第3話 朝のコーヒー
─8:15─
「おはようございまーす」
会社に着くとコーヒーメーカーに水を入れ、カプセルをセットする。コンビニで買ってきたサンドイッチとオレンジジュース。みんなが出社するまでのこの時間が、一日で一番ゆったりできる時間。
こういうときにエリの写真を見るのが楽しいのだ。あいつはいつも笑っている。どれを見ても笑っている。動画もいい。いま見てるのは、ソフトクリームを二つ持って走ってきて、つまづいて俺のTシャツをべちゃべちゃにしたところ。
「なーに、ニヤニヤしてんのよ」
後ろからスマホを取り上げられた。カノンだ。
「返せよ。何やってんだよ」
「誰これ?彼女?」
「うるせーよ。知らねーよ」
「うわ、こわ」
「シンジは心に決めた大事な人がいんのよ。茶化さないで見守ってやろうぜー」
「タケシ、お前が一番うぜーんだよ」
「同期なんだから、もっと仲良くしよーよー」
「うるせーな。いつも遊んでやってるだろ。なんでこんなに早く来んだよ。いつも九時ギリギリだろ。俺の時間を邪魔すんなよ」
「今日は九時からレビューなの。ギリギリじゃ危ないの。シンジも手伝えよー」
「うっせー。俺は関係ねー」
台無しだ。俺の時間が台無しだ。気分直しにコーヒー飲みながらエリからのメールチェックだ。
『いまコンビニー。コーヒー買う〜』
あいつもコーヒーか。
「なにニヤけてんのー」
「うるせー。あっちいけよ」
「こわ」