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【エター】新興VRMMO記【ビクトリア】  作者: 松田勝平
第八部 アスガルド動乱編
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第6話 深まる謎


「….クロノス、お前の力を、受け取るぞ。」


 氷漬けにされた"巨神"。


「……心臓は、既に抜き取られた後か、しかしまだ"骨"がある、と。」


 紅き機神は、"既に全身をバラバラにされた警備"を横目に───。


 ───其の脊髄を、噛み砕いた。


 …紅い神の精神は、明確に二つと分けられる。

 硬質的な身体に走る赤いラインは、黒く染まった。


「よし、これで魔力さえあれば、肉を作り出せる…場合によっては、"あの若僧"を超える速さも出せるかもしれない…。」


「…『そろそろ、返してくれないか。』。」


「…ふふ、それは無理な、相談ですな。」


「何しろ、あの竜かぶれの"若僧"が地に落ちたとなれば。」


「───はは、待ち遠しい。」

「……奴の、その断末魔を聴くまでは、私は止まれない。」


 紅蓮機神は、その足を異形の物へと変貌させる。


 その百足(ムカデ)のような脚は、白き壁を突き破り、螺旋階段を目指していた…。



 1.アスガルド地下-『水銀冠』-臨時本部


 闇を光が照らし、幾人もの生き残れた研究員が報告へと詰めかける。


 そこに佇むは、未だ少なくない戦力を率いる"王"。



「研究部のマシダより報告!【スキル秘伝書】と思われていた地下大書庫の書物ですが、あれらは特定条件を満たさない場合は使用不可能との事!」


「ランクアップした【鑑定士】を保有する第三班によると、本質は『"素質"のあるものに力を付与する。』との事、サンプルとして一つの本を引き出した所、同じ本と見られる物が再生成されました!」


