第1話 おはよう
”おはよう、シンジ”
誰?
”おはよう、シンジ”
耳元にやさしい声。
もう一度、そうもう一度。
”おはよう、シンジ”
目を開けると、机の上のデジタル時計が─06:55─を示していた。
「もう朝か」
ベッドから起き上がると、枕元のスマホがもう一度鳴った。
”おはよう、シンジ”
「おはよう、エリ」
僕はいつものようにスマホのアラームを止め、温かなベッドから抜け出した。
顔を洗い、歯を磨き、髪をセットして、スーツを着る。
机の時計は─07:15─だ。
「いつも通り。さて行くか」
駅までは15分。気持ちのいい冷たい風が吹いている。
「そろそろコートも要らないかな」
桜色のつぼみを見ながら、まだ早いか、とコートのポケットに手を入れた。
電車は30分。いつものようにエリからのメールをチェックする。
『今日は天気もいいし、お花見に行かない? お弁当持って♡』
思わず吹き出してしまった。
「今日は月曜、会社だっつーの。それにまだ桜咲かねーし」
相変わらず、エリはずれている。
そう言えば、去年の今日は花見に行ったっけ。でもやっぱり桜は咲いてなくて。それにしてもエリの弁当はひどかった。