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「それはさぞお困りでしょう」
「いえ、ここで切り替えして引き返しますから、大丈夫ですよ」
老人が驚いたように言った。
「この道を引き返すのですか。それは大変です。それよりもこの先に、国道に出られる道がありますよ」
「本当ですか」
「そんなことよりお疲れでしょう。まあ、お茶の一杯でも飲んでいきなさい」
そう言われて糸居は、何時間も水分を補給していないことに気がついた。
「そうですか。それじゃあ遠慮なくいただきます」
老人が歩き出し、糸居はそれについて行った。
――それにしても。
糸居は思った。
この老人の格好はいったい何だ。
まるで時代劇じゃないか。
老人は中央部の大きな家まで歩き、神社仏閣のような門をくぐると家の中に入って行った。
糸居がついて行くと、大広間のようなところに通された。
老人は何も言わずに出て行き、何十畳もある日本間で一人待たされたが、やがて女が入って来た。
女は若く美しかったが、その格好は老人と同じく江戸時代からタイムスリップして来たかのようだった。