される者


 1.アスガルド-地下庭園-


 暗闇。

 そこを満たしていた水は全て地下へと消えた。

 特徴的な龍の像と、それと向かい合うように存在するダンジョン。

 しかし、そこの床、衝撃が地下より此処を揺らす度にヒビが入り、そしてヒビは、衝撃と共に、急速に広がる───。


「───ッハァッ!!」


 ヒビの半径十メートル内で、重なり合った石畳が、粉々に破壊されると共に、龍兜の騎士は此処に登場する。


「…さて、『水銀冠』のアジトってんのは此処か。───!」


 龍兜の騎士…ウェーカンはその刀を構える。

 対峙するのは名状し難き姿の怪物、巨体である自身すらも易々と超える八メートルほどの巨体。


 百足(ムカデ)の脚と、人間を模した形状の上半身。


「ケンタウロスの、ムカデバージョンか。」


 ウェーカンはその言葉の後、一瞬の踏み込みを伴い───。


 巨大ムカデの部位を、十六程度の細切れにし、その核を見つけだす。


 しかし、その姿は───。


「………人間の、女?」


 彼が注視したのは、肉から出てきた女。

 しかし関係ない、此処で殺す───。


「…く……る、な。」


 その声を、女がやっとひりだした頃には、刀はその身体を両断していた。



 ───肉片から生えた触手は音もなくウェーカンに襲いかかる。


「───【剛撃(バスター)】。」


 斬。

 回転切りは触手を易々と切り払う。

 その隙を、化け物は───。


 ───グレンは見逃さなかった。


「【毒生成】、【毒沼(アシッド)】。」


 ムカデの死体から毒が湧き出る。

 全てを溶かし尽くす酸の毒。


 それは、グレンの体を踏みつけているウェーカンを強制的に退かせた。


「……まさか、お前か、ジジイ…!」


 ウェーカンにはこの敵の心当たりがあった。

 クロノスを研究していた男、そして、ナイトケにより奪取されたクロノスを追うように"下"へと落ちた男。


「───グレン…ッ!」


 …ムカデの身体は、核を中心に無限に自己再生する。

 素体たる大剣を背負った女を吸収し、今度は、硬く、コンパクトに。


「……久しぶりだな、ウェーカン。」

「今も"上"にいるのか、なら水を差すようで悪いが───。」


「"みすみすクロノスを奪われた"分際で、実力など誇りにしていないだろうな?」


「つまり───私に勝てるなどと、考えているハズないだろう?ウェーカン、いや───。」


「龍かぶれの、ミノタウロス。」


「私の最高傑作を"鎧"にした報いを、受けてもらおう。」


 老紳士は、その怒りを発露する。

 身体中に走るラインは赤く発光し、外殻の兜に包まれながらもその眼光は怒りを燃やす赤を放つ。


「───ジジイ。」



「御託はいらないぞミノタウロスッ!お前さえ殺せば、私は全てを取り戻すッ!」


「【剛撃(バスター)】ッ!!」


 紅将軍は声を張り上げ、右腕を長き刃に変形させ、ウェーカンに斬りかかる───。



『───今だ、射て。アクリナ。』


「───『食い散らす白魚(バハムート)』。」




 ───その右手にて斬りかかる寸前に、背後より無数にその身体を貫かれる。


 反撃しようと構えたウェーカンの覚悟は、杞憂となった。




「…よし、"回収"出来た。」


 その時、グレンが呻く中、水銀がグレンの百足のような足の、一本を引きちぎっていたのだが…その事に気づいた者は、居ないだろう。






「…ぐ、ぁ、ぅ……ああ…っ!」


 …グレンの身体は粒子化していく、そのペースは少し速いが、グレン、ウェーカン両名の呆けた意識を元に戻すには充分だった。

 

「…もしかして、お取り込み中でしたか?すみません。」

「でも、仲間を助ける為に、殺さなければなりませんでしたから!」


 巨大な竜像の後ろから現れた金髪の少女は、そう言ってまた弓を構える。


「───…ぁ、ぁあ、あ。」


 …外殻を易々と突き破る『第二段階(セカンド)』から放たれた矢。

 それは、確かに先程、無数に放たれ───。

 無限にその軌道を変え、グレンのその"核"を奪い去ったのだろう、とウェーカンは推測する。



 …現に、グレンは粒子化している。


 少なくとも、核は、その身体の中には無い。

 

