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【エター】新興VRMMO記【ビクトリア】  作者: 松田勝平
第八部 アスガルド動乱編
101/117

第1話 予定調和とイレギュラー



「…アスガルド奪還隊?」



「…面白そうだと思いませんか?奇怪なことに、"国"からの依頼なんですけど。」



「…強敵がいるのだろう、ならば、俺には行かない理由などない。」



「…流石の、バトルジャンキー。」



「バカにしているのかお前は。」



 1.空中城塞都市-【アスガルド】-



 (そら)(たか)(そび)える、(あか)(みき)


 天から降り注ぐ"(あか)破滅(はめつ)"───垓炎(がいえん)の、(えだ)


 止める(すべ)など、存在しなかった。



 そう、それこそ、"トップランカー"以外には。



「───水銀防壁、展開。」


「形状、天球。」



 大陸に降り注ぐ"それら"を、元から防ごうとするわけではない。


 ()らす(ため)に、大陸全土(たいりくぜんど)(おお)う。


 しかしそれは、突然の判断。


 その為、重要な部分が欠如する───。



 元よりその"枝"は、"幹"より放たれたモノ。


 ならば、"幹"は、水銀により進路を阻まれたことになるだろう。


 何故なら、水銀は大陸全土(たいりくぜんど)(おお)ってしまったのだから。



 …天は、"赤一色"に染められた。


 水銀を染める、"破滅の烈火"。



 火は、染めるだけでは飽き足らず───。


 ───水銀全体の熱膨張による爆発、それと共に、"熱"は地表へと勢いよく降り注いだ!


 「天が落ちてくる」と人は言う。


 「太陽が呑まれた」とも叫ぶ。


 …最早、防ぐ手段は無い。


 これ程の"属性攻撃"、幾人もの魔術師がいたところで鎮火する事は勿論、弱めることすら出来ない。



「…。」


「なんなんだよ、ザスター。」


「これも、お前が仕込んだ事なのか…?」


 盟主の統領は、震撼する。


 "怒り"。


 その感情すら、一瞬にして、枯れ果てた。


 彼に残ったのは、"畏れ"のみ。




「主人!避難ヲ!」


「駄目ダ、固まってル。無理やり連れて行くゾ!」


「言われずとモ!」


 地上を放棄して、彼らは、地下へと急ぐ───。



 2.空中廃墟都市-【アスガルド】-



「…だいたいみんな殺したみたいだな。」


 怨霊蔓延る大地。


 緋き炎は何処までも広がり、全てを文字通り焼き尽くした。


 …それは、他国の【アスガルド】奪還隊でさえも、例外なく。


 …【アスガルド】は、此処に焼却された。



 …あまりにも、呆気なく"終わらせられた"反乱。


 眼前に見える焼け焦げた景色は、凄惨に尽きる。



「…さて、と。」


「任務も終わった事だし、金でも貰いに───。」



 背後から、殺気。


 いや、"もう"殺された。


「【不滅の魔神王(ディ・イモータル)】。」



《レベル12→11。》



「ほぅ、【魔神王】。」


「地上でしか見れないレアモンスターか。」


 …視線を動かし、辛うじて見えたのは、特徴的なのは竜頭の兜と牛の様な角。


 緋き眼光は、猛々しい憤りが現れる。


「お前が、この惨禍を産んだのだろう?」


 向き合った巨大な竜兜の戦士は、その斧をもう一度、上へと上げた。



 ───まずい。


 アーサーは直感した。


 こいつは話を聞きそうにない。

 何故かって、彼は俺を既に"断罪"する気でいる。




(意識を集中し…世界を、ゆっくりに───。)


 しかし、それは、"置いていかれた"。


 彼は俺の、思考速度の限界を、いとも易く打ち破った。


 始終すら見えない一閃が、俺を真っ二つに切り裂いていたから、漸く気づけた。


「【不滅の魔神王(ディ・イモータル)】。」


《レベル11→10。》


「お前が、水銀冠とやらだろう。」


 彼は、俺に更なる死を与えようとする───。


「───【第二段階(セカンド)】。」


「『概念抽出(ロード)』、『壊撃の盾(クリームヒルト)』。」


 最速に動かなければ、この勝負に、勝利することなぞ、まず不可能。


   「アビリティジェム───。」



     「解放(リンク)」。


 【縮地】の効果。

 この超速移動で漸く、奴の速さに追いつける───。


「【縮地】。」



 ───え?


