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【エター】新興VRMMO記【ビクトリア】  作者: 松田勝平
第八部 アスガルド動乱編
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第4話 黒翼と白銀



 1.アスガルド上空


 ───タイトという男は、退屈していた。


 コロシアムのトーナメントイベントには結局の所アーサーは出ていなかったし、今のところ面白いイベントも存在していなかったからだ。



 そんな所に、"コレ"は成った。


 翼を広げて索敵すれば、どこもかしこも全てが戦場。


 戦士達が争い続ける、戦闘狂の楽園。


「───タイト、さん。」


「あぁ。」


 しかし、彼らには"そんなもの"よりも、遥かに関心を引く大事が存在した。


 森の中、不自然に広がる平原、這いずる蜥蜴。


 土が噴き出る穴、誰かが掘った地下への道。


 上空から見える"彼"の髪は、金髪。


 度々外に出て休憩するその風貌は、何処かであった誰かに似ていた。



「「───アーサー。」」


「…はは。」 「本当に…。」


 彼らは顔を見合わせた。


「追いましょう!」


「───決着をつけようか!」



 彼らは、アーサーが穴を掘り、地下へと潜ったのを合図に尾行を始めた…。


 彼から、何かを聞き出せると信じて…。


(どうせアーサーさんのことなんだから、また何かに巻き込まれてるんだろうなぁ…。)


(あの男の事だ、エルからの話を聞く限り、また何かの中心にでも立っているのだろう。)


((追っておいて、損はない!))




 2.アスガルド地下-螺旋階段前-




 薄暗い地下の中、"彼ら"は面を合わせる。


 …此処に"三組"が集まったのは、偶然であった。



「…どうなってやがる、おい、お前らはなんだ。」


 銀髪の青年はぶっきらぼうに言う。


 身につけた銀の軽鎧は、彼が斧を肩に担いだ時に擦れあってチャリリ、と鳴った。



「…そんな事知るか、オレ達は地下資源を求めに来ただけだ、さっさと退け三下ども!」


「そうでやんす!此処で成果上げないと商売上がったりなんでやんすよ!」


 対面するは緑の髪をズボラに伸ばした髭面の男と短い茶髪の細身の男。


「俺たちが『壊し屋』ってこたぁ知ってんだろうなぁ!!?」


 髭面の男…名をダリルという彼は、手に持つ鎖を巻いた棍棒を振り回して言った。


「…生憎だが、知らない。」

「しかし、戦う以外道はないのだろう?」


 その言葉に黒髪の少年…タイトは返す。

 側に控えるべき少女は、此処にはいない。



「───ごちゃごちゃと、煩い。」

「俺は、あの"マヌケ"に落とし前をつけにきただけだ。」



「───【武装化(アームズ)】。」


「『装甲展開(アーマーテッド)』。」


「【忍術:隠れ身】。」


 瞬間、白銀一線。

 男の一瞬にも満たない踏み込みにより放たれた斬撃は、三者三様の対応を引き出した。


「───喰らってる…?」


 剣戟を防いだタイトが周りを見渡すと、『壊し屋』についていた茶髪の男…グルグはその上半身と下半身を分離させていた。


「当たり前だ、【隠れ身】は"秒"の無敵化じゃない。」


「"一撃無効化"だ。なら、連撃にて押し通るまでの事。」


 【忍術】…。

 『【忍者】職業スキル。このスキル派生のスキルアビリティが習得しやすくなる。』


 【忍術:隠れ身】…。

 『自分のレベル×〇.〇〇一秒内の攻撃を一度無効化する。(このスキルはレベル三〇〇〇以上から先は成長する事はない。)』


「───…ッグルグ!?」


「悪いっ、すね…ダリル、親方…!っはぁ、今は、分が、悪い…!逃げろ…ッ!」


 先ほどの"災害"を防ぐため、二メートル程の機械兵士に変身していたダリルは、すでに粒子となって消えた彼の相棒の言葉を受け取った…。


 そんな中、タイトは先程の攻撃を放って見せた白銀の男の方を向く。


「───強いな、あんた。」


 それに対して、目の前の白銀の男は言う。


「天狗か…それも、第三進化目の【黒天狗】。」


「そこの『ワールドアイテム』より、腕はありそうだ。」


 そう言われると、鎧の中のダリルは頬に汗を浮かべた。


「───っ」

(こいつ、俺の鎧が『ワールドアイテム』だと気づいたのか…!?)

