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【エター】新興VRMMO記【ビクトリア】  作者: 松田勝平
第八部 アスガルド動乱編
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アスガルド動乱編 プロローグ



 【アスガルド】が、その全てを制圧された頃。


 もう全てが手遅れだと、誰もが断じ、捨てたこの都市に…。


「…なんだ、この騒ぎは…。」


 その白銀は、ようやく現れた。


「地上で遊んでたら、随分な騒ぎが起こったな…。」


「───殺す。」



 1.『クロノス』管理施設(かんりしせつ)



 必要な条件は、全て揃っている。


 【死なず】、【魂があり】、【苗床がある】。



 成る程、彼がそこに潜れと言ったのも、納得がいく。


 …さぁ、当初の予定通り、"壊滅"を始めようと。


 誰もが寝静まった暗闇。


 その中にて、漸く、反撃は開始される───。


「【不滅の魔神王(ディ・イモータル)】。」


《レベル15→14》


「【第四段階(フォース)】、【属性付与(エンチャント・):(アイス)】───。」


 彼の身体は、微かに"蒼白"に染まる。



「───『蒼氷細工(コキュートス)』。」



 瞬間凍結。

 巨人の皮膚の一部分を凍らせ───。


「【剛撃(バスター)】ッ!!」


 脆くなったそれを拳にて破壊し、彼は、"アーサー"は酸に濡れながらも外へと現れた!


 …暗闇の視界は晴れ、彼の目の前には、高い所にガラス窓がついた白い部屋が待ち受けていた。


 しかし、それに対し言及する暇もなく、彼の肌をインナーより染み込んだ酸が溶かす…。


「───っ凍らせた筈の酸が…!【不滅の魔神王(ディ・イモータル)】!」


 再生する前に、酸を凍らせ、それを"垢"とみなさせる。


 …それにより、復活の際、アーサーはそれらの酸を弾き飛ばした…!


《レベル14→13》


「…インナーはやはり、溶かせないのか。」

「鎧はすぐさま解けたって言うのに…。」


 彼の鎧は耐久力不足で消え、今着ているのはボロボロのインナーだけだ。


 急速に鎧を装着せねばならない。


「…よし、鎧を装備して、と。」


 アイテムボックスから予備の鎧と共にインナーを一瞬にして身につけた。


「さぁ、脱出───「死ね。」。」


 そこから脱出しようとしたタイミングで、クロノスの胎より、魔"人"が強襲してきた…!


 全身をぶよぶよの対酸皮膚と鱗で覆った、生存特化(サバイバー)の魔人。


「【重装化(フル・アームズ)】。」


 その魔人の爪を、才覚(タレント)による甲冑にて防ぐ。


(反応してくる…だと…?この俺の、不可視からのアンブッシュに…!?)


 アーサーからは、完全に反応は不可能な筈だったのに、と、刺客は驚愕を隠せない。


 しかし、アーサーはそれを些細な事とし、それよりも今身につけている全身鎧の耐久性について考えていた。


(…やはり、あの決戦の時の損傷の為か、鎧が脆い…。)


 全身を覆う甲冑が、背中にてポロポロと崩れる感触を気にしながら、アーサーは後方へと振り返る。


「【武装化(アームズ)】。」


 敵は反撃を警戒する為に、アーサーの遠くへと離れて、【武装化(アームズ)】を行っていたようだ。


 …『クロノス』の胎内でも出会った、異形の男。


 …彼のその頭は、緑色の鱗で覆われ、その肌もまた同じく、鱗に包まれている。


 まさに"魔人"、彼は、クロノスの酸にも耐えうる鱗によって、酸の中に潜伏していたのだ…。


(…そう、こいつはクロノスの中で、俺がまだ生き残っていると、確信していた。)


 アーサーは戦慄し、武器を構える。


 敵もまた、【武装化(アームズ)】たる長めの小刀を構えた。



「貴方は誰だ。」


 アーサーは問う。


「…こうなっては隠す必要は無い。」


「《夜の剣》及び《コロシアム運営》より遣わされた、革命達成の為のエージェント…。」


「名は、ジン。」



「───お前の残滅を、依頼された者だ。」








「…名乗ってもらったけど…悪いな。」


「名乗り返すことは、できない…!」




 その言葉と共に、アーサーは踏み込む。


「『蒼氷細工(コキュートス)』ッ!」


 その言葉と共に、アーサーが持つ【重装化(フル・アームズ)】により生成された片手剣が、瞬く間に氷に覆われ、刀身を大きく伸ばす…!