「彼の中身の女性、私達の仲間ですので───。」


「───取り返すのは、寧ろ、当然なんですけどね。」


 グレンは、徐々にその外殻を崩していき───。


 ───呆気なく、その命を絶った。


 …そこには、既に外殻しか残っていない。


「…………。」


 未だ言葉を出すことが出来ないウェーカン。

 敵は、此処にいない。

 グレンは、一人だったら、勝てていたかもどうか分からない、感謝すべきだ、目の前の弓士に。

 だがしかし、これでは、まるで、横取りだ。


 外殻の中身たる女は何処かに消えている、それを確認した目の前の弓師は、ウェーカンに、"では、さようなら"と、軽く別れを告げた。


 しかし、争乱は彼らを逃さない。


 ダンジョンより、"待たれよ"、と声が掛かる。


「すみません、待ちません、失礼しますっ!」

 黒い法衣をはためかせ、彼女はその仲間の手によってだろうか、【テレポート】にて消えてゆく…。


「………。」


 それを、何の感慨もなく見送り───。


 ウェーカンは、フルフェイスの赤鎧の薙刀使いに、その視線を送った。


「…一人は逃したが…貴公を、私は逃す訳にはいかない。」


 …ウェーカンが周囲を観察すると、出入り口全てに水銀の膜が張っている。


「不穏分子は全て破砕せよとの命令が下っている、此処で死んでもらおう。」


 赤鎧と竜鎧は同時にチャキ、と武器を構えた、だが───。


 今日は少しばかり、客人が多い。



「【世界(ワールド)】。」



 風が水銀に風穴を開ける。


 そこから入ってきたのは、黄金の覇王。



(…ム、既にウェーカンがいるとは…。)


(…仕方ない、か。)


