第3話 拮抗
1.アスガルド-ナイトケ領域
「十三州代表としての、アスガルド奪還の為の戦力支援…。」
黒い外套に身を包む女は言う。
名は、タキ。
彼女の目は、焼け焦げてはいるものの、未だ崩壊せずにいる"バベル"を見つめる。
「グレン、リト、ヘカク、レイア…。」
「そして、頼りにならん我が主人か…。」
隣に佇むは、同じく外套を被った黒髪を縛った女性…キュビ、
「…そんな言わなくても。」
「剣においては、並だ。」
「今回の目的は武力制圧…その事を把握してないわけでもないだろう?」
「…あーはい、プロの方に従います、従いますよ。」
「では、バベル方面へと行くぞ。しっかりついてくるが良い、我が主人。」
2.アスガルド-混成戦線-バベルの塔-
蒼空の、そのすぐ下に聳える塔。
その内部の広間にて、競争は進む。
「臨時指揮官のリトです。敵対する【魔神王】へは私がまず突っ込みます。」
「皆さまは、その後の砲撃支援を頼みます。」
「───【臨戦強化】。」
ナイトケと、ジオマの争乱。
「───グレン某とやらは、何処にいるんですか?」
「どうか、差し支えなければ、教えていただきたいですッ!」
それを皮切りに、各々のプレイヤーの最高峰が、ただ、争い合う。
焦点を向けるは、バゼリとザマル。
「───【世界】。」
───スキルは、彼の槍に付与される。
「風よ、集まれ。───そして、貫けッ!!」
金色の全身鎧に身を包み、最強を体現する彼に、与えられる【風】。
バゼリ最強の、男。
風を撒き散らす"嵐の王"は、群がる雑兵を無視して敵の"英雄"へと向かう。
「【臨戦強化】───。」
「───【轟撃】ッ!」
立ちはだかるは堂々たる出で立ちの、蒼髪の青年。
"嵐の王"たるザワルドに対峙する、ザマルのトッププレイヤー。
【ビクトリア】に存在する四国の内の一国。
それを背負う者。
【轟撃】…。
『ダメージを二倍した一撃を放つ。最大連続使用回数は二〇回。』
『一回の補充時間は一五分。』
「───ザワルド、これは、遊びでは無い。」
「故に、貴様の技が最強であると思うな。」
轟音、衝撃。
それのみで吹き飛ぶ群衆。
槍と、片刃の斧が拮抗する。
蒼髪の男の外套が揺れた。
「───そんな事は、百も承知だ。」
風が、"嵐"へと変貌する。
「だが、お前がそれを体現できるとは、限らんがな。」
"追加された特大の推進力"、それが斧を真正面に打ち砕かんとする、だが───。
「今回ばかりは───。」
「───貴様には、負けて、やれない…ッ!」
(───押し、返される…!?)
咄嗟に風を逆噴射し距離を取る。
(【重装化】には耐久値がある、押し負ける危険性があるのであれば退避するべきだ…!)
…ザワルドは、後方へ推進しようとする体を地に手をつく事で止めた。
蒼く、力強き瞳が、ザワルドを射抜く。
ザマル王国のトッププレイヤー、名はウェンプル。
今は"ザワルドの味方では無く、敵"の存在。
「…俺の【重装化】でさえも防ぐとはな。」
「───お前"も"地上に居て、鈍った訳では無かったか。」
その言葉に対し、斧を構えてウェンプルは言い返した。
「…当たり前だ。そして、俺はお前をここで殺す。」
戦いのボルテージは、ここにて限界まで高まる…!
「やってみろよ、ウェンプル。」
「精精、其処でほざいていろ───!」
バベルにて、戦いはさらに活性化する。
…同時に、陰謀は裏にて回り続ける。
一つは、【探究】。
一つは、【踏破】。
一つは、【未練】。
表の戦いと共に、裏もまた、回る。
3.アスガルド-地下庭園-
───コツン、コツン。
───コツ。
螺旋階段を降った先にあった物は、迷宮への入り口と、巨大な龍の石像。
それらは対面する、ストーリーでここに来たのならば、因縁やらなんやらが語られそうな空間。
彼は、アーサーはそんなものを求めてここに来たわけではない。
用意されている、とっておきの"力"を、回収しに来たのだ。
アーサーは、階段の先へと足を踏み出した。
「───待ってましたよ、我らが敵対者。」
迷宮から見張っていた者が言う。
彼は、大袈裟にその腕を広げた。
「我らが同志は、貴方を倒せなかったようだ。」
武器も構えず、ゆっくりと、接近してくる。
アーサーとしては、ここで冗長に時間稼ぎをさせる気は無いため、挑発にて返す事にした。
「【あの刺客】は、強かった…。」
「───そして、貴方も、自分にとっては"強かった"で終わる。」
威圧。
出来るだけ自身を強く見せる為の大言。
【先程の鎧武者程の力】を、目の前の敵は持っているかもしれないのに───。
だが、退く訳には、行かない…!
