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【エター】新興VRMMO記【ビクトリア】  作者: 松田勝平
第一部 メインストーリー編
10/117

第3話 破滅への手伝い

 


 1.酒場




 結論から言うとラマンダくんは逃げ切れなかった。

 俺がナギトを引きつける時に金を預けておいたからである。




 案の定、儲けを必要としていたナギトに倒されてしまったので、

 ラマンダくんに謝ってから補填として30000Gを輸送した。




剛撃(バスター)】のアビリティジェムが二つは買える値段である。

  ---ナイトはアフターケアも欠かさないのだ。




 そのまま酒場に居ると、男がやってきた。




「アーサーくん。仕事を頼まれてくれないかね?」

 この男は性悪だ。




 アーサーは笑みを浮かべて対応する。営業スマイルという奴だ。対する男も笑みを崩す気配はないので場はとても気味が悪いものとなっている。




 …いつも俺に無理な仕事を押し付けてくるのだ。まぁ、そのだいたいがうまい話なのだが。




「把握しました。喜んでお受けします。【枢機卿】(カーディナル)。」



 建前だ。



「ああ。アーサー君には裏のメインストーリーを進める手伝いをして貰ってるからね、大変助かっている。」




 今回もそれ関連か。俺は気力が削がれた。




 正直なところだが、俺は枢機卿の言うメインストーリーについてよく知らない。

 ザスター…枢機卿の名だが、ザスターも教えてはくれないからだ。





 俺としては内情がよくわからない仕事をやるのは気が進まないのだ。




「概要は現地で説明する。君は【バゼリ王国魔神王の神域(ヘルヘイムル)】へ向かってくれ。」




 またあそこか..…。








 2.バゼリ王国 魔神王の神域(ヘルヘイムル)




 前行ったバゼリ王国の穀倉地帯にいつのまにか(・・・・・・)空いていた穴をくぐり抜け、おどろおどろしくて全体的に暗めの湿原に出る。




 ---ガサガサっと草原から顔を出した俺は驚く。



 ここは地下にある場所だ。だが、









 遥か中空に有る竜巻を巻く巨大な魔石が

 淡く湿原を照らしていた。











 ここには【魔神王】がいた、という痕跡がある…らしい。





「アーサー殿、この度の任務、必ず遂行しましょう。」





 アガサさんだ。忍者をしている。


 無性にさすが忍者汚い…と、言いたいところだが。





「僕は基本、サポートしか出来ないと思います。…今回の任務はあなたが頼りです。頑張りましょう!」



 アーサーは笑顔で対応した、やれやれと真意が分かった風にアガサは肩を竦める。



 …勿論建前だ。自分を下に出しておく。



 今作の忍者は攻撃職だ。

 ナイトの盾が奪われる事はないのである。

 斥候も行けるから忍者は万能職といってもいい。

 女忍者に媚を売っていると目的地に着いていた。







 初めに見た、あの巨大な魔石は筋肉隆々な巨人を象っていた。








「今から何をするんですか?」


 



「……アーサー殿は見ていてください。」





 巨大な魔神王の彫像らしき【魔石】の周囲に魔法陣を描き始めた。





 立つのも面倒になった時に魔法陣が発光した。




 何が起きるのだろうかと聞く





 女忍者が答える。





「魔神王の復活です。」





 ふーん、そうなんだー。

 危険な響きだ。

 少なくとも俺は無事ではいられないだろう。





 俺は【魔法剣:光撃(クルー・ジーン)】と、

 【異形狩りの妄執(ベルセルクル)】を発動した。


 アーサーは今、知らず知らず笑みを浮かべていた。彼は少々バトルジャンキーの性質があることが滲み出ている。



 …どちらもモンスター特効スキルである。

 妄執は称号スキルなのだが…。




 女忍者が仕上げとばかりに【ジェム】らしきものを【魔石】に投げ入れた。






「来ますよ、心構えを」





 紫色のウェーブが彫像を中心に同心円状に広がる。



 メインクエスト

 『魔神王の復活』

 詳細

 魔神王が復活したので倒してくれ。

 報酬

 ・スキルウェポン【デーモン・バスター】

 ・








 …なんだこれ。随分テキトーな詳細文だな。

 あの性悪男が根回ししたのか?

 それに報酬スロットに設定ミスがあるし。




 《Warning! Warning!》




 《World Boss【魔神王】が 出現しました》





 











 〈【魔石】の…その紫色が深みを増す。〉




















 〈彫像は心拍のようなリズムで脈動する。〉

















 〈今、"破壊の化身"がここに生誕した〉





















 [A a a a a a a a a a a a a !]