「───。」


 その大剣は、剣から剣が飛び出しているように、無数の尖った結晶によって覆われていた。


 ジンはその体積に圧倒される。


 だが、どちらにせよ、獲物が小刀では、相手の懐に向かうしか無い。


 それなら、むしろ、リーチが伸びてくれるのは、好都合───!


「【瞬間強化:筋力(プラスパワー)】ッ!」


 アーサーは、ジンが駆け出す前に、氷の大剣のリーチの中に彼を収めると、その場で止まった。


 剣を横に振り抜き、一撃必殺とする為だ、


(そんな見えている一撃では───。)


(───いや、待て。)


 ジンは既に駆け出してしまった。


 アーサーの大技の"タメ"を、彼は隙だと断じた為に。


 …ジンなら、大振りな切り払いなど、躱すことは容易い。


 だが、普通、こんな大技は───。


 絶対に当たるようにして、行うのでは無いか───?



「『蒼氷細工(コキュートス)』。」


「───『瞬間刀結(カラドボルグ)』。」



 氷の大剣に、細かな氷の結晶が付いていたのは、それは───。


 ───"伸ばす際に、不要な思考を除く"ため。


 (つるぎ)の"ささくれ"から直線的に伸びた"枝"は、伸びて、全てを飲み込む。


 それは、わざわざ密集地に自分から入ってきたジンを当然、絡め取り、縛りつけ、凍らせる。


「【剛撃(バスター)】っ!【剛撃(バスター)】───ッ!?」


 がむしゃらに手を、足を振り回して脱出を図るジンだが、抵抗は無意味に等しい。


 前が壊されれば背後より回られ、全てを砕こうと、精度を捨ててがむしゃらに回転すれば最後、再度生える氷は、彼の体を破壊し尽くす。


「…が、ぐ。」


(氷が、際限なく増える…。)


 アーサーは、ジンの脱出を認めない。


 氷の結晶は、追尾する(えだ)は時間が経つ程に増え、氷の囲いを更に強固な物とする。


 …彼は、ただジンを倒すが為に集中(しゅうちゅう)するが為に、今、不意打ちに対抗できないが───。


 ジンには、ここで、助けてくれる仲間など存在していなかった。



 ───そうして、そこには、奇妙な氷像が作られた。


 白亜の隔壁、密室空間内に建てられた、哀れな男の()(ごおり)


 彼の目は、真っ直ぐに正面を向いている。


 …その目は、最後まで"敵"を見つめていたのだろう。


 どこまで行っても、彼は諦めるつもりなど無かった。


    「…アビリティジェム。」


 しかし、それでも彼は、此処で負ける。


      「解放(リンク)。」


 【怨霊化(フェイズ・ゴースト)】。


(…これは、切り札。)


(ナイトケでも使わずに温存していた鬼札(ジョーカー)。)


 剣に黒っぽい靄のエフェクトがかかる。


(…心せねばならないだろう。)


(これを使う以上は、後戻りは出来ない。)


(殺すだけ、殺さねばならない。)