「…おやおや、言ってくれますね。」
対面する彼は、腰につけた軍刀を抜いた。
黒い軍服が、白い地面により強く印象づけられる。
彼が、ここの守護者。
「私の名は、コンラ。」
「どうぞお手柔らかに───。」
瞬間、踏み込んだ両者は鍔迫り合う。
「───成る程、馬鹿力だ。」
そして、アーサーはコンラを吹き飛ばす。
【第二段階】は解除されている為、様々なバフは掛からないが…。
アーサーが粒子濃縮により得た強大なパワーは、コンラを圧倒する。
「げほ…ぅ…私、一応レベルは四千を超えてるんですけどねぇ…。」
コンラは壁へとめり込み、ようやく止まる。
そこから、追撃を避ける為に、アーサーが見える位置へと、地面を蹴ってすぐさま移動した。
…だが、コンラのその思考に反するように、アーサーは深追いを避け、そこに留まる。
…先程の化け物ほどのプレイヤーでは無いのは、打ち合えた時点で分かったが…初見の相手だ。何をしてくるかわからない。
「まぁ、やる分にはやりましょうか。」
「ワールドアイテム───。」
「───『神の軍靴』。」
コンラは、空中を蹴る。
ステータスの力でない事は一目瞭然だった。しっかりと、"着地"している。
アーサーは気を引き締める、空中に足場を作れる奴がやる事は───。
「───【瞬間強化:速度】。」
一瞬の交差で相手を斬り付ける、それに限る。
一撃目を剣にて防ぎ、背後よりほぼ同時に来た二撃目を背後からハリネズミのように生やした粒子の剣により逸らす。
そのまま、進行方向を全て塞いでしまおうと、複数の粒子による茨を、背中の剣から伸ばして、コンラをがんじがらめにしようとするが───。
「───危ない、危ない。」
茨は、脆く、遅かったようで、伸びた茨は退避する為の踏み台にされると同時に折れてしまった。
(慣れてない形状を複数作るとなると、やはり難しいものがあるな…。)
粒子を体内へ戻し、コンラの居る背面へと振り返る。
着地音と共に、コンラもまた、俺の方を向いた。
「成る程、聞いたこともない、見たこともない。」
「私、その技術に感服しました。」
…俺は警戒する。
何か、仕掛けてくる気だ。
「しかし、私も負ける訳には行きませんので…。」
「少し、"合わせ"ますね。」
彼がそう言った瞬間、大量の魔力が彼から放たれた…!
(…なんだこれは…!?何を…している…!?)
基本的に、魔力は紫色をしている。
そして、それらは、可視化されにくい。
だが、今コンラより湧き上がる魔力は、不自然な事に明るい"緑色"をしていた。
「綺麗でしょう?この、美しい緑は…。」
アーサーは生唾を飲み込む。
…しかし、何故、彼が、アーサーがこのような冗長なる"変身"を見逃しているのか。
普通だったら、すでに切り掛かっている所だろうに…。
(…なんだっ…!この、風圧…!)
それは、コンラより放たれる魔力が、ただの指向性なき"魔力"が、それ単体のみでアーサーを進ませようとしないからだ。
(魔力の"量"が圧倒的に違う…!)
その"圧"により、アーサーは踏ん張るのが、精一杯だった。
文字通り、一歩も進むことが出来ない…!
「私の"魂"は、少しばかり特殊なのですよ。」
「"『クロノス』拘束術式、第一式、開号"───。」
彼の頬に、"翠緑色"のラインが浮かび上がる。
軍刀は、それに共鳴するかのように淡く光り輝いた。
「さァ、斬り合いましょう。」
そして、翠風は彼の片手にて払われる。
…ようやく、暴風の圧力が引いた。アーサーは剣を構える。
「貴方は、どんな"努力"を私に見せてくれますか?」
(───来る…!)