 ……【魔神王】の巨大な産声が響く。





 間髪を入れずに女忍者が【忍刀:麻痺】を叩き込む。

 

 アーサーも何もしないというわけではない、回り込み、死角を探す。


 …どうやら彫像の周囲に書き込んでいた魔法陣は状態異常耐性弱体化の魔法陣のようだ。


 証拠に【魔神王】がもう麻痺になっている。



「アーサー殿!」



「ああ。…スキルアビリティ発動【悪魔殺し(ヴァプティズム)】。」




 ---キィィィン…!




 剣の輝きが増す。

 こちらも特効スキルだ。そして、俺の継承スキルでもある。

 







      「アビリティジェム」








         「解放(リンク)






 ---パァンッ!



 【縮地】の効果だ。



 一息をつく間も無く、俺の体は数メートルある魔神王の頭上へと移動した。


 アガサは会心の笑みを浮かべる、魔物への絶大なる攻撃力を持つアーサーの事を信頼しているからだ。

 片手剣スキル【剛撃(バスター)】を使い、剣を頭上から魔神王に振り下ろす。


 ---ガキィンッ


 手応えはあまりないが、パシリと金属質な音が出て【魔神王】の体にヒビが出来る。


 その表情は、苦いものであった。生涯に経験したことのない"硬さ"。特効があってもこの手応えであるということ、という事を考えかけて首を振って弱気を退散させた。



 だんっ、と地上に降りる。



「アーサー殿!今のうちに更なる攻撃を…!」


 見るとHPの二割は削ったらしい。

 そして【魔神王】はまだ動けていない。

 彼らは手筈通り二人で【魔神王】の麻痺が解けるまで攻撃を続ける。




 【魔神王】の麻痺が解ける時にはHPの半数は削っていた。







 《EP値が上限値に達しました。》

 






 その不思議な"声"を皮切りに、【魔神王】の全身にヒビが回った。



 ---パシリ、パキンッ!



 【魔神王】は暫し身悶えると、


 全身のヒビから


 高濃度の【魔力風(エーテル)】が噴き出した。




 ---ブォォンッ!



 竜巻による範囲内持続ダメージが出る。


「…ぐぁっ!?」



 咄嗟に【瞬間防御(プロテクション)】を発動する。


「アガサさん!?…くぅっ!?」



 ---ガガガガガガッ!ガァリガリガリガリガリィンッ!



 …っ、かなり強烈だ。HPがガリガリ削れている。




 …しばらく経ってから、【魔力風(エーテル)】が晴れる。

 女忍者は死んで粒子状になっていた。


 ………そういう俺も、七割くらい削れている。戦況は絶望的だ。


 (まさか、ナイトでもこんなに食らうのか…!)


 思考を切り替える。


 …俺の評価に関係する、ザスターからの監視役が居なくなった事に感謝すべきかもしれないが、メイン火力が居ないのは問題だ。



 …チャージ代、大出費になるな。


 








     「アビリティジェム」







       「解放(リンク)






 ---パァンッ!



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 【違法的上昇(エボルリューション):経験(ギフト)

  ※このアビリティジェムの効果。

  自身のレベルを五分間五〇上昇させる。このスキルは1日に一回しか使用できない。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 アーサーの言う"監視役"とは今までもアーサー自身になんらかの評価を常に行なっており、その評価によって給金が変動するのだ。


 …彼の思考に戻ろう。



 …レベルが上昇する。久しぶりの感覚だ。



【アーサー:人族(レベル一八五)】



 ---スラァンッ!



 超重量と長刀身が売りの別の剣を抜刀する。その鋼は両手で持ったとしても微かに震えるほどの重量を持ち、重心もはるかに剣先の方にある、重大剣と言った方が当てはまるだろうと思われる。




 …レベルの上昇と共に【片手剣】【剣術】【片手半剣】スキルも性能が上がっている。



 アーサーは見れば突然に駆け出し、数撃、与えて逃げるを繰り返す。アップグレードに対応するための動きだ。

 これこそ上昇した性能によって、普段ロクに使えないこの剣が羽のように扱えているからこその攻撃方法である。



 ---ズバンッ!



 さらに、【魔神王】の【魔力風(エーテル)】は今のアーサーのHPを一割も削れてはいなかった。



 彼は自分がワールドボスになった気分で前へ進む。


 まずは【魔力風(エーテル)】を振り払い、【瞬間強化:速度(プラススピード)】を使って加速する。



 俺は【魔神王】に剣を横薙ぎに叩き込んだ。



 ---バァンッ!…ピキッ!ピキピキピキッ!


 巨体が揺れ、【魔神王】のヒビ割れが更に広くなる。

 会心の笑みを浮かべる直後。


 ---ブォォォン…!


