第8話 お見舞い
「エリ、見舞い来てやったぞ」
「シンジ!うれしい」
エリは、病院のベッドの上で途端に明るい顔になった。
「急性アルコール中毒ってなんだよ。はずかしいよ。四年にもなってさ」
「ごめん……」
「救急車、初めて乗ったわ」
「ごめん……」
「アヤノちゃんにも謝っとけよ」
「メールした……」
「でも、もう大丈夫」
「何が大丈夫だよ。昨日は点滴しながら、うんうん唸ってたじゃん。今日は寝てろよ」
「うん……でも、昼には退院しろだって」
「ははは。まぁ言っても、急性アルコール中毒ですからね。早くベッドを明け渡さんといかんよな」
「……」
ピンクのパジャマ姿のエリは、きまずく小さくなってる姿もあって、とてもしおらしく、可愛かった。
「もうすぐ桜も咲くかな。結構つぼみが大きくなってるよな」
窓の外から見える桜の木はピンクの枝に見えた。このまま入院してたら、絶好の花見席だ。
「そうだねー。今週末くらい咲くかもね。そしたらお花見に行こ」
「だめだめ。お花見で酒飲んだりするんだろ。だめだよ」
「飲まない飲まない。昼間だよ。またお弁当作るからさ」
「あー、そうね。あ、俺、ケンタッキーがいいな」
「ケンタッキー?サンドにする?」
「サンドはもういい」
俺とエリは、週末の花見を想像して、それだけで楽しかった。
「退院って何時なの?」
「あと……三時間くらいかな。でもまだちょっと頭痛いんだよね。退院していいのかな」
「いわゆる二日酔いですから。頭痛いのはしゃーないわな」
「もう……」
「俺、送ってやりたいんだが、バイトがあるんだよね。一人で大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫。いわゆる二日酔いですから」
「だな」
俺は笑って病院を後にした。