瞬間、行われる二度目の鍔迫り合い───。
その勝者は、コンラだった。
(こいつ…力を抜いて…っ!)
コンラは、鍔迫り合うとすぐさま力を抜き、相手の剣を受け流す。
アーサーは鍔迫り合いの途中にて相手に梯子を外された為、少しばかりではあるが、前へのめる。
「【剛撃】。」
その隙を、見逃さない。
しかしアーサーは、前へのめりながらも剣を引き、剣の持ち手を使って軍刀を防いだ。
無理な態勢で防いだせいか、反動で後ろへと下がる。
…一旦、窮地は脱した、だが、コンラは仕掛けてくる。
その刀をアーサーの胸へと向けて突き出してきた。
アーサーは片手剣をぶつけて逸らす。
「成る程、慣れていないですね。」
しかし、相手はそれが狙いだった。
「貴方は、"同格"との戦いには───。」
ぶつけられた衝撃を利用して一回転。
そのまま横振りに一閃。
「───っ。」
息を飲む。
圧迫感が、相手にはある。
自身には、無い。
軍刀を防ぐと、腕が痺れる。
コンラは立て続けにラッシュを仕掛ける。
ただただ、アーサーには"剣にて"それらを防ぐしか出来無い───。
…このまま、アーサーは格闘戦を続けるか、それは、"否"。
彼の強みは、何なのか。
果たして彼の強みは、格闘戦にしか無いのか?
───そんな筈は、無い。
「【第零段階】。」
「───【極光】。」
(今は、【第四段階】を練っている時間も集中力も無い。)
(あの竜頭の化け物との戦いにて、存外に消耗してしまっている…。)
(だからこそ、"コレ"は現在打てる最善手だ…!)
「ほぅ、ぶつけ合いですか。」
「───【魔砲】。」
コンラがカウンターに出してきた【魔砲】と、アーサーの【極光】はぶつかり合う。
…極大なる翠緑の【魔砲】は、相対する光の柱ほど太くは無いが、無尽蔵に噴出する"破滅の光"。
両者は拮抗する、そして、"コンラ"が勝つ。
それは、何故か。
…本来ならば、魔力は多量な物でも、【魔法】に乗せなければ、身体に微々たる強化しか促さなく、【瞬間強化】等のシステム補正を適用する事により、やっと目に見える強化として使用できる。
───しかし、その炉心は、|"魔力単体"《システム補正無し》のみで、アーサーより弱かったコンラのステータスを、アーサーに追い付かせた。
その"強化"を体現させる程、無尽蔵に魔力を生産出来るのだから、それらの魔力を【魔砲】に乗せて発射した場合…。
コンラが"量"の差で勝つのは、至極当然の事。
だが、アーサーはまだ手札を盛れる。
「【魔法剣:煌撃】。」
「【剛撃】×【衝撃波】───。」
「───【<撃滅衝波>】ッ!!」
豪快に叫ぶと、剣を振り抜く。
アーサーは【極光】を絶やさず拮抗させ、そこに追加火力を添付する事に、勝機を見出した…!
「成る程!ハハ、手札比べですかァ!」
「ならば、同じ手にて応えましょう!」
「【剛撃】×【衝撃波】───。」
「【<撃滅衝波>】ッ!」
翠緑の剣閃と、白亜なる斬滅撃が、再び此処に拮抗を作る…!