「…宣戦布告だ。」


「此処で、全てを頂くぞ。」





 …役者は集い続ける。

 しかし、主役は未だ書庫の中。


 そして、クロノスは、絶えてはいない。


 結晶の破片が着いた、脈動する"ナニカ"。


 水銀の中で、それは、また、脈動を続ける。



 2.アスガルド地下-大書庫


 地下を進み、出てくる本型のモンスターをおっさんのおっさん仲間…タイチさんが引き寄せる。


「【挑発】!【ヘイトブレード】ッ!」


 そして集った本を目がけ、ユノとキリタニのインテリコンビが詠唱を行う…。


「「【連結方陣】ッ!!」」


「「【ブリザード】ッ!」」


 二人の力がこもった氷魔術は、『魔本』六体ほどを一撃で粉砕する…。


「───デロンギ、敵だ。」


「了解、王様!」


 そこに忍び寄る『本の虫』達を俺達は迎撃した。


「【ホットブレード】!」


 彼らの妙に艶がある外殻を、俺は【炎魔術】により熱した剣で切り裂く。


「【剣術:振り下ろし】ッ!」


 【剣術:】…。

 『【剣術】からの派生スキルアビリティは、":"後に書かれた特定の動作をする際に俊敏、筋力が更に一.二〇倍される。』


 王様の方も、硬直が割とある【剣術:】を使って危なげなく倒したようだ…。


「おーいデロンギ!こっちに道だあ!」


 同じ様に敵を倒していた【足軽】のおっさんが言う。

 ジョブスキルとしては特に効果は無いが、派生スキルアビリティを大量に取得できるのが【足軽】の強みだ。


「今行きます!王様!」


 …………。



 ……………って、あれ。

 いつの間にか王様が隣から居なくなってる…。


「ああ、この髪のセッティングは…───!わかった、行こうデロンギ。」


 俺が後ろに振り向くと、そこでは子供らと王様が雑談している所だった。


「ずるいですよ!王様取ってっちゃうんなんて!さっきまでお話ししてたのにーっ!」


「バゼリの生態系を聞こうとしていたのだがな…。」


 キリタニはその眼鏡をクイッと上げてながらも、タイチさんを呼んでくる。それにユノも追従した。

 どうやらユノとキリタニは親友らしく、知らない人の俺の前で余り話そうとはしない。

 彼らの知らない人間だからな、俺は。


 …その点で言えば、NPCである王様は敷居が低いのかもしれない。


「…王様、あの人達ともっと話してきてください。」


「…?まぁ、頼みとあれば、そうするが…。」

「デロンギは、良いのか?」


「良いんですよ、俺が、彼らと仲良くなった王様を利用したいだけ…あの人達はよく纏まっている、新人の俺が寄りかかりたいパーティだ。」

「王様が仲良くなってくれれば、あの人達は俺にも何か学ばせてくれるかもしれないしな。」



「…そう言うものか。」



 そうして、王様達と俺のパーティーは、それなりに会話しつつ大書庫の最深部まで辿り着いた。


「…どうやら、さっきの魔本の群れが最後だったみたいだな、おっさん。」


「へへっ、デロンギ!」


「…?」


「お前の手柄だ!」

「こんなに速く辿り着けたのは、間違いなくデロンギ、お前がいたからだ!」


「…おっさん、でも、俺は…。」


「何、またどっかで馬鹿やろうぜ!これ、フレコだ!取っときな!」


 おっさんは、そういうとおもむろに拳をゆっくりとこちらに向ける。


「…ありがとう、おっさん…!」


 俺はそれに向けて、コツン、と拳を合わせた。

 多分、この時、一番笑顔になれた、そんな気がした。


 ───しかし、イレギュラーは、此処に消える。


 俺達が別れを惜しみ、フレコを交換していると、"奴"はやってきた。


 コツン、コツンとこちらにやってくる足音。

 軍靴の音が、迫ってくる。


「…?にぃ…ええとキリタニ!この音…。」


 始めに気付いたのは、物音に少し敏感なユノだった。


「…あぁ、誰かの足音…それも一人か、デロンギさん、タイチさん、出来れば、前に…。」


「あたぼうよ…!」


「わかった、キリタニ君…!」


 キリタニの指示に従い、俺と体格に優れたタイチさんは後衛を守る様に前へ出る。


「……。」


 おっさんと王様は、周囲を警戒する。



 ───コツン。


「バゼリの"王"、アルトリウス(・・・・・・)ですね。」


 大書庫最深部の広い石の部屋の中で、声が響き渡る。


 刀は抜かれた、俺達も臨戦態勢に入る。


「王様に用とは何だッ!」


 俺は声を張り上げて、黒い軍服の男に問いた。


「簡単な事です───。」


「ここで、生け捕りになっていただきたい。」


 彼は、軍刀を構え、仁王立ちしている。


「王様ァ!伏せろォ!」


「おっさん!?」


 その言葉と共に、縮地の如く飛び込んできた軍服の男の剣閃、その軌道をおっさんはギリギリ逸らそうとする…だが───!


「───"弱い"。」


「これなら、解放は…無しでいいでしょう。」


 おっさんは、歴戦といっても過言ではなかった。

 軍服の男がほぼノーモーションで突っ込んでくるのを予見し、とんでもない速さの刀にナイフの刃を合わせ、逸らそうとした。


 "しかし、力が足りない"。


「分かりました、貴方方には、私は少々刺激が強すぎる。」


 おっさんは、刀にナイフを合わせたのにも関わらず、切り裂かれていた。

 …ナイフは粉々に砕け、身体は即様粒子化が始まっていた。


「───。」


 に、げ、ろ。


 口の動きから察した、彼の遺言。


 だが、俺の頭に湧いてきたのは、怒り。

 理不尽に対する、怒りだけだった。



 …俺は、瞬時に剣を腰だめに構え、敵に突進するが、奴の軌道を目視する事も出来ずに背中に乗られ、俺は地面に這いつくばる…。


「ぅッぐっあ…!」

(…やっべぇ、苦しい…。声が…出せない…!)

(…クソ…っ!馬鹿な事を、してしまった…。)


 そんな俺を助けようとする王様を、タイチさんが制した。


「デロンギ!今助ける!」


「駄目だ、奴はあんたが望みなんだ!逃げろ王様!」


 子供ら二人は茫然自失しかけているが、それでも戦意は失わない…。


「テレポートは…まだ僕は使えない。ユノ、それなら、大技を出して煙に巻くぞ。王様を連れて、だ。」


「…分かりました、デロンギさんは…?」


「…どうせ、生き返る、とにかく今は、逃走が優先だ、【連結方陣】ッ!」


 彼、キリタニが展開しようとしているのは、大魔術とも呼ばれる規模の氷壁魔術。


 壁さえ仕切れば、隠れるのも逃げるのもうとでも取れる、と言う考えからだったのだろうか…?

 しかし、それでは、直ぐに敵の怪力によって破られてしまうのでは…?


