第2話 ボルテージ
「ウェーカン、戻って来た様で何よりだ。」
「…突然だが、レンビとバンヌルの様子はどうだ?俺"たち"が"開拓"から身を引いてから上手くやれているのか?」
「…ザワルド、貴方程の者が居ながら…まぁ良い。先輩方は、順調に生活圏を拡大している。」
「…俺はアスガルド陥落と聞いて飛んできた次第なんだ。何か込み入った事情はあるか?」
「俺としては…そろそろバゼリの軍がようやく到達する。」
「お前にできる事は…そうだな、『水銀冠』を追うだけで良い。」
「俺達も以前のバゼリ領域を確保出来たら捜索に加わる、勿論、壊滅させてくれても構わない。」
「…きな臭いぞ。」
「もうこんなに亡霊が彷徨ってるのは、おかしい気がする。」
「…用心しろ、"ウェーカン"、『水銀冠』は占領する為に来たんだろう。」
「…この惨状は、それが阻止されたって事だ。」
「敵は、一人じゃねぇ、予想以上にこんがらがってる。」
1.アスガルド奪還軍-バゼリ-臨時本部-
空。
大きな音を立てて、飛空挺が着陸する。
扉を開き、一足先に大陸へと降り立った王は号令をかける。
「早急に臨時拠点を設置する!傭兵は周囲の警戒を行え!」
鶴の一声、NPCは一声も合図を取らずに資材を運び出し、滞りなく設営作業を開始する。
これこそ、自意識無きNPCの強み。
彼らは、プレイヤーより協調性があり、そして───。
「【我らに、勝利を!】」
強力なNPCとなると、声の一つにて、多重のバフを味方に掛けることが可能だ。
彼…バゼリの王、【アルトリウス】が強化するのは、"行動速度"。
「…これが、王様の力。」
デロンギは戦慄する。
五分とかからず、彼らNPCが大きな城程の臨時拠点を作り上げたのだから。
(…この戦い、働かずに勝てそうだ。)
だが、彼は知らない。
彼の王自身が、此度の戦役にて、最も死ぬ可能性が高い事を。
2.アスガルド奪還軍-ナイトケ・バゼリ間戦線
焦げ溶けた炭の大地。
その中にて、互いの"奪還軍"は衝突する───。
「結局ナイトケは潰れなかった!どうするつもりだナイトリッチッ!」
「知らんよ!一日も保たずに破壊された組織なんて物はな!」
背中合わせにて戦う、二人の修羅。
一人は薙刀を振り回し、一人は手榴弾と格闘によって相手を破壊していく。
ここに先行したのは、僅かこの二人のみ。
だが、彼らのみでこの戦線を維持できているのは、確かだ。
「地雷なら相手を長時間無力化できる、しかし、もう地雷は少ないぞ。」
「昨日の夜から田植えしてたのにな、残念な事だが…要は、もう持たんという事だモトナリ。」
「…いや、もう応援が来るらしい。」
「少なくとも、領地は確保可能だ。」
3.アスガルド地下-螺旋階段前-
…穴を掘り、潜る。
掘り進めて、暗闇を超えて、見えた地下には、照明に照らされ、幾人ほどの"住人"が存在している。
NPCだ。
NPCはリポップする、ストーリークエストの進行のために。
彼らは現在、停止している。
多分だが、地上が平和になれば上に出て来て復興を始めるだろう。
「…っと、さて、『水銀冠』はどこだ?」
石の広間の中、中心に存在する、地下へと続くねじれ階段。
階段を、一段ずつ降る。
4.アスガルド地下-『水銀冠』-臨時本部
ねじれ階段の先、幾度の迷宮を超えた先に、辿り着く終着点。
その中に、彼は、ユシュエンは居た。
「どうして…。(´・ω・`)」
『水銀冠』壊滅。
最早彼の精神は持たなかった。
マーメイの膝に頭を埋めて呻く様は、ただの変態だ。
「ひどいや…。(´;ω;`)」
彼の組織は、六割消滅した。
特に戦闘員はほぼ壊滅状態…地表の占拠は、不可能に近いだろう。
…そして、アーサーの【怨霊化】。
そのせいで、犠牲者全員の復活には最短でも一日はかかる。
最早増援は望めず、アスガルドを彼の領域とする夢は叶わず…。
「…雌伏なんて、いつも通りでしょ?」
「…まぁ、そうなんだけどね。」
「…コンラが、無事に帰ってくれれば、僕達はまた再生できる。」
その言葉と共に、王は立ち上がる。
「どこへ行くの?」
付き人は、その道行を心配した。
「ついでに、上にちょっかいかけに行くよ。この身体の、"慣らし"も含めて。」
「…まぁ、ただの、遊び心さ。」
彼は、すっかり"白くなった"その髪を揺らしながら歩き出した。
「…そう、なら、これの"解析"が終わる頃には、帰ってきて。」
「力を"二種類"持つのは、貴方だけなんだから。」
織部色の髪が揺れ、彼女が見上げるは、"巨大なる結晶"。
それは、いや、その中にあるのは───。
───もう一つの、"バベル"。
異世界への、扉。