(…いや、関係ねぇな、"奪う"気でいるなら、もう既に盗まれてるだろう。)

(『世界泥棒』との関係は…ナシで良いだろう。)


 機械鎧の中で思考するダリルを置き去りにして、タイトは白銀の男へと声を掛ける。


「ほぅ、ならば、やろう。」

「…俺は、我慢できない。」


 タイトの宣言を聞き、言い返すこともなく、白銀は、飛んだ。


「───啖呵を切ってる暇があるなら、斬りかかれ!」


 タイトの言葉に耳を傾ける事、それこそが隙になると判断したのだろうか…。


 白銀の斧は刀…タイトの【武装化(アームズ)】とぶつかり合った…!


「───……。」


 タイトは無心にて一撃を受け止め、そして受け流そうと傾ける───。


「───【破壊】。」


 ───瞬間、ガラス細工のように彼の才覚(タレント)は、根元より破壊された。


(いま、なんて、言った。)

(いや、そんな事より、早く───。)


 斧は彼に迫る。

 自身は既に無手同然、刀を背中の鞘から引き出す事は、不可能。


 思考にて時間は止まらず、ただ、ただ、無為に死ぬかどうか、考える。


(───負けるのか、俺は。)


(こんな、呆気なく。)


 強者とは。


 最も遊びが無い者の事を言う。


 タイトは、貪欲さが足りなかった。




「───『鉄壁機神(レイジ・メカ)』。」


 ───まるで、大砲が撃たれたかのような轟音が、この地下を震わせる。


「……ぁ…。」


 タイトは、茫然と大きな背中を見つめる。


 赤銅(あかがね)の鎧は、先程の一撃にて見る影もなく凹んでいる…。


 だが、しかし、(ダリル)は耐えた。


「『壊し屋』の意地、此処で見せんでどこで見せるかぁっ!!」


 フルフェイスのバケツ頭の奥より覗く白き視線は、目の前の敵を強く睨んだ…!


「【剛撃(バスター)】ぁーーーッ!!」


 次いで、肩が凹んでいる右の豪腕より一撃が放たれた。

 その一撃は間違いなく、先程の白銀の男の一閃に劣らず、迅速に放たれた。


 瞬き一つする間に、敵の顔面を吹き飛ばすであろう。


 …だが、白銀の男の表情はどうか。

 まるで冷ややかで、何も動揺していない…。


 彼にとっては、その至極の一撃は、有象無象の反撃である。


「【破壊】。」


「───【剛撃(バスター)】。」


 白銀の男は、既に赤銅の鎧、その右拳を凹ませた"斧"を───。


 ───そのまま、さらに、深く、深く押し込んだ。



「ぐぁぁあーーッ!!??」


 結果、押し込まれた斧は、ワールドアイテムたる鎧の右半身を、ビリビリに引き裂く。


 瞬時に鎧は耐久値を超えたと判断し、自己保存とパイロット保護を兼ねて爆発し、ペンダントへと戻った。


「ッは……ぐ、ぅ……ぁ…。」


 背中から落ちたダリルは、内蔵を強く打ち、行動する事はできない…。


「───【(ソード)(マスター)】。」




 


 だが、その犠牲は、タイトに、その刀を引き抜かせた…!