…しかし、それに派手さはあっても、戦況は変わらない。
…アーサーは、これからジリジリと、嬲られ続けるだろう…。
だが、白と緑の拮抗を観察するコンラを、アーサーは嗤った。
「───かかったな?」
その言葉は一見、ハッタリのようにも思えたが───。
瞬間、コンラは思い出した。
(───自身は、失敗が許されない。)
(もう、何らかの策によって自身が"絡め取られている"のならば、少なくとも侵入者だけでも残滅しなければならない。)
突撃するコンラ。
しかし───側からみれば、コンラの突撃は滑稽であった。
仕掛けられてもいない"罠"の為に、アーサーへと直進するというのだから。
…だが、翠緑の風は、コンラを進ませるのだ。
(…!本当に、来たか…。)
…アーサーとしては、これを狙った訳ではない。
しかし、アーサーはこの事例にて、自身の"手札の多さ"は強みであると感じた。
何をしてくるかわからない"未知"。
それが、自身の武器なのだと。
剣を構えるアーサー、軍刀を突き出すコンラ。
コンラの刀の軌道の変化により、生まれる筈であった鍔迫り合いは、"避けられた"。
「───獲りました。」
コンラの"風"による強化。
思考速度を追い抜かす程の"疾さ"による刺突。
それは寸分の狂いなく心臓に突き刺さり、彼を補助した緑の風は、着地と共に払われた。
アーサーの身体は、血潮が滴り、地面へと落ちる。
それを眺めるコンラの眼は、何処までも冷たい。
「───【不滅の魔神王】。」
「【剛撃】。」
───復活。
地面より起き上がり、アーサーは剣を振るった。
《レベル10→9》
───剣は、衝突した。
「【剛撃】。」
アーサーの復活を見越していたかのようにコンラは応戦し、衝撃を殺したのだ。
そこから、アーサーの剣を絡めとって今度は手刀による二度目の突きを決めた。
「───。」
アーサーは、呆然とする。
対応ができない程ではないが、遥かに巧い。
この時が、引き際であった。
───しかし、アーサーは逃げる事を選択しなかった。
(対策を練られてしまっては、完全に終わる…。)
「【不滅の魔神王】。」
《レベル9→8》
奇襲は通じない。
なら、"この身体に《・・・・・》相手の刀が刺さった状態で力押しするしかない"。
当然、血は抜ける、死は際限無く訪れる。
しかし、捨身にならなくばこの場は抜け出せない。
「【剛撃】ッ!」
大技を使うにも、時間が足りない。
一瞬にて、決めるしかない…!
「───ハハ、成る程、根比べでしたか。」
「ならば、"その命尽きるまで"戦いましょう───。」
剛力により振られた刃は、相手の突き出した左手首を切り落とした。
「【不滅の魔神王】…。」
《レベル8→7》
「【剛撃】ッ!!」
そして、執念により振られた刃は、首を切り落とそうとする───。
「流石に、獲らせませんよ───。」
しかし、"また"左腕により防がれる。
(こいつは、刀を持ってない左腕しか動かすつもりが無いのだろうか…。)
(……なら…!)
今度は、腕へと標的を変更し、手首から肩口まで斜めに切断する…。
「───ほぅ、詰みですか。」
…コンラは、刀を引き抜き、そしてバックステップにより大きく距離を取った。
「【不滅の魔神王】。」
《レベル7→6》
此処に、二人は健在。
一人は残機を"六"まで削られ、一人は左腕を切り裂かれた。
しかし、軍刀を持つ男…コンラの不利は、有ってないようなものだ。
「【自己再生】。」
その言葉を告げた後の一瞬にて、彼の身体は完治する。
アーサーは目を見開いた。
【自己再生】…。
『魔力を利用した分、身体の自動治癒能力が活性化する。【体力増強】等のスキルより派生。』
「…【自己再生】は、僕が知る限りは、そんなに回復するスキルではない筈なんですがね…。」
あの竜頭の化け物も、戦った時、俺から与えられる傷を躊躇していた。(粒子剣を破壊するか避けていた。)
つまりは、本来は"少々ダメージを持続回復をする程度"のスキルの筈だ。
…此処まで一度に回復できるのなら、あの化け物も傷を覚悟で突っ込んでいたのだろうから。
「炉心が強力なんですよ、だからこそ、【スキル】が到達し得る限界近くまで魔力を注ぎ込めれた…。」
…ごくり、と生唾を飲み込む。
(つまりは、"奴の意識外"から"一撃にて無力化"しなければ、こいつは死なない…!)
….アーサーは、改めて実感した、こいつは───。
「…貴方は、規格外だ。」
その言葉に、コンラは特にリアクションする事もなく、応えた。
「それを言ったのは、貴方が初めてですね。」
「何しろ、初のお披露目でして。」
…相手から、仕掛けてくる気は無い。
俺が逃げると言ったら、逃してくれるのだろうか。
…それは、流石に、希望を持ち過ぎか…。
「…自分も、覚悟を決めましょう。」
「みくびり過ぎていた、一つの組織を。」
「世界を───。」
(───こうなったら、一か八かに賭ける…!)