 …ランプの光は、変わらず彼らを照らす。


 報告を王と共に聞くマーメイは一つ、彼に尋ねた。


「…素質、とは?」



「調査中であります!」



「了解しました、次の定期報告を楽しみにしています。」


 …一通り返事して、マーメイはユシュエンがいつの間にか"バベル"たる結晶体へとその体を向けている事に気づいた。


「破壊するのは、簡単ですが、そこから出てくるものは───。」


 マーメイはユシュエンの心持ちを察したかの様にそう注意するが…。


「違う、そうじゃない。」

「"なんでこんな物がここにある"。」

「ずっとそれについて考えていた。」


 バベルの塔は、"攻略組"の情報からすれば新天地へと頂点に至った者を導く物。

 当然頂点へとたどり着くのは簡単な話では無く、普通ならバベル上層を闊歩する無数のモンスターを屠らねばならない。


 しかし、この塔は始めから辿り着かせる気が無い。

 解析によれば結晶は破壊不能オブジェクトで出来ており、秒単位で完全な自己再生を行うとの事。


「まるで、何かのイベントがここに隠されてる。」


「メインストーリーはサブストーリーを抜くと古代文明の危険性、英雄大陸へと行く者の素質、そして、このアスガルドは、バベルの攻略。」


「…でも、そうだったとしたら、バベルにNPCは関与して来なかった。」


「…僕だって、上の方のバベルを登り切った。だから、見落としなんてしていないはずだ。」


「じゃあ、なんで"消化不良"がある?」



 ユシュエンのその瞳はバベルを射抜く。

 全ての鍵は、既に彼の頭の中に入っていた。


 "十三州会議なんて物があるのは、ナイトケの王が既に死亡済みだからだ"。


 ナイトケの王、今は亡きラキオ。

 生前は太刀を使う無双の英雄であるとされていた、NPCだった。


 何故、殺された。

 その時、自分はそこには居なかったが、ずっと居た連中は居る。


 グレン、ロシュ、ヘカク。


 彼らは、王の近くにいた。

 そして、彼らの近くで王は去った。


 死因は、"クロノスの収容違反による魔物の襲撃"。


 しかし、しかしだ。


 "NPCは、復活する"。


 王は、例外だとされていた…もしも、もしもの話だ。


 "殺されてなど、居なかった"。


 ならば、それなら、収拾はつく。


「───水銀、アスガルドの全ての者をチェックしろ。」


 疑念は、意思へと変わった。

 ここに乗り込む"べき"者が居る。


 水銀は彼のすぐそばから伸ばされ、地面の中に入り、数分も経てば全土を把握するだろう。

 本来なら、自分の探知力を知っているだろう仮想敵達は、当然それを警戒し、地下に居るはずもない。


 しかし、報告によれば洪水が起きたと聞く…つくづく場を引っ掻き回す男だ。


 いきなり動き出した盟主を不安げに見るマーメイを横目に、ユシュエンはクスリと笑った。


「…大丈夫だよ、マーメイ。既に把握した。」


「…役者は違うようだけど、ストーリーは進む、イベントは、此処で起きる。」


「───はは、ついに、ついにだ。思いがけない所で、この世界の、"生きた姿"を見れるとはね…。」


 水銀が指し示した場所は、地下の、"大書庫"まで繋がる道。


 鍵となるのは、この世界を知る者。



「世界の敵に、この塔はきっと、導いてくれる筈だ。」



 2.アスガルド-バベルの塔-


 バベルの塔には戦闘の跡が残る。

 奇妙なのは、ただ、それだけである、という事、つまりは───。


 今此処に居る"彼ら"以外の者達は、皆避難するか流されてしまった、という事である。







 …どうしてこうなった。

 俺の意識は平時に無く活発化していた、その理由はもちろんこの状況にある。


「…久しぶりだな、アーサー。」


「あっ、久しぶりです、アーサーさん。」


 目の前にいる割と因縁がある奴ら。

 タイトと、エル。

 …コイツらは別にいいんだ、コイツらは…。


 …だが、なんでアイツまで…。


「久しぶりだな、クソナイト。」


「なんでアンタまで居るんだよ!?」


 偶然にも程があるだろうが!

 俺が叫ぶとキョトンとした形相で俺を見つめる。

 …やれやれ、コイツはどうやらどうでもいいって思ってるようだ、しかし、俺とコイツ…ナギトとの因縁は長きに続くソレ、俺はもうコイツと一緒では安心できない───。


「…あぁ、もうカツアゲはして無い、安心しろ。」


「そういう問題じゃ無いッ!」

「僕と貴方は…えーっと、なんか仲が悪い気がする!」


「……てめぇ、クソナイト、キャラ作ってんのか。」


「…あぁうん、作ってるよ!でもなんか予想してたやりとりと違う!」


 俺がまるで子供かの様に情けなくナギトにぎゃんぎゃん威嚇していると、タイトはやっと弱いところを見せたか、と笑い、エルもソレに追随して微笑んだ。


 お前らはなんだ!俺の味方じゃあないのか!

 また、駄々をこねてみるとエルの方は少しワタワタしているがタイトは…。


「ほぅ、また斬り合うか?なら新しい刀が手に入ってからにしてくれ。」


 塩対応である!


 しかし、俺の頭はナギトに対する考えでいっぱいになっていたので特にショックは受けなかったが。


(俺はナギトを断固拒否したいのだが実を言うとなんと無くナギトが苦手ってだけだから超モヤモヤした気分になるから反対しているだけであってそれに正当性は無い、しかしだな…。)


「うおおおおもどかしいぃぃぃ!!!」




「…なんでアイツ隅で吠えてんだ?愛に飢えてんのか?」


「長年ソロだったからじゃないか?」


「…アーサーさん、可哀想に…。」


「いやだーっ!俺はぼっちじゃない!拗らせてなんか無いーっ!」


「「「ならパーティ組めよ。」」」



「いやぁぁぁぁぁぁあーっ!!!」


 どこか情けない男の咆哮が、水浸しとなったバベルにこだました。








「…んで、三下共、てめえらはなんなんだ。」

「俺はジオマから依頼を受けてきた、『壊し屋』ダリルだ。」


「ずっと自分は地面に落ちて死んだって思い込んでた癖に…。」


 アーサーの突っ込みが光る、だが、ソレとこれとは関係ない!とダリルはそのズボラな髪を振った。


 ダリル…ワールドアイテムたる機械装甲を用いての近接戦を得意とする、傭兵の中でも割と信用が厚い人間だ(と、サラから聞いたことがある)。


 メインウェポンはその肉体、平時は敵を相方と共に誘い込み破壊するという狡猾なプレイングが特徴的らしい…。


 こんな情報が、何の役に立つんだか…、


「…話の端は折れてしまったが、俺の名はタイト。そしてこいつは───。」


「エルと言います、よろしくお願いします!」



「おい、所属言えよ。」


 エルとタイトに早速噛みつくダリルだが、ナギトがソレを制す。


「無理に所属を言わせると程度が知れるぞ、お前。」


 暗に口が上手くない事を指摘している、この事の意味が分からないほどダリルは愚かではなかった様だ。


「……へっ、まぁ、アンタが言うならしょうがねぇや。」


 此処で簡単に自身の立ち位置を変える、という行為は、彼の対応力の豊富さを示していた。


 しかし、そんな彼もナギトの次の言葉に驚愕を隠せない。


「…俺の名はナギト、攻略組所属だ。」



「───ッ攻略組…なるほど…!」


 タイト…。


「…なる、ほど…。」

(実際戦ってないから強さとか分からないんですけど…。)


 エル…。


「!…だからそんな、べらぼうな強さを…。」


 ダリル…。


 三者三様の反応を見せるが、アーサーはそんな事に構わず、内心でとても焦っていた。


(俺がトリじゃん。これ。)


 …これは、ポーカーフェイスたる猫被りを、行うしか…!