「───。」


 竜兜に、背後を、取られる。


 駄目だ、時間がない、腕が上がらない、ステータスが足りなすぎる。


 ───"ならば、足せ"───!


 粒子、限界濃縮/増産…。


「【瞬間強化:敏捷(プラススピード)】。」


 限界機動(リミット・オフ)


 "限界"を、束ね───。


 ───遂に、"粒子を出す速さ"だけは、辛うじて追いついた。


 手も、動く、身体の速さも比較的追いついた。


 …しかし、この世界で正常に動く奴の斧…今の状態では易々と、避ける事もできずにそれに切り裂かれてしまうのだろうが。


「【剛撃(バスター)】。」


 さらにそこにのしかかる、圧倒的な力の差。

 相手は、俺が、自身の全てになすすべがないだろうと確信している。


 だからこそ、今ここで"力押し"を選択したのだろうから。


(これで駄目なら、ホントに終わりだ。)


 地面に粒子で、足から根を生やし、踏ん張り、同時に粒子にて作った剣を、背後から来る刀の軌道に滑り込ませることで、対応する───!


「脆いんだよ。」


 …即席で作った剣は、最大の硬度にも関わらず、呆気なく破壊される。


 背中に刀がめり込んだ。


 しかし、『壊撃の盾(クリームヒルト)』により回り込ませたビットは、男の首元へ。


 二つのビットは、繋がり、ビット間に、"糸"を作る。



 不可視の一撃は、最強のプレイヤーの喉を焼いた。


「───【自己再生(リジェネレイト)】。」


 しかし、彼は元から耐久戦よりのビルドをしている。

 レイドボスと戦う上で、耐久は必ず必要だからだ。


そんなの(自己再生)が、どうした。」


 しかし、ここで重要なのは、敵が注意を逸らしたと言うこと、そして───。


 ───アーサーの(はや)さは、既にその最強のプレイヤーに追いついているという事。


 竜兜は、未だ俺の背後をとっている。

 俺の身体を、両断している。



 …(おれ)は、一撃(いちげき)でお(まえ)(ころ)して()せるぞ。



「───『粒子剣(プラズマエッジ)』。」


 アーサーの粒子操作の特徴は、練度。


 粒子の、指令への順応性。


 切り裂かれつつある背中より、その刃は、真っ直ぐに。


「───。」


 最強のプレイヤーの世界は、止まる。


 優先すべきは、何か。


 首元の、未だ自身の首を焼き続けるビット?


 敵の背中より、こちらを貫かんと前進する(つるぎ)



