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糸居は車を走らせていた。
週末恒例の川釣りを楽しむためだ。
今はシーズン真っ盛りなので、糸居は毎週のように川釣りに出かけていた。
北にある大きな山に入ると、東へ行く道、北に行く道、西に行く道の三方向に分かれている。
東、北、西のいずれかにも川があり、そこで川釣りが楽しめるのだ。
しかし糸居は東と北の川にはよく行くが、西の川にはあまり行かなかった。
西の川だけ他と比べると規模が小さく、成果が期待できないでいたからだ。
――もう二度と西には行くまい。
とまで思っていたのだが、山に入ってから糸居は何故か、今日は西の川に行ってみようと思い立った。
家を出るときには、東の川に行くと決めていたにもかかわらず。
何故西に行ってみようと考えたのか、糸居自身にもわからなかった。
わからなかったが、糸居は分岐点で車を西に向けた。
川まではほぼ一直線だが、途中一箇所だけ道が左右に分かれていた。
糸居はそこを右に進んでいた。
川がそちらの方角だし、なにより左の道は通行止めなのだ。
道の入り口に常時大きな進入禁止の看板が置かれてある。
見える範囲では細いがちゃんとした道があるようなのだが。
――先が工事中なのかな。
糸居はその分かれ道に差し掛かる度にそう思ったものだが、さして気にしてはいなかった。
そしていつものように分かれ道に着いた。