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【エター】新興VRMMO記【ビクトリア】  作者: 松田勝平
第八部 アスガルド動乱編
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第5話 忠義と意地



 1.アスガルド-ナイトケ・バゼリ間戦線



 肩を撫でる風、雲一つなく晴れ渡る空。


 お互いの"兵士"は、爆風の中斬り合い続ける。


「───ぼけっとしてんな坊主!」


 …見せられた物は、戦場だった。


(……どうしろって、言うんだよ。)


 爆発に揺らされる塹壕の中で、腰に留められた剣を引き抜く気も失せた。


 …此処は、なんか共通の敵がいるっぽいのに国同士内ゲバしてるから出来た戦線…。


 そうだと、さっき俺に向けて叫んだおっさんから聞かせてもらったが、俺にはどうしようもない。


 意気揚々と戦場に出ようとしたら、幸か不幸か爆風にて吹っ飛ばされて、足も腕も碌に動かなくなってしまった…。


 爆風だけでこれだ、前線で奮戦している奴らは本当に同じプレイヤーかと疑ってしまう…。


「…坊主、戦場で一番大切な物はなんだ?」


 おっさんは続け様にこういった。


「塹壕だ。」


 土魔法で作ったらしいスコップを渡してきた。


「掘れ。」


 ふざけてるのか、そう思ったが…。

 ……思えば特にやることも無いので、療養ついでに掘ることにした───。





「よし、掘る気になったか、なら俺が土魔法で土を掻き出すから、どんどん掘れ。」


 サーイエッサー。



 2.アスガルド-混成戦線-バベルの塔



「【世界(ワールド)】ッ!!」


 【武装化(アームズ)】が纏うは、破滅呼ぶ暴風───。


「【轟撃(ブレイカー)】…ッ!」


 蒼銀の片刃斧は、大気を震動させる───。


「【剛撃(バスター)】ーーッ!!」


 女の持つ薙刀は、自身の無力さを恥じながらもその勢いを衰えさせる事はなく───。


「【剛撃(バスター)】ッ!」


 【魔神王】が持つ"蒼弓"からは、一引のみで多くの弾丸が放たれる───。


 彼の風圧が地を削る。

 男の重心を利用した一撃は放たれた。

 女は柱を砕く程の衝撃を振りかざす。

 彼女の大弓は獲物を逃す気などない。


 今、四人の至極の一撃が、一点にてぶつかり合った…!


「…俺の、勝利だ───!」


 力比べに勝ったのは、バゼリの盟主。


 槍使いたるザワルドの咆哮が、この空間に響き渡る。

 既にこの一局は混戦の中、どこもかしこも陣営など関係無く争い合い、最強を決める為にその身を削る…。


「まだだッ!」


 自分の身長を軽く超える斧を振り上げ、ザワルドを追い、前へ出るウェンプル、だが───。


「此処は戦場だ、ウェンプル。」

「お前がそうといっていた。」


 ザワルドはそれを無視して、先程のぶつかり合いの反動を受けている黒髪の女…リトへと目を向けた。


(───。)


 斧を振り上げがら空きになった背中に迫る、青色の弾丸が、ウェンプルの身を多重に貫通する───。


(…!?【轟撃(ブレイカー)】発動の為、【重装化(フル・アームズ)】を切っていたのが、致命傷に───!)


 そのまま過重な負傷に耐え切れず、斧使いは青の霞となって消えた。




「…は…ぁ、ッ余りにも、差があり、ますね…。」


(【剛撃(バスター)】による迎撃でも、防ぐどころか吹っ飛ばされるなんて…!)


「……前線、維持、だけでも…ッは。」


「…よく、持った、のか───。」


 よろよろと、崩壊した壁の瓦礫を押し除け、立ち上がろうとするリロ、しかし───。


「───消えろ。」


 その言葉と共に、ザワルドの槍はリトの身を貫く───。


「…ッやはり………!」


 そして、追随する暴風はそのエネルギーを持って彼女の身を引き裂いた…!


「───次は、お前だ。」


 槍に残る血を振り払い、背後から迫る蒼弾を薙ぎ払う。


「───ほぅ。」


 その対応を見たアクリナは、ザワルドの選択肢を狭める為、わざとその姿を現す。


 …邪魔者を消し、遂に向かい合う二人。


 勝ち残った二人。


 一人は囮としてその身を全うし、一人は総取りを狙う。


「───バゼリ王国、ザワルド。」



「───ジオマ帝国、『壊し屋』のアクリナ。」


 戦士の空気が、此処に合った。


「───。」


 睨み合いの末、アクリナが一射目を放とうとする、が───。


「───放たせる訳ないだろ。」


 嵐は、弓を引き絞る速さを追い抜いた。

 ノーモーションでも、彼の推進力たる"風"は、一秒も掛からずに肉体を最高速へと押し上げる。


 それに対応するかのように、アクリナはある言葉を唱えようとする。


「【(ディ)───。」


 しかし、それに待ったをかけるものが、一人いた。


『───止めてくれ、アクリナ。』

『君はもう、撤退条件を満たした。』


 諭すような声が、彼女の耳へと響いた。


『これ以上手札を見せると、君の為にはならない。』


 敵は既に迫っている、アクリナは手に持っている弓を槍の先端へと合わせようとするが、不可能。


 槍は、彼女の腹に突き刺さった…!