…『コンラ』という男は、力に押し潰されてばかりの男だった。
『このゲームでは、何が勝敗を決める?』
そう、ユシュエンに聞かれた。
彼は未だ十三州の一つで満足しており、コンラもまた、そうであった時。
コンラは、一言で答えた。
『PS。』
プレイヤースキル。
それが、最も重要であると。
『…コンラらしい、答えだ。』
『そうだね、僕が用意しよう、君が、輝ける場を───。』
そう、思っていたから───。
彼は、今度も、圧倒的な力に押し潰される。
単純に、"遊びが、過ぎた"。
(…俺の"技"を"真に"使う為には、【粒子の操作に意識を没入させる】必要がある、)
(戦闘中では…例え一瞬でさえも、隙を作る事は致命傷に繋がるが───。)
(それは、剣戟などの極限状態に限った話だ…!)
「貴方が、長々と話していたおかげで、準備が出来た…!」
対面するコンラの顔が、青く染まった。
「【第四段階】、【属性付与:氷】。」
───冷気が、周囲を包みこむ…!
「───『蒼氷細工』ッ!」
一気阿世に、アーサーは吠えた…!
コンラは、考える。
(───まずい…!)
(彼が【日和らなかったのが】今の状況ではいけない…!)
(……避けなければ。…軌道上から出れば、当たらない…!)
そう思い、行動に移した。
「『神の軍靴』ッ!!」
とっさに飛び、空中を踏み締めるコンラ。
だが、アーサーの一撃を避けるには、それは充分な回避行動とは言えなかった。
…アーサーが剣を振り抜くと共に、"氷河"が剣から流れ出る。
それは鈍重で、とても空を踏み締めて立つコンラへは当たりそうにない…。
(…どう言う事だ…まさか…ッ!)
【属性付与:氷】の"元"は"水属性"の属性付与の為、調節が足りないと水も共に溢れ出る…。
しかし、今はそれで良かった。
水は奥へ続くダンジョンへと流れ込み、流氷は入り口を叩く。
大きな流氷は、入り口を無残に破壊した。
…お分かりだろう。アーサーが行ったのは、コンラでは無く、『水銀冠』への攻撃。
彼らの重要な資源が、そこにあると思ったからこその、地形狙い。
(───。)
コンラは、此処に驚愕した。
そして判断を迷う、その顔がさらに痩せ細るように見えた。
(この状況で、あと、七回───!?)
此処で、氷河を打ち砕くか、それとも、アーサーを叩くか。
(不可能───いや───。)
迷って、その氷河から、"逃げ続けなかった"のが、彼の"敗因"だった。
「───『粒子剣』。」
…この氷を、この氷河を、この足元にすでに到達し始めた"無数の氷山"を───。
それを、構成しているのは、"なんだ"?
(……ぇ、剣…?何故?生える?駄目だ、避けれない。)
(身体が、既に前へと出てしまった…!)
(───判断が、追いつかない。どうする。)
そう、それは───"氷を構成しているもの"は、アーサーの粒子に他ならない。
粒子の剣は、"ぬるっ"と流氷より生える。
それが、当然であるかの様に、自然に。
アーサーは得心したかのような笑みを浮かべた、そう、彼の前でコンラは…。
コンラは、声を出す暇もなく、その身を貫かれ───…………?
「───………え?」
コンラは驚愕する。
彼の身を包んでいたのは、"水銀"。
水銀による防護壁は、アーサーの粒子による剣を完全に防いだ。
今度は、アーサーの顔が、凍る。
その水銀は、ある男の"証"だ。
コロシアムにて、力を奪った最後の男。
前情報からすれば、それは、この『水銀冠』の───。
直感にて、アーサーは意識を外に向けるため、【第四段階】の発動を止める。
瞬間、ダンジョンの入り口が衝撃により爆発して、アーサーの髪が揺れた。
何かが、"射出"された。それもダンジョンから。
「…ふぅ、スキルキャストとは、便利な物をザスターも考えた物だ。」
彼は、そこに、居る。
氷河の中にて、ゆっくりと立ち上がる。
あまりの衝撃に"蒸発"した水滴が、彼の顔を隠す霧を作り出す…!
「───君も、そう思わないか?アーサー君。」
霧は、"王"たる彼が一つ右手にて払えば吹き飛ばされた。
その白き銀髪、黒き軍服の上より羽織られた赤いコートが風に揺れる。
「…さぁ、君には、理不尽な死を受け取ってもらおうかな。」
その歪なる笑顔は、尋常ならざる憤怒の証。
彼は、目の前の反逆者を嗤う。
「───我が誇りを、我が理想を、その全てを奪い去る気でいる、君にはね。」
───今、『水銀冠』の盟主が、此処に立ち塞がった…!