 だが、一つ言えるのは、キリタニにできる"最善"は、これであった事だろう。


「───させませんよ。」


 軍服の男は、当然の事ながら、魔法の発動を黙って見ているわけがない。

 しかし、"王"は、それを許容しなかった。


「【剣術:横払い】。」


 未来を読んだかの様な軌道計算にて、軍服の男へと斬りかかり、その足を止める。

 …軍刀と大剣は拮抗した。


「…王の力、侮るべきではなかった…っ!?」


 さて、デロンギは此処でフリーになった。


 タイチも、瞬時に状況を判断する。


 アルトリウスは、コンラに抵抗できる、と言う事を。


((此処で、押さえつければ…!))


「…魔力、注ぎましたよ。ところで───この設定で良(・・・・・・)いんですね(・・・・・)?」


「ああ、大丈夫だ。【アイス・ウォール】ッ!」



 ───結果的に言うと、それは逃げの為の魔術では無かった。


 …デロンギ、タイチ、アルトリウスに気を取られた軍服の男は、一瞬にて全員諸共切り払う為に踏み込んでいた。


 回転切りを放つためである。


 それが成功すれば、王はともかく取り巻きは消える、だからこそ───。


 一瞬、そこに、留まった。


 その"隙"を、キリタニ達は見逃さなかった。


 ───現れた氷壁は、軍服の男を、"一瞬"、閉じ込める。


 ───それは、拘束の為の魔術であった。


「【剣術:切り上げ】。」


 アルトリウスはその剣を瞬時に振り抜いた。

 その速さは尋常なものでは無く、下手をすればトッププレイヤーにすら届きうるほどの"力"。


 対し、軍服の男は一瞬、取り巻きに気を取られ、一瞬、王により攻撃を止められ、そして氷の壁を破壊するのに一瞬はかかる。


 合わせて三瞬の隙を、リカバリー出来るはずがない。


「───まさか。」


 胸からばっさりと、軍服の男は大剣にて切断された。


「───まさか、そんなわけ、ないでしょう。」


「【自己再生(リジェネレイト)】。」


 全ては、無駄となる。

 強大な炉心の前には、どんな積み重ねも無駄、それを、コンラは体現したのだ。



 それは、軍服の男…コンラが最も否定したかった事でもあるのだが。



 …皮肉な事に、コンラ自身の生存が、いかなるPSも、強者には届かないと証明してしまっていた…。


 理想と目の前の自分含めた現実の乖離に、コンラの目は曇るが、その刀筋に乱れはない。


 跳び、一撃にて、裏の【黒魔法師】達を切り払い、そのままの勢いで、振り返りざま体格の大きい男を切り裂き、王手へと手を掛けようとしたところで───。




(…私は、何を見ている。)


(何度目の問いかけだ、アルトリウス。)


(笑わせるなアルトリウス、見れば分かるだろう。)


(…そうだ、私は───。)