「「───【剛撃(バスター)】。」」


 重なり合う、声。


 白銀の男は、油断も慢心も一切せずに、機械的に彼らを処理する。


「───っ。」


 タイトの額に汗が浮かぶ、彼の刀は、まだ一合目であると言うのにもかかわらず、その刀身を刃こぼれさせていた。


 短期決戦を仕掛けるしかない、背後へと回り一撃を仕掛けるが───。


「「【剛撃(バスター)】。」」

 

「───!?」


 まるで、その加速した挙動を見られているかのように、平時の時同様、いとも易々と見切られ、タイトの刀は防がれた。


(刀の消耗が、激しい、このままでは攻撃も不可能となる───。)


(だが、どうすれば良い(・・・・・・・)と言うのだ…!)


 タイトは、遂に弱音を吐いた。

 生粋の斬り合いを楽しむバトルジャンキーは、"心の劣勢"とやらを知らない。


 メンタルが柔らかくなった瞬間を、白銀の男は、見逃さず───。








「うおおおおおおおおおーーーーッ!??!?」



 ───なんだ、この間抜けな声は。


 白銀の男がそう感じる暇すらなく、彼らは全員、"真下から噴き出る(・・・・・・・・)水に押し流された(・・・・・・・・)"。


 轟音と共に全てを押し流す水流は、彼らを上へ上へと流していく…。


(……何故、水なんぞ、沸いている。)



 3.アスガルド-地下庭園-



 アーサーは剣を改めて構え、臨戦態勢をとる。その頬を冷たい汗が伝った。


(あの人は…確か、前会った時は、黒い髪をしていた筈だ…!)


(なんか、変だぞ…。)


 ───それは、上の者達の遭逢の、少し前の事。


 白き銀髪の少年は、腕を真っ直ぐにアーサーへ向け、羽織っているコートを揺らす───。


(───来るか……!)



「『切れ』。」


 そして指を、ほんの少し曲げた。


 水銀とは別に、"いつのまにか"設置されていた"銀糸"がアーサーの右腕を切断した。


「───。」


 剣が、右腕と共に落ちる。


 カランカラン、虚しく響いた鉄の嘆きは、次いでアーサーの悲鳴という形にて、掻き消された。


「───ッ…ああぁあぁあああッ!!??」


 息つく暇なく、"盟主"はまたしても一手にて、"とてもか細い糸"はアーサーの左脚を引きちぎり、下半身を分離させ───。


 ───呆気なく、その頭部を切り落とした。




「───【地中走方(アースラン)】、解除。」


 その切り落とされた頭部を、突然に"地面から生えた脚"が上空へと吹き飛ばす───。


 そして、その脚は地中へと潜った。


「【不滅の魔神王(ディ・イモータル)】ッ!」


《レベル6→5》


 空中にて、頭部から全身を再生、レベル(残機)が減っていく事に焦りを感じながらも、アーサーは特大の魔力放出にて上昇して、地上への逃避を図る…!


「しまった…!"此処より地下"に潜ってたのか…!」


 思わぬ伏兵に、声を荒げるユシュエン。

 ユシュエンは水銀を既に地中に張っていたが、それはあくまでも『水銀冠』の拠点への侵入経路など。


 それ故に、其処より深い地下へは、水銀を張り巡らせてはいなかったのだ。


("設置"してから"動作"に入る自身のワイヤーでは、逃げられてしまうだろう…。)


 そのような事を考えていたユシュエンに、コンラは声を掛ける、


「───…分かりました、安心して下さい、ユシュエン。」


「───『神の軍靴(スレイブニル)』。」


 彼は、その軍靴で空へと飛び上がった。


「"クロノス拘束術式(・・・・・・・・)第二式(・・・)開号(・・)"。」



 しっかりと"空"を踏み締め、コンラは、此処に天蓋と化す。


「───逃がしませんよ?」



「───ッしまった…!」

(すっかり失念していた、コイツは、空中を蹴れる…!)