『───帰還させる。【テレポート】。』


「先輩、でも、バベルは───。」


 転移の光が、アクリナを包む。

 …槍を包む肉は(くう)へと変わり、主人を持たぬ血潮は地面を濡らすばかり…。


「…成る程。」


 …そして、この場にいる"最強"は文字通り、彼───。


 ザワルド、ただ一人と、なる…!


「きな臭いな、グレン…だったか、あの女の探し人とやらは…。」

「…まぁ、それは、とにかく───。」


「───後は、放っとくだけで良いかな?」


 …彼は周囲を見渡した。


 疲弊しつつある兵、終わらない激戦。

 しかし、各々の陣営の仮要塞は次第に大きさを増しており、領有権を主張するにはいずれのものも充分だと感じた…。


 …ザワルドはその鎧を解除して、虚空から取り出した【魔法通信機】に耳を傾ける。


「終わった。今から依頼に移る。」


「ああ、こっちの土地分配か?前と変わらない。四国で等分だよ。」


「…所で、今は何をやっているんだ?」


「『壊し屋』の監視?なら、お前…今も此処にいるのか?」


「…ああ、分かった。じゃあな、出来る範囲なら、依頼通りに資源を取ってこよう…。」


「近いうちに、オークションをしようか───"クライム"。」



 3.アスガルド-地上-



 雲が流れぬ空は、此処が雲の上だから。

 草も余り高くない平原を、知性なき蜥蜴は這いずり回る。


 がさがさ、と、音がして、その平原を包む森から、一人の"女"が躍り出た。


「───。…ふぅ…あっ、と、と。」


 慌てて逃げてきたようだ、外敵が居ないことを確認するとすっ転びそうになっている。


 黒のポニーテールが風に揺れた。


「───(はぐ)れちゃった…。」


 彼女の従者は今時、笑うどころか泣いている所だろう。

 女…キュビは従者を追うことに集中しすぎて不注意のためか、大木にぶつかり、態勢を立て直した所を多数の『火消し蜥蜴』に襲われて逃げてきたのだ。


 彼女は余り、対魔物戦を納めていない、その事を自覚しているからこその、立派な逃げであった。


 …情けない限りである。


「…ふぅ、でも、此処までくれば、大丈夫…。」


「…もうこんなに離れちゃったら復帰は無理でしょうね、よし、今日の所はサボりということで───。」



 その時、だった。

 突如、地面より噴き上がる流水、頭上どころかアスガルドを見渡せられるであろう位置まで届く"それ"。


「───えっなにこれ怖い。」

「もしかしてサボりの天罰?いやいやいやいやそんな事は───。」


 当然、その怪奇現象による震動は、キュビを腰抜けの尻餅つきにするには充分だった…。


 水流による(おお)きな影は、震え上がる彼女を包み込む…。


「───死にましたこれ、いっそ永久サボりでラッキーかもしれませんね!」


 現実逃避に走るキュビを差し置いて、『大洪水』は空中にある水流が"弾けて"、遂に、なされた。

 

 …濃縮された粒子は抑えつけるものが無ければ弾ける、そうなると、今、そこにある水と化した粒子は、どうなるか───。



 ───空から、広い、広い、大波が降ってくるのである。


 多重なる、美しき波は、ここに顕現した。


 どこまでも広がる、万華鏡の様に。


「───ぁ。」


 アスガルドは、一回目の全土焼却の後、復興も終わらぬうちに、その全てを流される事となった…。









「うおおおおおおおおお止め方分からねぇぇぇぇ!!」


「その声はやはりアーサーか!待ちわびていたぞこの時を!」


「………………クソナイト。」


「助けに入れなくてすみませんでしたアーサーさぁぁぁん!!!」


「…ぁれ、なんで、俺は切られて地下に…。なんか外に出てるじゃねえかというかここ高ァ!?」



「「「「「うおおおおぁあああああああ!!!???」」」」」



 彼らは、空に舞いながら、彼方に伸びる噴水の奔流を見る。


 その水流の有り様は、まるでこの空中大陸に咲き誇る水の華であったという…。


 ───花弁は、徐々に、剥がれ落ち、地表の物は、流れ落ちる。





 4.アスガルド-ナイトケ・バゼリ間戦線-



 …空の水の華が、彼らへと降り注いだ時。


 それをいち早く発見したデロンギは、彼の王と共に避難を行おうとしていた…。


「…塹壕、掘って置いて良かった。」


「良くやったぞデロンギ!」


 王と共に逃げてきたデロンギに坊主頭の渋面の男が声をかける。


 なんと、彼らはこの未曾有の災害を避ける方法を、"地下"に見出したらしい。



「おっさん!穴は空いたのか?」


「ああ、どうやら破壊不能オブジェクトでは無かったようでな、耐久値は俺のダチ三人と一緒にやってもキツかったが…。」


「まぁ、入ってみろ、こいつぁすげえぞデロンギ、お前の手柄だ!」


「ありがとうおっさん!俺もそろそろ王様と入る!」


「おう、道案内は任せとけや坊主!」


 …かくして、遂に自分の居場所を見つけた彼は地下へと走る。


 信頼は、遂に彼を救った。


「───……。」


 傍でデロンギについて行く人形たる男は、ただ、黙するばかり。


 ───しかし、その"心"の中には…。



「さ、入りましょう!"王様"!」


「───……あ、あぁ。」


 …【ビクトリア】は、変わる。


 彼によって、変わった。


「ありがとう、デロンギ。」


 その言葉を残して、この三人は地下へと潜る…。


 前を見る王の目は、力強く、力を発していた…!

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