 【魔神王】が俺の剣を掴もうと手を伸ばしてきた。


 アーサーの脳内で目まぐるしく下がることのリターンと止まることのリターンが交差する。



 ………ッ!【魔神王】に握り締められたらこの剣でも持たない…!




 ---急いで【魔神王】から離れる。


 彼は、リターンが大きいほうではなく、リスクが小さい方を取ったのだ。



 [A a a a a a a a a a a a a !]





 …何気なく、ため息をついた

「…まだ終わらないか」


 もう数十分は経っている。まぁ、ワールドボスを二人のみでここまで削れるのがまず稀なのだが。


  「ステータスを使いこなせてないな。」

 自身のPSの低さにイライラする。

 そうぼやきながらも彼は切り続ける。


 ---ガァン!ガァンギンッ!ギリギリッ…ガキィィンッ!!


 薄氷の如く砕ける装甲を前にして、段々慣れと退屈の感情が彼の中で肥大すると…。




 [A …aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa !]






 ---パキンッ!ガラ…ガラ…!ピキッ!






 …巨体が暴れまわり、天変地異を呼ぶ。


 だが、圧倒されながらも斬撃を繰り出す手は緩めない。



 ---スゥ…。


 その暴れようについていけるのもステータスの恩恵。的確に削り、スライスしていく。


 ……すると【魔神王】の巨体が音もなく(・・・・)消えていた。




 キョロ、キョロと"濃い砂埃"の中、周囲を見渡す。


 このタイミングで消えるのは不自然極まりない、だが彼の中の意識はこう決定づけた。



 …………粒子はないが、倒したようだ。



 ………俺は呆然としながらもドロップを確認するために手元を見る。





 しかし、所詮、戦場を正しく戦場と認識できない奴に勝利などないのだ。




 ---バガァアァアンッッ!!!



 ()()と共に景色がコロコロ変わる…!



 ………ドォムッ!


 【魔神王】に攻撃の手を緩める気は無い、そのままアーサーを叩き潰すべく接近する。


 [A a a a a a a a a a a a a !]




 …俺はいつのまにか吹き飛ばされて湿原に突っ込んでいた。






「【魔神王】は消えたはずでは…!?」





 【魔神王】は未だ健在。



 俺は魔神王を倒せていなかったのか!?




 推測する。

 もしかして幻術スキル持ちなのか…。


 …なんて精巧さだ。


 ---砂埃があったと言うのによく確認していないからだろうに、よく言えたものだ。



 …魔神王は吠えながら俺に向かって進む




 俺は右に全力疾走してそれを躱し、

 側面から【魔神王】に切りかかる。




 ---ガァンッ!


 【魔神王】は何回か動きを読んでいるが、俺の攻撃に何回か当たっていた。






 …【魔力風(エーテル)】による攻撃は俺にダメージを与えられていない。

 …だが確かに、【魔神王】は俺の攻撃を読んできている。


 紫色の光を放つその手で叩かれたら、今の俺のステータスでもひとたまりもないだろう。長期戦は危険だ。


 そのため、俺は魔神王より速く動き、弱点を探す。


 …そこで彼は明確な弱点らしきものを発見する。



(奴は左手でおもむろに胸を押さえている…。)

 




 俺は接近して、大剣でその左手を【剛撃(バスター)】による斬撃で切り離す。




 ---ガッ、ガ、ガ、ガガガ…ッ!…ズバァァァァッ!ズガンッッ!!




 …そこの、心臓部のヒビは一段と深く抉れていた。

 

 心臓らしきものが脈動するのが見える。

 俺は一切の迷いなく


 【魔神王】の心臓部のヒビ割れを


     剣でブチ抜いた。







 ---ドスゥッッ…!!!グリィッ…!グチリリリリッ…!!!


 肝心な所での突進力が、彼の強みなのだ。





 [Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa…a…Aa…!]




 そして、【魔神王】は地に伏せ、やがて、紫色の粒子となって風と共に消えていった。


 …アナウンスが響き渡る。


 《メインクエスト『魔神王の復活』クリア!》














 〈【魔神王】の体が音を立てて崩れていく。〉













   〈湿原から紫色の光が失われていく。〉

 

 









       〈……そこから。〉












 〈地表から漏れている光がこの湿原を暖かく包んだ〉















 …まるで大層なことが終わったかのような静寂が、【魔神王の神域(ヘルヘイムル)】を包んでいた。



 ………そんな所に、報酬が振り込まれる。



 何故か【デーモン・バスター】ではなく、ワールドアイテム【魔神王の魂】が振り込まれていたことに彼は疑心を抱いた。

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