 それに気づいても、魔力放出は直ぐには止められない…。


「ぐぁぁぁっ!?」


 アーサーは、空中に佇むコンラに串刺しにされた…!


「『暗殺短刀(アサシンズナイフ)』ッ!」


 真下からのその言葉と共に青く光る"複数"の短刀がコンラを包囲し、軍刀を持つ手を切り落とそうとする───。


「───コンラ、もう、包囲は完成した。」


 しかし、その前に操作された水銀が、蛇のようにコンラを飲み込み、下へと避難させる…。


 軍刀は意図せず引き抜かれたが、銀糸が程なくしてアーサーを襲うだろう…。


「砕け散れ。」


 実際に、ユシュエンはその五指を開くと、アーサーの身体はまたしても細切れとなった…!



(───ッまずいまずいまずいまずい!?)


 漸く、この状況が、"詰み"だと認識したアーサーは、その額に尋常では無い脂汗を受かべる…。


「【不滅の魔神王(ディ・イモータル)】───!」


 《レベル5→4》


 自由落下にて地上付近に到達してからの復活…。

 それは、既に"上"に張られたワイヤーから逃げる為、しかし───。


「『切れ』。」


 再生した瞬間に、既にワイヤーは存在していた。

 彼は不可視の刃を悟らせず、そして、鳥籠の中の"小鳥"を逃さない───。


(───此処までか…。)


 迫り来る刃に、絶望しかけた、その時───。


「【波撃(ウェイブ)】。」


 ───その時、そこに"地中より"割り込む鎌はその迫る"不可視"をバラバラに寸断する…。


「アーサー。」


「───っ…はい。」


 背中越しに声をかけてくる彼女…ミラにアーサーは戸惑いながらも返した。



「私は長く持ちません、防衛は後十秒程で詰むでしょう。」



「……。つまり…自分は───。」



「───はい、十秒内で、脱出の手段を考えてください。」




「…分かりました、ミラさん。」



 …丁度いい、これなら、集中が出来る、"内面"に、意識を───"集められる"。


(脱出手段、氷、炎、風、土───。)


(───水。)


 その時、答えは決まった。


「【第四段階(フォース)】、【属性付与(エンチャント・):(ウォーター)】。」


 剣は要らない。

 いるのは、この身体のみ───。



 "粒子増幅器官(魔神王の魂)、最大稼働───!


「…では、ご武運を。」

「…【地中走方(アースラン)】。」


 既に十秒は終わった。

 防護が無くなり、不可視の銀糸(やいば)はアーサーへと迫り来る───。


 しかし、放たれる"切り札"は、それを打ち消す───。


「───『大洪水(ジウスドラ)』。」


 濃縮された"蒼"は、その過剰な"密度"に耐え切れず、爆散する。


 粒子は濃縮され、そこから発生する魔力は際限無く、その全てが"水"へと変化する…。


 アーサーの身体から、この広場を容易く包み込む程の水流が、まるでウォーターカッターのような速度を伴い放たれた…!


「…!糸の制御が…奪われる…っ!?」


 ───ユシュエンの操る銀糸。


 それは、多数の手数を操り主に与え、敵を絡め取り、確実に死を与える物であるが…。


 流れ出る水流に抵抗するには、余りにも軽い…!


 その五指から、制御権は失われた…!


「…魔力にて軌道を制御してたのが仇になったのか。…『包め』。」


 …ユシュエンは抵抗しようとは考えなかった。


 瞬時に水銀の中に避難し、根城にしているダンジョンの入り口を水銀にて塞いで内部へと移動した…。


「───次は、容赦など、するものかよ。」


 …その捨て台詞を最後に、庭園は水に沈み、水流は勢いをそのままに螺旋階段を上る…。



「うおおおおおおおおおーーーーッ!??!?」


 水流に押し流される男は、なんとか息継ぎをしようと、もがくばかりであった…。

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