 殺しを躊躇させるような思考が、脳内を支配するが───。



「───【重装化(フルアームズ)】、解除…【剛撃(バスター)】。」



 ───そんな事は、あの時、既に覚悟(かくご)していた事だ。


 アーサーは、その氷像(ひょうぞう)を粉々に砕く。


 粒子となる筈の身体は黒く染まった亡霊へと変わる。


 彼は、ジンは此処に、再起不能となった。


 その影を確認し、アーサーは声をかける。


 意識そのものが、その黒い影なのだから、聴覚程度、きっと機能している。


「…元の体に戻りたいのなら、自身のリスポーン地点まで行くといいでしょう。」


「場所は…本人にのみ、ビーコンが見える筈です。」


 アーサーは、靄と化した刺客へとそう言った。

 彼が、路頭に迷わないように。


「僕の名前は、アーサー。」


「貴方を殺した者の名だ。」


「───貴方が、殺せなかった者の名だ。」


 瞬間、跳躍。


 アーサーは、隔壁の上の所に存在するガラス窓を打ち破って中に入り、クロノスをそこから見下ろす。


「…計画遂行の前に、この妙なモノを、放置する事は出来ない。」


 アーサーは、そのまま剣先を眼下のクロノスへと向けた。


「───【第四段階(フォース)】。」


「【属性付与(エンチャント・):(アイス)】。」


 ナギトとの戦いで彼が見せた【第四段階(フォース)】。


 それと、アフラとの戦いなどで見せてきた【第四段階(フォース)】には、違いがある。


 それは、撃ち出す粒子の"多さ"。


 指一本分と、文字通りの"身体一つ"分の差。


 それでは、規模も、威力も違うのは、むしろ、当然だろう───。



「『瞬間刀結(カラドボルグ)」。」



 瞬間、銃口に見立てられた彼の剣先から、まるで滝のような速さにて、"氷が流れ出る"。


 生成される氷が、既に固まったモノを押し出す為に、そのように見えているのだ。



 その氷がこの部屋を制圧する速さは、速すぎるほどではないが…八秒もかからぬうちに、部屋を氷の密室にする。


 これにて、クロノスが敵に利用される事態を防ぐ事ができる。


「───さて、先ずは、この基地を破壊しなければ。」


 次は、天井へと、剣先を向けた。


 ───粒子増産機関(【魔神王の魂】)、最大稼働。


 剣先に、体積が不安定な(あか)太陽(たいよう)が浮かぶ。


「【第四段階(フォース)】。」


 それは、アーサーの身体より送り込まれる赤と黒が混じり合う粒子を、大きく吸収し、成長する…。



「【属性付与(エンチャント・):(ファイア)】。」


 ───書き換えるは、炎。


 増産した粒子は、溢れ返り地面へと溶け落ちる。


(『クロノス』の氷を溶かさぬよう、なるべく迅速に終わらせよう…。)


 近未来的な白い床は、"蒸発"した。



 (あか)き光は、一瞬毎に鼓動(こどう)し、その度に周囲に"溶解(ようかい)"を撒き散らす───。


「駄目だ、足りない。」


 身体の、その全てを、緋石(ひせき)へと注ぐ───。


「【不滅の魔神王(ディ・イモータル)】。」


 《レベル13→12。》



 限界を(・・・)超える(・・・)



 この大陸を(・・・・・)───。



    ───沈める為に(・・・・・)


 悠然と、(つるぎ)(さび)が取れるように。


    小太陽の外殻は、更なる光を発する。


 (しろ)く、(まばゆ)く───。



 それは(・・・)世界を焼くだろう(・・・・・・・・)



「───【此処に白夜は在り、(ヘリオース)日輪は顕われる(・ブレイカー)】。」


 

 視覚(しかく)すら破壊(はかい)する、常識(じょうしき)(はず)れの一撃(いちげき)



 それは、上空(じょうくう)へと発射(はっしゃ)され、天頂(てんちょう)へと到達(とうたつ)し───。



 すぐさま、爆散(ばくさん)した。


 火種(ひだね)は、此処(ここ)()らされる。



 宇宙(ソラ)を目指し、(のぼ)る、その赤き柱より、無限(むげん)火種(ひだね)は現れる。



 火種(ひだね)拡散(かくさん)し、世界(せかい)(つつ)む。




 ───その軌跡(きせき)は、流星(りゅうせい)(ごと)く、地表(ちひょう)へと、()(そそ)ぐ。




「───これにて、終幕。」



 (たましい)怨霊(おんりょう)へと変貌(へんぼう)させる(くろ)(もや)が、(ほのお)(あお)る。


 (ようや)()(はじ)めた(くすぶ)緋石(ひせき)は、爆発(ばくはつ)(とも)大陸(たいりく)()らす。



 (いま)此処(ここ)に。


 この、大陸(たいりく)は。


 

 【魔神王】の、襲来(しゅうらい)により───。



 終焉(しゅうえん)を、(むか)えた。

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