「…えぇと、アーサーといいます。」


「これでも此処の襲撃犯です、どうかよろしくお願いします。」


 …案外、普通かな?最後の言葉を言った後に頭を下げたのでどんな顔してるのかは、よく分からない…。



「…先程の大洪水と言い、これが本当なら【アスガルド】を焼け野原にして見せたのと言い…。」


 エルが問題提起し…。


「…コイツ、移動する戦略兵器だな、まるで。」


 タイトはそれに反応する。


「…なんかむかつく。」


 ナギトはそう言ってそっぽを向いた。


「……………は?ここら一帯を、焼け野原にして…で、で、さっきの洪水か…!?」

「二つくらいワールドアイテムがなきゃ、不可能に近いぞ、そりゃあ…!」


 ダリルはその目を驚愕と共に見開いた。


 …しかし、自己紹介が終わってフレコを交換していると、アーサーは一つのことに気づいた。


「…これから、解散ですよね?」


「「「確かに。」」」


 何しろ全然目的が違うのだ。

 しかし、自分についてくるか、と聞くとタイトとエルはオーケーを出した。


「テメェについてくのは、ちとむかつく。」


 そう言ってナギトは何処へなりとも立ち去った。


「…俺はこのジオマ大使館が崩されないか監視しておくから、ついてくのは無理だ。」

「じゃあな、元気でやれよ。」


 『壊し屋』のダリルはそんな事を言ってついてこなかったが…。


 多分、他のバベル内にある大使館を破壊してしまうつもりで居るのだろう、しかしアーサーとしては、既にバゼリを抜けた気でいる、守ろうとする気はサラサラ無かった。


「…さぁて、『水銀冠』リベンジといこうか。」


「俺は斬り合いがしたいだけだが…。」


「…これが初めての冒険って事になりますね…。」


「そういえば、僕はエルさんとはこれでいつかの約束を果たした事になるのか。」



「…そう言えば、やっと、そう言う事なんですね。」



 3.アスガルド地下-大書庫


 おーい!と、知らんタンクトップのおっさんが声をかけてきた、何やら話を聞くと、おっさんのおっさん仲間らしい、他の仲間は眼鏡のインテリ系と、ちょっと背丈が小さい少女だ。


 俺はどう接すれば良いか所見では分からなかったが、あちら側からよろしく、と声をかけてきたので、こちらもまたよろしく、と返す。


 インテリ男と少女は共に書庫の方の探索に没頭しており、本を押したり引いたりしている…。


「…駄目だユノ、これテンプレが効かない。」


「普通はこれで本棚がスライドしたりするはずなんですがねぇ…。」


 少女はその魔法使いらしいとんがり帽子を被り直し、インテリはそれに眼鏡を直すことで応えた。


「おぅいチビ共!そろそろいくぞぉー!」


 タンクトップのおっさんが声をかけると、すぐさま作業をやめて彼らはゆっくりと近づいてきた、しかし…。


「あの!そのカッコイイ人は誰ですか!」


「俺も知りたいぞ、誰だその人は…。」


 そう、俺の隣の王様に興味を向けている…。俺はこの方は見せ物では無いぞ、と一言言うと、それに構わずにわんぱくな奴らは王様に絡みに行く。


「貴方って王様なんですね?」


「衣装的にバゼリか?何故こんなところに。」



「…あ、ぁ、確かに私はバゼリの王だ。」

「…此処に来たのは、何故か、そうせねばと、強く感じたから、だな。」



「煮えきらねぇな王様、なんか気にかかる事でも?」


 おっさんがそう言って王様の背中をバシバシ叩いた。

 俺はとっさにインターセプト、俺の王様だ、手を触れんじゃねぇ!

 その様な事をオブラートに包んで言うと、少し子供らは引いていた、自分でも当然だと思う。


 しかしそんな狂犬へも慈悲を示すようにありがとう、と王様は言ってくれた、王様万歳。


「…坊主、お前かなりハジけたな。」


「好きになれるものがようやく見つかったんでね。」




「よし、こんな面白い場所を探索せずにいられるかぁ!」


 おっさんのおっさん仲間、タイチ。


「…さて、どんな魔物がいるのだろうか…。」


 インテリ系の青年、キリタニ


「お、出発ですか!私の魔道士たる資質をお見せしましょーっ!」


 そして小柄で眼鏡をかけるとんがり帽子女、ユノ。


 いざゆかん、多分俺と王様も入れた六人は行く。


 その先に待ち受けているのは、魔物ではなく、"人間"である事を知らずに…。



 …彼らから遥か前方、大書庫から地下庭園へと繋がる通路。


 そこに、何処からともなく金髪の少女が現れ、その黒い法衣をはためかす。


 彼女は、手にする弓を、静かに地下庭園へと向けた。




 3.アスガルド地下-螺旋階段前-



 …【アスガルド】は、洪水が起きた。

 それも、地表全てを軽く洗い流す程の激流を伴って。


 …ならば、その洪水の源流たる、地下から天高く噴出していた水。


 その水が出ていた"穴"は、当然拡張されたのだろう。


 太陽の光が中に差し込む、石の広場。

 本来ならば、既に『水銀冠』が封鎖したバベルの塔の隠し扉、そこより侵入すべき場所。


 流れ着いたプレイヤーは、次々と、その目を覚ます───。

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