 それとも、二つを無視してこの刀を振り抜くか。


 ───最善手は、彼の中に既にあった。


 だが、それは、彼のプライドを、著しく───。



「仕方がない。」


「負けに繋がる誇りなら、元より自身の汚点だ。」


 最強のプレイヤー、ウェーカン。


 最善手に従い、彼は、逃げた。


 その思考の根底にあったのは、アーサーは復活するという事。


 ならば、今のように、誘い込まれ続けるままなら、絡め取られ死ぬしかない。



「どうやら、力だけでは無いようだ。」


 距離を置いて、アーサーへと話しかける。


「アスガルドを壊滅させたのは、お前の実力か。」




「【不滅の魔神王(ディ・イモータル)】…ふぅ。」


 両断され、そこから復活したアーサーは、ウェーカンの方を向いた。


「その通り…貴方ほどのプレイヤーに言われるのは、光栄です。」


 ウソは言ってない、実際このような惨状にしたのは、アーサー、彼自身なのだから。


 …しかし、これにて、決定的に彼らは互いに互いを勘違いした。


 アーサーは、対峙する竜頭の全身鎧を『水銀冠』を追うものだと───。


 ウェーカンの方は、アーサーを、『水銀冠』と、考える。



「今日はここで、開きにしよう。」



「おや、随分と悠長な事で。」



「連れを待たせてる、決戦はまた後だ。」



「…ほぅ、それはそれは───。」


「すぐまた、会うことになりましょう。」



「…それは、こっちのセリフでもある。」


「俺の名は、ウェーカン。」



「…僕の名は、アーサー。」


 アーサーは地下へ、ウェーカンは地上へ。


 それぞれ、お互いの見ている『水銀冠』を追う。




 2.バゼリ王国国防軍保有飛空挺



 よく分からない技術で作られた硬質的な飛空挺。


 武器などが並べられた部屋の中を見渡すと、窓が見える。


 そこから見えるのは、雄大なる空、そして───。


 …今も燃える、【アスガルド】。


「…なんで俺、これに乗ってんのかな。」


 彼の名は、デロンギ。


 誰もがNPCに対し無関心である中、それらとの共生を望んだ奇有な存在である。



(…俺、何かやったかなぁ…。)


『王様!俺今日も『ビッグタイガー』討伐しました!』


『それは良かった。流石は我が国のデロンギ。』


 定型文を話す王が、俺に向けて目を向ける。

 その有り様は、豪華絢爛。


 端正な顔立ちが、唯一、王たる威厳を放つ。



『自分にできる事をやってるだけです…っいや、そうじゃなくて…』


『…王様!お城の空の上に、大きい龍が…!』


『…それは、一大事だな、弓兵に対処させよう。』


『弓兵じゃ届きませんって…。』


 …多分、その時だけだった。


『なんか【アスガルド】とかも大変らしいし…なんとかしないと…。』


 彼が、NPCたる"王"が───。



『…【アスガルド】か、懐かしい名前だ。」


『成る程、なら、私を使え。』



 ───初めて、何かを考えているかのように思えたのは。


 メイン/ストーリークエスト

 『終末兵装』


 報酬:【騎士王の剣】【バゼリ兵動員書】

 ※一定の実績により与えられます。


『私なら、あそこの危機を救えるだろう。』


『バゼリに尽くして来た君になら、私の運用を任せられる。』



 …あの時の彼は、俺からしてみれば、まるで人間の様に思えた。


 …そのあと直ぐに、王様が自身で兵を集め、本拠地へと自身が行く、と提案したのだ。


 今までの、定型文塗れでは無い、はっきりとした思考の露出。


 …それのきっかけは、何だろうか。


「…王様と【アスガルド】、何か関係でも…?」


 思考を、重ねる。


 …多分、【アスガルド】と、バゼリ側の勢力からの"陳情"、それが今回のクエストの発端だ。


 もしや、俺の存在が、キーになったのか?俺が受けてしまったから…。


 …いや、俺がクエストを受けなくても王様は勝手に始めていただろう。


 俺は五日間しかここに通っていないのだ。


 だから、"友好度が高まったから"このクエストを出した、という線は、実質無しだと思う。


 …しかし思い当たる節も無いわけではない。


 俺は、報酬が良い『ビッグタイガー』を狂ったように殺し続けていたのだから。


 ならば、友好度ではなく、貢献度?


 いや、俺は新米だ。このゲームは噂によるとNPCに仕える、という発想は無いらしいが…。


 俺よりも貢献度が高い者はいるだろう、悪魔を最も多く討伐した"バゼリの騎士団長"とかな。


 …討伐、といえば。


「…【殿の心得】はソロだと本当に使えるなぁ。」


 …ちょっと前の事を思い出しながら、現実逃避をする事にした。


 今、考えても、どうしようもない…。


 …ん?俺の職業?


 【ナイト】ですが。


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