 本が好きらしいキリタニの目が私を見つめる。

 冒険が楽しいらしいユノの瞳がこちらを見つめる。

 彼らのことを守りたいらしいタイチの目がこちらを見る。


『煮えきらねぇな王様、なんか気にかかる事でも?』


 "彼"の大きな手が、私の背を叩いた。


『おい、俺の王様だぞ、ボディタッチを禁ずる!』


『…ぇえ…デロンギさん…本気ですかぁ…?』


『…俺の王様発言をする者は、希少だ。』


 その言葉をなんと受け止めたのかは分からないが、デロンギはうずくまる。


『…だって…だって…。』



『…え、ええと、デロンギ…ありがとう…?』


『───!王様ぁっ!』


 そして、声を掛けると何故か抱きついてきた、先程、ボディタッチは禁止と言っていたが…。不可解だ。


『…坊主、お前かなりハジけたな。』


『…好きになれるものがようやく見つかったんでね。』



 不可解だ。


 そう、不可解だ。



 何故、私は此処にいる。


 何故(なにゆえ)に、私は彼らと出会った。


 どうしてだろう。


 だが、一つ、一つだけ確かなことがある。


 忘れられない、思い出がある。


 …私は───。



《思考領域拡張、概念付与、【義】。》


〈軍服の男は見た、その"王"の有り様を。〉



「───【第二段階(セカンド)】。」



 ───…私は、人の温もりを見た。



《機能拡張、優先順位再設定、アルトリウスの人格変化許容許可申請…受領。》


〈彼の者の身体からは、光子が溢れんばかりに放出され、その"威"を示している。〉



 その"恩"を返す為に───。


 ───私は、目の前の敵を切り払おう。



「…君は、私の友を殺した。」


《アップデート…試行完了。ハッピーバースデイ、アルトリウス。》


《完全な起動を確認…。》


 手に持つ、聖蒼の大剣は、死に瀕する彼らを照らす慈悲の光。


 そして、見送る悲壮が詰まった"重み"が、アルトリウスの手に握られた。




「───私は、友を切り捨てた者を見逃す程、お人好しでは無い。」



      烈    破



  「───【剣術:振り下ろし】。」



 "彼の速さは、自身を超えている"。

 そうコンラが気づいた時には、彼の身体は既に真っ二つに割られていた。


(───何故、勝てない。)


(あの【魔神王】にも、そこの王にも。)


 …その原因は、突然の、王の覚醒である。


(…土壇場で覚醒とは…何か、きっかけが───。)


 コンラの眼が最後に捉えたのは、恐る恐るこちらを見る男の姿。


 デロンギの眼は、此方を見つめていた。


 ……アルトリウスは、きっとデロンギを背負っていた。


 "何に変えても、背後の者を守りきる"。


 そう、思っていたのだろう…。


 "だから、勝てた"。

 "力を得ることが出来た"。


(───彼の為にですか、アルトリウス。)


(だから、強くなれたと。)


(それが、アルトリウスのキーであったと。)


 アルトリウスの有り様は、そうコンラへと告げている。


 自分よりも強固な決意は、確かにそこにあった。


 コンラは、少なくとも、そうなのだろうと思った。



(…相手の力をみくびったお陰で、負けた。)

(私は、一人では、結局、勝ちの芽を潰してしまう…。)



 …コンラは、一人で戦い過ぎた。


(…はは、ははは。)

(情けない…。)


「───申し訳ありません、ユシュエン。」


「私には、仲間が、どこまでも、必要な人間だったようですね───。」


 そしてその言葉の後、コンラは、苦し紛れに放った【魔法弾】にて、アルトリウスを狙うが、残念ながら"大量の砂埃"しか出すことは出来ない。


 …数秒程経って、砂埃は晴れ、其処には、軍服のみが残った。


 粒子は、其処にはない。


 …死んだ、のだろう、現に、今、彼は此処に居ないからだ。








「…たお、したん、ですか。おう、様。」


「…ふふ、お別れだ、な。デロンギ、くん。」







 そんな事を思っていると、彼らは声をかけてきた。


 王の、俺の、仲間たち。


 薄情だが、彼らは…軍服の男を共に討伐してくれた彼らはもう死んだとすら思っていた。


「───っ!ユノさん!タイチさん!キリタニくん…!」




「…デロンギ、さん、は、ぁ……。」


 ……見ると彼らは皆、粒子となりかけていて、その意思でなんとか形を保っている…しかし、もう、長くは保たないだろう…。


「皆さん───ありがとう、お陰で、私は、私の思うままに行動できた。」


「…王様…。」



 そこに王様が出てきて、別れの挨拶じみた事を言う。



 それに対して、タイチさんは"気にすんじゃないよ!"と笑う。


 ユノさんは、"それは良かった…"と笑顔を見せる。


 キリタニさんは、なんとも言えぬ表情だが、目つきが柔らかくなっている気がした。



「……さぁ、もう、行って、ください、デロンギさん。」


「キリタニさん…。でもそんな。」


 俺は少し、彼らを置いていって良いのか戸惑う…が、彼らは此処に居ろとは、言わない。




「はは、最後まで見れないのは口惜しいが…結末は、デロンギくん、君が教えてくれるだろう?」


 前進しろ、胸を張って前へ進め。



「王様を、頼みますよ…!また、お話したいので…。」



 お前の王の物語を見届けろ───。


 それらの激励が、俺を前へと向かせた。


「───ありがとう、ございました…!」


 俺は、そう言って、背後皆に別れを告げる…。

 振り返る事はない、涙が溢れそうだが、しかし、前へ進む。


 王様は、俺がついて来るのを確認するために振り返ったきり、後ろを見ようとはしなかった。


「…行くぞ、デロンギ。」


「…この先に、私を待つ物語が、ある気がするんだ。」


 ───前進する、二人の戦士。


 その背後には、目を疑うほど美しい、青い粒子が、門出を祝うかの様にその場を埋め尽くしていた…。


 




 ───ちゃぽ、と音を立てて、"肉体"を運んでいる水銀を、そのままにして。

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